とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part06

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6.お姉さま


普段は気さくに人と接しているようではあるけれど、その実、心の中では他者を頼ることのできないお姉さま。そんなお姉さまだからこそ基本的に他人の話をしない。
わたくしが聞いたことがある他人の話は、お母様とお父様のことくらい。
もっと他人を頼ってほしいですの…わたくしもお姉さまの心に刻まれる人間の一人になれているのでしょうか?

しかし、ある日、お姉さまの口からご両親様以外の人物の名前が語られることとなった。その名は、上条当麻。
どう転んでもこれは男の名前…きーっ!異性には興味がないと思っていただけにこれは意外だった。
佐天さんや初春が流行の歌手、ひとついはじめ?そのことで盛り上がっていても、まるで意に介していないご様子だったので。
女子どうしのコイバナでも、適当な芸能人の名前をだしてコイツいいかも?とおっしゃられますものの、その表情から興味がないことがうかがえた。

お姉さまは、上条当麻の話をしている時だけは、いつもとキャラクターが違う。
常日頃から模範生、レベル5としてプレッシャーと戦っているためか常に自分を律して厳しく生きているお姉さま。
レベル5ともなると、力の制御を誤ると災害レベルの被害を周囲に及ぼす。自分を制御できる人間でなければならないのだ。
それが、彼の話を始めるとレベル5のイメージは崩壊をはじめ、キャッキャとはしゃぐただの一人のかわいい女の子になってしまう。
本人は「なに勘違いしてんのよ!」と、顔を赤くして否定するが、それは好意の他の何ものでもない。

わたくしの身も心も虜にするお姉さまを虜にする男…そんな男がどんな人物か、チェックするしかなかった。
わたくしがジャッジメントの仕事で目を離した隙にお姉さまはどこで何をしているのか?
仕事が早く終った日があったので、お姉さまのあとをつけてみた。公園の自販機前で誰かをそわそわと待っている…
こ、これはまさか…しばらく待つと通学ルートなのか、特徴的な髪形の男子学生があらわれた。
その姿を認めるとお姉さまはそわそわとした態度を改め、いつもの何事にも物怖じしないような強気の態度に変わり、

「偶然会ったわね。今日こそ勝たせてもらう!」
と、元気な表情で男にくってかかっていった。待ち伏せしていたのに、偶然を装うとはこれまた…

お姉さまは同年代の少女たちの間では大人びた「お姉さま」であり、相手のことを気遣い、模範的な人間として生きようとしている。
それが上条当麻の前では、歳相応にワガママで、自分の意見をおしつけ、ことあるごとにつっかかっていく。
お姉さまは、低レベルから最高レベル上り詰めた稀有な存在なので、低レベル者の気持ちがわかる。
だから、普段は初春や佐天さんと接する時も、そのことを組んで接している。
それが上条当麻に対してだけは、「レベル0の分際でわたしの電撃消してんじゃないわよ!」と、なりふり構っていられない子供のようだ。
口ではそうとうな憎まれ口を叩いているが、表情はそれと裏腹で、いつもと違った無邪気さと輝きを放っている。
その姿は大好きなお父さんに構ってよ!と、ジャレる子供を連想させる。
わたくしには見せたことのないお姉さまの姿を引き出す上条当麻に嫉妬の感情を覚える。

いえ!このような感情を持っては大能力者としてまだまだですわ…今日の上条チェックはここまでとしますの…
しかし、8月15日からお姉さまの様子が変わられた…
いつも自分を律しておられるお姉さま、わたくしが原始的な(ぐぇへへ)コミュニケーションで、心をほぐそうとしても、完全にはその壁を取り外してくださらないお姉さま。
それでも、いつもは美しい笑顔と、その清らかなお声でわたくしに活力をくださるお姉さまだったのに、その日からお姉さまの優しい笑顔が消えた。
口では「大丈夫だから気にしないで…」とおっしゃってましたが、そのご様子はただ事ではないことがお姉さまの身に起こったことを物語っていた。
もしかして、ご両親がなくなられた?上条当麻との間に確執ができた?

「アイツってね。わたしの電撃を消しちゃうのよ。きっとすごい能力者のはずなのに、俺はただの弱い善良な市民だってオドオドしちゃって…ふざけてるんじゃないっつーの!わたしに追っかけまわされるのが嫌だからって…あんな態度とって、ほんとムカツクわ。」

「アイツってね。見かけるとたいてい人助けやってるんだ。きっとわたしが近づくと、わたしのこと意識しちゃって、いいとこ見せようとしてあんなことやってんのよ!レベル5のお嬢様の気をひこうったって無駄なのよ!ムカツク!」

「アイツってね。すごい貧乏なんだ。いつもスーパーの特売だ、特売だって人のこと無視して…なんでそんなにお金に困ってるのよ、まったく…そのくせ、このお金持ちお嬢様のことをいつもバカにしておちょくってくるし、わけわかんない…ムカツクのよ!」

その愛情あふれる憎まれ口もその日からはきかれなくなった。
そのお惚気話にツッコミをいれ、「なに勘違いしてんのよ!」と顔を赤くされるおねえさまとのやり取りはその日からなくなった。
わたくしとしては、不本意なのだが、上条当麻の憎まれ口を叩かれているお姉さまのほうが、本当のお姉さまであって、最も自分らしくいられるお姉さまだと感じられた。
それが今は心を閉ざし、壊れた笑顔で「心配しないで…ごめんね…」としかおっしゃってくれない…わたくしの心も悲鳴をあげはじめ、制御がきかなくなり、ついお姉さまに激しい口調で息巻いてしまった。

黒子「お姉さま!どうしてわたくしに何もおっしゃってくださらないのですか?あの日からわたくしはお姉さまの為に生きると決めましたの。お姉さまがいなければ、小6の頃に失ったはずの命。もうわたくしはお姉さまと一心同体のつもりでおりますのに…!どうして、お姉さまは…!!!」

美琴「ごめん…これはわたしの問題なの…」

黒子「上条当麻が何かしましたのですね!あの猿め!」

美琴「えっ…!?アイツは何も関係ない…」

黒子「お姉さま!お姉さま!どうして、どうして…!!!なんでも一人で抱え込もうとするのはやめてくださいまし!もっとわたくしを頼ってくださいまし!!」
そう叫んで、美琴の胸に涙で濡れた顔をうずめた。「なにすんのよ!ヘンタイ」いつもの怒りと照れの混じった声とともに、パンチか電撃が飛んでくるのを期待して…
いつもどおりの元気な反撃を待っていた。しかし、それはいつまで待ってもこなかった。かわりに戻ってきたのは意外な感謝の言葉。

美琴「黒子…いままでありがとう…アンタみたいな後輩ができてわたしは幸せだったよ。」

その言葉は、何かとの決別を表したかのようだった。
でも、優しく抱きしめてくれるお姉さまの柔らかさと温かさに包まれ、それに甘えてしまった黒子はその何かに対する暗い決意に気づくことができなかった。
初めてちゃんと抱きしめてくれたお姉さまの胸の中で黒子は心地よくなり、つい眠ってしまった。目を覚ますとそこに美琴の姿はなくなっていた。


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