とある二人の掌中之珠
ううう、と御坂美琴はさっきから頭をブンブンと横に振り続けている。
そんな美琴を横目に上条はこれから訪れるであろう恐怖に震えていた。
超電磁砲地獄だろうか、超電磁砲を使ったキャッチボールだろうか。
消滅出来ても、やはり怖いものは怖いのだ、と上条は再び強く思う。
美琴は深呼吸をし、ようやく落ち着きを取り戻したのだが、上条の様子がおかしい事に気付いた。
「超電磁砲地獄は嫌だ、超電磁砲地獄は嫌だ」とぶるぶる震えながら呟いているのだが、何やら掌をワキワキとさせている。首を傾げながら、掌の大きさを何度も変えながら。
「この野郎、やっぱり巨乳が良いのか!!」と、言葉にはせず頭の中で叫ぶ。これで肯定されようものなら、立ち直れそうにはないからだ。
美琴はバチッ!! と火花を散らすと、爪先で地面を小さく叩く。その音に超反応した上条は、美琴の前に跪くと
「お嬢様、申し訳ありませんでしたっ!! この愛玩奴隷、何なりと致しますので超電磁砲だけは! 超電磁砲だけは!」
「愛玩奴隷か……」とても魅力的な提案? なのだが、奴隷と主人関係から始まる恋愛は望んでないのだ。
それに、と美琴は先ほどの電話の内容を思い返す。今日で終わりにしなければならない。
「愛玩奴隷宣言しながら、手をワキワキさせてる奴なんてお断りよ! っつか、小さくて悪かったわね!!」
怒りを表現するように青白い火花を再び散らす。
「あー、御坂。その、悪かったな。お前はまだ成長期だしこれから……」
「虚しくなるからフォローすんな!! さっさと胸の話題から離れなさいよ!!」
バチッ!! と火花をちらつかせる美琴に、インデックスもそうだったが、どうして女ってのは胸の大きさ言われると怒るんだ? と上条は疑問を抱くが、取り敢えず話題を変える事にする。
「あー。で、今日はどうしたんだ御坂?」
取り敢えず、いきなり呼ばれた理由を聞いて適当に付き合いそれとなく帰宅する。
上条はあまり無い頭を振り絞り完璧な作戦を計画したつもりなのだが。
「また、こ、こい、恋人ごっこしてくれないかしら」
このお嬢様から帰って来たのは、悲惨だった去年の夏休み最後の日を思い出させる言葉だった。
「もしかして、また海原みたいなのに付き纏われてるってことか?」
美琴は首を横に振る。
「じゃあ、何だってそんな事をするんだ?」
びくっ、と美琴は身震いをし、表情を曇らせる。よく聞こえないが、小さな声で「そっか、そうよね……」と言っている。何だ? と不思議に思う。
遅刻しても怒らなかったし、今の言葉にしても今日の御坂はどこかおかしい。
理由はどうあれ、そんな顔されちゃ断れねえよな、と上条はボヤくと
「分かったからそんな顔すんな。恋人ごっこだろうがデートだろうが付き合ってやっから」
俯いていた美琴は顔をバッと上げる。『デート』なんて単語が上条の口から出るとは思わなかったからだ。
ほっぺたがみるみる赤くなっていくのを感じて、美琴は再び俯く。
次第に、いつものように顔全体が赤くなるんだろうな、赤くなった顔が元に戻るまで、どれくらい時間がかかるかな、と美琴は考える。
そして、こう思う(今日はあと何回、こんな気持ちになれるのかな)
答えは出なかった。これが最後とは思いたくなかったからだ。
『素養格付』とは、対象の人物が将来的にどこまで成長できる可能性を秘めているかを調べるものです。
素養格付でレベル1と判定された人物は、将来レベル1までしか成長しないだろうとし、その生徒にはレベル1に見合った時間割りを受けさせ
逆に素養格付でレベル5になり得る可能性を秘めていると判定された者には、それに見合った時間割りを受けさせる事によって学園都市は効率的に予算を回していました。
これが現在、学園都市で話題になっている『素養格付』発覚問題です。
この学園都市にはスキルアウトと呼ばれる方達や、無能力者の烙印を押された人達が居ます。
彼らを追いやった誤りについて、私には弁解する言葉もありません。
せめて私に出来る事は、生徒たち皆さんに平等の能力開発を行い、努力で才能を補えるという神話を皆さんに信じて貰えるよう訴え続ける事しか出来ません。
全てが終わった後、どのような裁きも受けます。
だからどうか、しばしの猶予を私に与えてください。
三月六日 学園都市統括理事長 親船最中