小ネタ 伝えたいコトバ。
ココロはいつも。の続編です。
12月15日 AM 10:06
「やっと着いた~」
真冬の朝。空は季節風の影響ですっきりと青く染まり、乾燥した空気が吹いていた。
上条と美琴は2人で隣の第22学区のレジャー風呂施設に来ていた。
前はレンタバイクでここへ来たが、2人はバイクの運転ができないのでバスと電車でここまでやってきた。
「ここは地下市街だから寒さも気にせず入れていいよな」
「そうね。今日はゆったり過ごそっか」
そういうと、二人は大きなビルの入り口へ入った。
同日 AM 10:11
ここは、ビル全体が全てお風呂というわけではなく、中にはゲームセンターやショッピングモールなどの施設もある。
学生が8割を占める学園都市だからか、昔ながらの「銭湯」というより「お風呂+アミューズメント施設」に近い。
「じゃあ、私1時間ぐらい入ってくるね。当麻はどうする?」
「俺もそうするよ。何なら終わったらメールして、一緒に店でも周るか?」
「!!そうするッ!!」
美琴が目を輝かせて答えた。
「決まりだな。じゃあ入り終わったらメールするからな」
「了解!またあとでね!」
「おう」
美琴は小走りで女湯の方へ向かった。それを見てから上条も男湯へ向かった。
同日 AM 10:23
「(わぁ・・・大きいお風呂だなぁ)」
美琴は脱衣所で着替え終わると、浴場のドアを開けた。
たくさんの風呂から湯気が上がり、冷えていた体が一気に温まる。
このビルにはフロアごとに違う種類の特殊な風呂があり、気分や自分に合った風呂に入ることができる。
ちなみに、美琴は美肌成分の含まれている風呂を選んでいた。
「(さて、と。まずは体を洗うか)」
美琴はシャワーのある場所へ向かうと、手早く体を洗い始めた。
同日 AM 10:27
「(いい湯だなぁ・・・)」
上条は美琴と別れたあと、すぐに脱衣所で着替え、体を洗って湯船に浸かっていた。
ちなみに上条は薬効成分の含まれている風呂を選んでいた。
ここに来るまでで冷えていた体を一気に温め、疲れを癒してくれる最高の空間だった。
「(美琴も今頃入ってるのかな)」
自分と同じ幸せな気分になっていると思うと、それだけで安心する。
美琴にだけは不幸なんて思ってほしくない、なってほしくない。
愛する人を全力で守ること。それは、上条の役目だった。
同日 AM 11:12
上条からメールをもらった美琴は、待ち合わせ場所の4階のフロント前に来ていた。
あれから1時間、美肌成分がたっぷり含まれた湯船にしっかり浸り、心も体も温まって肌もすべすべになっていた。
入浴後は甘い香りのローションを手足に塗り、髪にはトリートメントをつけ、女の子として完璧な状態だ。
何か言ってくれたらいいなーと淡い期待をしていると、
「あっ。当麻―!」
男湯から出てきた上条を発見し、笑顔で駆け寄る。
「おっ。どうだった?いい湯だったか?」
上条もすっきりした表情で清潔感あふれる少年になっていた。美琴は少しドキッとしながら、
「すごくいい湯だった!今日は美肌成分が入ったお風呂を選んだからすべすべになったし」
「どれどれ・・・ちょっと失礼」
上条は右手をほんのり桜色になった美琴の頬をそっと撫でた。
「おぉっ!すべすべになったな!気持ちい・・・って・・ん?」
「?どうしたの?」
上条は何かに気づき、美琴に近づいてみた。
「美琴・・・何かつけた?甘い香りがするんだけど・・・」
「あ・・・」
彼女から香る甘いにおいでいつもより華やかに見えたのだ。
「うん・・・ローションを塗ってみたんだ。髪にも少し・・・」
美琴は気付いてくれたうれしさに少し照れながら、ふわりと髪をすいた。
「へぇ・・・。いい香りだな。俺はこの香り好きだぞ」
「そうかな・・。でもありがと」
「あぁ。じゃ、店周るか!」
「うん!」
2人は仲良くショッピングモールへ向かった。
同日 AM 11:25
「このゲコ太ストラップかわいい~限定商品だって」
「ホント、そのカエル好きだなぁ・・・」
「ねぇ当麻、おソロにしない?かわいいよ?」
「あぁ・・・いいよ」
「じゃあ買ってくるね!」
タタタ・・・と美琴は小走りでレジへ行ってしまった。
上条は携帯を取り出すと、付いていたゲコ太ストラップを見つめた。
素直じゃなかった美琴も今では懐かしい思い出だった。
1度はもう2度と取り戻せない場所に落としてしまったが、彼女が拾ってくれたのだった。
感謝するべきだろう。上条はそう思い、後で美琴にもう1度お礼を言った。
同日 PM 16:34
瞬く間に時間は過ぎ、真冬ではすでに空は暗い時刻になっていた。
あの後、昼ご飯をたべたり、ゲームセンターで遊んだり、もう1度お風呂に入ったりして本当に「幸せな」1日をすごした。
現在2人は家路についている。
「楽しかったぁ。来てよかったね、当麻」
「そうだな。となりの学区だし、いつでも来れるからまた来ようぜ」
「うん!」
朝とは正反対の暗い空。しかし、闇のように暗いのではなく、今日の終わりを静かに語っているようだった。
輝く星が夜の学園都市と二人を見守り、月が明るく照らす。
いつものように、いつまでも。
上条は別れ際に美琴に優しくキスをした。
短いながらも甘いキスだった。
「じゃあな。今日も早く寝ろよ。風邪引いたら大変だからな」
「うん。そうする」
美琴も上条の頬にキスをした。ふわりと体温が感じられる程度の短さだった。
「バイバイ!また明日ね」
「おう!」
伝えたいなら、コトバで。
きっと心に届くから。
Fin.