とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある二人の掌中之珠




行間三


常盤台中学の寮へと帰宅した美琴は手紙を読んでいた。
インデックスから届いた手紙には、かつての統括理事長アレイスター=クロウリーが最後に放った攻撃について記されていた。
つまり『魔術』について何やら詳しく書かれているのだが、やはりよく分からない。
十字架に『天使の力』を込める、方角だ立ち位置だ、『衝撃の杖』だとか専門用語は流して読み進めると理解できる文章は一行しかなかった。(それでも、その行も分からない用語で埋め尽くされていたが)

あれは、どうやら一種の『呪い』らしい。けど、その呪いを打ち消すにも、とうまの幻想殺しが魔術を打ち消してしまう。『魔術』では、とうまを救えない。
大体こんな感じの文章になるはずだ。
しかし、外の技術と二〇年離れている学園都市の技術を使っても、生命活動を持続させるのが限界だと、冥土返しは言っていた。『科学』でも、彼は救えない。

「科学でも魔術でもダメならどうすればいいのよ……」

意気消沈しベッドに倒れ込んだ美琴はサイドテーブルに置いた便箋に手を伸ばし、手紙を仕舞おうと便箋の口を開ける。よく見えないが文字が書かれているのに気付いた。便箋の山折に沿ってハサミをいれる。

『神様を信仰するシスターさんが言ってはいけない事を書かなきゃならないからね。
分かりにくい所に書いたけど、みことなら気づいてくれるよね?
あれは、とうまって云う存在そのものを忘却させる呪いなんだよ。
記憶喪失っていうのじゃなくて、生きている事とか呼吸の仕方とか何もかもを忘れさせる呪い。

とうまの右手は魔術は勿論、みことやあくせられーたみたいな超能力も打ち消してしまう。天使とか神様とかも例外なくね。
ただ、『人の願いが産みだした奇跡』だけは、とうまの右手でも打ち消せなかったんだよ。
私はやっぱり、シスターだから神様に対する祈りになってしまうんだけど、科学サイドのみこと達は『自分だけの現実』っていうのを持ってるよね?
それにとうまに対する祈りを組み込んで、純粋な願いを奇跡として引き起こせたら呪いも解けるかも。
その『純粋な願い』を込められるのは、みことしか居ないんだよ。祈りは届く。
みこと、とうまを、私達の家族を助けて』



御坂美琴は現在、幾つか抱えている事がある。
一つ、大量に送られてきた課題とビッシリと埋め込まれたスケジュールについて。
一つ、彼女のクローン達、つまり妹達のこれからについて。
一つ、呪いの魔術を受けたとされる人物について。

三月六日、美琴は親船最中と交渉をしていた。内容は妹達の今後について、その結果が大量の課題とスケジュールだった。
学園都市でも五本の指に入る名門校、常盤台中学は「義務教育終了時までに世界で通用する人材を育てること」を目標とした英才教育が施されている。
そんな英才教育を行っている学校に復習する為の課題など本来必要ないのだが、前代未聞の例外が起こった。
美琴が出された課題は復習する為のものでも予習する為のものでも無い。
『四月一日』この日、御坂美琴の義務教育を終了させる為のものである。

現在、三月二七日。
数日間寝る間も惜しみ、ようやく課題を終わらせ後は実技試験だけを残した美琴は上条の病室へと訪れていた。
上条はやはり眠ったままで、病室には規則正しい計測器の音だけが今日も響いている。
パイプシートを出す時間も惜しいのか、美琴は上条の眠っているベッドの空いているスペースに腰を落とすと、ポツポツと話し始める。
「……ったく、アンタが眠ったままだと課題に手がつかなくて苦労したわよ」
「……。」
「おかげで隈も出来るし黒子に心配されるし。……まぁ、私が選んだ事なんだけどさ。アンタが言う通り課題に追われるのは確かにゾッとするわね」
「……。」
「でさ、アンタは忘れてるかもしれないけど私はアンタに負けっぱなしなのよ」
「……。」
「あまり時間もないし、『家族』にも頼まれちゃったからさ。それに私が私らしく居られる為にも、いい加減決着つけさせてもらうわよ幻想殺し。アンタの呪いからも幻想からもコイツを返してもらう!!」

学園都市の超能力者は、1%にも満たない『能力を使う可能性』というズレた現実を観測して、それを世界に出力している。
これが能力者達の基礎『自分だけの現実(パーソナルリアリティ』だ。
『自分だけの現実』の強さは能力の強さに比例する。
御坂美琴という少女が居る。彼女は学園都市に七人しか居ないレベル5の一人である。

上条当麻は呪いに犯され眠り続けている。
インデックスはこう記していた。『魔術』も『科学』も通用しない。けど『祈りは届く』と。
美琴は上条の右手を握ると静かに瞳を綴じた。祈るように、この想いが届くようにと。

それは科学も魔術も通用しない悪夢という『現実(幻想』が九九%の常識からあぶれた、たった一%の『異なる可能性』を引き起こした。



「……なぁ、御坂」
「……何よ?」
「いつか、あの時の白いドレス着てヴァイオリン弾いてくれよ」
「……アンタ覚えてるの?」
「……バーカ。思い出したんだよ」

この日、御坂美琴は誰かを救い続けた救われる事の無かった少年をようやく救った。
たったそれだけのお話。







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