とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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Ⅱ 1話舞台裏



「あぁっ! もうっ! いったいどこを探せばいいんだよっ?!」
上条当麻は居候の白いシスターを求めて、夜の学園都市を疾走していた。
8月31日。
ファミレスで夏休みの宿題と格闘していた上条は、突如現れたゴリラのような魔術師にインデックスをさらわれた。
もうすぐ日が変わって2学期が始まる。
宿題はいまだにほとんど手つかずのままだ。
といってもインデックスとあのロリコン魔術師がどこにいるのか、皆目見当もつきやしない。
インデックスの飼い猫、スフィンクスもまったくの役立たず。猫の手も借りたい状況で、いつものごとく上条当麻は

まったくの孤立無援であった。
無人の学園都市の闇を走って走って走ってはしって・・・・・・
歩道橋の階段を駆け上がったところで、
「にょわぁっ!?」
妙にかわいらしい奇声をあげる通行人にぶつかりそうになってたたらを踏んだ。
「わ、わりぃっ!・・・・・・ってあれ? 御坂??」
「・・・・・・ふぇ?」
すんでのところで衝突を回避した通行人はどこぞのよく知る女子中学生で、詳しく言えば学園都市に7人しかいない
レベル5のうちの第三位、品行方正なるお嬢様中学のトンデモエース、超電磁砲の異名をもつ御坂美琴ご本人であっ
た。
その事実をコンマ2秒で確認したところで、
「悪ぃ御坂! 上条さんは急いでいるのでまた今度!」
猛ダッシュで離脱した。
とにかく今はロリコン魔術師にかっさらわれたインデックスの救助が心配だ・・・・・・とギアをトップレベルに入れた全
力疾走を再開し、地べたにこびりついたガムを掃除しているロボットを追い抜いたところで

ズドン!!

と単価120万円を誇るお掃除ロボが突然爆散した。
爆風と爆煙と爆音とちょっぴり漂う焦げ臭さに、上条は思わずその場にヒザをついてしまう。
「ちょろっとーアンタ。人にぶつかりそうになっておきながらトンズラしようとしてるんじゃないわよ」
・・・・・・と、お掃除ロボを電撃の槍でド派手に破壊した品行方正なる(はずの)お嬢様は道でうずくまる少年に悠々と
追いついた。
「ったく散々人のこと無視してくれちゃって・・・・・・ってなんで泣きそうになってんのよアンタは??」
「急いでるんだよ! 夏休みの宿題とかファミレスの食い逃げとか人さらいとか! それで?! いったい上条さん
に何の用なんでせうか!?」
「ひ、ひゃぁっ?!」
美琴のまつげの本数まで数えられる距離まで上条は一気に距離を詰めると、そのお嬢様は
「~~っ!?!? きっ、きゃあぁぁっ!!!」
どっこぉぅむっっ!!
あろうことかなんとも壮絶な効果音とともに、右アッパーを上条のどてっ腹にたたき込んだ!
なにげに捻りこみを加えたストレートのため、地味にダメージが倍増している。
効果は抜群だ!
どごっしゃぁぁぁっ!!!
これまた聞いた者が身震いするような凄まじい音を立て、上条当麻は悲鳴のひとつもあげるマもなく、学園都市の冷
たい歩道にその身を投げ出した。
「あ、あれ?」
思わず口より先に手がでてしまった美琴は、愕然とした表情で目の前に横たわる少年に目を向ける。
ときおりヒクヒクと不気味に痙攣していて、誰がみてもヤバい状況だ。
(や・・・・・・やってしまった! ついうっかりちゃっかりやってしまったっ!!)
パニックに陥りかけながらも目の前の少年を抱き起こそうとしたところで、

「カットカットォォォッ!!!!!」

学園都市最強のレベル5の怒声が現場に響きわたった。

「なンだなンだなンですかァ? いつからレベル5の第3位は言われた簡単な演技もこなせない大根役者に落ちぶれ
たンですかァ?」
振り返ると、アクセラレータがパイプ椅子にふんぞり返り、いい感じのいらいら感を隠しもせずに台本を丸めて首の
チョーカーを叩いていた。
「何回やっても脚本通りに進まないこのもどかしさ、流石のミサカもうんざりです、とミサカはカメラをいったんス
トップさせます」
「ぁあ~もぅ美琴ちゃんったら真っ赤になっちゃって可愛い~! くはぁ~っ!・・・・・・写メ写メ」
「・・・・・・くぅ(スヤスヤ)」
カメラに音響、照明担当はシスターズ、美鈴さんは今回ただの野次馬だ。最後の寝息はラストオーダーであった。
「アニメ2期の記念すべき1話の撮影だッてェのに、さっきからこのシーンより先にぜんぜん進まねェじゃねェかよ
ォ・・・・・・いったい何回取り直させりゃ気が済むンですかァ!!?」
「すでに取り直しは3桁の大台に乗りそうです。このまま朝日が昇ってしまえば撮影の続行は不可能になります、と
ミサカはあくびをかみ殺しながら目をしょぼしょぼこすります」
いいかげん撮影スタッフの集中力は限界であった。
美鈴「美琴ちゃんったら照れるのは可愛いんだけど、あんまり彼氏に愛の鞭でシバきまくってたら愛想尽かされちゃ
うぞ♪」
「いやまだ彼氏じゃないから・・・・・・ってそうじゃない! アンタもアンタでなに人の母に膝枕なんてされてるのよー
っ?!」
レバーへの直撃をはじめとして全身にダメージが蓄積した上条は、美鈴の太ももを枕にその身をぐったりと横たえて
いた。
美琴に反論する気力も残っていないようで、後頭部の感触を楽しむ余裕などこれっぽちも残っていないのがこの少年
の不幸である。
とはいえ目と鼻の先に迫る2つのたわわに実った果実にトキメクくらいには徐々に余裕を取り戻しつつある純情少年
であった。
「美琴ちゃん、押してダメだからって押し倒してばっかりじゃぁ、男の子は逃げちゃうぞー」
「で、でもでも! こいつときたらほかの女に色目ばかりつかいまくってて・・・・・・」
「相手がこちらにすり寄ってくるのを気長に待って、そっと抱きしめちゃうくらいの余裕をみせてみなさい
な。・・・・・・照れ隠しの美琴ちゃんもかわいいけれど、自分の本当の気持ちには素直にならなくちゃ」
「わっ私は別に裏表のある性格じゃないっつーのに・・・・・・こいつのときだけ何故か調子狂わされるだけなんだってば
!」
ふにゃーっ!とかなんとか言いつつ先ほどからバチバチ漏電している美琴に、いまだ指一本動かない上条はガクガク
ブルブルしっぱなしであった。
母性本能全開の美鈴が両手でぎゅっと上条の頭を抱きかかえると、体勢がより密着することになった。
ちなみに上条にとって、先ほどから聞こえてくる会話の意味はいまひとつわからない。
「~~ってだからそうじゃないわよ! アンタも馬鹿みたいに鼻の下なんかのばしてんじゃないっての!!・・・・・・て
か男の人ってホントに伸びるんだ・・・・・・」
「・・・・・・おい盛り上がってるとこ悪ィが、気にするとこはそこじゃねぇンじゃねぇのか? 第三位さんよォ?」
「うぅ・・・・・・」
「頼むぜ三下よォ。なんとか今晩中にこのシーンは撮り終えねェと、関係者の皆さんにどやされるってのに
よォ・・・・・・もうあんなに頭を下げるのはコリゴリだ。・・・・・・ちちくり合うのも大概にしろっての」
「にゅぅぅぅ・・・・・・」
「おい一方通行、あんまり美琴をいぢめんなよ」
「チッ・・・・・・カントクと言えカントクとよォ」
上条は生まれたての子鹿のようなおぼつかなさでヨロヨロと立ち上がると、
「なぁおい御坂、おまえ本当に大丈夫か? やっぱりどこか具合が悪いんだろ?」
「だっ、大丈夫に決まってるじゃない! 次こそ素敵に華麗にキめてやるわよ!?」
「でも顔がさっきから真っ赤じゃねえか。熱があるんじゃねーのか」
「えぇい、うるさいうるさーい! さりげなく人のおでこに手を当てようとするにゃ顔も近い!」
「ちょっなにもそんなに首をぶんぶん振らなくても。おい目が回ってねーか」
(なによバカ・・・・・・自分だってこんなにボロボロなのに人の心配しちゃってさ・・・・・・)
上条がボロボロなのは100%美琴が悪いのだが、心のどこかで美琴は沸き上がる歓喜を認めざるをえなかった。
しかしこれ以上自分のせいでみんなに迷惑はかけられない。
上条だってカラカラに乾いた気力という名のボロ雑巾を絞りに絞って立っているはずなのだ。
この少年に幻滅されたくない。絶対に。
美琴はほっぺたをパンパンッと両手で叩いて気合いを入れると、美琴は腕を組んで仁王立ちする。
「みんなごめん! 私は大丈夫だから次で終わりにしてみせるわ!」
瞬間、撮影現場の空気が確かに変わった。
常盤台の超電磁砲、学園都市最強のレベル5、顔を上げた美琴はいつも通りの凛々しさだった。


「どっかの大根役者サンがブッ壊しまくった掃除ロボの在庫はもうゼロなンだ。仕方がねェから次のシーンからいく
ぞ」
「それではええっと、何回目だったでしたか・・・・・・数えるのもうめんどいぜとミサカは投げやりにカチンコを鳴らし
ます。はいスタート」
(いやもう今回ばかりは失敗するわけにはいかない!)
昼間の工事現場での、上条とニセ海原とのやりとりが脳裏に浮かぶ。なぜか胸が痛みながらも、必死に頭の中から排
除する。
「あぁもぅ、夏休みの宿題とか人さらいとか!」
撮影のための演技に必要なものまで、頭の中から押し出してしまいそうになる心を、美琴は必死に制御を試みる。
「それで!? いったいなんの用なんでせうか?!」
トリップ状態で頭の中が真っ白な美琴の脳裏に、母の言葉がなぜかフラッシュバックする。
(自分の気持ちに素直に、スナオに、すなおに・・・・・・)
上条の顔がアップで目の前に迫る。
(あああああもうなにもわかんなくなる・・・・・・)

混乱の極みに陥り、ふにゃふにゃぐるぐると目を回す美琴は潤んだ瞳を閉じると、迫りくる上条にそっとその身を差
し出した。
「「っっっ!!!???」」
時間が止まる。何も聞こえない。
傍目から見れば重なっているかのぎりぎりの位置で。それでも確かに触れあった唇からは、目の前の少年の温もりが
伝わってくる。
上条当麻の感情が、直接伝わってくる。これまでに無いほど近い距離で。
そっと触れあうだけの、初めてのキス。
レベル5の超電磁砲だとか常盤台の電撃姫など、この瞬間だけは何の意味もない。
もう何もいらない。
ずっとずっと、いつまでもこうしていたい。

「・・・・・・・・・・・・おィ、そこのバカップルどもよォォォォォ・・・・・・・・・・・・」

よけいな音だし厳禁のロケ現場の空気が一方通行の一声で木っ端みじんに砕け散った。
「あーこれは放映出来ませんねーとミサカは・・・・・・ミサカ・・・・・・は・・・・・・ぐすっ」
「よけい悪化してるじゃねェかよおィィィィッ??!!」
「・・・・・・ふにゃぅぅぅぅ・・・・・・」
「・・・・・・はっ?! おい美琴ビリビリでてるぞ! ここで漏電するなよ高価な撮影機材が壊れるだろうがー!!」

まだまだ長い夜になりそうであった。

(挿絵)




「・・・・・・はい、カット! オーケーでェす!」

その後も性懲りもなく繰り返される怒濤の取り直しラッシュの後、ようやく一方通行、もとい監督のオーケーが言い
渡された。
これでようやく仮眠をとれると、現場スタッフ一同の緊張の糸がプッツンと途切れる。路上にひっくり返る者もいる
。そんなゆるみきった空気の中、
「す、すみません、と、ミサカは・・・・・・」
「「?」」
どんな状況でも冷静かつクールな御坂妹が、珍しくおそるおそる手を挙げた。
ひたいに汗が浮かんでいるように見えるのは気のせいか。
その場の面々はいぶかしみながらもカメラマンを振り返る。
「カメラのメモリ容量がいっぱいで、さっきのシーンは保存されませんでした、とミサカはドキドキしながらも状況
を冷静に報告してみます」
「「んなっ・・・・・・なんですとぉぉぉっ!!!???」」
とある魔術の禁書目録Ⅱの役者と撮影スタッフの、やけにハイテンションな悲鳴と怒号が交差する。

東の空は、うっすらと茜色に染まりつつあった。

今日も平和な学園都市の一日が始まる。


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