とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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序章 ③罪と不幸


一方通行と戦った少年…上条が目を覚ますと、
そこには上条が救った少女の一人…美琴が上条のベッドに伏すように眠っていた。
その顔には一筋の涙が零れた跡があり、うわ言のようにお兄ちゃんと寝言を言っている。

「本当は気付かないでいてくれた方が良かったんだけどな」

上条は独り言のように呟いた。
すると上条の声に反応するように美琴が目を覚ました。

「お兄ちゃん?」

「うーん、最近までアンタが馬鹿だったのが お兄ちゃんに急に格上げとは…」

「お兄ちゃん、私…」

美琴は俯きながら呟くように言った。
その表所には翳りが差している。
上条は美琴が何を言わんとしているか、辛いほどよく分かった。
話によると絶対能力進化の実験は凍結に追い込まれたらしい。
それでも1万人以上の命が失われた。
それを美琴は心の底から悔やんでいるのだ。
慰めるのは簡単だ、美琴に責任は無いと言ってやればいい。
でもそれじゃあ本当に美琴を救うことにはならない。
本当に美琴を救うためには美琴自身が自分の闇と向かい合わなければならなかった。

「無責任なことは言えないけどさ、
 やっぱり美琴は死んでいった妹達のためにも
 今回の件から目を逸らしちゃいけないような気がする」

「…うん、分かってる。
 ちゃんと私の罪は一人で背負っていくつもりだから」

美琴の言葉には少し悲壮感が漂っているものの、強い決意を感じさせた。
美琴は決して自分の過去から逃げるようなことはしないだろう。
でも美琴が抱えるものは一人で背負うにはあまりに重い。
だから上条も覚悟を決める、不幸を背負うことの辛さは誰よりも知っていた。

「一人だなんて言うな。
 美琴のことを本当に心から理解して支えてくれる人間が現われるまでは、
 俺が傍にずっと一緒にいてやる。
 だから辛い時は自分を押さえ込むようなことはするな。
 死んでいった妹達の分も、お前が泣いてやれ」

上条の言葉に美琴は言葉を詰まらせ、その瞳には涙が溢れ返っていた。
美琴は上条の胸に顔を埋めると堰を切ったように声を上げて泣いた。
そんな美琴のことを上条は黙って優しく抱きしめるのだった。



「落ち着いたか?」

「…うん」

上条は泣きやんだ美琴を抱きしめる手を緩めると…

「あの、もう少しだけでいいから抱きしめてて。
 今はお兄ちゃんの温もりを感じてたいの」

「ったく、昔から美琴は変なところで甘えん坊だな」

そう言って上条は再び美琴を抱きしめ直す。
すると美琴は上条に抱きしめられた体勢のまま言った。

「でも、どうして学園都市で初めて会った時に名乗ってくれなかったの?
 お兄ちゃんは私のこと気付いてたんでしょ?」

「名乗るも何も、いきなり電撃を放ってきたのはそっちじゃねえか?」

「それは、お兄ちゃんが失礼なこと言ったから…」

「だからって電撃はねえだろ」

「…何となくだけど、心の何処かでお兄ちゃんだってことに気付いてたんだと思う。
 それで、お兄ちゃんにだけは失礼なことを言われたくなくて」

「何で俺には失礼なことを言われたくないんだ?」

「そ、それは」//

何故か顔を赤くする美琴に上条は疑問を感じる。
そして上条にあまり深く追求されたくない美琴は話題を元に戻そうとする。

「でも その時以外にも名乗る機会はいっぱいあったでしょ?」

すると今度は上条が黙ってしまう。
その表情には先ほどまでの美琴と同じく翳りが差していた。
美琴を抱きしめてる上条の手が震えていた。
そして上条はボソっと呟くように言った。

「…美琴が俺に関わって不幸になるのが恐かったんだ」

「え?」

「俺の過去は知ってるだろ?
 俺にとって美琴と過ごした日々は光だ。
 だから思い出は思い出らしく輝いたままにしておきたかった。
 俺と関わって美琴との思い出が不幸なもんに変わっちまうのが嫌だったんだ」

上条はそう言って美琴を抱きしめていた手を離す。
美琴は上条の言葉に、昔 上条と最後に遊んだときの表情を思い出した。
幼い時は分からなかったが、あの時 上条は既に限界だったのだ。
今の自嘲するように笑う上条の顔は、あの時の表情とよく似ていた。

(昔からお兄ちゃんはいつも私のことを助けてくれた。
 そして今回も…
 だから今度は私がお兄ちゃんを助けてみせる!!)

美琴は手を離した上条の代わりに上条のことを抱きしめ返した。

「美琴?」

「お兄ちゃんはさっき 私のことを理解して支えてくれる人が出来るって言ってたけど、
 私はそんな人は現われなくていい。
 お兄ちゃんさえ傍にいてくれればいいの」

「でも、俺は不幸で…」

「お兄ちゃんが罪を背負った私を支えてくれるように、
 私も不幸を背負ったお兄ちゃんを支える。
 それだったら お互いの立場も関係もイーブンでしょ?」

「いや、そういう問題じゃなくてな」

「私がそう決めたの、これから私達は一心同体。
 何があっても私は当麻のことを支えるから、
 何かあったら昔みたいに当麻も私のことを助けてね」

「何故に急に呼び捨て?」

「言ったでしょ、立場も関係もイーブンだって」

美琴はそう言って上条に向かって微笑みかける。
その笑顔を見て上条は不幸に襲われる前の、
純粋に善意から人助けをしていた時の記憶を思い出す。
今の上条は偽善使いを称して、
困っている人を助けるために何かやったという慰めのためだけに動いていた。
だが美琴を襲っている闇を知った時、上条の中で昔あったものが再び芽吹いた。

(昔はこうやって誰かの笑顔を見るのが大好きだったんだよな。
 そしてその中でも美琴の笑顔が一番…
 …例え俺が不幸でも大切な人の幸せを支えるくらいは許されるよな?)

上条は自分を抱きしめている美琴の背中に手を回す。

「分かったよ、俺はもう自分の不幸からも美琴からも逃げない。
 それに、こんなに可愛い女の子が支えてくれるのに不幸だなんて言えないしな」

「うん、私が絶対に当麻のことを幸せにしてみせるんだから!!」









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