恋、はじまる
「…………」
「…………」
上条も美琴も何も言わない。
やがてその沈黙を破るかのように上条がポソッと呟いた。
「なあ御坂。これ、もらっていいか? 喉乾いたんだ」
「え?」
上条は美琴がベンチに置いていたジュースの缶を持ち上げた。
「だからこれだよって……なんだ、空じゃねーか」
つまらなそうに口を尖らせた上条を、美琴は冷ややかな目で見た。
「ちょっとアンタ。それ、私のじゃない。何勝手に飲もうとしてるのよ」
「いいじゃねーか、少しくらい。俺はお前を捜し回ってたから、喉カラカラになってんだぞ。ま、そうは言ってもこれ、空だから何も飲めやしないんだけどな」
上条はジュースの缶を軽く振った。
「中身があったら本当に飲むつもりだったわけね……。も、もしかしてアンタ……!」
美琴は上条から空き缶をひったくると、彼に背を向けた。
「わ、わわ、わ、私と、間接キスするつもりだったんじゃ……!」
「ん?」
美琴の言葉に上条はほんの少し首を傾げた。しかし次の瞬間、顔をゆでだこのように真っ赤にした。
「ばば、ば、ばばば、馬鹿じゃねーかお前! お、俺は紳士上条さんだぞ! 中学生相手に、そ、そそそそんなこと考えるわけねーだろ!」
「その割にはずいぶん動揺してるじゃない。まさか、本気で私とキス……?」
「んなわけねーっつってんだろう! わけわかんねーこと言ってんじゃねーよ、この馬鹿!」
「馬鹿って、アンタこそ何言ってんのよ馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、この大馬鹿!」
「ば、ばばばばば……。確かに上条さんは頭の悪い馬鹿だけど、いくらなんでもそんなに何度も言うことないだろう、本気で泣くぞ!」
上条はやや目尻に涙を浮かべながら美琴に詰め寄った。
「……もう泣いてるじゃない。ま、まあ、私もちょっと言い過ぎたわ、ごめん。とにかく話を戻すわね」
「…………」
上条も美琴も何も言わない。
やがてその沈黙を破るかのように上条がポソッと呟いた。
「なあ御坂。これ、もらっていいか? 喉乾いたんだ」
「え?」
上条は美琴がベンチに置いていたジュースの缶を持ち上げた。
「だからこれだよって……なんだ、空じゃねーか」
つまらなそうに口を尖らせた上条を、美琴は冷ややかな目で見た。
「ちょっとアンタ。それ、私のじゃない。何勝手に飲もうとしてるのよ」
「いいじゃねーか、少しくらい。俺はお前を捜し回ってたから、喉カラカラになってんだぞ。ま、そうは言ってもこれ、空だから何も飲めやしないんだけどな」
上条はジュースの缶を軽く振った。
「中身があったら本当に飲むつもりだったわけね……。も、もしかしてアンタ……!」
美琴は上条から空き缶をひったくると、彼に背を向けた。
「わ、わわ、わ、私と、間接キスするつもりだったんじゃ……!」
「ん?」
美琴の言葉に上条はほんの少し首を傾げた。しかし次の瞬間、顔をゆでだこのように真っ赤にした。
「ばば、ば、ばばば、馬鹿じゃねーかお前! お、俺は紳士上条さんだぞ! 中学生相手に、そ、そそそそんなこと考えるわけねーだろ!」
「その割にはずいぶん動揺してるじゃない。まさか、本気で私とキス……?」
「んなわけねーっつってんだろう! わけわかんねーこと言ってんじゃねーよ、この馬鹿!」
「馬鹿って、アンタこそ何言ってんのよ馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、この大馬鹿!」
「ば、ばばばばば……。確かに上条さんは頭の悪い馬鹿だけど、いくらなんでもそんなに何度も言うことないだろう、本気で泣くぞ!」
上条はやや目尻に涙を浮かべながら美琴に詰め寄った。
「……もう泣いてるじゃない。ま、まあ、私もちょっと言い過ぎたわ、ごめん。とにかく話を戻すわね」
美琴は居住まいを正し、こほんと咳払いをした。
「えっと、喉が渇いたアンタは私が口を付けたこの缶ジュースを見つけ、飲もうと思った。その理由としては喉の渇きを潤すため。でも本当はそれ以上の理由として、この天下御免の超絶美少女、御坂美琴と間接キスがしたかったから、と」
「異議アリ、そこ間違ってる! 後半絶対違う!」
「え、違うの?」
美琴はわざとらしく驚愕の表情を作った。
「当然だ! ……ていうか、いつまで続けるんだ、この話題?」
上条はがっくりと肩を落とした。
「そうね、そろそろ止めましょうか、もう十分アンタで遊、んだ、し……」
上条に対して軽口を叩いていた美琴だったが、急に何かに気づいたかのように声を詰まらせ、深刻そうな表情になった。
その様子に上条は怪訝な表情になる。
「? どうした、御坂?」
「…………」
だが美琴は何も答えない。深刻そうな表情のまま上条から目を逸らせた。
「えっと、喉が渇いたアンタは私が口を付けたこの缶ジュースを見つけ、飲もうと思った。その理由としては喉の渇きを潤すため。でも本当はそれ以上の理由として、この天下御免の超絶美少女、御坂美琴と間接キスがしたかったから、と」
「異議アリ、そこ間違ってる! 後半絶対違う!」
「え、違うの?」
美琴はわざとらしく驚愕の表情を作った。
「当然だ! ……ていうか、いつまで続けるんだ、この話題?」
上条はがっくりと肩を落とした。
「そうね、そろそろ止めましょうか、もう十分アンタで遊、んだ、し……」
上条に対して軽口を叩いていた美琴だったが、急に何かに気づいたかのように声を詰まらせ、深刻そうな表情になった。
その様子に上条は怪訝な表情になる。
「? どうした、御坂?」
「…………」
だが美琴は何も答えない。深刻そうな表情のまま上条から目を逸らせた。
――な、何やってるのよ私。コイツに会わせる顔がないって思ってた私はどうしたのよ!
「御坂、本当にどうしたんだ?」
上条は突然自分から目を逸らせた美琴の肩に手を伸ばした。
だが、
「触らないで!」
「…………!」
体をビクリと震わせ美琴が明確な拒絶の意思を示したため、上条が美琴に触れる事はなかった。
「御坂……」
「あ、ご、ごめん……そん、そんな、つもりじゃ……」
「いや、俺も軽率、だった……」
二人の間に再び沈黙が流れた。
上条は突然自分から目を逸らせた美琴の肩に手を伸ばした。
だが、
「触らないで!」
「…………!」
体をビクリと震わせ美琴が明確な拒絶の意思を示したため、上条が美琴に触れる事はなかった。
「御坂……」
「あ、ご、ごめん……そん、そんな、つもりじゃ……」
「いや、俺も軽率、だった……」
二人の間に再び沈黙が流れた。
しばらくして上条が静かに息を吐いた。
「御坂。これが俺の勘違いだったりうぬぼれとかだったりしたら、遠慮無く否定してくれ」
「…………」
美琴はチラリと上条の方を伺った後地面に視線をやり、黙って続きを促した。
「お前さ、最近どうして俺と距離を置いてんだ? 別に、用事があったわけじゃないんだろ? 俺、なんかしたのか?」
上条は横目で美琴の様子を伺った。
美琴は黙って地面を見ていた。
「もしかしてお前さ、日曜の、その吹寄とのことで、俺に……」
上条はここで一呼吸置いた。
「まだ俺に、申し訳ないとか、思ってたりするのか?」
「…………!」
美琴はやはり何も答えなかった。
だが彼女の握りしめているジュースの空き缶のきしむ音が、美琴の代わりに返事をしていた。
「やっぱり……。なあ、なんでそんなに気にするんだよ。あのとき言ったじゃねーか、お前は何も悪くないって。あれは俺が勝手にやったことだ。吹寄の所に行かなかったのも、お前の側にいたのも、みんな俺が決めたことだ。なんでお前が気にするんだよ」
「するわよ!」
派手な音を立ててジュースの空き缶を握りつぶした美琴は、上条をキッとにらみつけた。そのまま美琴は上条に怒鳴りはじめた。
「だってアンタ、あのときあの吹寄さんって人のこと、心配してたじゃない! 泣いてるかもしれないって! アンタの信念なんでしょ!? 誰も泣かせないってのは!? なのにどうしてあっさりそれを覆すのよ! おかしいじゃない!」
「言ったじゃねーか、たまにはこんなこともあるって」
「嘘よ! アンタはそんな簡単に考えを変えるような男じゃない! どんな困難な状況になっても最後まで希望を捨てないで自分の意志を貫き通す男じゃない! 私や妹達を助けてくれたときだって! その強い意志で、希望を現実にしてくれたじゃない!! アンタはそういう男なのよ!!」
「だから、たまたま――」
「違う! おかしいわよ! なんでそんなことが起きるのよ! 自分の命がかかった状況でもアンタは自分の意志を貫くのよ! そんなアンタが考えを変えるなんて、そんなの、そんなの……」
美琴の手から空き缶がぽとりと落ちた。彼女の声には、段々涙の色が混じりはじめていた。
「あのときアンタ、言ったじゃない……。私のこと、放っておけないって……。掌汗だくにして、大声で叫んで、私のために……自分の、アンタの、意思を……変えたじゃない……。私の、ためにアンタは……!! そんなアンタにどんな顔して会えって言うのよ、私に……!!」
必死にそこまで言葉を繋いだ美琴は顔を両手で覆ってかぶりを振った。
「御坂。これが俺の勘違いだったりうぬぼれとかだったりしたら、遠慮無く否定してくれ」
「…………」
美琴はチラリと上条の方を伺った後地面に視線をやり、黙って続きを促した。
「お前さ、最近どうして俺と距離を置いてんだ? 別に、用事があったわけじゃないんだろ? 俺、なんかしたのか?」
上条は横目で美琴の様子を伺った。
美琴は黙って地面を見ていた。
「もしかしてお前さ、日曜の、その吹寄とのことで、俺に……」
上条はここで一呼吸置いた。
「まだ俺に、申し訳ないとか、思ってたりするのか?」
「…………!」
美琴はやはり何も答えなかった。
だが彼女の握りしめているジュースの空き缶のきしむ音が、美琴の代わりに返事をしていた。
「やっぱり……。なあ、なんでそんなに気にするんだよ。あのとき言ったじゃねーか、お前は何も悪くないって。あれは俺が勝手にやったことだ。吹寄の所に行かなかったのも、お前の側にいたのも、みんな俺が決めたことだ。なんでお前が気にするんだよ」
「するわよ!」
派手な音を立ててジュースの空き缶を握りつぶした美琴は、上条をキッとにらみつけた。そのまま美琴は上条に怒鳴りはじめた。
「だってアンタ、あのときあの吹寄さんって人のこと、心配してたじゃない! 泣いてるかもしれないって! アンタの信念なんでしょ!? 誰も泣かせないってのは!? なのにどうしてあっさりそれを覆すのよ! おかしいじゃない!」
「言ったじゃねーか、たまにはこんなこともあるって」
「嘘よ! アンタはそんな簡単に考えを変えるような男じゃない! どんな困難な状況になっても最後まで希望を捨てないで自分の意志を貫き通す男じゃない! 私や妹達を助けてくれたときだって! その強い意志で、希望を現実にしてくれたじゃない!! アンタはそういう男なのよ!!」
「だから、たまたま――」
「違う! おかしいわよ! なんでそんなことが起きるのよ! 自分の命がかかった状況でもアンタは自分の意志を貫くのよ! そんなアンタが考えを変えるなんて、そんなの、そんなの……」
美琴の手から空き缶がぽとりと落ちた。彼女の声には、段々涙の色が混じりはじめていた。
「あのときアンタ、言ったじゃない……。私のこと、放っておけないって……。掌汗だくにして、大声で叫んで、私のために……自分の、アンタの、意思を……変えたじゃない……。私の、ためにアンタは……!! そんなアンタにどんな顔して会えって言うのよ、私に……!!」
必死にそこまで言葉を繋いだ美琴は顔を両手で覆ってかぶりを振った。
上条は黙って美琴の頭にぽんぽんと手を置き、ゆっくりと彼女の頭をなで始めた。
「お前って、本当に優しいヤツなんだな」
「…………?」
顔から手を離した美琴は上条を見上げた。
「たかが友達一人の考え方を自分の都合の良いようにするだけで、そんな泣くほど悩むか、普通?」
その瞳にやさしさを湛えたまま、上条は美琴の頭をなで続けた。
「悪いと思ったからこそお前、あのとき俺に何度も謝ってたんだろ? だったらそれでいいじゃねーか」
「で、も……」
「お前に泣かれたり、避けられたりする方がよっぽど辛いんだよ、こっちは……。だから頼む。本当にもう、そういうこと気にしたり言ったりするのは、今日限りにしてくれ」
「アンタ……」
「でも、これでやっとお前に会えたわけだよな。んじゃ、これで」
上条は美琴から手を離すと、鞄をがさごそとあせりはじめた。
「?」
首を傾げる美琴に、上条は鞄から取り出した小さな紙袋を見せた。
「ほら、これ」
「え?」
美琴はやや無意識的にそれを受け取った。
「お前って、本当に優しいヤツなんだな」
「…………?」
顔から手を離した美琴は上条を見上げた。
「たかが友達一人の考え方を自分の都合の良いようにするだけで、そんな泣くほど悩むか、普通?」
その瞳にやさしさを湛えたまま、上条は美琴の頭をなで続けた。
「悪いと思ったからこそお前、あのとき俺に何度も謝ってたんだろ? だったらそれでいいじゃねーか」
「で、も……」
「お前に泣かれたり、避けられたりする方がよっぽど辛いんだよ、こっちは……。だから頼む。本当にもう、そういうこと気にしたり言ったりするのは、今日限りにしてくれ」
「アンタ……」
「でも、これでやっとお前に会えたわけだよな。んじゃ、これで」
上条は美琴から手を離すと、鞄をがさごそとあせりはじめた。
「?」
首を傾げる美琴に、上条は鞄から取り出した小さな紙袋を見せた。
「ほら、これ」
「え?」
美琴はやや無意識的にそれを受け取った。
美琴は首を傾げたまま袋をじっと見つめる。
「何、これ?」
「ずっと鞄の中に入れてたから袋はちょっと汚くなっちまったけど、中身は大丈夫だから」
「だから、なんなの?」
「ま、とにかく開けてみてくれ」
美琴はこくりとうなずくと袋を開けた。
「……これは!」
中を見た美琴は大きく目を見開いた。
そこにあったのは小さな菱形のペンダントだった。
一見するとエメラルドグリーンのガラスがはめ込まれただけの、小さなペンダント。だがその裏にはゲコ太の彫刻が施してあるという、まさに美琴のためにあつらえたようなペンダントだった。
「アンタ、これ……」
自分とペンダントを交互に見やる美琴に対し、上条はやや照れたような笑みを浮かべた。
「ま、まあいつも世話になってる礼ってヤツだ。弁当作ってもらったり勉強見てもらったり、最近お前に世話なりっぱなしだからな」
「そ、そんな、あれは私が勝手に……」
「それでも世話になってることには違いないだろ? 俺が礼をしたいって言ってるんだ、素直に受け取ってくれ。それにお前に受け取ってもらえないんなら、どっかに捨てるぞ、それ」
「どうしてよ?」
「だって俺、ペンダントなんか付ける趣味ないし。それにお前のために買った物、他のヤツにやるわけにもいかないだろ」
「……あ」
上条の言葉を聞きながらもう一度紙袋を見た美琴はあることに気づき、声を漏らした。
「どうした?」
「これ、セブンスミストの中のお店……」
美琴が気づいたこと。それは袋に示された店名がセブンスミストの中にあるそれだったことだ。
「ああ。それが、どうしたんだ?」
「これ、いつ買ったの?」
「こないだの日曜日だけど、なんかまずかったか?」
「…………」
美琴はここで気がついた。
あの日曜日、初対面であるはずの自分になぜ吹寄がいきなりゲコ太の話題を振ったのか。その理由はこれだったのだ。
「何、これ?」
「ずっと鞄の中に入れてたから袋はちょっと汚くなっちまったけど、中身は大丈夫だから」
「だから、なんなの?」
「ま、とにかく開けてみてくれ」
美琴はこくりとうなずくと袋を開けた。
「……これは!」
中を見た美琴は大きく目を見開いた。
そこにあったのは小さな菱形のペンダントだった。
一見するとエメラルドグリーンのガラスがはめ込まれただけの、小さなペンダント。だがその裏にはゲコ太の彫刻が施してあるという、まさに美琴のためにあつらえたようなペンダントだった。
「アンタ、これ……」
自分とペンダントを交互に見やる美琴に対し、上条はやや照れたような笑みを浮かべた。
「ま、まあいつも世話になってる礼ってヤツだ。弁当作ってもらったり勉強見てもらったり、最近お前に世話なりっぱなしだからな」
「そ、そんな、あれは私が勝手に……」
「それでも世話になってることには違いないだろ? 俺が礼をしたいって言ってるんだ、素直に受け取ってくれ。それにお前に受け取ってもらえないんなら、どっかに捨てるぞ、それ」
「どうしてよ?」
「だって俺、ペンダントなんか付ける趣味ないし。それにお前のために買った物、他のヤツにやるわけにもいかないだろ」
「……あ」
上条の言葉を聞きながらもう一度紙袋を見た美琴はあることに気づき、声を漏らした。
「どうした?」
「これ、セブンスミストの中のお店……」
美琴が気づいたこと。それは袋に示された店名がセブンスミストの中にあるそれだったことだ。
「ああ。それが、どうしたんだ?」
「これ、いつ買ったの?」
「こないだの日曜日だけど、なんかまずかったか?」
「…………」
美琴はここで気がついた。
あの日曜日、初対面であるはずの自分になぜ吹寄がいきなりゲコ太の話題を振ったのか。その理由はこれだったのだ。
おそらくあの日上条は、吹寄の買い物に付き合うついでにこれを買ったに違いない。
その様子を見ていた吹寄はこのペンダントの主となる人物を知ろうとしたのだろう。
だからこその質問だったのだ。
そして何も知らない自分は自身がゲコ太好きなのをあっさりと白状した。
そのときの吹寄の心情はいかほどのものだったのだろうか。
自分だったらその場をすぐに逃げ出していたかもしれない。
想像を巡らせるうちに、吹寄に対して申し訳ないと思う気持ちが美琴の中で沸き上がりはじめていた。
その様子を見ていた吹寄はこのペンダントの主となる人物を知ろうとしたのだろう。
だからこその質問だったのだ。
そして何も知らない自分は自身がゲコ太好きなのをあっさりと白状した。
そのときの吹寄の心情はいかほどのものだったのだろうか。
自分だったらその場をすぐに逃げ出していたかもしれない。
想像を巡らせるうちに、吹寄に対して申し訳ないと思う気持ちが美琴の中で沸き上がりはじめていた。
けれど、
「なあ、その、安もんで悪いんだけど、気に入った、か?」
「え……う、うん、ありが、とう。本当に……本当に嬉しい」
目の前のゲコ太ペンダント。
それは上条が初めて美琴にくれた贈り物。
その事実に対する嬉しさが、吹寄への申し訳なさを美琴の中であっさりと覆い尽くしてしまっていた。
もちろん後ろめたさが消えたわけではない。ただ、それ以上の感情が心を占めているだけだ。
「なあ、その、安もんで悪いんだけど、気に入った、か?」
「え……う、うん、ありが、とう。本当に……本当に嬉しい」
目の前のゲコ太ペンダント。
それは上条が初めて美琴にくれた贈り物。
その事実に対する嬉しさが、吹寄への申し訳なさを美琴の中であっさりと覆い尽くしてしまっていた。
もちろん後ろめたさが消えたわけではない。ただ、それ以上の感情が心を占めているだけだ。
――本当、嫌になるわね。
美琴はそんなエゴ丸出しの自分を嫌悪する。
しかしそのエゴが自分の中でどれほど大切な感情なのかも、美琴は本能で理解していた。
もしかしたらこれらの感情は二律背反。片方が存在している限りもう片方も決して消えないものなのかもしれない。
しかしそのエゴが自分の中でどれほど大切な感情なのかも、美琴は本能で理解していた。
もしかしたらこれらの感情は二律背反。片方が存在している限りもう片方も決して消えないものなのかもしれない。
「ありがとう、凄く嬉しい」
美琴は己の中に訪れた予感めいたもの全てを受け入れるかのように、目を閉じて上条からの贈り物をそっと胸に抱き寄せた。
美琴は己の中に訪れた予感めいたもの全てを受け入れるかのように、目を閉じて上条からの贈り物をそっと胸に抱き寄せた。
嬉しそうな顔でペンダントを抱きしめる美琴を見て、上条はほっと安堵のため息をついた。
「よかった、受け取ってもらえて」
「よかったって、当然じゃない。だってこれ、プレゼントなのよ。そういう物を受け取らないなんて。それに――」
美琴は真面目な顔でじっと上条を見た。
「アンタからの初めてのプレゼントなのに……」
美琴の言葉に上条はぽりぽりと頬をかいた。
「いやまあ、そりゃそうかもしれないけど、やっぱりちょっと心配だったんだよ。だって俺、避けられてたし」
「そ、それは……」
「でも」
上条はここで一呼吸置いた。
「お前が受け取ってくれたってことは、俺達これで仲直り、でいいんだよな?」
上条の言葉を受け、美琴はほんの少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「別にケンカしてたわけじゃないけど……でも、もういいわ。それでアンタが納得するんなら」
「そっか」
上条はそんな美琴を見て、照れくさそうに微笑んだ。
「そっかそっか」
微笑みながら上条は何度もうなずく。
「よかった、受け取ってもらえて」
「よかったって、当然じゃない。だってこれ、プレゼントなのよ。そういう物を受け取らないなんて。それに――」
美琴は真面目な顔でじっと上条を見た。
「アンタからの初めてのプレゼントなのに……」
美琴の言葉に上条はぽりぽりと頬をかいた。
「いやまあ、そりゃそうかもしれないけど、やっぱりちょっと心配だったんだよ。だって俺、避けられてたし」
「そ、それは……」
「でも」
上条はここで一呼吸置いた。
「お前が受け取ってくれたってことは、俺達これで仲直り、でいいんだよな?」
上条の言葉を受け、美琴はほんの少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「別にケンカしてたわけじゃないけど……でも、もういいわ。それでアンタが納得するんなら」
「そっか」
上条はそんな美琴を見て、照れくさそうに微笑んだ。
「そっかそっか」
微笑みながら上条は何度もうなずく。
このとき、上条はほんの少し油断していた。
いや、五日ぶりに美琴に会え、ようやくプレゼントを渡せたことで少し気が緩んだと言った方がいいのかもしれない。
安心や油断は人の気を大きくする。
そうして生まれた気の大きさは、時としてその当人の体を勝手に動かし、本人すら予想しえない行動を取らせたりすることがある。
そして今の上条当麻の気はまさにそのものズバリ、恥ずかしいほどに大きくなっていた。
いや、五日ぶりに美琴に会え、ようやくプレゼントを渡せたことで少し気が緩んだと言った方がいいのかもしれない。
安心や油断は人の気を大きくする。
そうして生まれた気の大きさは、時としてその当人の体を勝手に動かし、本人すら予想しえない行動を取らせたりすることがある。
そして今の上条当麻の気はまさにそのものズバリ、恥ずかしいほどに大きくなっていた。
上条は大きい気持ちのまま、軽い調子で口を開いた。
「じゃあ仲直りもできたということで、このままお前をどっか遊びに誘っても、あっさりOKもらえたりして。……なーんてな!」
「え……?」
その瞬間、美琴から表情が消えた。
「なんだよ、聞こえなかったのか? だから、仲直りついでに二人だけでどこかに遊びに行こうぜ……あ」
ようやく自分が口走っていた内容を理解した上条は、思わず自分の口を押さえる。
そう、恥ずかしいほど大きくなっていた上条当麻の気は、本人にとって今まで考えもしなかったような行動を上条に取らせていたのだ。
「じゃあ仲直りもできたということで、このままお前をどっか遊びに誘っても、あっさりOKもらえたりして。……なーんてな!」
「え……?」
その瞬間、美琴から表情が消えた。
「なんだよ、聞こえなかったのか? だから、仲直りついでに二人だけでどこかに遊びに行こうぜ……あ」
ようやく自分が口走っていた内容を理解した上条は、思わず自分の口を押さえる。
そう、恥ずかしいほど大きくなっていた上条当麻の気は、本人にとって今まで考えもしなかったような行動を上条に取らせていたのだ。
「アンタ、何馬鹿なことを、言って……」
目を見開き、何度も瞬きをした美琴は、ぽそりと絞り出すように呟いた。
対して上条はわたわたと手を振り回しながら、必死で言い訳を始めた。
「あのあののあの、あのな御坂、えっと今上条さんが言ったことは、だから、その、ちょっと調子に乗りすぎたっていいますか。その、本気に取られると、えと……」
必死で言い訳を続ける上条を見て、美琴は目を伏せ、乾いた声で笑った。
「は、はハハは、ハは。そ、そうよね、アンタ何馬鹿なこと言いだしてるのよ。じ、冗談、なのよね……は、ハハハ……」
「…………」
自らの放言をなんとか冗談で済まそうとした上条だったが、自嘲気味な笑いを浮かべる美琴の様子を目の当たりにして思わず言葉を失っていた。
「御坂……」
しかし自虐的な美琴の様子はまだ続いている。
「そ、そうよね、ほん、本気で取るわけないじゃない、そんな、アンタが冗談で言ったようなこと。だいたいアンタが、私にそんなこと言ったり、その、私を誘ったり、そんなこと、あり得るわけがないわよね。だいたい、そんな資格、私に――」
「ち、ちょっと待てよ、何言ってるんだお前?」
「何って……」
「あり得ないってなんだよ、資格ってなんだよ。俺がお前といっしょに遊びたいと思うのって、そんなにおかしいことなのか? 俺とお前が遊ぶことに、なんか免許でもいるってのか?」
美琴の言葉にどうしようもない苛立ちを感じた上条は、強い口調で美琴に詰め寄った。
「…………」
口を閉じた美琴は、そのままぎゅっと唇を噛む。
上条はそんな美琴をなおも責めた。
「今のは冗談めかした俺をお前が怒ったり、馬鹿にしたりするところじゃねーのか? なんでそんなに哀しそうにするんだよ。なあ、なんでそんな辛そうな顔するんだよ!」
「だから、私はちゃんと、アンタを馬鹿に……」
「してねーだろう! 哀しそうにしてるだけじゃねーか! それにだいたいなんで、あり得ないとか資格とか、そんな嫌なこと言うんだよ! お前いったいどうしたってんだよ!」
美琴は上条から目を逸らすと、言いにくそうに声を出した。
「だって、アンタが私を誘ってくれるなんてこと、絶対あり得ないし、私には、アンタにそんな風に誘ってもらえる資格がないし、そう考えたら……」
「だからその資格ってのはなんなんだって聞いてるんだよ! 友達を遊びに誘うことに必要な資格なんかあるわけねーだろう! だいたい資格なんて言うんなら、常盤台のお嬢様を遊びに誘う資格が俺なんかにあるかどうかの方が問題だ!」
美琴は顔を上げ上条をにらみつけると、今までため込んだ感情を爆発させるかのような大声を張り上げた。
「あるわよ! アンタにはあるわよ、資格なんていくらでもある! 資格がないのは私よ!」
「なんで!」
「だって私は! 私は! 私は!! 今までアンタにいっぱいいっぱい迷惑掛けたから! 命まで助けてもらったから! なのにアンタは、そんな私に会おうとしてくれて! 会ってくれて! プレゼントまでくれて! だから私には!!」
「んなもん、友達だから当たり前だろう! それにいつ俺がお前に迷惑掛けられた! 勉強教えてもらって、弁当まで作ってもらって、俺の方がお前にずっと迷惑ばっかり掛けてるだろうが! 俺はお前に迷惑掛けられたことなんて一度だってねーよ! ペンダントだってお前に対する礼だ! なんでそれが迷惑になるんだよ!」
「でも!」
「でもじゃねえ!」
「でもあれはまるっきりデートの誘いじゃない! そんな資格が私のどこに――」
「ここにあるだろう!」
上条は美琴の両肩をぐっと掴んだ。
「ここに! 俺の安物のプレゼントを嬉しいって言って受け取ってくれて! 俺なんかのちんけなプライドを傷つけたって思って、泣くほど悩んでくれて! そんな優しい御坂美琴って女の子が俺の目の前にいてくれる! デートに誘われる資格なんて物が必要だって言うんなら、俺にとってはそれで十分だ!!」
「…………」
「わ、悪い……」
肩で息をつきながら、上条はそっと美琴の肩から手を離した。
「言っておくが、謝ったのはお前に乱暴なことをしたからだからな。言ったことは何にも間違えてないからな」
上条はふうと一呼吸置くと、美琴にビッと人差し指を突きつけた。
「とにかく今度の日曜日! 待ち合わせの場所は……えっと……ここ! 時間は……十一時! いいな! 拒否は許さねえ! 万が一お前がその日病気になったら……えっと、どうしよ……そう、一日お前の寮で看病するからな! 今度の日曜日は、俺は絶対お前とずっといっしょにいる! それからもう一度言うぞ! こないだの日曜のことは何があっても、もう気にするな! お前は何も悪くない! 俺が悪くないって決めたから悪くないんだ! 二度と気にするの禁止、禁止だ!!」
顔を真っ赤にして自分の言いたいことを一息で言うと、上条は美琴の目の前から走り去っていった。
上条が去った後には、上条以上に真っ赤な顔をして呆然と立ちつくす美琴だけが取り残されていた。
目を見開き、何度も瞬きをした美琴は、ぽそりと絞り出すように呟いた。
対して上条はわたわたと手を振り回しながら、必死で言い訳を始めた。
「あのあののあの、あのな御坂、えっと今上条さんが言ったことは、だから、その、ちょっと調子に乗りすぎたっていいますか。その、本気に取られると、えと……」
必死で言い訳を続ける上条を見て、美琴は目を伏せ、乾いた声で笑った。
「は、はハハは、ハは。そ、そうよね、アンタ何馬鹿なこと言いだしてるのよ。じ、冗談、なのよね……は、ハハハ……」
「…………」
自らの放言をなんとか冗談で済まそうとした上条だったが、自嘲気味な笑いを浮かべる美琴の様子を目の当たりにして思わず言葉を失っていた。
「御坂……」
しかし自虐的な美琴の様子はまだ続いている。
「そ、そうよね、ほん、本気で取るわけないじゃない、そんな、アンタが冗談で言ったようなこと。だいたいアンタが、私にそんなこと言ったり、その、私を誘ったり、そんなこと、あり得るわけがないわよね。だいたい、そんな資格、私に――」
「ち、ちょっと待てよ、何言ってるんだお前?」
「何って……」
「あり得ないってなんだよ、資格ってなんだよ。俺がお前といっしょに遊びたいと思うのって、そんなにおかしいことなのか? 俺とお前が遊ぶことに、なんか免許でもいるってのか?」
美琴の言葉にどうしようもない苛立ちを感じた上条は、強い口調で美琴に詰め寄った。
「…………」
口を閉じた美琴は、そのままぎゅっと唇を噛む。
上条はそんな美琴をなおも責めた。
「今のは冗談めかした俺をお前が怒ったり、馬鹿にしたりするところじゃねーのか? なんでそんなに哀しそうにするんだよ。なあ、なんでそんな辛そうな顔するんだよ!」
「だから、私はちゃんと、アンタを馬鹿に……」
「してねーだろう! 哀しそうにしてるだけじゃねーか! それにだいたいなんで、あり得ないとか資格とか、そんな嫌なこと言うんだよ! お前いったいどうしたってんだよ!」
美琴は上条から目を逸らすと、言いにくそうに声を出した。
「だって、アンタが私を誘ってくれるなんてこと、絶対あり得ないし、私には、アンタにそんな風に誘ってもらえる資格がないし、そう考えたら……」
「だからその資格ってのはなんなんだって聞いてるんだよ! 友達を遊びに誘うことに必要な資格なんかあるわけねーだろう! だいたい資格なんて言うんなら、常盤台のお嬢様を遊びに誘う資格が俺なんかにあるかどうかの方が問題だ!」
美琴は顔を上げ上条をにらみつけると、今までため込んだ感情を爆発させるかのような大声を張り上げた。
「あるわよ! アンタにはあるわよ、資格なんていくらでもある! 資格がないのは私よ!」
「なんで!」
「だって私は! 私は! 私は!! 今までアンタにいっぱいいっぱい迷惑掛けたから! 命まで助けてもらったから! なのにアンタは、そんな私に会おうとしてくれて! 会ってくれて! プレゼントまでくれて! だから私には!!」
「んなもん、友達だから当たり前だろう! それにいつ俺がお前に迷惑掛けられた! 勉強教えてもらって、弁当まで作ってもらって、俺の方がお前にずっと迷惑ばっかり掛けてるだろうが! 俺はお前に迷惑掛けられたことなんて一度だってねーよ! ペンダントだってお前に対する礼だ! なんでそれが迷惑になるんだよ!」
「でも!」
「でもじゃねえ!」
「でもあれはまるっきりデートの誘いじゃない! そんな資格が私のどこに――」
「ここにあるだろう!」
上条は美琴の両肩をぐっと掴んだ。
「ここに! 俺の安物のプレゼントを嬉しいって言って受け取ってくれて! 俺なんかのちんけなプライドを傷つけたって思って、泣くほど悩んでくれて! そんな優しい御坂美琴って女の子が俺の目の前にいてくれる! デートに誘われる資格なんて物が必要だって言うんなら、俺にとってはそれで十分だ!!」
「…………」
「わ、悪い……」
肩で息をつきながら、上条はそっと美琴の肩から手を離した。
「言っておくが、謝ったのはお前に乱暴なことをしたからだからな。言ったことは何にも間違えてないからな」
上条はふうと一呼吸置くと、美琴にビッと人差し指を突きつけた。
「とにかく今度の日曜日! 待ち合わせの場所は……えっと……ここ! 時間は……十一時! いいな! 拒否は許さねえ! 万が一お前がその日病気になったら……えっと、どうしよ……そう、一日お前の寮で看病するからな! 今度の日曜日は、俺は絶対お前とずっといっしょにいる! それからもう一度言うぞ! こないだの日曜のことは何があっても、もう気にするな! お前は何も悪くない! 俺が悪くないって決めたから悪くないんだ! 二度と気にするの禁止、禁止だ!!」
顔を真っ赤にして自分の言いたいことを一息で言うと、上条は美琴の目の前から走り去っていった。
上条が去った後には、上条以上に真っ赤な顔をして呆然と立ちつくす美琴だけが取り残されていた。
上条が去って十分後。
ようやく我を取り戻した美琴は、ゆっくりと自らの携帯電話を取り出した。
「……うん」
小さくうなずいた美琴は意を決して上条の携帯番号を呼び出した。
ようやく我を取り戻した美琴は、ゆっくりと自らの携帯電話を取り出した。
「……うん」
小さくうなずいた美琴は意を決して上条の携帯番号を呼び出した。
『……ど、どうした御坂』
コール音三回で上条は電話に出た。
「うん、あの、ね……。ち、ちょっと聞きたいことがあって、今いい、かな……」
『ああ、大丈夫。あ、けど、日曜のことはダメだからな、キャンセルは絶対却下――』
「そ、そうじゃないの!」
『違うのか? じゃあ、いったい?』
「だから、ね……」
美琴はここでいったん言葉を句切り、大きく息を吸った。
『?』
「あ、アンタさ、あの……あの……」
『うん』
「教えて……」
『ああ』
「あ、あああ、アンタ、アンタ! わた、私のこと、嫌い、じゃ、ないの……?」
『…………』
「教えて、お願い……。私は、アンタに、あんなひどいことした。だから私のこと、嫌いに――」
『……馬鹿野郎! 嫌いなわけ、嫌いなわけないだろう。嫌いなヤツを、デートに誘うわけ、ない。俺は絶対……絶対、お前のこと、嫌いになんかならねーよ』
「…………」
捨て台詞のように美琴の言葉を否定した上条は、そのまま電話を切ってしまった。
コール音三回で上条は電話に出た。
「うん、あの、ね……。ち、ちょっと聞きたいことがあって、今いい、かな……」
『ああ、大丈夫。あ、けど、日曜のことはダメだからな、キャンセルは絶対却下――』
「そ、そうじゃないの!」
『違うのか? じゃあ、いったい?』
「だから、ね……」
美琴はここでいったん言葉を句切り、大きく息を吸った。
『?』
「あ、アンタさ、あの……あの……」
『うん』
「教えて……」
『ああ』
「あ、あああ、アンタ、アンタ! わた、私のこと、嫌い、じゃ、ないの……?」
『…………』
「教えて、お願い……。私は、アンタに、あんなひどいことした。だから私のこと、嫌いに――」
『……馬鹿野郎! 嫌いなわけ、嫌いなわけないだろう。嫌いなヤツを、デートに誘うわけ、ない。俺は絶対……絶対、お前のこと、嫌いになんかならねーよ』
「…………」
捨て台詞のように美琴の言葉を否定した上条は、そのまま電話を切ってしまった。
「…………」
美琴は話す相手がいなくなってしまった携帯電話を握りしめたまま、その場に立ちすくんだ。
その美琴の瞳にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
やがてその涙は瞳からこぼれだし、頬を伝い流れ始めた。
「嬉しい……」
美琴は次から次に溢れる涙を拭うこともなく、携帯電話とペンダントをそっと胸に抱きしめた。
美琴は話す相手がいなくなってしまった携帯電話を握りしめたまま、その場に立ちすくんだ。
その美琴の瞳にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
やがてその涙は瞳からこぼれだし、頬を伝い流れ始めた。
「嬉しい……」
美琴は次から次に溢れる涙を拭うこともなく、携帯電話とペンダントをそっと胸に抱きしめた。
美琴は嬉しかった。
あんなに酷いことをしたにも関わらず、上条は美琴を嫌いになっていなかった。
それどころか、絶対嫌いにならないと宣言までしてくれた。
今、美琴が本当に聞きたかった言葉を上条は言ってくれた。
魔術師ではない上条が使ってくれた、魔法の言葉。
その言葉は、日曜からずっと美琴の心に刺さっていた棘を綺麗に消し去り、心に残る傷までも癒してくれた。
美琴の心を救ってくれたのはまたしても上条だった。
あんなに酷いことをしたにも関わらず、上条は美琴を嫌いになっていなかった。
それどころか、絶対嫌いにならないと宣言までしてくれた。
今、美琴が本当に聞きたかった言葉を上条は言ってくれた。
魔術師ではない上条が使ってくれた、魔法の言葉。
その言葉は、日曜からずっと美琴の心に刺さっていた棘を綺麗に消し去り、心に残る傷までも癒してくれた。
美琴の心を救ってくれたのはまたしても上条だった。
美琴は胸に抱きしめた携帯電話とペンダントにぎゅっと力を込める。
上条の声を届けてくれた携帯電話が、温かかった。
上条の思いが詰まったペンダントが、温かかった。
美琴の心は今、温かい気持ちで満たされていた。
上条の声を届けてくれた携帯電話が、温かかった。
上条の思いが詰まったペンダントが、温かかった。
美琴の心は今、温かい気持ちで満たされていた。
しかし美琴は未だに気づいていない。
一人の異性に嫌われていない、そのことを、涙が出るほどまでに嬉しいと思う気持ち。
その気持ちの根底にある感情の正体に。
美琴は未だ、気づいていない。
一人の異性に嫌われていない、そのことを、涙が出るほどまでに嬉しいと思う気持ち。
その気持ちの根底にある感情の正体に。
美琴は未だ、気づいていない。
けれど、どんなに不確かで気づいていない感情であろうとその感情を、想いを、美琴が大切にし続ける限り、いつか気づく時は来る。
必ず。