13章 帰省2日目 遊園地
美琴「はぁぁ……」
とぼとぼと歩きながら美琴は何度目かの深いため息を付いた
ダメ元で『動物触れあいコーナー』に行ってみたのだが、やっぱり可愛らしい動物達に逃げられるのは精神的に堪える。
ダメ元で『動物触れあいコーナー』に行ってみたのだが、やっぱり可愛らしい動物達に逃げられるのは精神的に堪える。
美琴(遠くから見てるだけでも良い、なんて何で考えたのかしら私は……)
そこらの触れあいコーナーに比べ動物の種類が豊富であった事が致命的だった。
美琴(ああああああ!!! リスもハムスターもインコもウサギもペンギンも、そんな怯えた目で
私を見ないでぇぇええええええええええ!!!)
私を見ないでぇぇええええええええええ!!!)
先ほどの光景《トラウマ》がフラッシュバック。
美琴は天を仰ぎ、ガリガリガリー!! と両手でファーハットを掻きむしりった。
美琴は天を仰ぎ、ガリガリガリー!! と両手でファーハットを掻きむしりった。
美琴「ッ、ッ……ックシュッ!!」
おまけにくしゃみまで出る。
昨日雨に濡れてから風邪でも引いてしまったのかもしれない。ズズッと鼻を啜った。
静かに帽子を取ると、乱れた髪を手串で直していく。
昨日雨に濡れてから風邪でも引いてしまったのかもしれない。ズズッと鼻を啜った。
静かに帽子を取ると、乱れた髪を手串で直していく。
美琴「はーもう馬鹿みたい。素直になってアイツに頼もうかしら。何なら学園都市に戻ってから
一緒に動物園でも――――」
一緒に動物園でも――――」
そこまで呟いて、自分の頭をコツンと小突く。
せっかく時が来るまでは出来るだけ忘れて楽しもうと思っていたのに、どうしても無意識に思考が引きずられる。
せっかく時が来るまでは出来るだけ忘れて楽しもうと思っていたのに、どうしても無意識に思考が引きずられる。
――――上条当麻と共に学園都市へ帰れないかもしれない。
いつの間にかジャケットの前をぎゅっと握りしめていた。
心がざわつく。呼吸のスピードが速い。乾燥した空気が喉をカサカサにしていくような息苦しさを感じる。
心がざわつく。呼吸のスピードが速い。乾燥した空気が喉をカサカサにしていくような息苦しさを感じる。
美琴(なにソワソワしちゃってんのよ私のこころ。アンタはそんな柔じゃないでしょ?)
自分に微笑みかけてみるが、笑顔が上手く作れなかった。
不安はブレーキの壊れたジェットコースターのように、動きだすとどこまでも加速していく。
不安はブレーキの壊れたジェットコースターのように、動きだすとどこまでも加速していく。
美琴(しっかりしろ。私がこんな顔してたらあの馬鹿が余計な心配すんじゃない。ううん、アイツ
だけじゃない。ママにだって……)
だけじゃない。ママにだって……)
ふと、遊園地に来る前に美鈴と交わした言葉を思い出す
美琴には、旅掛だけが独断で家族の行く末を決めるなんて到底信じられない。きっと美鈴も知っているんだろうと当たりを付けている。
だから美鈴に旅掛の手紙を見せて、実際どう思っているか尋ねたかったのだが、そこで美琴は躊躇ってしまった。
美琴には、旅掛だけが独断で家族の行く末を決めるなんて到底信じられない。きっと美鈴も知っているんだろうと当たりを付けている。
だから美鈴に旅掛の手紙を見せて、実際どう思っているか尋ねたかったのだが、そこで美琴は躊躇ってしまった。
――――もしそこで美鈴に泣きつかれたら?
いつだって完璧で、いつだって美琴《むすめ》に弱みを見せない美鈴《ママ》が、『三人で静かに暮らそう』などと懇願してきたら、拒絶なんて出来るのだろうか。自分の心はたぶん折れてしまうのではないだろうか。
結局出てきた言葉は、「私が居なくて寂しくない?」などという、茶化したものだった。
旅掛は家を留守にしている事が多い。夫も娘の居ない家で、美鈴が寂しくないわけなんかない。美琴はそう思っていた。
それなのに、母親は優しく微笑むと、「美琴ちゃん、ママの傍が居心地よくなっちゃった?」などと茶化し返してきたのだった。
結局出てきた言葉は、「私が居なくて寂しくない?」などという、茶化したものだった。
旅掛は家を留守にしている事が多い。夫も娘の居ない家で、美鈴が寂しくないわけなんかない。美琴はそう思っていた。
それなのに、母親は優しく微笑むと、「美琴ちゃん、ママの傍が居心地よくなっちゃった?」などと茶化し返してきたのだった。
美琴(別に、子供じゃないんだから昔みたいに別れ際に泣き喚いたりなんかしないっての)
しかし、子供じゃないと言えるからこそ悩みは深みへとはまる。
学園都市から学生を連れ帰りたいという声は日増しに高まっているらしい事を美琴は知っている。普通の手段では国内から閲覧すらできない多数の海外メディアが、そう報じていた。
増して美琴の場合は安全などとはほど遠い。死の淵を覗くような事も何度かあった。
それを知ったとき両親がどう想うか、何をしようとするか、分からない年じゃない。
学園都市から学生を連れ帰りたいという声は日増しに高まっているらしい事を美琴は知っている。普通の手段では国内から閲覧すらできない多数の海外メディアが、そう報じていた。
増して美琴の場合は安全などとはほど遠い。死の淵を覗くような事も何度かあった。
それを知ったとき両親がどう想うか、何をしようとするか、分からない年じゃない。
美琴(……、だーッッッ!! だからうだうだ考えても答えなんか出ないんだから今は
忘れろっつーの!! 大体にして、今はそれより学園都市に狙われてる事の方が
重要でしょーよ!?)
忘れろっつーの!! 大体にして、今はそれより学園都市に狙われてる事の方が
重要でしょーよ!?)
美琴は直したばかりの頭を再びガリガリガリー!! と掻きむしる。
美琴「ッッ……ックシュッ、ックシュッ!! ってあれ?」
危うくループしそうになった美琴であったが、いつの間にかほぼ忘れかけていた目的の場所へと辿り着いていたらしい。
『なりきりグッズコーナー』。
格子状の陳列棚にはキャラクターの耳がズラッと掛けられている。
周りには家族連れが二組と女の子二人連れ。その内、小学生低学年くらいの男の子や女の子が被ってはしゃいでいるが、小学生高学年くらいの女の子達は冷やかしてるだけのようだ。
『なりきりグッズコーナー』。
格子状の陳列棚にはキャラクターの耳がズラッと掛けられている。
周りには家族連れが二組と女の子二人連れ。その内、小学生低学年くらいの男の子や女の子が被ってはしゃいでいるが、小学生高学年くらいの女の子達は冷やかしてるだけのようだ。
美琴(つか、美琴さん的には別に目的でも何でもないのよね。えーっと、とりあえず何か他に
面白そうな所でも探そうかしら)
面白そうな所でも探そうかしら)
美琴は一瞥だけくれつつそこを通り過ぎると、少し行って右へ曲がった。
美琴「あ、これ可愛いー。ママにでも買ってあげようかしら。パパはさすがに嫌がりそうだ
けど……」
けど……」
キーホルダーを一度手に取り、眺めたあと元に戻す。
辺りを眺め。お土産が陳列されている棚を道なりに見ていき、少し行って右へ曲がる。様々なキャラクターのお菓子が並べられている棚を過ぎ、更に右へ曲がる――――
辺りを眺め。お土産が陳列されている棚を道なりに見ていき、少し行って右へ曲がる。様々なキャラクターのお菓子が並べられている棚を過ぎ、更に右へ曲がる――――
美琴(…………)
『なりきりグッズコーナー』には家族連れが居なくなり、女の子二人組みが残っていた。
美琴(関係無い、関係無いっと)
再び一瞥だけくれて通り過ぎ、今度は左へ曲がる。
そしてお土産を見ながら左へ曲がり。お菓子コーナーを更に左へ曲がる。
そしてお土産を見ながら左へ曲がり。お菓子コーナーを更に左へ曲がる。
美琴「…………」
最後まで居た小学生高学年くらいの女子二人はどうやら待ち合わせをしていたらしく、丁度別の女の子と合流したらしい。「いや被らないって! さすがにハードル高すぎっしょーアハハ」などとからかい合いながら去っていく。
そして『なりきりグッズコーナー』には誰も居なくなった。
そして『なりきりグッズコーナー』には誰も居なくなった。
美琴「!!」
美琴は一度左右を確認すると、サササッとまるで忍者のように素早く静かに移動。
先ほど入り口の看板にあったネコのようなキャラクターの耳を手に取る。丁度美琴の髪に近い毛色のものだ。
カチューシャになっているそれは意外と作りがしっかりしていて、耳の部分も本物に近く、撫でているだけで和みそうなほど触り心地が良い。
その分値段もしっかりしていて、上条が見たら顔が引きつりそうな数字であったが、美琴には大した感慨も湧かない程度の額である。
先ほど入り口の看板にあったネコのようなキャラクターの耳を手に取る。丁度美琴の髪に近い毛色のものだ。
カチューシャになっているそれは意外と作りがしっかりしていて、耳の部分も本物に近く、撫でているだけで和みそうなほど触り心地が良い。
その分値段もしっかりしていて、上条が見たら顔が引きつりそうな数字であったが、美琴には大した感慨も湧かない程度の額である。
美琴(私だってちょっぴり無理があることくらい分かってる。ただその、ちょっとした好奇心ってやつ
よ……。ほんと、ちょっとだけ。アイツが来ない内にどんな感じか確かめるだけだから)
よ……。ほんと、ちょっとだけ。アイツが来ない内にどんな感じか確かめるだけだから)
もう一度辺りを見回し、ついでにレーダー能力で上条が居ない事を調べる。建物が曲がりくねった構造であるため視界は悪いが、今周りには十中八九誰も居ないはず。
美琴(……今っ!!)
念じてカチューシャを被ると、近くにあった鏡へとダッシュ。
しかしその一つ手前にあるオブジェの脇を走り抜けようとしたとき、
しかしその一つ手前にあるオブジェの脇を走り抜けようとしたとき、
美琴「わっ!!」
「ふがっ!!」
「ふがっ!!」
突然曲がり角からニュッと出てきた人間に、美琴は勢いよくぶつかってしまった。
危うく後ろに倒れそうになって、
危うく後ろに倒れそうになって、
「危ねっ」
鼻柱を押えたその男に手を引かれる。
前を見ていなかった美琴であるが、もはや何かを確信してしまっていた。
『あー、前にもこんな事あったなー。でもコイツは覚えてないんだっけ?』、などとのんきな事を思いつつ、目の前の人物を見る。
今自分はどんな顔をしているのだろう。
前を見ていなかった美琴であるが、もはや何かを確信してしまっていた。
『あー、前にもこんな事あったなー。でもコイツは覚えてないんだっけ?』、などとのんきな事を思いつつ、目の前の人物を見る。
今自分はどんな顔をしているのだろう。
当麻「……、ミーニャちゃん」
美琴「へ?」
美琴「へ?」
目の前の少年。上条当麻は、トスッと包みを床に落とすと、何か不思議な生き物を見たかのように目を丸くしていた。
乙姫「あ、本当だミーニャちゃんだ!」
一歩遅れて出てきた乙姫も同じ感想を述べた。
ミーニャちゃんとニャーラちゃん。それがこの遊園地のメインマスコットである。
美琴が被ったものはそのミーニャちゃんのものだった。
ミーニャちゃんとニャーラちゃん。それがこの遊園地のメインマスコットである。
美琴が被ったものはそのミーニャちゃんのものだった。
当麻「お前……」
呆然としていた上条であるが、その口角が徐々にヒクヒクと上がっていく。
その動きに合わせるかのように、美琴の顔が炎のように赤くなった。
その動きに合わせるかのように、美琴の顔が炎のように赤くなった。
美琴「ち、違……」
当麻「あれだけ否定してたのに、自分から……かよ……や、やっぱり無茶苦茶被りたくて……、
ぶふーっはっはははは!!」
当麻「あれだけ否定してたのに、自分から……かよ……や、やっぱり無茶苦茶被りたくて……、
ぶふーっはっはははは!!」
ついに上条は噴き出した。
唾が掛かるが美琴はそれどころじゃなかった。
唾が掛かるが美琴はそれどころじゃなかった。
美琴「だー!! 違うっつってんでしょ笑うな笑うんじゃない笑ったらアンタにも被せんぞグルァ!!
って、ちょっと乙姫ちゃんまでー!?」
乙姫「ぷ、くく……、ごめん。だって……」
って、ちょっと乙姫ちゃんまでー!?」
乙姫「ぷ、くく……、ごめん。だって……」
二人は堪えきれず表情を歪ませて吹き出す。
上条の至ってはツボに入ったらしく、腹を抱えて息が苦しくなるほど笑っていた。
上条の至ってはツボに入ったらしく、腹を抱えて息が苦しくなるほど笑っていた。
美琴「~~~!!」
後で殺す。と美琴は復讐を固く誓いつつ、ミーニャちゃんの耳を陳列棚に戻す。
当麻「あれれ、いいのか? それ、ホントは被りたいんじゃないのかなぁ? み……みーちゃん。
ぶはっ!!」
美琴「みーちゃん言うな!! それで、アンタは結局何買ってきたのよ」
ぶはっ!!」
美琴「みーちゃん言うな!! それで、アンタは結局何買ってきたのよ」
上条はまだからかい足りないという顔で、床に落ちた包みを拾って中身を見せてやった。
30センチよりは短い、茶色の人工毛。
30センチよりは短い、茶色の人工毛。
美琴「エクステ?」
当麻「色々考えたんだけどな、とりあえず髪型を変えるのは基本だろ? それでも印象が変わら
なければまた追加すればいいし」
美琴「へえ、アンタにしては案外まともじゃない。……それで、どんな髪型にしようと思ったわけ?」
当麻「色々考えたんだけどな、とりあえず髪型を変えるのは基本だろ? それでも印象が変わら
なければまた追加すればいいし」
美琴「へえ、アンタにしては案外まともじゃない。……それで、どんな髪型にしようと思ったわけ?」
ムスッと怒ったような声。わざとそうしないと恥ずかしさからどうにかなってしまいそうだった。
美琴は自分の毛先を指で弄びながら上条をチラチラ窺いつつ尋ねる。
美琴は自分の毛先を指で弄びながら上条をチラチラ窺いつつ尋ねる。
当麻「ツインテールだけど。嫌なら別の髪型でも」
美琴「んじゃそれでいいわ。アンタ……じゃなくて、乙姫ちゃんか。悪いわね。ちょっとお願い
できるかしら」
乙姫「おっけー」
美琴「んじゃそれでいいわ。アンタ……じゃなくて、乙姫ちゃんか。悪いわね。ちょっとお願い
できるかしら」
乙姫「おっけー」
乙姫は元よりそのつもりだったので、軽い調子で親指と人差し指の輪を作った。
美琴「アンタはここで待ってて。すぐ戻るから」
美琴はさっと了承すると、上条から包みを奪い乙姫を連れてどこかへ行こうとする。
当麻「お、おい御坂」
てっきり難色を示されると思っていた上条は、そのあっさり具合に面食らってしまった。
女子ならもっと色んな髪型のバリエーションを知ってるだろ? と引き留めようとするが、美琴は乙姫の手を引いて逃げるように行ってしまう。
女子ならもっと色んな髪型のバリエーションを知ってるだろ? と引き留めようとするが、美琴は乙姫の手を引いて逃げるように行ってしまう。
当麻「……、あん?」
ふと、乙姫が一瞬振り返った。まるで「ほらね?」とでも言い足そうなしたり顔で。
当麻(いや……わかんねーよ)
分からない方がいい気がする。
一人残された上条は自意識過剰な妄想を無理矢理振り払うと、手持ちぶさたになった右手でポリポリと熱い頬を掻いた。
一人残された上条は自意識過剰な妄想を無理矢理振り払うと、手持ちぶさたになった右手でポリポリと熱い頬を掻いた。
◇
乙姫「おねーちゃんの髪サラッサラだねー。さすがお嬢様」
美琴と乙姫は化粧室のすぐ近くにある横椅子に座ってエクステを付ける作業をしていた。
店内スタッフに頼むことも出来るらしいのだが、待ち時間がもったいない。
美琴が手のひらサイズの小さな手鏡を持って自分の顔を真っ直ぐ映し、乙姫がそれを入念に確認しながら美琴の髪に人工毛を編み込んでいく。
店内スタッフに頼むことも出来るらしいのだが、待ち時間がもったいない。
美琴が手のひらサイズの小さな手鏡を持って自分の顔を真っ直ぐ映し、乙姫がそれを入念に確認しながら美琴の髪に人工毛を編み込んでいく。
美琴「そうかな? ありがと。私は乙姫ちゃんの髪も好きだけどなー」
乙姫「ダメダメ私なんか。友達の間で流行ってるお手入れとかお洒落とか面倒臭くってさ」
美琴「あーそれ分かる。興味が無いわけじゃないんだけど、面倒でついついサボりがちに
なっちゃうのよね」
乙姫「ダメダメ私なんか。友達の間で流行ってるお手入れとかお洒落とか面倒臭くってさ」
美琴「あーそれ分かる。興味が無いわけじゃないんだけど、面倒でついついサボりがちに
なっちゃうのよね」
興味があっても出来ないようなものもあるし。と、美琴はルームメイトの顔を思い浮かべつつ付け加えた。
乙姫「それにほら、私癖っ毛で、こんだけ短くしてもはねちゃってるしさ」
美琴「何言ってんの。よく似合ってて可愛いじゃない。下手に流行の髪型にして没個性になる
より私は好きよ? あの馬鹿と並べば本当に兄妹みたいだし」
乙姫「ホント? ……えへへ、やっぱ似てるかな」
美琴「何言ってんの。よく似合ってて可愛いじゃない。下手に流行の髪型にして没個性になる
より私は好きよ? あの馬鹿と並べば本当に兄妹みたいだし」
乙姫「ホント? ……えへへ、やっぱ似てるかな」
乙姫はベリーショートの前髪を揺らしながらはにかんだ。
美琴「ひょっとして意識してるの?」
乙姫「えっ?」
乙姫「えっ?」
一瞬、乙姫の手が止まる。
乙姫「どういう意味?」
美琴「あ、いや変な意味じゃないのよ? ただ、ヘアスタイルをあの馬鹿に合わせてお揃いに
してるのかなーって。ほら、雰囲気似てるし」
美琴「あ、いや変な意味じゃないのよ? ただ、ヘアスタイルをあの馬鹿に合わせてお揃いに
してるのかなーって。ほら、雰囲気似てるし」
思わず出てしまった言葉と、乙姫のリアクションに美琴は少し動揺してしまった。
気まずい。
正面に上げていた手が落ちていき、手鏡が美琴の顔からゆっくりと離れていく。
鏡を通して向き合っていた二つの視線が、自然と外れた。
気まずい。
正面に上げていた手が落ちていき、手鏡が美琴の顔からゆっくりと離れていく。
鏡を通して向き合っていた二つの視線が、自然と外れた。
乙姫「あ、あははは……ばれちゃったかぁ。なんていうかほら、少しでも近づきたくてさ……。
その……、大好きなおにーちゃんに」
美琴「そ……、そうなんだ。へぇ、意外ね」
その……、大好きなおにーちゃんに」
美琴「そ……、そうなんだ。へぇ、意外ね」
美琴は静かに息を吐いて眉をひそめる。
胸の鼓動が悲鳴のようにうるさい。
胸の鼓動が悲鳴のようにうるさい。
美琴(……あの野郎)
心の中で少年の顔を思い浮かべつつ呪詛の言葉を吐き出す。
悪い予感が当たってしまった。
あの男は何人の少女を泣かせるつもりなのだろう。
悪い予感が当たってしまった。
あの男は何人の少女を泣かせるつもりなのだろう。
乙姫「ね、おねーちゃん。私とおにーちゃんってお似合いかなぁ? 応援してくれる?」
美琴「えっ?! そ、あ、えーっと。あはははは……。で、でもあんな馬鹿野郎のどこが良いの
かしらね」
美琴「えっ?! そ、あ、えーっと。あはははは……。で、でもあんな馬鹿野郎のどこが良いの
かしらね」
言った瞬間、冬だというのに全身のからジワッと汗が噴き出てきた。まるで口から出た毒に体が拒絶反応を示すように。
美琴はそれ以上何も言えず、キュッと唇を結ぶ。
美琴はそれ以上何も言えず、キュッと唇を結ぶ。
乙姫「…………」
しかし乙姫の方も何も言わず、ただ黙々と人口毛を編み込んでいた。
自分の言葉を待っているのかもしれない。そう思って、美琴はゴクリと一度つばを飲み込む。
自分の言葉を待っているのかもしれない。そう思って、美琴はゴクリと一度つばを飲み込む。
美琴「……ごめん。私……、私ね」
美琴の口から細い声が漏れる。
頬が紅潮した。
しかしそれでも言わなくてはならない気がする。
知らないとは言え、乙姫は今真剣に自分に向き合っているのだ。
嘘はつけない。つきたくない。
それになにより、
頬が紅潮した。
しかしそれでも言わなくてはならない気がする。
知らないとは言え、乙姫は今真剣に自分に向き合っているのだ。
嘘はつけない。つきたくない。
それになにより、
美琴「実は……」
例えどこの誰にだって上条を譲る気なんか無い。
美琴「私……、アイツと――――」
乙姫「……ぶふぁっ!!」
乙姫「……ぶふぁっ!!」
意を決して告白しようとした瞬間。突然背後の乙姫が吹きだした。
様子がおかしい。
急いで鏡を見ると、彼女の顔は必死に笑いを堪えているような表情になっていた。
様子がおかしい。
急いで鏡を見ると、彼女の顔は必死に笑いを堪えているような表情になっていた。
美琴「……あ!!」
からかわれた。
そう思った瞬間、美琴の顔が羞恥でかぁぁっ!! と熱くなる。
そう思った瞬間、美琴の顔が羞恥でかぁぁっ!! と熱くなる。
美琴「乙姫ちゃん?!」
乙姫「ごめ、ごめんなさい! だっておねーちゃんったら、美鈴さんと同じ事言うんだもん」
美琴「……あ、アイツが何て?」
乙姫「んーと、『乙姫ちゃん。その髪型って当麻君を意識してるの?』とか、『好きだったりする?
もしそうなら美琴ちゃんの恋敵《ライバル》ね』とか」
美琴「ッ!?」
乙姫「ごめ、ごめんなさい! だっておねーちゃんったら、美鈴さんと同じ事言うんだもん」
美琴「……あ、アイツが何て?」
乙姫「んーと、『乙姫ちゃん。その髪型って当麻君を意識してるの?』とか、『好きだったりする?
もしそうなら美琴ちゃんの恋敵《ライバル》ね』とか」
美琴「ッ!?」
美琴の顔が引きつった。
乙姫「でも安心して! 私のおにーちゃんに対する『大好き』は妹としてだから。一緒に寝たりお風呂で洗いっこしたこともあるけど、おねーちゃんから取ろうだなんて思わないよ!」
美琴「おふ、お風呂!? あ、ああ洗いっこってあの馬鹿乙姫ちゃんに何て事を!!」
美琴「おふ、お風呂!? あ、ああ洗いっこってあの馬鹿乙姫ちゃんに何て事を!!」
声が裏返る。
乙姫「幼稚園の頃だけどね」
美琴「ぁ……」
美琴「ぁ……」
沸騰しかけた怒りの熱はそのまま恥ずかしさの熱に変換される。
美琴はついに俯いて小さくなってしまった。
火照りを冷ますため、服を摘んでバサバサと中の空気を入れ替える。
美琴はついに俯いて小さくなってしまった。
火照りを冷ますため、服を摘んでバサバサと中の空気を入れ替える。
乙姫「それどころか私、美鈴さんから『上琴応援し隊』の副隊長に任命されたんだから。どーんと
大船に乗ったつもりで私に任せちゃってよ!」
美琴「か、かかかか、上琴ッ!?」
大船に乗ったつもりで私に任せちゃってよ!」
美琴「か、かかかか、上琴ッ!?」
思いも掛けないワードが乙姫の口から飛び出る。
美琴(そ、そそその単語を何で乙姫ちゃんが知ってんのよ!? それ、私がベッドの中で考えた
言葉でしょ!!?? 誰にも言ってないはずなのに)
言葉でしょ!!?? 誰にも言ってないはずなのに)
『上条当麻』と『御坂美琴』、短縮して『上琴《かみこと》』。そんなことを夜な夜な考えたことがある。
美琴「…………」
美琴は戦慄した。
そんな細かい部分まで自分と同じ発想をする母親には、自分の気持ちなんて全部筒抜けなのではないだろうか。
そんな細かい部分まで自分と同じ発想をする母親には、自分の気持ちなんて全部筒抜けなのではないだろうか。
美琴(そういえば昨日の最初から乙姫ちゃんとママが妙に怪しい行動してたけど、そういうこと!?
上琴応援し隊の隊長はママ!??)
上琴応援し隊の隊長はママ!??)
ちなみにここでその意味を問わない時点で色々モロバレすぎるのだが、混乱を極めていた今の美琴にそんなことまで頭が回らなかった。
美琴「えっと、乙姫ちゃん? あの馬鹿母から何を言われたか知らないけど、あんまり適当な事
信じちゃ駄目よ?」
信じちゃ駄目よ?」
先ほどとは方針変更。
こんな状況でカミングアウトなんて出来るわけがない。
副隊長が知ったら隊長に伝わるのも時間の問題だろう。
こんな状況でカミングアウトなんて出来るわけがない。
副隊長が知ったら隊長に伝わるのも時間の問題だろう。
乙姫「えー? でも美鈴さん言ってたよ。『前より髪の艶レベルが上がってる。あれは恋に違い
無い』って」
美琴「さ、最近はちょっとね。ほら、うちは校則で一日に何度もシャワー浴びなきゃいけなかったり
して結構傷んじゃうから、放っとくと酷い事になるのよ。ルームメイトにも口うるさく言われ
ちゃうしさ。しょうがなくよ、しょうがなく!!」
乙姫「……さっきは面倒とか言ってたのに」
美琴「お、乙姫ちゃんは好きな男の子居ないの!?」
無い』って」
美琴「さ、最近はちょっとね。ほら、うちは校則で一日に何度もシャワー浴びなきゃいけなかったり
して結構傷んじゃうから、放っとくと酷い事になるのよ。ルームメイトにも口うるさく言われ
ちゃうしさ。しょうがなくよ、しょうがなく!!」
乙姫「……さっきは面倒とか言ってたのに」
美琴「お、乙姫ちゃんは好きな男の子居ないの!?」
美琴は強引に話題を切り替える。
どうにも上条が絡む話題においてはお姉様気質が揺らいでしまうらしい。
どうにも上条が絡む話題においてはお姉様気質が揺らいでしまうらしい。
乙姫「うーん。まだおにーちゃんを超える人は居ないかなぁ」
美琴「……」
美琴「……」
しかし話題はすぐに引き戻された。
切り替えさせる気は無いらしい。
切り替えさせる気は無いらしい。
乙姫「なーんちゃって! 私はまだそう言うのとは関係無く遊んでる方が好きだよ」
美琴「そ……、そうよね私もそんな感じよ? 私だってあの馬鹿と遊……じゃなく、喧嘩ばっかり
してるし。それもガチよ? ここだけの話、危険な能力だっていっぱい使ってんだから!
超電磁砲に電撃、砂鉄の剣に電磁波攻撃……」
乙姫「えぇ、ウソ!? 軍隊だって軽くあしらうって言うレベル5の超能力で!?」
美琴「そ……、そうよね私もそんな感じよ? 私だってあの馬鹿と遊……じゃなく、喧嘩ばっかり
してるし。それもガチよ? ここだけの話、危険な能力だっていっぱい使ってんだから!
超電磁砲に電撃、砂鉄の剣に電磁波攻撃……」
乙姫「えぇ、ウソ!? 軍隊だって軽くあしらうって言うレベル5の超能力で!?」
乙姫は心底驚いたという顔で身を乗り出した。
その反応に美琴はほっと安堵する。
その反応に美琴はほっと安堵する。
美琴「ふふん。ホントーよ。詳しくは言えないけど、あの馬鹿には年がら年中ムカついてんだから。
あ、でも一応体は無事よ? アイツったら結局逃げちゃうんだもん」
乙姫「へーぇ」
あ、でも一応体は無事よ? アイツったら結局逃げちゃうんだもん」
乙姫「へーぇ」
無事とは言っても、銃を向けるよりも過激な行為であるということに変わりはない。それは学園都市外部の人間にでも容易に分かる事だ。
乙姫に恐れ戦かれる事は美琴としても本意でないが、これで上条とは不仲だと信じて貰えるだろう。
乙姫に恐れ戦かれる事は美琴としても本意でないが、これで上条とは不仲だと信じて貰えるだろう。
乙姫「あれ? てことは、おねーちゃんがいっつも勝負しかけて追掛け回してるってこと?」
しかしその期待は一瞬で崩れ落ちる。
美琴「え、あ……いや、そうじゃなくて」
乙姫「あ、ツインテ完成ーぃ! ふふふ、我ながらなかなか良い出来映えじゃないかしら?」
乙姫「あ、ツインテ完成ーぃ! ふふふ、我ながらなかなか良い出来映えじゃないかしら?」
想定外の鋭い指摘が飛び、しどろもどろになったところでツインテールが完成する。
最悪のタイミング。
美琴が鏡を覗くと、肩まで届くくらいの人工毛と、ついでに真っ赤に染まって慌てた顔が映っていた。
こんな表情をしていたら、上条に惚れていることくらい誰だって見抜けるんじゃないかと自分自身疑ってしまう(ただし当人を除いて)
それでも美琴には否定する以外道はない。
最悪のタイミング。
美琴が鏡を覗くと、肩まで届くくらいの人工毛と、ついでに真っ赤に染まって慌てた顔が映っていた。
こんな表情をしていたら、上条に惚れていることくらい誰だって見抜けるんじゃないかと自分自身疑ってしまう(ただし当人を除いて)
それでも美琴には否定する以外道はない。
美琴「お、乙姫ちゃん違うのよ」
乙姫「大丈夫。私はおねーちゃんの味方だから。さあ早くおにーちゃんに見せにいこ!」
乙姫「大丈夫。私はおねーちゃんの味方だから。さあ早くおにーちゃんに見せにいこ!」
乙姫は美琴の手を引いてさっさと立ち上がる。
美琴「待って、そうじゃなくてその前に乙姫ちゃんお願いだから聞いて!! 別に私が追っかけ
回してるんじゃないのよ。単に家が近くて偶然会う機会が多いってだけで」
乙姫「可愛くできたから、きっとおにーちゃん褒めてくれるって!」
美琴「喧嘩だって最初アイツが――――って、え? そ、そうかな? アイツ鈍感馬鹿だから褒め
たりとかしないと思うけど」
乙姫「そんなこと無いって。そもそもおにーちゃんが髪型指定したんだんだし!」
美琴「ま、まあ、確かにこれは私にして欲しかった髪型ってこ――――ってそうじゃなくてぇぇぇ
ええええ!!」
回してるんじゃないのよ。単に家が近くて偶然会う機会が多いってだけで」
乙姫「可愛くできたから、きっとおにーちゃん褒めてくれるって!」
美琴「喧嘩だって最初アイツが――――って、え? そ、そうかな? アイツ鈍感馬鹿だから褒め
たりとかしないと思うけど」
乙姫「そんなこと無いって。そもそもおにーちゃんが髪型指定したんだんだし!」
美琴「ま、まあ、確かにこれは私にして欲しかった髪型ってこ――――ってそうじゃなくてぇぇぇ
ええええ!!」
ゆらゆらと。
まるで美琴の心を映すかのように二つに結われたおさげが空を舞った。
まるで美琴の心を映すかのように二つに結われたおさげが空を舞った。
◇
当麻「……おせーなぁ」
上条は明るい虹色の壁により掛かりながら何度目かの悪態をついた。
本当にそう思っているわけではない。人工毛を三つ編みのように『編み込む』と聞いて時間が掛かることは予想していた。
ただ、昨晩から一人きりになると思考が暴走気味になるので、早く二人と合流したかっただけだ。
本当にそう思っているわけではない。人工毛を三つ編みのように『編み込む』と聞いて時間が掛かることは予想していた。
ただ、昨晩から一人きりになると思考が暴走気味になるので、早く二人と合流したかっただけだ。
当麻「……」
いつの間にか激しくなっていた貧乏揺すりを手で止め、そっと息を吐き出す。
二人が向かった先を何となしに見上げると、吹き抜けの向こうからマイクを通した女性の声と子供達の歓声が聞こえた。
キャラクターショーでもやっているのかもしれない。
お城の明るい雰囲気を感じれば感じるほど、自分が馬鹿みたいに思えてくる。
二人が向かった先を何となしに見上げると、吹き抜けの向こうからマイクを通した女性の声と子供達の歓声が聞こえた。
キャラクターショーでもやっているのかもしれない。
お城の明るい雰囲気を感じれば感じるほど、自分が馬鹿みたいに思えてくる。
当麻(どっかであいつと二人きりにならなきゃいけないんだけど、どうすっかなー)
美琴と話さなければ鳴らないことがあった。
美琴が学園都市を離れるべきかどうか。上条が美琴から離れるべきかどうか。それとネットの噂のこと。
チャンスがあるとすれば、親連中が来る前。何か二人きりになるアトラクションを選択するか、素直に乙姫に頼んで二人きりにして貰うか。
――――と、そこまで考えて上条は思考を止めた。
美琴が学園都市を離れるべきかどうか。上条が美琴から離れるべきかどうか。それとネットの噂のこと。
チャンスがあるとすれば、親連中が来る前。何か二人きりになるアトラクションを選択するか、素直に乙姫に頼んで二人きりにして貰うか。
――――と、そこまで考えて上条は思考を止めた。
当麻「……」
そんなチャンス来なきゃいい。心の奥底ではそう思っていた。
重苦しい話なんかせず、心の底から家族と遊園地を楽しんで、出来れば明日、何事もなく二人で学園都市へ帰る。帰ってからは事件も起きず、日常のちょっとした不幸に見舞われながらも、いつも隣でお日様のように温かく微笑みながらからかってくれる美琴が居る。
将来のことなんか上条にはまだ分からないが、少なくともそんな高校生活は楽しいものになるだろう。そんな気がした。
重苦しい話なんかせず、心の底から家族と遊園地を楽しんで、出来れば明日、何事もなく二人で学園都市へ帰る。帰ってからは事件も起きず、日常のちょっとした不幸に見舞われながらも、いつも隣でお日様のように温かく微笑みながらからかってくれる美琴が居る。
将来のことなんか上条にはまだ分からないが、少なくともそんな高校生活は楽しいものになるだろう。そんな気がした。
当麻(はは、なんだそりゃ)
一瞬頭の中を駆け巡った想像に上条は苦笑する。
自分の記憶をさらってみれば分かる。いつの頃からかは知らないが、上条当麻の日常はそう言う物からほど遠い所に存在していた。
そもそも自分はそれで良いと思っていたはずだった。不幸だなんて言っておきながら、自分にとってそれは幸福な事だとも思っていたはずだった。
信念を曲げない。一歩間違えば死ぬような危ない道でも、進んで足を踏み出せる。誰かを助けるために、そして自分も助かるために、安易な自己犠牲を乗り越えたその先に手を伸ばせる。たとえ大切な人が待っていようとも変わらない。
それが上条当麻という男だったはずだ。
なのにどうしたことだろう。
今はどうしても保守的な考えしか思い浮かばない。
危ない道には恐怖を覚える。石橋が壊れないか叩いて確認したくなる。
まるでただ不幸なだけの、普通の男子高校生だった。
原因はとっくに分かっている。
自分の記憶をさらってみれば分かる。いつの頃からかは知らないが、上条当麻の日常はそう言う物からほど遠い所に存在していた。
そもそも自分はそれで良いと思っていたはずだった。不幸だなんて言っておきながら、自分にとってそれは幸福な事だとも思っていたはずだった。
信念を曲げない。一歩間違えば死ぬような危ない道でも、進んで足を踏み出せる。誰かを助けるために、そして自分も助かるために、安易な自己犠牲を乗り越えたその先に手を伸ばせる。たとえ大切な人が待っていようとも変わらない。
それが上条当麻という男だったはずだ。
なのにどうしたことだろう。
今はどうしても保守的な考えしか思い浮かばない。
危ない道には恐怖を覚える。石橋が壊れないか叩いて確認したくなる。
まるでただ不幸なだけの、普通の男子高校生だった。
原因はとっくに分かっている。
当麻「御坂美琴」
もう一人じゃない。橋の上には上条の他にもう一人載っているのだ。
美琴「……あによ」
当麻「んあ?」
当麻「んあ?」
いつの間にか隣には少女が二人。
上条の顔を不思議そうな目で見つめていた。
上条の顔を不思議そうな目で見つめていた。
当麻「……」
美琴「ど、どう……かな?」
美琴「ど、どう……かな?」
少女の内の一人は髪をゴムで二つにくくっていた。
肩に届くくらいの茶髪のおさげ。彼女自身の髪と人工毛の境がどこかにあるはずだが一見して分からない。中々の仕上がりだ。
肩に届くくらいの茶髪のおさげ。彼女自身の髪と人工毛の境がどこかにあるはずだが一見して分からない。中々の仕上がりだ。
当麻「……うーん?」
美琴「うーん。ってアンタ、まさか髪型変わっただけで誰か分からないーなんてベタな事言わない
でしょうね? アンタの言うとおりに髪型変えたんだから。……ちょっとは感想とか、言い
なさいよね」
美琴「うーん。ってアンタ、まさか髪型変わっただけで誰か分からないーなんてベタな事言わない
でしょうね? アンタの言うとおりに髪型変えたんだから。……ちょっとは感想とか、言い
なさいよね」
怒っているような照れているような。少女は微妙な表情で睨んだ。
髪型のおかげでいつもより若干幼く見えるので、これでおにーちゃんとでも呼んできたら立派なツンデレ妹キャラの完成かもしれない。
髪型のおかげでいつもより若干幼く見えるので、これでおにーちゃんとでも呼んできたら立派なツンデレ妹キャラの完成かもしれない。
美琴「つか、アンタ本当にどしたの? ぼけーっとして……っえ、何?」
上条は表情を変えないまま、おもむろに手に持っていた物をツインテールの頭に載せた。
ミーニャちゃんの耳型ヘアバンド。
これでツンデレネコミミ妹キャラの完成である。
ミーニャちゃんの耳型ヘアバンド。
これでツンデレネコミミ妹キャラの完成である。
当麻「よし!」
美琴「よし、じゃねーつの!! 被らないってば!!」
当麻「ああ馬鹿、外すな」
美琴「よし、じゃねーつの!! 被らないってば!!」
当麻「ああ馬鹿、外すな」
バッと耳を外そうとする美琴を上条が止める。
美琴「な、何よ。……そんなに被って欲しいわけ?」
当麻「ああ、被ってろよ。合わせたら完璧だぞ」
美琴「かん………………、そ、そう」
当麻「ああ、被ってろよ。合わせたら完璧だぞ」
美琴「かん………………、そ、そう」
美琴の声が少し裏返る。
乙姫「(ほーらね、言ったとおりでしょおねーちゃん)」
乙姫がそっと耳打ちした。
美琴「うん。そ、そうね。……まあそこまで言うなら……被ってるわよ」
口角が勝手に上がりそうで力をこめる。
素直にはにかんでしまいたいが、乙姫の前でそれは恥ずかしい。
素直にはにかんでしまいたいが、乙姫の前でそれは恥ずかしい。
当麻「ああそうしとけ。完璧だと思うぞ? その『変装』」
しかし、その必要は無いようだった。
美琴「変装……」
当麻「まさか常盤台のレベル5がお子様ツインテールにしてお子様グッズ被ってるなんて誰も
思わないだろうしな! うんうん。我ながら中々上手くいきましたな。良かった良かった。
これで昨日みたいにばれずに済むぞ?」
当麻「まさか常盤台のレベル5がお子様ツインテールにしてお子様グッズ被ってるなんて誰も
思わないだろうしな! うんうん。我ながら中々上手くいきましたな。良かった良かった。
これで昨日みたいにばれずに済むぞ?」
アハハハハ。と笑いながら美琴の頭をグリグリと撫でてやる上条。
見た目の影響も相まって完全に子供扱いである。
それに今は電撃も出せないので全く怖くない。
見た目の影響も相まって完全に子供扱いである。
それに今は電撃も出せないので全く怖くない。
美琴「…………れ」
当麻「ん、何だって?」
美琴「アンタも被れーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
当麻「ん、何だって?」
美琴「アンタも被れーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
瞬間。上条の側頭部でゴリュッ!! と何かを擦る嫌な音が鳴った。かと思ったらズバン!! と破裂音。
「うわぁ」という声と共に乙姫が一歩下がる。
「うわぁ」という声と共に乙姫が一歩下がる。
当麻「ぬぐォォォォぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!」
美琴「ふん! ちょっと小さいけど、中々似合ってるじゃない」
美琴「ふん! ちょっと小さいけど、中々似合ってるじゃない」
物凄い勢いで脳天に振り下ろされたものはカチューシャだった。
それも情けなく垂れた犬耳付きの。
それも情けなく垂れた犬耳付きの。
当麻「テ……メェ。壊れたらどーすんだ!! サイズがもう少し小さかったら危なかったぞ!?」
美琴「商品が? それともアンタの頭が?」
当麻「ど……ッッ!!??」
美琴「商品が? それともアンタの頭が?」
当麻「ど……ッッ!!??」
どっちもだ!! と叫ぼうとした瞬間、上条は絶句してしまう。
上条の眼前にタラリと垂れてきた紙のようなもの。そこに書かれた金額に心臓が止まりそうになった。
上条の眼前にタラリと垂れてきた紙のようなもの。そこに書かれた金額に心臓が止まりそうになった。
美琴「別に良いでしょ? どちみちアンタが買うんだから」
当麻(…………ふ、不幸だ)
当麻(…………ふ、不幸だ)
上条は心の中でため息をついた。
しかし同時に、まあ良いかと諦めもつく。
しかし同時に、まあ良いかと諦めもつく。
ツインテールにしてネコミミを被った常盤台の超電磁砲。
不敵に笑うその姿は、本当に似合っていると思えた。
不敵に笑うその姿は、本当に似合っていると思えた。