13章 帰省2日目 遊園地
1/3 AM10:50 曇り
上条当麻、御坂美琴、竜宮乙姫の3人は遊園地へ向かう電車に揺られていた。
上条まで椅子に座れたのは運が良い。正月という事もあってか、恐らく目的地を同じくする家族連れが多く、
車内には喧噪に塗れている。
3人。
そこに本来保護者の役割をする大人達の姿はなかった。
そもそも何故彼らが遊園地なんかに向かっているのか。それはかなり唐突な話で、美琴が帰って早々、
刀夜がチケット3枚を取り出して「子供達だけで行ってきなさい」などとやや強引に追い出したのだ。
残念ながら詩菜も美鈴も同行は出来ないらしい。三者三様、何かしら用事があるというのが彼らの主張らしいが、
上条まで椅子に座れたのは運が良い。正月という事もあってか、恐らく目的地を同じくする家族連れが多く、
車内には喧噪に塗れている。
3人。
そこに本来保護者の役割をする大人達の姿はなかった。
そもそも何故彼らが遊園地なんかに向かっているのか。それはかなり唐突な話で、美琴が帰って早々、
刀夜がチケット3枚を取り出して「子供達だけで行ってきなさい」などとやや強引に追い出したのだ。
残念ながら詩菜も美鈴も同行は出来ないらしい。三者三様、何かしら用事があるというのが彼らの主張らしいが、
乙姫「絶対怪しい!」
乙姫は何度目かになる不満を漏らした。
上条もそれには同意するが、どうしても今はその事のためには脳が働いてくれない。
意識は、長椅子の乙姫を挟んだ向こう側にある。
上条もそれには同意するが、どうしても今はその事のためには脳が働いてくれない。
意識は、長椅子の乙姫を挟んだ向こう側にある。
美琴「まあ、日が傾く前までには合流して何か食べに行くって言ってたから、それまでに遊び倒しちゃいましょ。
こういうのは親連中が居ない方が伸び伸び出来んのよ」
こういうのは親連中が居ない方が伸び伸び出来んのよ」
美琴の表情は朝と違って普段通りに見えた。
たまにキョロキョロと周囲を見回しているのは昨晩のように『御坂美琴』だとばれるのを恐れてだろうか。
服装はダークバイオレットのジャケットに白のファーハット、ブラウンのプリーツスカートと、以前見た格好に似ていた。
遊園地で遊ぶならコートよりジャケットの方が良いというのが彼女の便だが、ひょっとしたら帽子なんかは別の理由もあったのかもしれない。
上条がぼんやりとそんな事を思っていると、乙姫が美琴の視線を盗んで上条に耳打ちしてくる。
たまにキョロキョロと周囲を見回しているのは昨晩のように『御坂美琴』だとばれるのを恐れてだろうか。
服装はダークバイオレットのジャケットに白のファーハット、ブラウンのプリーツスカートと、以前見た格好に似ていた。
遊園地で遊ぶならコートよりジャケットの方が良いというのが彼女の便だが、ひょっとしたら帽子なんかは別の理由もあったのかもしれない。
上条がぼんやりとそんな事を思っていると、乙姫が美琴の視線を盗んで上条に耳打ちしてくる。
乙姫「(もしかして、おにーちゃん的には二人きりの方がよかった?)」
当麻「……、んなわけねぇだろ」
当麻「……、んなわけねぇだろ」
笑うでも怒るでもない、微妙な表情をしていた乙姫の言葉を適当に流す。一拍おいてしまったのは別の事を
考えていたからで、別にやましい事はない。
実際問題、乙姫の存在は都合がよかった。
美琴に相談はしたいが、重苦しい空気でするのは避けたい。軽口が言い合えるくらいで丁度良いだろう。
2人だとどこまでも重くなりそうな空気も、3人で、しかも遊園地というシチュエーションなら表面上は明るくなるはずだ。
考えていたからで、別にやましい事はない。
実際問題、乙姫の存在は都合がよかった。
美琴に相談はしたいが、重苦しい空気でするのは避けたい。軽口が言い合えるくらいで丁度良いだろう。
2人だとどこまでも重くなりそうな空気も、3人で、しかも遊園地というシチュエーションなら表面上は明るくなるはずだ。
乙姫「ふーん」
すると乙姫は今度こそ表情をにやつかせて美琴へ何かを耳打ちする。
瞬間、美琴の視線が上条を捉えて、すぐに乙姫に戻った。
瞬間、美琴の視線が上条を捉えて、すぐに乙姫に戻った。
美琴「馬鹿ね、そんなわけ無いでしょ」
乙姫「ほんとにぃ?」
美琴「3人の方が楽しいに決まってるじゃない」
乙姫「おねーちゃん、顔が赤いよ?」
美琴「あ、赤くないわよ!」
乙姫「ねぇ、赤いよねおにーちゃん」
美琴「赤くないってば! まだ疑うかこの子はー!」
乙姫「ほんとにぃ?」
美琴「3人の方が楽しいに決まってるじゃない」
乙姫「おねーちゃん、顔が赤いよ?」
美琴「あ、赤くないわよ!」
乙姫「ねぇ、赤いよねおにーちゃん」
美琴「赤くないってば! まだ疑うかこの子はー!」
美琴は楽しそうにグリグリと乙姫の頭を撫で回すと、キャッキャと乙姫も楽しそうな声を上げた。
普段なら注意するべきかもしれないが、二人の声が掻き消されるほど電車の中は既に子供の声でうるさい。
普段なら注意するべきかもしれないが、二人の声が掻き消されるほど電車の中は既に子供の声でうるさい。
当麻(つーかいつの間に仲良くなってんだか。妹属性と姉属性で波長が合うのか?)
それほど年の離れて良い二人だが、端から見れば立派な姉妹であった。
となると、この状況で上条は兄にでも見えるのだろうか。
そんな漠然とした思考は乙姫の高い声に遮られる。
となると、この状況で上条は兄にでも見えるのだろうか。
そんな漠然とした思考は乙姫の高い声に遮られる。
乙姫「あ、着いたよ。ほら!」
電車の窓から観覧車を始め、周りの景色から浮いたカラフルな曲線の集合が見えてくる。
それなりに人口密度が高い地域なので大規模なテーマパークとまでは言えないが、丸一日で全部回れないくらいに
大きい遊園地、というのが刀夜からの情報だった。
アナウンスが鳴ると、電車は徐々に速度を落としていく。
それなりに人口密度が高い地域なので大規模なテーマパークとまでは言えないが、丸一日で全部回れないくらいに
大きい遊園地、というのが刀夜からの情報だった。
アナウンスが鳴ると、電車は徐々に速度を落としていく。
美琴「……いっぱい楽しもうね」
美琴の独り言にも似た小さな呟きが、何故か上条の耳に妙にこびり付いた。
◇
『ミーニャーランド』と書かれた大きな看板には、カラフルな文字と一緒に様々な動物のキャラクターが描かれている。
その下の入場ゲートも、当たり前だが厚着をした家族連れでごった返していた。正月ということもあってか、祖父母に甘える子供という構図が目立つ。
あまりの混雑っぷりに辟易した表情をする上条に対し、それでも夏休みに来た時よりは空いている、と以前1度だけ来たことのある乙姫が説明する。
何十分かしてようやくゲートをくぐった頃には冬の寒さが服の中にまで浸食して、溜め込んだはずの熱は放出されてしまっていた。
その下の入場ゲートも、当たり前だが厚着をした家族連れでごった返していた。正月ということもあってか、祖父母に甘える子供という構図が目立つ。
あまりの混雑っぷりに辟易した表情をする上条に対し、それでも夏休みに来た時よりは空いている、と以前1度だけ来たことのある乙姫が説明する。
何十分かしてようやくゲートをくぐった頃には冬の寒さが服の中にまで浸食して、溜め込んだはずの熱は放出されてしまっていた。
当麻「うへぇ、こりゃ入ってからも並びそうだな……って、お前何やってんだ?」
美琴「……別に」
美琴「……別に」
美琴は本来頭に載せるタイプであるファーハットを目深に被って縮こまっていた。
酷く『御坂美琴』だとばれるのを恐れている雰囲気であるが、動作が不自然なため却って目立っている。
酷く『御坂美琴』だとばれるのを恐れている雰囲気であるが、動作が不自然なため却って目立っている。
当麻「昨日のがそんなに堪えたのか?」
美琴「……、そういうわけじゃないけど。ほら、ばれると面倒くさいし、遊びにくくなるじゃない?」
当麻「……」
美琴「……、そういうわけじゃないけど。ほら、ばれると面倒くさいし、遊びにくくなるじゃない?」
当麻「……」
やれやれという感じで、美琴は上条に苦笑を見せてやる。
上条に美琴の真意は理解できなかったが、ばれるのが好ましくないというのは同意できた。
しかしだからと言ってこそこそするのも何だか癪である。
となれば、すべき行動は限られるだろう。
上条に美琴の真意は理解できなかったが、ばれるのが好ましくないというのは同意できた。
しかしだからと言ってこそこそするのも何だか癪である。
となれば、すべき行動は限られるだろう。
当麻「おい、乙姫待った!」
乙姫「んえ。何かした?」
乙姫「んえ。何かした?」
どんどんアトラクションへ向けて先導していた乙姫が振り返る。
当麻「ここら辺で一番でかいグッズショップって分かるか?」
乙姫「分かるけど、先に買うの? 荷物多くなるし、早くしないとお昼に掛けてどんどん人増えるよ?」
当麻「いやぁ、御坂がどうしてもアレ欲しいって言うもんだからさ」
乙姫「分かるけど、先に買うの? 荷物多くなるし、早くしないとお昼に掛けてどんどん人増えるよ?」
当麻「いやぁ、御坂がどうしてもアレ欲しいって言うもんだからさ」
上条はさも『しょうがないなぁ』という表情で近くを通った幼稚園児くらいの女の子を指さす。
その女の子の頭にはこの遊園地のマスコットであるネコのようなキャラクターの耳が付けられていた。カチューシャタイプのグッズらしい。
その女の子の頭にはこの遊園地のマスコットであるネコのようなキャラクターの耳が付けられていた。カチューシャタイプのグッズらしい。
乙姫「マジ?」
美琴「言ってないわよ!! 何アンタはさらっとウソついてんだコラ!!」
美琴「言ってないわよ!! 何アンタはさらっとウソついてんだコラ!!」
乙姫の『ちょっと引いてます』という雰囲気にいたたまれなくなった美琴は電撃を抑えつつぎゃー!! とわめき散らす。
しかしそれでも上条は悟ったような眼差しをやめない。
しかしそれでも上条は悟ったような眼差しをやめない。
当麻「今思いっきり目で追ってたくせに」
美琴「ぐ……。追ってないもん」
美琴「ぐ……。追ってないもん」
声のトーンが2段くらい下がり、視線が上条から逸れた。
ほとんど肯定しているようなものである。
ほとんど肯定しているようなものである。
乙姫「おねーちゃんってそういう趣味? あ、そういえばあのゲコ太のぬいぐるみって……」
美琴「ち、違うわよ乙姫ちゃんこのバカに騙されちゃダメ。てかちょっと、ぶっちゃけた話アンタはどれだけ私を
子供扱いしてるわけ!? 要らない誤解を受けるじゃないのよ!!」
上条「はいはい分かった分かった。とりあえずあんまりデカイ声出すと目立つぞ?」
美琴「え? あ……」
美琴「ち、違うわよ乙姫ちゃんこのバカに騙されちゃダメ。てかちょっと、ぶっちゃけた話アンタはどれだけ私を
子供扱いしてるわけ!? 要らない誤解を受けるじゃないのよ!!」
上条「はいはい分かった分かった。とりあえずあんまりデカイ声出すと目立つぞ?」
美琴「え? あ……」
良く通る声で怒鳴ったおかげで、3人を避けて通る人々がチラチラと美琴の顔を窺っていた。このままだとばれるのは
時間の問題かもしれない。
いつもの美琴ならその程度の事は気にせず傍若無人に振る舞うはずだが、今はそれだけで萎縮してしまう。
再び帽子を目深に被って大人しくなってしまった。
時間の問題かもしれない。
いつもの美琴ならその程度の事は気にせず傍若無人に振る舞うはずだが、今はそれだけで萎縮してしまう。
再び帽子を目深に被って大人しくなってしまった。
当麻「はあ……。んで乙姫、その店はどこなんだ?」
乙姫「んーと、確かあのお城みたいな建物だったと思うけど」
乙姫「んーと、確かあのお城みたいな建物だったと思うけど」
どれもこれもお城に見えるけどな、と思いつつ上条は乙姫の指さす一つの建物を指さした。
他よりやや大きめの、所謂古城というよりはファンタジー世界のお城のような外観。
距離は100メートルほどだろうか。迷うことも無さそうである。
他よりやや大きめの、所謂古城というよりはファンタジー世界のお城のような外観。
距離は100メートルほどだろうか。迷うことも無さそうである。
当麻「そんじゃまあ行きますか」
上条は乙姫の手を取ると強引にそちらへ歩き出す。
美琴「(って結局私は無視かコラ! って、ちょっと? 待ちなさいよ本当にあんなの絶対被らないわよ?
ねぇ。ねぇってば!!)」
ねぇ。ねぇってば!!)」
美琴はどうにか引き留めようとするが、上条は乙姫の手を引いてどんどん行ってしまう。
それからも何度か止めようと試みたが全て上条に適当にあしらわれた。最終的には諦めたのか、
それからも何度か止めようと試みたが全て上条に適当にあしらわれた。最終的には諦めたのか、
美琴「ははーん? ひょっとしてアンタが被りたいんじゃないの? 確かにまあその気持ちも分からなくはない
わよ二ミリくらいは。ったく正直に言えば素直に付いていってあげるのにしょうがないんだからこの天の邪鬼は」
わよ二ミリくらいは。ったく正直に言えば素直に付いていってあげるのにしょうがないんだからこの天の邪鬼は」
などとブツブツ言いながら後を付いて行くことになった。
美琴「待ちなさいってば!」
指で上条のジャケットの袖を抓みつつ。
◇
美琴「わぁー」
デフォルメチックな外観の城に入ると、吹き抜けになった木造三階建ての内部は色とりどりのファンシーグッズで
溢れかえっていた。
商品の魅せ方にも工夫が凝らされているようで、柔らかい曲線を描いた陳列棚にグッズが巧みに配置されている。
木のオブジェや西洋風の壁画などの背景と相まって、まるでファンタジー世界に迷い込んだかのような印象を入場者に与える。
溢れかえっていた。
商品の魅せ方にも工夫が凝らされているようで、柔らかい曲線を描いた陳列棚にグッズが巧みに配置されている。
木のオブジェや西洋風の壁画などの背景と相まって、まるでファンタジー世界に迷い込んだかのような印象を入場者に与える。
美琴「ま……、まぁまぁ可愛いお店じゃないの」
苦笑する二人に気づいた美琴は満面の笑みを引っ込める。しかし体のうずうずは抑えきれず、二人より一歩早く
ふわふわと風に靡く風船のように奥へと吸い込まれていった。
この遊園地にはネコのようなキャラクターの他にも色んなオリジナルキャラクターが居て、メジャーとは言えないまでも、
そのキャラクターに惹かれて遠方からのリピーターも多い。パンフレットにはそんな説明があった。
美琴はそのパンフレットに書かれたキャラクター設定を入念にチェックしながら商品を眺めていく。
どうやら1階はグッズとお土産フロアらしく、子供がすっぽり隠れるくらいに大きいぬいぐるみから、可愛らしい小さな
キーホルダー、幼児向けおもちゃや、年配者にも受けそうな置物までありとあらゆる物が所狭しと並んでいた。
学園都市出身のキャラクターグッズはどちらかと言えば技術志向で、ギミックや肌触りなど新技術を売りにすることが多い。
対してこの遊園地のキャラクターにそういう売りはないが、美琴には素朴な魅力があるように思えた。学園都市製の
インタフェース技術やらAI技術、計算されつくした可愛さなんかに対抗するべく、『外』のキャラクターも日々進化を続けて
いるらしい。
どちらかと万人が感じる可愛さの最大公約数を割り出した学園都市の物より、『分かる人にしか分からない』ような、
こういったキャラクターの方が美琴の心を鷲掴みにするのかもしれない。
そう言っても過言ではないほどに美琴のテンションは上がっていた。
ふわふわと風に靡く風船のように奥へと吸い込まれていった。
この遊園地にはネコのようなキャラクターの他にも色んなオリジナルキャラクターが居て、メジャーとは言えないまでも、
そのキャラクターに惹かれて遠方からのリピーターも多い。パンフレットにはそんな説明があった。
美琴はそのパンフレットに書かれたキャラクター設定を入念にチェックしながら商品を眺めていく。
どうやら1階はグッズとお土産フロアらしく、子供がすっぽり隠れるくらいに大きいぬいぐるみから、可愛らしい小さな
キーホルダー、幼児向けおもちゃや、年配者にも受けそうな置物までありとあらゆる物が所狭しと並んでいた。
学園都市出身のキャラクターグッズはどちらかと言えば技術志向で、ギミックや肌触りなど新技術を売りにすることが多い。
対してこの遊園地のキャラクターにそういう売りはないが、美琴には素朴な魅力があるように思えた。学園都市製の
インタフェース技術やらAI技術、計算されつくした可愛さなんかに対抗するべく、『外』のキャラクターも日々進化を続けて
いるらしい。
どちらかと万人が感じる可愛さの最大公約数を割り出した学園都市の物より、『分かる人にしか分からない』ような、
こういったキャラクターの方が美琴の心を鷲掴みにするのかもしれない。
そう言っても過言ではないほどに美琴のテンションは上がっていた。
美琴「へぇ、色んな種類や大きさがあるのね。アレなんか私の部屋にも入らなさそう。うーん、でも黒子に頼めば何とか
入るかしら。まあさすがに持って帰れないけど。あ、ねぇねぇアレ見てよ。なんかアレってアンタに似てない?」
入るかしら。まあさすがに持って帰れないけど。あ、ねぇねぇアレ見てよ。なんかアレってアンタに似てない?」
美琴は50センチほどのぬいぐるみを指さして立ち止まる。
恐竜のようなそのキャラクターは頭にいくつもの角を生やし、不敵な笑みを浮かべていた。
恐竜のようなそのキャラクターは頭にいくつもの角を生やし、不敵な笑みを浮かべていた。
美琴「何か言いなさ……って、あれ??」
美琴は隣を向くが、てっきり上条が居ると思っていた空間には2メートル程ある巨大なキャラクターの
オブジェが置かれているだけだった。
後ろを振り返ってみても上条の姿どころか、乙姫すら居ない。
ぬいぐるみを指した指が誤魔化すようにそのまま頭をポリポリと掻く。一体2人はどこに行ってしまったのだろう。
というか。
そもそも客が多すぎると言うことに今更気がついた。
親や祖父母と思しき人達は子供の名を叫び、テンションが上がりすぎてぶっ壊れたチビっ子達は縦横無尽に
駆け回っている。学生同士で遊びに来たらしいグループも雰囲気にやられてか声が全体的に大きい。
まるで戦場である。
適当に歩いていたら見失わない方が難しいかもしれない。
オブジェが置かれているだけだった。
後ろを振り返ってみても上条の姿どころか、乙姫すら居ない。
ぬいぐるみを指した指が誤魔化すようにそのまま頭をポリポリと掻く。一体2人はどこに行ってしまったのだろう。
というか。
そもそも客が多すぎると言うことに今更気がついた。
親や祖父母と思しき人達は子供の名を叫び、テンションが上がりすぎてぶっ壊れたチビっ子達は縦横無尽に
駆け回っている。学生同士で遊びに来たらしいグループも雰囲気にやられてか声が全体的に大きい。
まるで戦場である。
適当に歩いていたら見失わない方が難しいかもしれない。
美琴「ま、まったくアイツは何はぐれちゃってんのよ!」
誰が聞いているわけでもないのに口を尖らせた。
しかしそれも数秒。すぐに真剣な顔に戻る。
学園都市の暗部に狙われていたのは美琴だけではない。最悪のパターンが脳裏を過ぎった。
しかしそれも数秒。すぐに真剣な顔に戻る。
学園都市の暗部に狙われていたのは美琴だけではない。最悪のパターンが脳裏を過ぎった。
美琴(ちっくしょ。しくじった)
もっとレーダー能力に集中するべきだったと思ってももう遅い。自己嫌悪する間もなく、美琴は
頭を掻きむしりながら素早く携帯を取り出す。
と同時。
タイミング良く携帯が美琴の手の中で震え始めた。
画面を見て、美琴は詰めていた息を吐き出す。汗が冷えていくのを感じた。
ゴホンと一つ咳払いしてから、ゆっくりと通話ボタンを押す。
頭を掻きむしりながら素早く携帯を取り出す。
と同時。
タイミング良く携帯が美琴の手の中で震え始めた。
画面を見て、美琴は詰めていた息を吐き出す。汗が冷えていくのを感じた。
ゴホンと一つ咳払いしてから、ゆっくりと通話ボタンを押す。
美琴「ちょっとアンタ何迷子に」
当麻『俺だ!! 美琴か!?』
美琴「う、うん」
当麻『俺だ!! 美琴か!?』
美琴「う、うん」
不意打ち。
上条の焦った声が美琴の耳を貫き、美琴は用意していた文句を飲み込んでしまった。
電話の向こうからは上条の安心したようなため息が聞こえる。
上条の焦った声が美琴の耳を貫き、美琴は用意していた文句を飲み込んでしまった。
電話の向こうからは上条の安心したようなため息が聞こえる。
当麻『どこに居るんだ? ちょっと目を離した隙に消えちまって。携帯にも出ねーし』
若干苛立った上条の声をとりあえず無視して、美琴は周囲を見回す。
丁度近くに掛けられている木製の凝った看板にはカラフルな文字で『ヌイグルミコーナー』と書かれていた。
丁度近くに掛けられている木製の凝った看板にはカラフルな文字で『ヌイグルミコーナー』と書かれていた。
美琴「……あ、アンタこそどこに居るのよ? 乙姫ちゃんも一緒?」
急いで元来た道を戻ると、最初に入ってきた入り口が見えてくる。
しかし上条と乙姫の姿は見えない。
しかし上条と乙姫の姿は見えない。
当麻『乙姫はトイレ。俺は案内地図の前だ。お前が見つからねーから捜してたんだけど今どこだ?
「動物触れあいコーナー」か、それとも「キャラクターと遊ぼうコーナー」か?』
美琴「……アンタの中で私のキャラがどうなってんのか本気で心配になってきたわ」
当麻『あれ、違うのか。じゃあ「ヌイグルミコーナー」だな。今行くから待って』
美琴「入り口よ!!」
「動物触れあいコーナー」か、それとも「キャラクターと遊ぼうコーナー」か?』
美琴「……アンタの中で私のキャラがどうなってんのか本気で心配になってきたわ」
当麻『あれ、違うのか。じゃあ「ヌイグルミコーナー」だな。今行くから待って』
美琴「入り口よ!!」
美琴は上条の言葉にかぶせ気味に叫ぶ。
一応ウソは言っていない。
一応ウソは言っていない。
当麻『あー入り口か、ここからじゃちょっと遠いな。俺2階に用事があるから適当に待っててくれねーか?』
美琴「2階? 耳は1階じゃないの?」
当麻『耳だけじゃ変装にならねーだろ?』
美琴「2階? 耳は1階じゃないの?」
当麻『耳だけじゃ変装にならねーだろ?』
そこでようやく美琴は上条の真意に気がつく。
こそこそするのが嫌なら確かに変装してしまえばいい。
幸い遊園地というのは体中にゴテゴテと色んな物を付けていてもおかしくない場所だ。変装もしやすいだろう。
二階や三階にはそういう系のグッズが売っているのかもしれない。
こそこそするのが嫌なら確かに変装してしまえばいい。
幸い遊園地というのは体中にゴテゴテと色んな物を付けていてもおかしくない場所だ。変装もしやすいだろう。
二階や三階にはそういう系のグッズが売っているのかもしれない。
美琴「ん? てことは、私が付ける変装グッズをアンタが選ぶってこと?」
当麻『ダメか?』
美琴「ダメというか、物凄く不安を感じるんだけど」
当麻『まあまあ、上条さんのセンスを信じなさいって。じゃあまた後で連絡するから』
美琴「え、あ、ちょっと」
当麻『ダメか?』
美琴「ダメというか、物凄く不安を感じるんだけど」
当麻『まあまあ、上条さんのセンスを信じなさいって。じゃあまた後で連絡するから』
美琴「え、あ、ちょっと」
ブチッと勝手に電話が切れた。
美琴はその携帯を憮然とした表情で見つめる。
美琴はその携帯を憮然とした表情で見つめる。
美琴(ま、大丈夫かしらね)
美琴は上条を心底信頼している。もちろんそれはグッズセンスの方ではなく、危機をくぐり抜けるセンスの方。
変装グッズの方は、ダメなら買い直せばいいなどとブルジョアジーな発想をする。
変装グッズの方は、ダメなら買い直せばいいなどとブルジョアジーな発想をする。
美琴「さて……」
それに、今は他にもやるべきことがあった。
美琴は腕組みをしながら入り口付近にあった案内板を睨み付ける。
その目はまるでこれから来る学園都市の先兵を迎え撃つかの如く真剣だった。
美琴は腕組みをしながら入り口付近にあった案内板を睨み付ける。
その目はまるでこれから来る学園都市の先兵を迎え撃つかの如く真剣だった。
美琴「動物触れあいコーナーはどこかしら!?」
◇
当麻「うーーーん」
上条は2階のとある陳列棚の前で腕組みをして唸っていた。
そこはグッズ売り場とは別で、使い捨てカメラや雨具、各種パンフレットなど遊園地に欠かせない
雑貨から変装グッズまで広く扱う独立した店だ。
中でも上条が居るスペースは、どちらかというと見てくれにあまりこだわらない男子高校生の彼には
似つかわしくない場所で、周囲には何に使うのかさっぱりな化粧品や、薄ピンクのハートやら銀色の
星やら、目がチカチカする模様の小物が並んでいる。
そこはグッズ売り場とは別で、使い捨てカメラや雨具、各種パンフレットなど遊園地に欠かせない
雑貨から変装グッズまで広く扱う独立した店だ。
中でも上条が居るスペースは、どちらかというと見てくれにあまりこだわらない男子高校生の彼には
似つかわしくない場所で、周囲には何に使うのかさっぱりな化粧品や、薄ピンクのハートやら銀色の
星やら、目がチカチカする模様の小物が並んでいる。
当麻「……やっぱ分かんねぇ」
目の前の棚には黒や茶といった人工毛がずらっと並べられていた。上には『ウィッグ&エクステコーナー☆』
という小さな手書きポップがある。
要はオシャレ用のカツラと付け毛という意味なのだが、その単語は上条にとってテレビでチラッとだけ聞いた
事があるような、というくらいの代物だった。
使い方以前にそのまま買って持って行って良いのかすら分からない。
正直もうちょっと簡単で安っぽいグッズが欲しかったのだが、生憎この建物はそういう遊園地のレベルを落とす
ような物は置いていないらしい。先ほどそこら辺においている雑貨の値札を見て、ゼロの多さにショックを受けた
ところだ。
という小さな手書きポップがある。
要はオシャレ用のカツラと付け毛という意味なのだが、その単語は上条にとってテレビでチラッとだけ聞いた
事があるような、というくらいの代物だった。
使い方以前にそのまま買って持って行って良いのかすら分からない。
正直もうちょっと簡単で安っぽいグッズが欲しかったのだが、生憎この建物はそういう遊園地のレベルを落とす
ような物は置いていないらしい。先ほどそこら辺においている雑貨の値札を見て、ゼロの多さにショックを受けた
ところだ。
当麻(つーかさっきから女子校生達の『何こいつ』視線が痛いんですが。やっぱ美琴連れてこないと
どうにもならねーな。一旦降りて……)
どうにもならねーな。一旦降りて……)
と踵を返そうとした時。
乙姫「おにーちゃんってばそんなとこで何してんの?」
救世主が現れた。
乙姫の「おにーちゃん」という呼び方にこれほど癒されたのは初めてかもしれない。
上条はトイレが1階にないという微妙に商業主義な建物の設計に感謝する。
乙姫の「おにーちゃん」という呼び方にこれほど癒されたのは初めてかもしれない。
上条はトイレが1階にないという微妙に商業主義な建物の設計に感謝する。
当麻「おおお妹よ!! 丁度良いところに来たな。ちょっと聞きたい事があるんだけど、これの
使い方って分かるか?」
使い方って分かるか?」
上条は堂々と『ウィッグ&エクステコーナー☆』をズビシッ!! と指さした。
しかし対照的に乙姫は苦い顔をする。
しかし対照的に乙姫は苦い顔をする。
乙姫「……うーん。私的には、おにーちゃんはそのままの方が好きだけどなぁ」
その発言に上条の腕がヘニャッと折れる。
乙姫はコレで長髪にする上条でも想像しているらしい。
乙姫はコレで長髪にする上条でも想像しているらしい。
当麻「何妙な勘違いしてんだ? 付けんのは俺じゃねーよ」
乙姫「ん? ……あ、なるほどそーいうことかー」
乙姫「ん? ……あ、なるほどそーいうことかー」
乙姫は一瞬悩む素振りを見せたが、すぐに理解したようだ。先ほどまでの美琴の様子と合わせて
推測したのだろう。
推測したのだろう。
乙姫「そういう事なら分かるけど、色とか合わせなくて大丈夫?」
当麻「ああ、それなら大丈夫だと思う。覚えてるし」
当麻「ああ、それなら大丈夫だと思う。覚えてるし」
最悪携帯に写真が入ってるしな。と心の中で付け足す。
乙姫「ふーん。じゃあどんな髪型にするとかは?」
当麻「うーん、髪型か。変装なんだから大胆に変えたいけど、ロングは遊園地向きじゃねーよなぁ。
ポニーテールは見た目変わらないし、うーん」
乙姫「このサンプルにある『ゆる巻きヘアー』は?」
当麻「見た目があんまり変わらないだろ? いっそ縦ロール……は、目立ちすぎるか。そもそもあいつ
の性格なら邪魔だとか言いそうだし。あ、ツインテールとかどうだろ? ツーテールとかお団子ヘア
でも良いけど」
乙姫「……おにーちゃん、何か思考が漫画とかギャルゲーっぽい。っていうか縦ロールなんて置いてないし
私じゃ作れないよ? お団子ヘアも結構難しいんだから」
当麻「うーん、髪型か。変装なんだから大胆に変えたいけど、ロングは遊園地向きじゃねーよなぁ。
ポニーテールは見た目変わらないし、うーん」
乙姫「このサンプルにある『ゆる巻きヘアー』は?」
当麻「見た目があんまり変わらないだろ? いっそ縦ロール……は、目立ちすぎるか。そもそもあいつ
の性格なら邪魔だとか言いそうだし。あ、ツインテールとかどうだろ? ツーテールとかお団子ヘア
でも良いけど」
乙姫「……おにーちゃん、何か思考が漫画とかギャルゲーっぽい。っていうか縦ロールなんて置いてないし
私じゃ作れないよ? お団子ヘアも結構難しいんだから」
無理難題を押しつけられそうになった乙姫は唇を突き出して不平を垂れる。
上条「そりゃぁ……、そもそもわたくし上条当麻は女っ気のない男子高校生であって、女性のヘアスタイル
なんて分からないわけでして。ってだからどれが良いんだよ」
乙姫(どこが女っ気無いんだか……)
なんて分からないわけでして。ってだからどれが良いんだよ」
乙姫(どこが女っ気無いんだか……)
唇を突き出したまま、今度はジト目になる。
当麻「あ、つーか、さすがに本人の了解は取った方が良いかな?」
乙姫「べーつに、おにーちゃんの好きな髪型で良いと思うけど?」
乙姫「べーつに、おにーちゃんの好きな髪型で良いと思うけど?」
ため息混じりのその意外な言葉に、携帯を取り出そうとしていた上条の動きが止まる。
当麻「何で?」
乙姫「さーね、自分で考えれば?」
乙姫「さーね、自分で考えれば?」
遂に乙姫は呆れ果てて上条から目を逸らしてしまった。