とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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小ネタ 寒空の下




「大好きなんて言わない、なーんてね」
 すっかり寒くなった外の空気が、美琴の脇を通りぬけていく。
防寒能力の高い制服であるといえど、スカートでは話は別だ。
 露出した脚を容赦なく襲う寒気は、なんとなく『タイツでもはいてみるかなぁ……でもガラじゃないわよね』と考えさせてしまうくらいには強力だった。
「しっかし、アイツはいつになったら来んのよ!!」
 かれこれ待ち続けて、もうすぐ一時間になる。
 秋の日はつるべ落とし、というように、次第に冷えてきた空気に身を震わせる。
「せっかく、この美琴センセーが……」
 美琴は紙袋を持っていた手を少し握る。
くしゃり、という独特な音がし、茶色の紙袋がちょっぴりひしゃげた。
アイツこと上条当麻はまだ姿を見せない。
と言っても、待ち合わせをしているわけでもなければ、呼び出したわけでもない。
美琴が勝手に待っているだけだ。
 ゴソゴソと紙袋をあさり、中から赤い毛糸の手袋を取り出す。
 綺麗とは言いがたい、どこか不格好な出来のそれは、彼女がするにしては少し大きい。
「もうちょっと綺麗に出来たらよかったんだけど」
 そう言いつつもどこか満足げに、そして嬉しそうに微笑む美琴。
 傍から見れば完全に恋する少女であるその姿は、道行く人が目で追ってしまうほどには可愛らしいものであった。



 彼女を微笑ましく見るものあれば、羨望の眼差しを向けるもの、はたまた、どこかにいる彼女の想い人に対して黒い感情をぶつけるものもいた。
「お、きたきた。やっと来たわね」
「っと、あれ? こんなとこでなにやってんの?」
 ようやくやってきた上条に、美琴はビシッと指を突きつける。
 一方で、突きつけられた上条としては、なんのことやらさっぱり、目をパチクリとさせるしかない。
 夏頃はやたらと絡んで来ては、追いかけ回されたものだが、最近はめっきりその機会も減っていた。
「なにやってんの、ね。ったく、報われないってこういうことかしらね」
「えっと、上条さんには、状況が飲み込めないんですけども」
 勝手に待っていたのだから、もちろん、上条に文句を言いようもない。
 しかし、健気に待っていた女の子に対して、こんな反応をする彼に対し、なんとなくモヤモヤとしてしまうのも確かだ。
 美琴はそんなどこにも向けようのない気持ちを溜息として吐きだし、手に持っていた赤い手袋を上条へと押し付ける。
「はい」
「はい?」
「あげる」



 上条は、ほっぺを少し赤くしている美琴から手袋を受け取る。
 そして、そんな妙に可愛らしい顔の彼女と、自らの手におさまった不格好な赤い手袋を交互に見やる。
「………………はぁ!?」
「え、な、なによ、その反応」
「ちょ、ちょっといきなり手袋をあげる、とか、いったいなんなの!?」
「だ・か・ら!! あげるって言ってんだから、しっかり受け取れ!」
「いやいやいやいや!! いくらなんでも唐突すぎますって、御坂サン!」
「あぁ、もう! いいから、ほら、つけてみなさい」
 美琴は半ば無理矢理に上条の手を取ると、手袋の中に押し込んでいく。
「痛い! 御坂、ちょっと待て、そんな方向に俺の手は動きませんことよ!?」
「あれ? どっか間違ったっけ?」
「わかったわかった、自分でやるから! 痛い痛い痛い!!」
 美琴の手から逃れるようにして身をよじり、無理矢理にねじ込まれた手袋に改めて手を通す。
「ん? なぁ、御坂、これさ」
 上条の手にはまった手袋は、手のひらを少し覆いきれず、明らかにキツそうな様子だった。
 両手にそれをした彼の姿は、どこか間抜けだ。
「うっさいわね、手のサイズ測ってないんだから仕方ないでしょ」



「そりゃそうだけどよ……つか、手袋にそんなサイズとかあんのか?」
「…………」
 バツの悪そうな顔で目を背ける彼女に呆れつつ、上条は両手の手袋を見る。
 ところどころ目の荒いそれは、手作り感満載だった。
「もしかして、手編みとか?」
「……見て分かんでしょ」
「なんでまた」
「な、なんとなくよ。ほら、直してくるから返しなさい」
「それはなんか悪い気がするし……それにほら、ちょっとキツいけど使えないこともねぇし」
 恥ずかしそうに手を出す美琴を無視し、上条は右手の手袋を強引に引っ張った。
「おぉー、あったけぇあったけぇ」
「はぁ……アンタ、今度暇な日ないの?」
「作ればある、って感じだな」
「手の大きさ測ったりするから、ちょっと付き合いなさい」
「それは良いけど、お前、自分の分は?」
 美琴の手にはなにもない。
 冷えた空気に触れている細い手は、少しばかり震えているようにも見える。
「アンタの分作ったら、毛糸無くなっちゃったのよ」
「作ってもらっといて言うのもなんだけどよ。なんで、自分の分先に作らねぇの?」
「げ」
「てか、そもそも、なんで俺の分……」
 急にモジモジとしだした美琴を、上条は不審そうに覗きこむ。
 心なしか、さっきよりも顔が赤いような気もする。
「(最初にアンタにあげたかったからよ……)」
「へ? なんて?」
「う、うっさい! 練習台よ練習台! アンタで練習して自分に綺麗なもの作んの!」
「ちょ、普通逆なんじゃねぇの!?」
「貰えるだけありがたいと思いなさい!」
 ぎゃーぎゃーと言いあう二人の声が、寒い空に響いた。






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