とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある二人の掌中之珠




行間一


三月五日。
学園都市の統括理事長が代わり、『素養格付』が発覚した翌日、御坂美琴は病院に訪れていた。
表向きは辞退したと囁かれているかつての統括理事長アレイスター=クロウリーを打倒した少年、上条当麻の見舞いに来ている。

病室に入り、窓を開け空気を入れる。
残寒の名残のある冷気を孕んだ風が美琴の髪をなびかせる。
少し身震いをした後、美琴はベッドの横にパイプ椅子を置き、腰を掛けると上条に話しかける。
「もうすぐ新学期始まるけど、アンタ起きないと留年扱いになっちゃうんじゃない?」
……上条からの反応はない。

実際の所、上条当麻が留年する事はない。
入院する前に行われた、学年最後の学期末テストの時点で進級は確定されているからだ。
お世辞にも、賢いとは言えない上条が学年首位の点数を取ったので小萌先生を筆頭に、とある高校の教師たちは『上条は一体どんな魔法を使ったんだ?』と疑問を嘆いていたが、単純な話で上条はプライドを捨てただけである。
つまり『中学生に勉強を教えてもらう高校生』になっただけなのだ。
「美琴センセー……俺、留年したくないです」
「安西先生みたいに言うな!!」というやり取りを行い、美琴の家庭教師がスタートし留年を免れたのだ。

その家庭教師、美琴は既に上条が進級出来る事を知っている。
いつもの上条なら『留年』と聞くだけで慌てて起き上がる事が予想出来るから言っているに過ぎない。
しかし、毎日訪れる度にそう告げても予想は現実にならない。

計測器が一定のリズムで規則正しい音を鳴らし、上条当麻の生存を告げている。
だが、それはあくまでも生きているというだけなのだ。
――――――上条当麻は、あれから一度も目を覚まさない。



完全下校時刻間近になり、上条の見舞いに訪れていた御坂美琴は「そろそろ帰るね」と告げる。返事はない。
窓を閉め、パイプ椅子を片付ける。規則的なリズムを鳴らす計測器の音が病室を支配する。
病室を出る前に、もう一度上条へと視線を移すが、彼はやはり目を覚まさない。
分かっている事だとしても、寂しいものは寂しい。

ガララっと音を立てながら病室のドアが開き、カエル顔の医者が入ってくる。
「丁度、君を探していた所だったんだね? 今日も来てるかと思って来てみたが間に合って良かった」

「私を探してたって、何かあったんですか?」

「要件は二つあるんだね? 一つは君宛ての手紙が届いてる。差出人はIndex-Librorum-Prohibitorum。あのシスターの女の子だね」

上条の家庭教師を務めている間に、美琴はインデックスと仲良くなった。
休日は二人で出かけたり、お互いの知っている上条の情報交換をしては、上条のフラグ増設に二人で怒ったりもした。
しかし、上条の入院と同時にインデックスのイギリス送還が決定された。

「いつかはそうなる事だったからね。それに、これ以上とうまを巻き込みたくないんだよ」

「アイツが好きなんでしょう? それをこんな終わらせ方でいいの?」

「みことがとうまを好きって思う気持ちと、私がとうまを好きって思うのは別のものなんだよ。それに、シスターは人生を神様に捧げる職業だからね」

「じゃあアンタの好きって気持ちは何だったわけ?」

「……とうまに会うまで一年毎に記憶を消されてたんだよ。だから、私は家族の顔も名前も知らないし、覚えてない。」

「……。」

「私にとってとうまは『もう忘れなくて良い家族』だったんだよ。私の好きは、きっと家族愛なんだよ」

何度説得を試みても、インデックスの答えは変わらなかった。
だから一つだけ約束した。叶えたいことが一つ増えた。

「みこと。とうまの事を頼んだんだよ。とうまは直ぐフラフラするから、短気を直さないとみことは苦労するかも」とニヤついた表情で告げると、インデックスは飛行機に乗り込んで行った。
インデックス、どうしてるだろうか。と、回想に浸っている事に気付いた美琴は頭を左右に振り、話の続きへと意識を向ける。

「ありがとうございます。それでもう一つの方は?」

「落ち着いて聞いて欲しい。……妹達、彼女達の調整を凍結すると知らせが届いたんだね?」








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