もう一度
いつものようにアイツを追いかけていた。
私の電撃を右手でかき消しながら逃げていくアイツ
その背中を追っている私
こんなことでしか表現出来ないのが嫌になる。
でも、楽しかった。
アイツも笑いながら逃げているように見える。
追いかけるのに夢中になって周囲を見ていなかった。
「御坂危ない!」
クラクションを鳴らしてトラックが近づいてくるのがわかった。
避けられない―――
私は何が起きたのか分からなかった。
ただ、アイツが私を守ったように見えた・・・
そして、アイツは―――
何も無い世界
ずっと捜しているがそれでも見つからない・・・
私は何を捜しているのだろう?
『気づかない?』
失ってから気づいた。
違う、本当は失う前から気づいていた。
アイツの優しさに甘えて、ずっと言えずにいた・・・
もう一度あの時間に戻りたい。
追いかけっこしたこと―――
いつものように一緒にいたこと―――
互いに素直になれずに、ふざけあっていた時間だけが思い出される。
『どうするの?』
あてもなく街をさまよう。
幽霊のように意味もなくこの街をさまよい続けている・・・
こうして街を歩くたびずっと捜している。
どこかにアイツの姿を・・・
交差点でアイツとすれ違ったような気がして急いで振り返る。
人違い―――
こんなところにいるはず無い、そんなことはわかっている。
だけど、それでも探してしまう。
『アイツって誰?』
一度も名前で呼ぶことの出来なかった人
どんなに辛くても歯を食いしばって1人で立ち向かっていく人
私を絶望から救い出してくれた人
そして、私にとって・・・とても大切な人―――
『その場所は?』
鉄橋の上に立っていた。
夏の日の思い出
私の一番大切な場所
街をさまようと、何故かここに辿りついてしまう。
ここに来ればまたアイツが来てくれる、そんな気がして・・・・
だけど、どんなに待ってもアイツが来ることは無かった・・・
どれくらい時間が過ぎたのか、気がつくと自分の部屋に戻っていた。
失っても、失ってからもどんどんアイツのことを好きになっていってしまう
こんな辛い思いするくらいなら、すべて忘れることが出来たらいいのに・・・・
『本当に?』
―――嫌だ、アイツとの思い出を忘れるなんて出来るはずが無い。
自分の中に生まれる矛盾
『会いたい?』
せめて夢の中でも・・・
そう思いながら眠りにつく
だけど私は・・・、あの日から夢を見ない―――
いつもと同じ朝を迎える
いつもと同じ、アイツのいない朝を・・・
夢は見ていないはずなのに、何故か目から涙が出ている。
『悲しい?』
悲しくは無い、ただ辛いだけ
辛くて、苦しくて・・・・心が張り裂けそうになる。
どうすれば私の心は許されるのだろう
イヤ、もう許されることが許されないのかもしれない。
どれだけ捜しても、答えは見つからない。
『寂しい?』
寂しさを紛らわすためなら、誰か他の人を好きになればいいはずなのに
でも、自分を偽ることが出来ない。
いつまでも引きずってしまって、情けない―――
『好きだった?』
ずっと心に秘めていた想い
伝えることの出来なかった想い
もう二度と伝えることが出来ない想い
後悔だけが残る
『どうして?』
この世界にアイツはいない
奇跡でも起きないかぎりアイツには会えない
でも・・・もしも会えたとしたら見てもらいたいものがある。
私の気持ち―――
これからの私―――
そして―――
『それが願い?』
違う、アイツにもう一度会えるだけでいい
それ以上のことは望めない・・・
『それでいいの?』
そんなはず無い!
本当は会えたらすぐ抱きしめたい
アイツとキスしたい
アイツと・・・・
アイツと―――
アイツとずっと一緒にいたかった
逢いたいよ・・・・・・・・・・・・・・
当麻―――
『やっと名前で呼んでくれたな』
その瞬間、世界は光に包まれた―――
目を覚ますと見慣れない天井があった
自分の部屋じゃない
・・・・・・病院?
何でこんなところに?
すべて夢だったの?
それともこれが夢?
状況がわからない・・・・あの日から、夢なんて見ることは無かったのに。
右手に温もりを感じる
一体何が・・・?
右のほうを見る、そこにはずっと会いたかった人がいた
会いたくて、会いたくて、ずっと探し続けた人
夢でもいい、ずっと会いたかった人にもう一度会うことが出来たんだから。
その人の顔は何故か涙でグシャグシャだった。
こんな風に泣くんだ、コイツの変わった一面を見れて少しうれしかった。
どうして泣いてるの?
まだ声が出ない
涙を袖でぬぐい、ニカッっと笑って私に向かってこう言った
「おはよう、御坂―――」
Fin