第2章(2)
上条と建宮が爆発が起きた場所に駆けつけると、
数十人のシスターがゾロゾロと集まっていた。
シスター達に囲まれるように数人の少年少女達が倒れている。
そしてその中には…
数十人のシスターがゾロゾロと集まっていた。
シスター達に囲まれるように数人の少年少女達が倒れている。
そしてその中には…
「美琴!!」
爆風に晒されたのか着ている常盤台の制服がところどころ破けた美琴の姿があった。
大きな外傷を負っているようには見えないが、
気を失っているのか美琴は上条の声にもピクリと動かない。
他にも修道服を着た少女も倒れており、
恐らく彼女がオルソラだろうと上条は当たりをつけた。
大きな外傷を負っているようには見えないが、
気を失っているのか美琴は上条の声にもピクリと動かない。
他にも修道服を着た少女も倒れており、
恐らく彼女がオルソラだろうと上条は当たりをつけた。
「天草式を潰しにやって来たら、思った以上に大きな獲物が掛かりましたね。
まさかオルソラ=アクィナスの件に学園都市が、
しかも私らにとって最も大きな障害とされている『幻想殺し』が介入してるとは…
これは戦功を立てるチャンスだって思うべきなんですかね?」
まさかオルソラ=アクィナスの件に学園都市が、
しかも私らにとって最も大きな障害とされている『幻想殺し』が介入してるとは…
これは戦功を立てるチャンスだって思うべきなんですかね?」
背中までの赤毛を鉛筆くらいの太さの細かい三編みに分けているシスター…
アニェーゼ=サンクティスは建物の上から上条たちを見下ろすようにして言った。
上条はアニェーゼを睨みつけると、怒鳴りつけるように言った。
アニェーゼ=サンクティスは建物の上から上条たちを見下ろすようにして言った。
上条はアニェーゼを睨みつけると、怒鳴りつけるように言った。
「俺が狙いなら相手になってやる。
だから美琴や天草式の人間を解放しろ!!」
だから美琴や天草式の人間を解放しろ!!」
「アハハ、馬鹿なことを言っちゃいけませんよ。
ローマ正教の最終兵器たる『グレゴリオの聖歌隊』を一人で受け止めた化け物相手に
正面から戦う馬鹿が何処にいるって言うんですか?
見たところ学園都市の人間も一人混ざってるようですし、
人質は丁重に預からせてもらいますよ、そう丁重にね…」
ローマ正教の最終兵器たる『グレゴリオの聖歌隊』を一人で受け止めた化け物相手に
正面から戦う馬鹿が何処にいるって言うんですか?
見たところ学園都市の人間も一人混ざってるようですし、
人質は丁重に預からせてもらいますよ、そう丁重にね…」
そう言ったアニェーゼの顔には下劣な笑みが浮かんでいる。
ローマ正教にとって学園都市の人間は異教徒たる大敵だ。
その人間を丁重に扱うなどありえないことを上条はよく理解していた。
ローマ正教にとって学園都市の人間は異教徒たる大敵だ。
その人間を丁重に扱うなどありえないことを上条はよく理解していた。
「人質を解放する条件は何だ?」
「話が早くて助かります。
どうやら上の人間があなたに用があるようなんです。
だから大人しくバチカンまで付いて来てもらいましょうか?」
どうやら上の人間があなたに用があるようなんです。
だから大人しくバチカンまで付いて来てもらいましょうか?」
「…分かった」
「でも途中で暴れられたりしたら敵いませんから…
そうですね、ここにはちょうどあなたに同胞を傷つけられ
怒りに満ち溢れているシスターが大勢います。
彼女達に手伝ってもらって、
抵抗する意思がなくなるまで痛めつけさせてもらいましょうか?
もちろん途中で割って入るような人間がいたら人質は殺します。
異教徒を殺すのには何のお咎めもありませんからね」
そうですね、ここにはちょうどあなたに同胞を傷つけられ
怒りに満ち溢れているシスターが大勢います。
彼女達に手伝ってもらって、
抵抗する意思がなくなるまで痛めつけさせてもらいましょうか?
もちろん途中で割って入るような人間がいたら人質は殺します。
異教徒を殺すのには何のお咎めもありませんからね」
上条は黙って頷くとシスターたちに向かって進み出る。
「ちょっと待つのよな!!
人質には天草式の人間もいる。
お前さん一人に無茶をさせるわけには…」
人質には天草式の人間もいる。
お前さん一人に無茶をさせるわけには…」
「いや、俺が来たことによって却って状況を悪化させちまったって部分もある。
お前は何かあった時にコイツらがちゃんと約束を守るか見張っててくれ」
お前は何かあった時にコイツらがちゃんと約束を守るか見張っててくれ」
そして上条はシスター達の前に進みでた。
するといきなり一人のシスターが持っていた杖で上条のことを殴りつけた。
上条の体は大きく揺らいだが倒れることなく、そのままその場で佇む。
上条の額からは血が流れ出ていた。
するといきなり一人のシスターが持っていた杖で上条のことを殴りつけた。
上条の体は大きく揺らいだが倒れることなく、そのままその場で佇む。
上条の額からは血が流れ出ていた。
「約束は守るんだろうな?」
「人質は約束を守って何ぼののもんですからね。
下手に約束を破ってアンタに暴れられたら、たまったもんじゃありませんから」
下手に約束を破ってアンタに暴れられたら、たまったもんじゃありませんから」
「…そうか」
そして異教徒の粛清という名の暴力が上条に降りかかるのだった。
上条が嬲られ始めてから数十分、
上条の体は時間を追うごとにボロボロになるのが目に見えてきた。
しかし上条の目から強い光が消えることはない。
それはひたすら何かを待っているそんな風にも見えた。
そんな上条が面白くないのか、
アニェーゼは上条の脇腹を蹴りながら不機嫌な様子で言った。
上条の体は時間を追うごとにボロボロになるのが目に見えてきた。
しかし上条の目から強い光が消えることはない。
それはひたすら何かを待っているそんな風にも見えた。
そんな上条が面白くないのか、
アニェーゼは上条の脇腹を蹴りながら不機嫌な様子で言った。
「悲鳴をあげることもしないし、助けを請うこともしない。
ここまでつまらない拷問は初めてですよ」
ここまでつまらない拷問は初めてですよ」
するとアニェーゼは何か思いついたように再び下劣な笑みを浮かべた。
「…あなたのような人間には肉体的苦痛よりも
精神的苦痛のほうが効くのかもしれませんね?
あなたの前で人質を傷つけるのも一興…」
精神的苦痛のほうが効くのかもしれませんね?
あなたの前で人質を傷つけるのも一興…」
しかしアニェーゼが言い終える前に、凄まじい殺意がその場を支配した。
シスターの何人かはガタガタと震え始め、呼吸がままならぬ者までいた。
アニェーゼも震えを抑えることが出来ずに、両腕を組んで肩を押さえつけている。
シスターの何人かはガタガタと震え始め、呼吸がままならぬ者までいた。
アニェーゼも震えを抑えることが出来ずに、両腕を組んで肩を押さえつけている。
「約束を破るなら、こっちにも考えがあるぞ」
上条はただ静かにそう告げただけだった。
しかしアニェーゼの心は完全に恐怖に支配されている。
アニェーゼは勘違いをしていた。
『幻想殺し』と戦って死亡した魔術師はローマ正教にはいない。
いつも丁寧に学園都市から送り返されてくるのだ。
だからアニェーゼは『幻想殺し』が甘い人間だとばかり思っていた。
実際に人質を取られて敵に屈するなど、甘いとしか言いようがない。
だが今、上条から発せられてるのはまさに人を殺すことが出来る殺意だった。
しかしアニェーゼの心は完全に恐怖に支配されている。
アニェーゼは勘違いをしていた。
『幻想殺し』と戦って死亡した魔術師はローマ正教にはいない。
いつも丁寧に学園都市から送り返されてくるのだ。
だからアニェーゼは『幻想殺し』が甘い人間だとばかり思っていた。
実際に人質を取られて敵に屈するなど、甘いとしか言いようがない。
だが今、上条から発せられてるのはまさに人を殺すことが出来る殺意だった。
(何なんですか、この男は!?
噂通りの甘い人間だと思っていたら、こんなとんでもない殺意を振りまいて…
もしかして私達はとんでもない逆鱗に触れちまったんじゃ!?)
噂通りの甘い人間だと思っていたら、こんなとんでもない殺意を振りまいて…
もしかして私達はとんでもない逆鱗に触れちまったんじゃ!?)
アニェーゼが上条に対して戦慄を覚えた瞬間…
バチバチバチッ!!!!!
電気がショートするような激しい音と共に、
人質を囲んでいたシスター達が音もなく倒れていった。
人質を囲んでいたシスター達が音もなく倒れていった。
「な、何事ですか!?」
すると倒れたシスターとは対照的に一人の少女が立ち上がった。
その身には激しく電気が帯電している。
その身には激しく電気が帯電している。
「…遅えよ」
「ごめん、後で精一杯謝るから。
でも今は当麻をそんな目に遭わせた人間を駆除させてくれる?」
でも今は当麻をそんな目に遭わせた人間を駆除させてくれる?」
そして眩い光が辺り一帯を包み込んだ。
「な、何が!?」
アニェーゼが瞑っていた目を開けると上条を取り囲んでいたシスター達も
焼け焦げるような音と共に地面に倒れこんでいた。
焼け焦げるような音と共に地面に倒れこんでいた。
「何をしやがったんですか!?」
美琴は確かに複数人の魔術師を相手に戦うことに慣れていない。
しかしそれは正面から戦い、相手を必要以上に傷つけないよう配慮した場合のみだ。
相手のことを考慮せずに殲滅することだけを念頭に置いた場合、
美琴の戦闘力は対複数の戦闘において上条を遥かに上回る。
しかしそれは正面から戦い、相手を必要以上に傷つけないよう配慮した場合のみだ。
相手のことを考慮せずに殲滅することだけを念頭に置いた場合、
美琴の戦闘力は対複数の戦闘において上条を遥かに上回る。
「私の大事な人を傷つけた落とし前はしっかりつけさせて貰いましょうか?」
美琴の言葉に呼応するように上条もゆっくりと立ち上がる。
そして正規のメンバーの数に届かないながらも
他のチームの『執行部』と何ら遜色ない戦闘力を誇ると言われる
『グループ』の戦いが始まった。
そして正規のメンバーの数に届かないながらも
他のチームの『執行部』と何ら遜色ない戦闘力を誇ると言われる
『グループ』の戦いが始まった。
天草式のメンバーと協力しローマ正教のシスター達を一人残らず倒しきると、
上条と美琴は建宮とオルソラを交えて
今後のオルソラの身の振り方について話し合っていた。
上条と美琴は建宮とオルソラを交えて
今後のオルソラの身の振り方について話し合っていた。
「オルソラ、確かにイギリス清教が油断ならないところだってことは分かってる。
でもローマ正教に比べれば遥かにマシなはずだ」
でもローマ正教に比べれば遥かにマシなはずだ」
「…そうでございますね。
これ以上、天草式の皆様に迷惑を掛けるわけにもいきませんし」
これ以上、天草式の皆様に迷惑を掛けるわけにもいきませんし」
「それについては考えがあるのよな。
我ら天草式もオルソラ嬢と一緒にイギリス清教の下につく。
そうすれば、いざという時にオルソラ嬢を守ることも出来るのよな」
我ら天草式もオルソラ嬢と一緒にイギリス清教の下につく。
そうすれば、いざという時にオルソラ嬢を守ることも出来るのよな」
「いいのでございますか?」
「どうせローマ正教と事を構えちまった以上、
俺たちだけでやっていくのは無理があるからな。
イギリス清教には女教皇様もいることだし、そんなに悪いことじゃないのよな」
俺たちだけでやっていくのは無理があるからな。
イギリス清教には女教皇様もいることだし、そんなに悪いことじゃないのよな」
「分かった、イギリス清教の使者には俺から連絡を入れておく」
「よろしく頼むのよな」
そうしてオルソラと天草式の今後についての話し合いは終わった。
勝利の宴を始める天草式の面々から少し離れて、
夜風に当たるように佇む上条の隣に美琴は並んで経つ。
勝利の宴を始める天草式の面々から少し離れて、
夜風に当たるように佇む上条の隣に美琴は並んで経つ。
「怪我の具合はどうだ?」
「うん、元々軽傷だったから天草式の回復魔術のお陰でもう全然平気よ。
気絶してたのも爆風で吹っ飛んで頭を打っちゃったからみたいだし…
それより当麻は大丈夫?」
気絶してたのも爆風で吹っ飛んで頭を打っちゃったからみたいだし…
それより当麻は大丈夫?」
「まあ体の節々は痛むけど思ったより大したことなさそうだ。
見ての通り体も動くし何の問題もない」
見ての通り体も動くし何の問題もない」
「体が動くのが大丈夫な証っていうのも心配だけどね…」
美琴は少し黙ったあと、普段の勝気な美琴からは考えられないほど弱々しい声で言った。
「ごめんなさい、私が人質に取られちゃったせいで当麻が傷ついて」
「何言ってるんだ、俺のほうこそ美琴に怪我を負わせるような形になっちまって…
本当にすまなかった」
本当にすまなかった」
すると上条は何も言わずに美琴のことを抱きしめた。
突然の出来事に美琴は驚くが、そのまま黙って上条に身を預ける。
しばらくお互いに抱きしめたままの状態でいると、上条が重々しく口を開いた。
突然の出来事に美琴は驚くが、そのまま黙って上条に身を預ける。
しばらくお互いに抱きしめたままの状態でいると、上条が重々しく口を開いた。
「あのさ…」
「駄目!!」
「まだ何も言ってねえだろ?」
「私に執行部を抜けるよう言うんでしょ?」
「うっ…」
「本当は嫌で仕方ないけど、当麻に危険なことを止めるようには言わない。
でも私の知らないとこで傷つくことだけは許さない」
でも私の知らないとこで傷つくことだけは許さない」
「…分かったよ、例え執行部を抜けても美琴は勝手に首を突っ込んできそうだからな」
「良く分かってるじゃない?」
「その代わりメンバーはいい加減に決定するぞ」
「わ、分かったわよ」
今まで上条が他のメンバーを選定していなかったのは、
美琴が上条と二人きりの時間を邪魔されたくないという強い願いがあったからだった。
しかし土御門に優先的に協力してもらってるとはいえ、
二人きりで活動するのも限界に近付いていた。
美琴が上条と二人きりの時間を邪魔されたくないという強い願いがあったからだった。
しかし土御門に優先的に協力してもらってるとはいえ、
二人きりで活動するのも限界に近付いていた。
「…」
すると上条は無言のまま美琴を抱きしめる腕に力を込める。
「ちょっと、苦しい」
「悪い、もう少し美琴の温もりを感じさせてくれ」
「うん」//
そのまま上条と美琴は見つめ合う。
そして二人の顔は自然と近付き、唇を重ねようとしたその時…
そして二人の顔は自然と近付き、唇を重ねようとしたその時…
「主賓が見当たらないと思ったら、こんな所でいちゃついてたのよな?
そんなことは帰ってからも出来るだろうに…」
そんなことは帰ってからも出来るだろうに…」
しかし実際は上条と美琴は普段そういう雰囲気になることが極端に少なく、
付き合って一年も経つのにキスすらしていなかった。
思わぬ妨害に上条と美琴は激しく落胆する。
付き合って一年も経つのにキスすらしていなかった。
思わぬ妨害に上条と美琴は激しく落胆する。
「あれ、さっき並の殺気が俺に向かって放たれてるのよな…」
そして天草式教皇代理の断末魔が響き渡るのだった。
上条たちが宴会をしているのと同時刻、バチカンの聖ピエトロ広場にて
「アニェーゼ部隊との連絡が途絶えたようね」
顔中にピアスの穴が開いて、舌から十字架が付いた鎖を下げた女が忌々しげに呟いた。
「もうただの一部隊では学園都市の精鋭に敵わないということですかね?」
それに対して白人にしては背が低く、緑色の修道服を着た男が答える。
「まあそんなことは『グレゴリオの聖歌隊』が潰された時から
分かってはいたんだけどね」
分かってはいたんだけどね」
「それよりも一つ聞きたいことがあるのですが…」
「何?」
「連絡の中で『幻想殺し』が『ミコト』と叫んだのは本当ですか?」
「そうみたいね、何でも学園都市の電気を操る能力者みたいだけど」
「フフ、そうですか」
男の意図の分からない質問に女は首を傾げるが、
それとは対照的に男は何処か愉快そうな表情を浮かべて笑っている。
彼らの名前は『神の右席』…ローマ正教禁断の組織にして世界を動かすために存在する。
彼らの目的は名前の通り神の『右席』に座ることにある。
しかしその『真』の目的を知る者は殆ど存在しない。
『神上』…彼らがそこに至るための『ピース』の内、二つは学園都市が抱えている。
やがてそれらの『ピース』を巡って、
今までにない大きな戦いが引き起こされることを上条達はまだ知らないのだった。
それとは対照的に男は何処か愉快そうな表情を浮かべて笑っている。
彼らの名前は『神の右席』…ローマ正教禁断の組織にして世界を動かすために存在する。
彼らの目的は名前の通り神の『右席』に座ることにある。
しかしその『真』の目的を知る者は殆ど存在しない。
『神上』…彼らがそこに至るための『ピース』の内、二つは学園都市が抱えている。
やがてそれらの『ピース』を巡って、
今までにない大きな戦いが引き起こされることを上条達はまだ知らないのだった。