とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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序章 ②激闘の終わり


少女は戦う少年の姿に何処か既視感を覚えていた。

(学園都市に来る前も、誰かにこうやって助けて貰ったことがある気がする)

少女は記憶の中を探るが、何か靄が掛かったように思い出すことが出来ない。
それはとても辛い記憶…
少女のアイデンティティさえ崩してしまうような惨い記憶…
温かい手をした少年が迷子になった自分の手を引いて歩いていた。
少女は確かにその少年のことが幼いながらに好きだったんだと思う。
思いがけず蘇った初恋の記憶に少女は戸惑うものの、
より深い記憶の深層に足を踏み入れていく。

高電離気体を消されて怒り狂う一方通行は妹へ向かって歩を進めていく。
その間に少女は割り込むように立ち塞がった。

「…させると思う?」

「ハッ、図に乗ってンじゃねェぞ格下が。
 オマエじゃ俺に届きゃしねェよ、足止めすらできやしねェ。
 視力検査ってなァ、2.0までしか測れねェだろ?
 それと一緒さ、学園都市にゃ最高位のレベルが5までしかねェから、
 仕方なく俺はここに甘ンじてるだけなンだっつの」

一方通行は顔面を引き裂くような笑みを浮かべている。
それは見た者なら誰でも凍りつかせるような笑みだったが、
少女は不思議と恐怖を感じることはなかった。

(どうしてだろう、全然 恐いって思わない。
 この一帯を包むように懐かしい安心感が漂ってる)

そんな状況でも少女は記憶の中に足を踏み入れるのを止めなかった。
とてもそんなことをしている状況でないことは分かっている。
でも止めるわけにはいかない、何故かそれはとても大事なことだと感じる。
少年に向かって石が投げつけられる。
大怪我を負って退院したばかりの少年のことを
大人達がカメラを回して嘲笑を浮かべながら取り囲んでいる。
少年を庇うように立ち塞がる少年の両親。
おじさんのことも おばさんのことも大好きだった。
おじさんとおばさんの顔は思い出せるのに、少年の顔だけが思い出せない。
少年達がいなくなる前の日、少女は少年と最後に一度だけ遊んだ。
以前とは違い翳が差した少年の寂しそうな笑顔。
その笑顔が少女の中に蘇るように浮かび上がった。

「…お兄ちゃん?」

少女は呟くように言った。

「あァ、何言ってやがるンだァ?」

一方通行は少女の呟きを理解できないようだった。
妹も少女が何を言っているか分からない。
一方通行が少女から殺してしまえと考えた、その時…
がさり、と一方通行の背後で何か物音が聞こえた。
一方通行は恐る恐る振り返る。
そこに、信じられない光景が広がっていた。
風速120mもの暴風に吹き飛ばされて、
風力発電の支柱に激突したはずの少年がゆっくりと立ち上がる所だった。
少年の体には無数の傷があり、
少しでも筋肉に力を込めるだけであちこちから血が噴き出しているようだった。
その体にはもうまともな力が入らず、両の脚はがくがくと震え、
両の手は柳の枝のようにぶらりと垂れ下がっていた。
それでも、少年は倒れない。
絶対に、倒れない。

「ったく、お前は昔から人の居ないところで無茶ばっかりしやがって…
 その度に俺は心配して駆けずり回ることになってたんだぞ」



少年はボロボロの体を動かして一歩前へ進む。
その姿はやはり見ていて辛くなるほど弱々しいものだった。
だが少女は目を逸らすことをしない。
何故ならこの物語のハッピーエンドが既に見えていたから…
それは妄信ともいえる願望だということは少女自身 分かっていた。
でも少年なら、自分が大好きだった少年なら最高の物語の結末を作り出してくれる。
少女にはそんな確信があった。

「面白ェよ、オマエ…」

一方通行の声が響き渡る。

「…最っ高に面白ェぞ、オマエ!」

そうして、夜空に吼えるように絶叫した一方通行は
少年を撃破するために拳を握って駆け出した。
地面を蹴る足の力のベクトルを変更した、
砲弾じみた速度であっという間に距離を縮めてくる。
それは少年にとって好都合だった。
向こうから近づいてきてくれるなら、それに越した事はない。
今の少年のボロボロの体では、
一方通行の元まで辿り着く前に倒れてしまっていただろうから。
少年には何の力も残されていない。
その体には、自分の足で立って歩くだけの力も、
自分の舌で言葉を紡ぐだけの力も、自分の頭で何かを考えるだけの力も、
…そんなわずかな体力さえも、残されていない。
少年に残されているとすれば、幼い日の少女と遊んだ懐かしい日々の記憶だけだった。
少年にとっては幸福ともいえるその記憶だけが、今の少年を支えていた。
だから、少年は右手を握る。
視線を上げる。
一方通行は、弾丸のような速度で真っ直ぐに少年の懐へと飛び込んできた。
右の苦手、左の毒手。
共に触れただけで人を殺す一方通行の両の手が、少年の顔面へと襲いかかる。
瞬間、時間が止まった。
体に残る、絞りカスのような体力の全てを注ぎ込んで、
少年は頭を振り回すように身を低く沈めた。
右の苦手が虚しく頭上を通り過ぎ、
追い討ちをかける左の毒手を少年は右手で払い除ける。

「歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)…」

二重の必殺を封殺され、心臓を凍らせた一方通行に少年は言う。
密着するほどの超至近距離で、獣のように獰猛に笑い、

「…俺の最弱(さいきよう)は、ちっとばっか響くぞ」

少年の右手の拳が、一方通行の顔面へと突き刺さった。
一方通行の華奢な白い体が勢い良く砂利の敷かれた地面へ叩きつけられ、
乱暴に手足を投げ出しながらゴロゴロと転がっていった。









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