とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある二人の掌中之珠




四月一日。
四月初日であるこの日は、学園都市の全学校が午前中授業となる。理由は単純で、今日から新学期だからだ。
今は四時限前にある、一〇分程度の休み時間である。

もはや『平凡』とは言えない高校生、上条当麻は教室の窓から、ぼけーっと外を眺めている。
先日まで入院していたのだが、今年から能力開発の方針が変わるからと、身長一三五センチの担任である月詠小萌に引っ張られて来たのだ。

学園都市には身体測定【システムスキャン】という制度がある。
様々な方法を使い能力者の適性を調べ、レベルはどの辺りか、能力の種類は何か、伸びやすい人間か伸びにくい人間なのか、その辺りを調べるためのものだ。
実際、それはあくまで大雑把な目安のはずだったのだが、統括理事長の交代により『素養格付』【パラメータリスト】が発覚したのが、一ヶ月前。
つまり、上条当麻が入院した翌日の事だった。

『素養格付』の発覚により騒ぎが起こっていたらしいが、入院している間に本年度から『自分に適した能力開発』要するに、高位能力者達のような能力開発を全生徒に行う事が取り決められ騒ぎはようやく沈静化された。
上条の通う高校はお世辞にもレベルの高い学校ではない。生徒のレベルも2あれば良い方であったが、新しい方針によってレベルが上がるかもしれないと生徒や教師が盛り上がり、生徒思いの小萌先生もその例外ではなかった。

だが、それが異能の存在であるならば、神話に出てくる神様の奇跡でさえ打ち消してしまう『幻想殺し』が右手に宿っている為、上条自身に能力が宿る事はない。
つまり、血管に直接薬を打って耳の穴から脳直で電極ぶっ刺しても、それが如何に上条自身にあった開発だとしても、上条当麻は『幻想殺し』がある限りこれからも『無能力者』なのだ。

「……あれ? もしかして無能力者って俺だけになっちまうの?」
上条当麻は―――考えるのをやめた。

上条は再び窓の外へと視線を移し、以前は見えた『窓のないビル』が建っていた場所を睨む。
あの中に居た人物、アレイスター=クロウリーの幻想を殺した事は後悔していないのだが、いや、でも。
「分かってんだけど独り言にしねーと消化できねーんだよう」
とひとり呟いた所で、彼の携帯電話がブルブルと震えた。
誰からだろう? と上条は小首を傾げて携帯電話を取り出した。
御坂美琴。ディスプレイにはそう表示されていた。



待ち合わせの時間は午後一時。第七学区のそこそこ目立つコンサートホール前の広場。
現在の時刻は一時三〇分。上条は両手を合わせて頭を下げながら全力で走っていた。
「やーすみませんでしたーっ!!」
去年の九月三〇日、あの罰ゲームと同じ時間、同じ場所、同じ台詞を発しながら、あの日と同じようにポツンと一人で立っていた御坂美琴に駆け寄った。

ただあの日と違うのは美琴の方で、腕を組んでいなければ、右足の爪先でトントンと小さく地面を叩く訳でもなく、前髪からパチパチと青白い火花を散らしている訳でもなかった。
あの日の美琴は「すでに一時三〇分ってどういう事なのよーっ!!」と叫んでいたのだが、本日このお嬢様が発したのは「急に呼び出してごめんね」等と予想と違いすぎる謙虚な言葉であった。

おかしい。どう考えてもおかしい。
普段と違う様子の御坂美琴に、また奴の仕業か!? と推測した上条は少女の上半身へと左手を伸ばす。より正確には少女の胸の中央を。
「な、なん、な―――っっっ!?」

「トール、テメェいい加減しつこいぞ。つか、前にも言ったけど無駄に感触がリアルだけど、どういう仕組みだ!?」

「あ、あの時も言ったけど、こ、こ、これはパッドなんかじゃない!!!」
そう叫ぶと同時に美琴の携帯がブルブルと震える。
全身、隅から隅まで真っ赤になった美琴は小刻みに震えながらも、上条の腕から脱出し携帯電話を取り出す。
「そういやお前、あの時もそんな事言ってたな……って、あれ?」

トールはスマートフォンを使っていたはずだ。ゲコ太とか言うカエルの携帯電話などでは決してなかったはずだ。
それにストラップは付けていなかったはずだ。あのカエル携帯に付いてるカエルのストラップは確か見覚えがある。
上条は自分の携帯電話を取り出しストラップを見る。緑色のヒゲを生やしたカエル。
九月三〇日、あの罰ゲームの日に美琴とペア契約をしてもらった物なのだ。
つまり。
「……御坂、お前。小っせえな」
言い終わると同時に美琴の前髪から雷撃の槍が飛んだ。
とっさにかざした右手でその一撃を弾き飛ばす。ズバチィッ!! という強烈な炸裂音を聞く限り、おそらく電圧は奥の単位に達しているものと思われる。
幻想殺し。魔術だろうが超能力だろうがどんな異能の力であっても触れただけで打ち消す効果を持つ。
けれど、それでも怖いものは怖いのだ。
上条はぶるぶると震えながら、一言。
「……、AA?」
もう一度雷撃の槍が飛んできた。
ギリギリで受け止めた上条は涙目である。

「誰が貧乳だゴルァァア!!」
美琴はそう叫ぶと、涙目を浮かべた上条の腰のあたりに思いっきりタックルをした。ドゴォ! という壮絶な音と共に勢い余って歩道の上へ転がる。
普段なら恥ずかしくてとても出来ない位、上条に急接近しているのだが思春期真っ只中の少女としては、接近出来た嬉しさよりも『貧乳扱い』された怒りの方が大きいのだ。

所で御坂美琴は以前にもタックルをし、上条を押し倒したことがある。
去年の八月三一日、海原光貴に付きまとわれ上条に恋人ごっこを頼んだ日である。
それは常盤台寮の眼前で、寮生や寮監に見られ物凄く恥ずかしい思いをしたのだ。
そして現在、次第に冷静さを取り戻しつつある美琴はある事に気付く。
ここは、そこそこ大きいコンサートホールの前であり、全校が午前中授業という事もあって街は学生達で賑わっているのだ。つまり……。
「あ、あはは」美琴の顔の筋肉が不気味に引きつった。「あはははははーっ! うわーん!」
美琴はヤケクソ気味に笑いながら上条の手を掴み、そのままものすごい速度で走り出した。








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