小ネタ 学園都市版『未来の結婚相手』
――某日。放課後、とある喫茶店にて。
美琴「未来の結婚相手を知る方法? そ、そんな方法があるの?」
佐天「友達から聞いただけですけどね。何でも、深夜二時に水を張った洗面器を用意して、カミソリを咥えながら覗き込んでいると映るらしいですよ」
白井(……仮にわたくしが試すと、一体どなたが映るのでしょう?)
美琴「(ありゃ、黒子が固まった? てっきり暴走すると思ったけど)……それにしても、何故カミソリが必要なのかしら?」
佐天「言われてみれば……何ででしょうね?」
初春「佐天さんはどうして、やってみなかったんですか?」
佐天「あはは……。そんな夜中まで起きていられないのがひとつ。それと……」
美琴「? それと?」
佐天「水面に映っただけで、将来結婚する相手が決まってしまうっていうのが安直過ぎるって思ったんです。そういうのって、自分で見つけるから価値があるんじゃないですか?」
初春「佐天さん……。いつも私のスカートばかりめくってる人の考えだと思えないです」
佐天「あ、ういはる酷いなー。泣けてきちゃう」
美琴「……将来の結婚相手、か」
黒子「まぁ、お姉様ならもう決まっておりますものね」
佐天「え!? それはどういうことですか白井さん!?」
美琴「ちょ、ちょっと黒子アンタ……!」
黒子「わたくしとて、恋愛面でいつまでも呉下の阿蒙ではありませんわ。お姉様こそ、何を今更慌てていますの」
佐天「御坂さん! 彼氏さんがいらっしゃるんですね!」
初春「どんなお方ですか!? 同い年の方ですか!? それよりも年上の方なんですか!?」
美琴「……こういう時に言っていいのかしら? 不幸ね……」
――翌日。午前一時五十五分、常盤台学生寮208号室の洗面所。
美琴「試すだけ、試すだけよ……。ま、こんなことで結婚相手が決まるわけではないでしょうし、映るかどうかも不確定なわけだし」
美琴(……でも、やっぱり不安。当麻は私の恋人だけど、結婚相手なのかってことを考えると尚更ね……)
美琴「そろそろかな。えーっと、確かカミソリを咥えて……」
美琴(水面を覗き込む、と)
――約五分後。
美琴(所詮、噂話の都市伝説に過ぎなかったかしら。それならそれで安心――)
――ザザァ……。
美琴(風もない筈なのに水面が? もしかして、本当なのかしら!?)
――ブゥゥン……。
美琴(お願い! 当麻が映ってますように……!)
――サァァ……。
美琴(この顔立ち――見間違えたりしない!)
美琴「と」
――ポロッ。
美琴「! しまッ――!」
――ザンッ!
美琴「あ、ああ……」
――同日。午前七時半、とある公園自販機前。
美琴(あれから、何が起こったのかよく覚えていない。だけど、一瞬もしないうちに水面は普通の水に戻ったことは覚えてる……)
上条「悪い、待たせたな……。美琴? 顔色が悪いが……どうした?」
美琴「と、当麻!? だ、大丈夫! ちょっと眠れなくって……」
上条「? 大丈夫ならいいんだが……」
美琴(当麻の顔に目立った傷が無い……。だとすると、一瞬だけ朱に染まったあの水面は一体何なの?)
上条「美琴? やっぱり具合が悪いんじゃないか?」
美琴「大丈夫。私は、大丈夫だから……」
上条(そんな顔で大丈夫なんて言われても、大丈夫に聞こえないんだがな……)
――数分後、通学路。
美琴(何にせよ、確かめないといけないわね。これが単なる都市伝説なのか、それとも……)
上条(さっきから何を考えているんだ?)
――ブロロ……。
上条「ん? あのトラック……」
――ブロロロ……!
上条(信号無視してこっちへ突っ込んでくる!?)
――ブロロロロ!
上条「おい! 美琴!(気付いてないのか!?)こっちへ来い!」
美琴「え?」
――ドンガラガシャーン!
上条「ぐうッ! だ、大丈夫か? 美琴……」
美琴「あ……うん。……とう、ま」
上条「そっか。よかっ、た」
美琴(そして、当麻は意識を失った。私がその時見たのは、当麻の額から流れ出る夥しい血の滝――)
――数時間後。臨時病棟。
美琴(私のせいだ。ワタシのせいだ。わたしのせいだ……)
冥土返し「待たせたね。彼の命に別状はないよ。意識も記憶もある」
美琴「ありがとうございます……」
冥土返し「ただ一点だけ、どうしようもなかった点があったけれどね」
美琴「……傷、ですか?」
冥土返し「……そこは彼に会って、確かめるべきだろうね」
――臨時病室。
上条「よう、美琴」
美琴「とうま……」
上条「美琴が無事で良かったよ」
美琴(額の包帯が痛々しい……。そんな傷を負ってまで、私のことを考えてくれるなんて……)
美琴「私が……私があんなことをしなければ……」
上条「? あんなことって?」
――美琴説明中。
上条「……なるほど。口数少なかったのはそのせいだったのか」
美琴「ゴメンなさい……当麻」
上条「なあ、美琴。俺だって、逆の立場だったらその都市伝説を試していたかもしれない。それに、今回の事故で危なかったのは美琴の方だ」
美琴「そうだけれど……」
上条「それにな。俺はこの顔に負った傷で、美琴の命を守ったと思うと誇らしいんだ。……これは、バカだと思うかもしれないけれどな」
美琴「ううん、そんなことないよ。ありがとう、当麻。そして、ゴメンなさい」
上条「だから気にするなよ……。恋人にここまで想われてるんだ。不幸などころか、幸福そのものだよ」
その後、上条当麻が顔に負った傷は恋愛成就の効果があるとして、学園都市の男女問わずに信仰を集めることになるが、それはまた別の話――。