(無題)4
(無題)3 | の続編です。 |
~幕間~
漆黒の闇夜に包まれた学園都市を、一人の少女が疾走していた。
その少女は、純白の修道服を身に纏っていた。
漆黒に対する純白、学園都市に対する修道服。
彼女の存在は間違いなく『異質なるもの』であった。
その少女は、純白の修道服を身に纏っていた。
漆黒に対する純白、学園都市に対する修道服。
彼女の存在は間違いなく『異質なるもの』であった。
そして、彼女は闇夜に向ってひとり咆哮した。
「とうまは帰って来るのがおそすぎるかも!もう夜の9時を過ぎてるというのに!」
~幕間終わり~
~あらすじ~
当麻さんがそそのかされて御坂さんをデートに誘い……
まあ、いろいろありました。
いろいろの1 | |
いろいろの2 | |
いろいろの3 |
続きはWEBで!
~あらすじ終わり~
「ふにゃー」
顔を真っ赤に染めあげ、糸の切れたマリオネットのように、ぺたんとその場に崩れ落ちた御坂。
もしもーし、と何度か呼びかけるが、うんともすんとも言わない。
どうやら魂が『あちらの世界』へと長期休暇へ出かけてしまったようだ。
顔を真っ赤に染めたまま口をぽかーんとおっぴろげたその表情は、正直見るに耐えない。
学園都市を代表するレベル5には到底見えない、何とも滑稽なものだった。
「……ったく、いきなり意識ぶっ飛ばすとか大丈夫かよ……」
悪態をつきながら肩を抱き上げ、起こしてやろうとすると、
「……むにゃ……………ぇ?………ふぇええ?ふぇえええええっ?!」
と、声にならない声を上げ、尋常ならざるスピードで跳ね起きた。
うむ、いいセンスだ。
筋肉番付のビーチフラッグスではきっと良い記録が残せるだろう。
「な、なんでアンタがこんなとこにいんのよっ!」
「いちゃ悪いかよ……つか、お前らこそこんな往来でなにやってんだ?」
「愚問ですわ!もちろん、お姉様との睦み合いをオブウッ!」
膝蹴一発、変態沈黙。
「わ、私は黒子にオシオキを……って一体なんなのよ!突然デーぇっ、デデっ、デ……デ……」
「で?」
「デ、デ……そう!電流爆破デスマッチをしたくなったのよ!グレートニタに感化されちゃってね!」
「何処を探せばグレートニタに感化される女子中学生がいるってんだ……?」
「うるさいわねー!とにかく勝負よ!さあ、どっからでもかかってきなさい!」
「助太刀致しますわ!こんな類人猿など、私とお姉様の愛のタッグゥブルチィ!」
電流一閃、変態撃沈。
「勝負勝負って……今度せっかく遊びに行くんだし、もうちょっと仲良くさあ……」
ようやっと意識が現世に戻ったかと思うと、今度はいきなり勝負を挑まれる。
その相変わらずな御坂の態度に、俺は内心がっかりしていた。
こっちだってそれなりに覚悟を決めて誘ったのに、御坂の方は相変わらずの臨戦態勢。
戦国時代のMONONOFU共だって、いくら何でもここまで血気盛んではないだろう。
これじゃあデート当日も、下らない諍いで一日を棒に振るハメになるのは火を見るより明らかだった。
(まったく……どうすりゃいいんだよ……)
俺はため息をつきながら力なく首を振り、頭をガシガシと掻きむしった。
「「あー!もしかして!」」
突如として耳をつんざく金切り声が耳に突き刺さった。
今まで空気のような存在だった御坂の友達2人が、いきなり存在感を発揮し出したのである。
友達2人は目をキラキラと輝かせながら、快闊な声で尋ねて来る。
「もしかして、今度御坂さんとデートする人ですかぁ?」
「もしかして、『例のアイツ』ですかぁ?」
「御坂さんのことは何と呼んでるんですか?」
「御坂さんとのなれ初めについて教えて下さい!」
もう質問責めに遭うのはこりごりだったが、先程の下心にまみれたバカ2人のゲスな質問とはワケが違う。
目の前にいるのは、まだ見ぬ未来に燦然と瞳を輝かせている純真無垢でピュアな少女なのだ。
と同時に、彼女達は世界で最も繊細で扱いづらいとされる『思春期の女の子』でもある。
そんな彼女達の質問を無碍にすることなど、到底出来るはずもない。
俺は極力波風を立てないように、薄氷を踏む思いで慎重に答えた。
「え、あ、『例のアイツ』ってのはよく分かりませんが、まあ、はい……いちおう御坂とは今度……」
「キャーーーーーー!!!!!!!」
再び金切り声が俺の耳に突き刺さる。
きっと俺の鼓膜は、ネコを飼っている家の和室の障子並みにズタボロになっているだろう。
キンキンする耳を抑えながら、果たしてどう回答しようかと苦笑いを浮かべていると、
「へぇ………………」
「ほう……………………」
友達2人の顔が鼻息のかかりそうな距離にまで迫っていた。
長い黒髪に白い花の髪飾りをつけた少女は、興味津々といった様子で、
頭頂部に花が生い茂って……いや、花の下部から生えている少女は、恐る恐る及び腰といった様子で。
俺の顔のどこかにウォーリーが隠れているワケでもないのに、穴が開きそうな程の熱視線をグリグリと浴びせかけて来る。
「むむ…………………」
「ふーむ…………………」
「う~ん………………?」
「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ………」
たっぷり30秒は見つめられた。
何故この少女達はここまで人の顔面を凝視したがるのだろうか。
俺がよっぽど珍妙な顔をしているのか、それとも本当に顔のどこかにウォーリーが隠れているのか、要因は分からない。
しかし、俺にそんなことを心配している余裕は無かった。
なぜなら。
(さっき食べたテリヤキのソース、口の端に付いてねえだろうな……?)
俺はテリヤキバーガーをチョイスしたことを、今更ながら後悔していた。
どうしてあそこでチーズバーガーにしなかったのか。
どうして食べ終わったあとにナプキンで口を拭わなかったのか。
どうして帰る前に鏡で確認しなかったのか。
果てしない悔恨の念が押し寄せる。
しかし、悔しさや焦りを表情に出す訳にはいかない。
なぜなら敵(?)は眼前に迫っているのだ。
俺は極力動揺を悟られぬよう、しかしあくまでも柔和な表情を崩さぬよう、恐る恐る尋ねた。
「あの……もしかして口の周りに何か……?」
「一見ぱっとしない風貌の中に秘められた『艶男-アディオス-』オーラ……」
「さすが御坂さん、良い仕事してますね~って感じですかね……」
「初春刑事、これは相当な数の女を手玉にとってきたと見えるね。恐らく1万人近くは……」
「いいや佐天警部。たとえそうであったとしても、おそらく彼の女ったらしは無自覚のうちに……」
「だろうねぇ。でも無自覚な女たらし程タチの悪いものはないからねぇ……」
「そうなんですよ。さっきから見つめられてると私も……」
「ダメダメ!ちょっとでもツバつけようもんなら、即『超電磁砲』が飛んで来るからね……!」
俺の心配をよそに、彼女達は額を寄せ合って審議タイムに入った。
HOUKAGO-Thinking-Time……略して『HTT』いや、何でもない。
何やら不穏な話をしながら眼光鋭く俺を詮索するその姿は、さながら越後屋と悪代官の如くである。
と言うより、いつ獲物に飛びかかろうかと待ち構えている血に飢えたチーターと言った方が近しいのかもしれない。
さっき『純粋無垢でピュアな少女』って言ったやつ、誰だ。
今すぐ目ん玉をアイボンでシャバシャバしてからもう一度見直してみろ。
三遊亭○太郎もビックリの腹黒さじゃねえか。
しかし、再びマジマジと見つめられた後、
「……………まあ」
「……………でも」
「……………いい」
「……………ね。」
と、互いに見つめ合い、何かに合意するように頷き合っていた。
そして、上目遣いにこちらを見つめる顔は、何故か高揚しているように見えた。
果たして何に納得したのかは分からないが、とにかくお眼鏡に適って何よりである。
対応に苦慮した俺は、ひとまず
「はは、ははは……」
と乾いた愛想笑いでお茶を濁しておくことにした。
「なんでや……なんでいっつもカミやんばっかりモテるんや……?」
突如であった。
マントルの底から捻り出したような重低音ボイスが、身体中に響き渡った。
あまりにも圧倒的な負のオーラに支配された俺は、その場に釘付けになる。
(いったい何が……?)
冷や汗を流しながら恐る恐る振り返ると、そこには目元にピキピキと青筋を立てながら満面の笑顔を浮かべている青髪の姿が。
「……こんなん許されるわけあらへん。いや、たとえお天道様が許したって、ボクは絶対に許さへんで……!」
ニコニコ顔に青筋を立てて、指の間接をポキポキと鳴らす青髪。
その表情は『満面の笑み』+『ブチ切れ』という、相反する2つの要素を内包していた。
あまりにも暴力的な威圧感によって、俺は無意識の内にジリジリと後ずさりしていた。
得体の知れない青髪の威圧感に、俺は底知れぬ恐怖を覚え、ひとり戦慄した。
ゴ○さんに叩き潰される前のネフェ○ピトーは、きっとこんな気分だったのだろう。
○ンさんいや、青髪は背後にどす黒いオーラを纏い、一歩一歩踏みしめるようにこちらへと迫りくる。
「ま、まて!待ってくれ……!話せばわかる!」
「問答無用や。カミやんみたいなんが女の子を独占しとるから、ボクのような末端には行き渡らへんねや!」
「やめっ!おい、土御門!た、助けてくれ!」
「カミやん、逝く前に一言忠告しとくぜい。『イス取りゲームは一人一席まで』だ」
「というワケでカミやん。ギブアップなし、TKOなし、ロープなしの無制限デスマッチといこか!」
「やめろ!やめてくぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!」
悲痛な叫びは、虚しく夜空にこだました。
「なんでや!なんでカミやんばっかりモテるんや!裏山けしからん!」
「カミやんはもう少し節度を持って行動するべきだったんだにゃー。カミやん先生の次回作、というか来世に期待しとくぜい」
「ごふぉ!ちょ、待て!俺がブフェッ!一体何をしたってんだ!」
私の愛する人は今、目の前でフルボッコにされている。
腹パン、肩パン、逆水平チョップは挨拶代わり。
マウントポジションでのタコ殴りからのギロチンチョーク、
グレイシー柔術顔負けのフロントチョーク、
筋肉番付の1stステージで立ちはだかる『反り立つ壁』並みの角度で反り返るキャメルクラッチ、
天守閣のてっぺんに取り付けても支障なさそうなリバースハーフボストンクラブ、
精神的にも多大なるダメージを与えるであろうロメロスペシャル、
身体がチョコモナカジャンボのように折れ曲がってしまいそうなアルゼンチンバックブリーカー、
そしてとどめはフェンスを使っての雪崩式ノーザンライトボム。
1、2、3のカウントで見事決着と相成った。
どれもが一級品の、見事な技のデパートだった。
もし東京ドームで試合が行われていたなら、会場のボルテージは最高潮に達し、観客は総立ちになっていただろう。
私も思わず手に汗握りつつ、惚れ惚れするような身体捌きに見入っていた。
といっても、試合内容は一方的で当麻の圧倒的大敗だったけど。
雪崩式ノーザンライトボムを(アスファルトの上で)食らって、ぐったりしている当麻に白タオルを投げ込んだ。
これ以上は当麻の選手生命、いや、生命そのものに関わる。
私は当麻に駆け寄り、IWGPのベルト……いや、当麻の身を案じた。
「だ、大丈夫……?」
「……人間不信になりそうだ」
ぐったりとしたまま、息も絶え絶えにつぶやく。
このままでは謎の書き置きと共に失踪しかねない。
いくらなんでもアスファルト上での雪崩式ノーザンライトボムはマズ過ぎる。
私は青い髪色のいかにも胡散臭そうな男を睨み、叫んだ。
「ちょっと!いくら何でも雪崩式ノーザンは無いんじゃない!?」
「御坂さん、僕たちは殺し合いをしとるんやない。分かってくれや」
「違うわよ!あそこは雪崩式フランケンシュタイナーでしょ!?」
「そっちかい!っちゅーか、御坂さんっていう立派な彼女がおるのに、他の女の子にもちょっかい出すカミやんが悪いんやで!」
「ふぇっ!?かっかかかかっかかっかか彼女って、わ、わたわっっわわわ私とアイツはそんな関係じゃ……」
思わぬ反撃に私はたまらず赤面し、口ごもる。
そう。
たとえデートに誘われたとは言え、私と当麻は『彼氏と彼女』の関係ではない。
よく勘違いされるし、勘違いしたいし、勘違いされたいし、出来るものなら現実になって欲しいとは思う。
しかし、私は『まだ』当麻から想いを告げられていないのだ。
(ま、今度のデートの後にはどうなってるか分からないけどむふふふふふふふふ……)
と、密かに期待と妄想を張り巡らせてはいるのだけれど。
羞恥と妄想に身をくねらせていると、隣に倒れていた当麻がぶちぶちと悪態をつきながら立ち上がろうとしていた。
「痛てぇ……アイツら信じらんねぇ……」
ただでさえ危険なノーザンライトボム。
しかも雪崩式。
しかもしかもアスファルトの上。
アスファルトの上で雪崩式ノーザンライトボムって、そりゃまあ、信じられないと思う。
まあどっちかって言うと、アレをまともに食らってピンピンしている当麻の方が信じられないと私は思うけど。
私はすかさず駆け寄り、
「だいじょうぶ?あ、たんこぶになってる……」
私は当麻に問いかけつつ、ツンツンした頭を撫でてあげる。
これは当麻の身を案じつつ、さりげなくボディタッチも行えるという、非常に合理的かつ魅力的な奸計なのだ。
(むふふふふ…今日は手、洗わないようにしなきゃね……)
うん、私、黒子顔負けの変態だ。
でも今はこのラッキーなハプニングを大事にしなければ。
内心にまにましつつ、当麻の頭を撫で続けていると、
「ひゅーひゅー!」
「お二人さん、おアツいですねー!」
と佐天さんと初春さんが囃し立ててくる。
少し照れくさいが、私は2人の声援に手を挙げて応えつつ、
「いやー!どうもどうも!結婚式には招待するからね~!」
とハニカミながら答え
(れるわけないでしょーがっ!)
もちろん、さっきの台詞は妄想だ。
返事の代わりに『うがー!』と謎の雄叫びをあげ、ひとりヘッドバンギングに勤しんだ。
「……佐天さん、御坂さんってちょっと頭ヘンなんですかぁ?」
「しっ!白井さんに聞かれたら『スケキヨ』にされちゃうよ!」
おいこら、本人に丸聞こえだぞ。