とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

068

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匿名ユーザー

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つまり、私があの子であの子が私で




「あの……それで元に戻れるんでしょうか…?」

ここは第7学区の病院。
外見年齢が10歳前後のその少女は、大きなアホ毛を揺らしながら心配そうに質問した。
少女の診療を終えたカエル顔の医者は、カルテを書きつつ質問に答える。

「ふむ……一種の記憶障害だね? そんなに心配しなくても、一日経てば元に戻れるね?」
「ホ、ホントですか!?」
「当然だね? 僕を誰だと思っている?」

医者にそう言われて、少女は心の底から安堵した。
一生…とまではいかなくても、もしかしたら暫くはこのままの状態なのではないかと覚悟していたのだ。

「良かった~…」
「それじゃあ、お大事にね? 御坂美琴さん?」

明らかに中学生未満の身体を持つその少女は、御坂美琴と呼ばれていた―――



ことの発端は今から二時間前、彼女が放課後にコンビニへ寄った後だった。

「あ~もう! 何で急に雨が降ってくんのよ!
 ホンット当てになんないわね樹形図の設計者の天気予報!!
 こんな事なら、さっきのコンビニでビニール傘でも買えばよかったわ!!!」

立ち読みを終えコンビニを出た直後はまだ小雨だったため、
「気にするほどじゃないか」と思っていたのだが、しだいに雨は強くなっていった。
オノマトペで表現するならば、「ぱらぱら」が「ざあざあ」になったのだ。

なので彼女は、寮までの道を走っていた。
一応、手持ちの鞄で頭をおさえているが、雨よけにしては心もとない。
そんな状況だったため、死角となっている曲がり角の奥から、
自分と同じように走ってくる少女がいる事に気が付かなかったのだ。

曲がり角…それは走っていると必ず出会い頭に人とぶつかるという、日本古来からのジンクスがある。
(特に食パンをくわえて、「わー! 遅刻遅刻ー!!」と言いながら走っていれば、
 その日、自分の学校に転校してくる男子と運命の出会いをする事だろう)
美琴もその例に漏れず、角に差し掛かった時、
「どっしーん!! ごろごろがらがら、どんがらがっしゃーん!!!」
という、あまり大丈夫そうじゃない擬音を発しながら誰かと衝突した。
激しく頭を打ち、悲鳴を上げる間もなくそのまま2メートル後方まで回転する。

「っつー!!」
「いったーい!!ってミサカはミサカは涙ぐみつつおでこを押さえてみたり!!」

その独特な口調から、ぶつかってきた相手【はんにん】は容易に特定できる。
自分のDNAマップを元につくられた軍用クローン、妹達。
その司令塔にして最終信号、打ち止めだ。
その容姿は10歳前後で、頭には大きなアホ毛が装備されているのが特徴である。

「ごめん、急いでたから! 大丈夫だった!?」と謝ろうとして美琴が目と口をを開けると、
そこには自分と同じ服を着た自分そっくりの少女がへたり込んでいた。
おかしい。
最初は妹達の10032号~20000号の誰かかと思った。それなら何も不思議ではないからだ。
しかし、先程の口調は確かに20001号のものである。
上位個体と下位個体では、若干の口調の違いがあるのだ。
「もしかして他の妹達同様、私と同い年に成長促進させられた?」と美琴が首を傾げていると、
打ち止め?が口を開いた。

「な、なな何でミサカがそこにいるの!!?ってミサカはミサカはあまりの出来事に驚愕してみる!!!」

目の前のこの子は何を言っているのか、と一瞬思ったが、直後に美琴は推測【りかい】した。
学園都市第三位の演算力と、今までの経験から得た豊富な知識(主に色んな漫画で)から、
ある事実を導き出したのだ。
いや、しかし…現実にそんな事が起こりえるのだろうか。
半信半疑ながら美琴はその場で立ち上がってみる。

……目線がいつもより低い。

恐る恐る自分の着ている服を見ると、やはり自分のものではない。子供服だ。
個人的に、こういった可愛い服は嫌いではないのだが、さすがにおおっぴらに着たりはしない。
という事は、だ。
これはつまり……

「ええええええええぇぇぇぇ!!!!? まままさか、い、い、入れ替わったあああぁぁぁぁ!!!?」

そういう事である。



で、現在に戻る。
打ち止めの体に美琴の性格を持つこの少女は、どんよりしながら病院を出た。
そんな彼女に追い討ちをかけるべく、雨はますます激しさを増している。

「……ていうか…何で私一人で病院に来なくちゃいけないのよ………
 打ち止め【あのこ】も一緒に診てもらわないといけないんじゃないの…?」

そう、打ち止めはあの後、美琴の体をエンジョイするべく、どこかへ行ってしまったのだ。
勿論追いかけようとはしたが、そこは子供の足だ。追いつける筈もなかった。
どこへ向かったのかは知らないが、この状況を素直に楽しめる打ち止めは、
大物なのか、それともただのアホの子なのか。
もっとも、「あれ? 今の私って見た目は子供頭脳は大人【リアルにコナンくん】じゃね?」と
一瞬でも思った美琴も美琴だが。

「あーもう…濡れようがどうでもいっか……」

自然治癒される【ほっときゃなおる】というのは良かったが、
だからと言って彼女の気分が晴れる訳でもなく、
若干自暴自棄気味にどしゃぶりの雨の中を歩こうとする。
そんな時である。

「ん? 打ち止めじゃねーか。今日は一方通行と一緒じゃないのか?」

ふと声をかけられた。
傘を差しながらこちらを見つめるのは、あのツンツン頭の少年だ。

「あー…アンタか。今日はちょっと相手にしてる気分じゃないわ……」

溜息をつきつつ手で「シッシッ」と追い払おうとするが、この男は良くも悪くも空気の読めない時がある。
打ち止め【みこと】(以下、美琴)の腕を強引に掴むと、

「何言ってんだよ。こんなに濡れてたら風邪引くだろ? 俺ん家近いから、シャワーだけでも浴びてけ。
 その後黄泉川家【アクセラレータんとこ】に連れてってやるから」

などとぬかしてきやがった。
せっかくの上条からの提案【おさそい】だが、テンションの低い美琴はこれをアッサリと断った。

「ア、アアアアンタん家!!? し、し、しかもシャワーって!!
 いや、あの、その、わ、わ、私達にはそそ、そういうのはまだ、は、早いんじゃないかしら!!?
 あっ、で、ででででもアンタがどど、どうしてもって言うなら……べ、別に…その………」

何を言うとるのかね、この子は。急にテンションもMAXである。
上条の頭上には、でかでかと疑問符が浮かび上がる。

その時だ。
美琴の頭の中が急に騒がしくなった。
ザワザワと色んな感情が流れ込んでくる。

『おいおい、彼の部屋でシャワー借りるとかそれ何てエロゲ?とミサカ10864号は愕然とします』
『ちくしょうそこ代われよ上位個体、とミサカ10032号は嫉妬の炎を燃やし尽くします』
『いえ、今の上位個体は正確にはお姉様です、とミサカ16787号は訂正します』
『今そこは関係なくね?とミサカ15523号はツッコミます』
『確かに上位個体であろうとお姉様であろうと羨ましいのには変わりませんね、
 とミサカ19683号は納得します』
『いやむしろお姉様である方が問題があるのでは!?とミサカ13590号はとんでもない事に気付きます』
『それは何故ですか?とミサカ18222号は首をかしげつつ質問します』
『上位個体はあのモヤシにぞっこんだから問題ありませんが、
 お姉様はそうではないからです、とミサカ16492号は13590号の説明を補足します』
『そ、それはつまり!?とミサカ12054号は冷や汗を垂らしながら聞き返します』
『彼に気があるお姉様は、そのままの勢いでR-18的な
 アレやコレやな展開にもつれ込ませる気かもしれません、とミサカ14918号はガクガクブルブルします』
『なにそれ羨まけしからん、とミサカ20000号は想像して鼻血を垂れ流します』

「だだだだだだから!!! そ、そそそういうのはまだ早いってば!!!」
「えっ!? 何が!? 何が早いのでせう!?」



脳内会議(?)に対して、思いっきり口に出してツッコミを入れる美琴と、それを聞いて困惑する上条。
そう、今の彼女は中身は美琴でも体は打ち止めなのだ。
つまりミサカネットワークとモロに直結しているのである。
だがその事実に気付いたおかげで、幸か不幸か少し冷静さを取り戻せた美琴である。

「あっ、て、ていうかアンタ気付いてないみたいだから言うけど、私、打ち止めじゃなくて美琴だから!」
「…は? 何言ってんだ?」

上条の頭上に、先程よりも大きな疑問符が浮かび上がる。

「だ、だから! 体は打ち止めだけど心は御坂美琴なの!! OK!?」

上条はしばらく考え、やがて何か閃いたように手をポンと打つ。

「あー、なるほど。美琴ごっこやってんのな」
「なっ!? 違っ!! 私は本物の美琴で―――」
「はいはい。じゃあ雨に濡れるから、俺ん家行こうなー? 美琴?」
「ア、アンタ信じてないでしょ!? 本当に私は打ち止めじゃなくて―――
 って! さ、さっきから私の頭を撫でるなあぁぁ!!」

上条は子供をあやす様にナデナデしている。全く美琴だと思っていないらしい。
万が一、目の前の美琴(仮)の言っている事が真実だったとしても、
この右手はあらゆる異能の力を打ち消す『幻想殺し』だ。
相手の頭を触れば、一発で解決する。
しかし現に、頭を撫でてもその気配は無い。だから上条は信じていない。
「打ち止めが美琴のフリをして遊んでいる」と勝手に解釈したのだ。
美琴にとって異能以外の【ぶつりてきな】力で人格が入れ替わってしまったのは、
果たして運が良かったのか悪かったのか。

「ま、何にしてもこんな所にいたら本当に風邪引いちまうし、とりあえず行こうぜ?」
「話はまだ終わってな―――って、えええええぇぇぇぇ!!!?」

上条はそのまま美琴を「よいしょ」と背負い、左手でがっちりロックした。
平たく言えばおんぶである。

「な、なななな何してる訳!!? は、は、恥ずかしいから降ろしなさいよ!!!」
「えっ、いやだって、俺とラスt…美琴ちゃんじゃ身長差ありすぎて、うまく一緒の傘に入れないだろ?
 こうやっておんぶして、余った右手で傘持った方が、まだ濡れる心配は少ねーじゃん」
「美琴ちゃん!!? あっ、いや、今はそこに反応してる場合じゃないわ!!
 アンタまだ信じてないでしょ!! 私は打ち止めじゃなくて…って言うか降ろせえええぇぇぇぇ!!!」
「はーいはい。ちゃんとシャワー浴びたらな、美琴ちゃん」

美琴は上条の背中でギャーギャーと騒ぐが、上条は全く聞く耳を持とうとしない。
結局そのまま上条の寮へと運ばれてしまう美琴であった。

ちなみに余談だが、この間にもミサカネットワークは炎上していたらしい。



「ちょっと待っててくれ。風呂の準備してくるから」

なんだかんだで来てしまった。
美琴は上条の部屋のドアの前で待たされている。
この間に、美琴の心の中で、天使やら悪魔やらが葛藤【いいあい】をしている。

天使の美琴はこう言った。「今なら間に合うわ! 引き返しなさい!」
悪魔の美琴はこう言った。「いいじゃない別に! せっかくのチャンスなんだから!」
妖怪の美琴はこう言った。「てか何かあったとしても、これ打ち止めの体なのよね?」
宇宙人の美琴はこう言った。「それより打ち止め【マイ・ボディ】は今頃どこにいるのかしら…」

……中々考えはまとまらないようだ。
それに加えて、妹達も頭の中【ミサカネットワーク】でゴチャゴチャ言ってくるので、もう収拾がつかない。
ついでに扉の向こうでは

「たっだいま~」
「あっ! おかえりとうま! 『りもこーん』の『でんちー』は買ってきてくれた!?」
「んにゃ、やっぱコンビニだと高いわ。明日100均行って買ってくるよ」
「なっ!!? そ、それじゃ間に合わないかも! カナミンスペシャルがあと4分で始まるんだよ!?」
「……手動でテレビの電源入れりゃいいだろ」
「手動じゃ観る事は出来ても、『ろっくがー』は出来ないんだよ! とうまのバカバカ!」
「どうせ再放送だろ!? って、痛あぁ!!
 噛むな!噛まないで!お噛みにならないでくださいましインデックス様!!」

と、こちらも大騒ぎであった。



しばらくしてドアが開き、家主【かみじょう】が顔を出す。
顔中に歯形があるその様子から、中で何か不幸【いつもの】があったであろう事は想像がつく。

「あー…風呂の準備出来たから、入っていいぞ」
「お、おお、おじゃ、お邪魔します!!」

美琴は結局、上条の部屋に上がる事に決めたらしい。
心の中の悪魔が勝ったようだ。

「…とうま? その子はだれなのかな? 短髪やクールビューティーに似てるけど……」
「ああ、美琴の…んー……まぁ、妹みたいなもんだ。
 病院の前で会ったんだけど、雨に濡れてたから連れて来た」
「連れて来たって……またとうまはそうやって!」
「別にいいだろ? 服が乾くまでいさせるぐらい」
「むー……」

白いシスターはむくれている。どうやら上条が新たなフラグを建築した事にご立腹のようだ。
だが美琴も、このちびっ子シスターがいた事を思い出し、「はぁ…」と溜息をつく。

(そりゃそうよね…あの子がいるのに何か間違いが起こる訳ないか……
 そもそもあの馬鹿は私の事を打ち止めだと思い込んでるみたいだし……)

安心したような残念なような、複雑に絡み合った乙女心である。
だが次の瞬間、上条の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。

「うし! じゃあ俺と一緒に入るか。風呂」

そのとき 美琴とインデックスに電流走る―――――!!

「な、ななな、な何、何言ってんのよアンタはああああぁぁぁぁ!!!!!」
「そ、そそそうなんだよ! その発言は余りにもアレかも!!」

二人の慌てように、上条はどこ吹く風で答える。

「だって別々に入ったら水道代と電気代(もしくはガス代)がかかるじゃん。
 上条さんとのお約束条項第1条言ってみ?」
「う……極力節約には協力する事…なんだよ…」
「はい、良く出来ました。さすがは完全記憶能力者」

何だその野原家みたいな約束事は。

「だ、だからって女の子と一緒に入るっていうのはどうなのかな!?」
「あのなぁ…俺がこんなちっちゃい子に欲情するような変態さん【ロリコン】だと本気で仰る気ですか?」
「そんなの分からないかも! これを機に変な道に目覚める可能性もゼロじゃないんだよ!
 急にとうまが『まったく、小学生は最高だぜ!!』とか言い出したら私はどうすればいいのかな!?」
「どこの女バスのコーチだよ! 名誉毀損で訴えるぞコノヤロー!!」
「じゃ、じゃあせめて私がその子と入るんだよ!! それでも問題ないよね!?」
「俺はいいけど、もうすぐカナミン始まるんだろ? 観なくていいのか?」
「あああ!! そうだった!! しかも『ろっくがー』も出来ないし……
 天にまします我らの父よ、私はこの試練をどう乗り越えれば良いのか―――」

アホらし、と思いこのまま放置する事に決めた上条。

「ほら行くぞ打ち止め」
「いや、でも、ほら、一緒にお風呂とか、そ、そ、そういうのはまだ、ホラ、アレじゃないかしら!!!?」

ええい、こっちも面倒くさい。
上条は美琴を強引に抱きかかえると、そのままヒョイっと肩に乗せた。
美琴はジタバタ暴れているが、やはり上条はお構いなしだ。
カナミンのオープニングが始まる中、上条(とその肩に乗ってる美琴)はバスルームへと向かった。



「はい、バンザイしてー」

脱衣所。それは当然、服を脱ぐ場所である。風呂に入るのだから当たり前だ。
なので、上条が美琴の服を脱がせようとしても問題ではない。そう、何も問題はないのだ。
大事な事なので二回言いました。

「いいから!!! ホントいいから!!!!!」
「? 何、どしたん? 黄泉川家【おまえんとこ】じゃ、服を着たまま風呂に入る習慣でもあんの?」
「大丈夫ですから!!! 自力で脱げますから!!! そういうの大丈夫ですから!!!」

何か分からんが敬語になる美琴。
上条は「難しいお年頃なのかねぇ」と肩をすくめ、自分の服を脱ぎ始める。

「のああああぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
「うおっ!? 今度は何だよ」
「な、ななな何、脱ぎ始めてんのよ!!?」
「いや、風呂入るからだろ? 俺んとこには、服を着たまま風呂に入る習慣はありませんのことよ」
「だだだだだからって、急に脱がないでくださいよ!!! 私の見てない所で脱ぎましょうよ!!!」

何か分からんが再び敬語になる美琴。
上条は「そろそろ反抗期なのかねぇ」と肩をすくめ、隅の方で自分の服を脱ぎ始める。
美琴は心臓をバックンバックンさせながら、ギュッと目を瞑った。
ミサカネットワークでは「今すぐ目を開けろコール」が巻き起こるが、知ったこっちゃない。

「んじゃ先に入ってんぞ」

と、声が聞こえてきたので、恐る恐る目を開けてみる。
すると、腰にタオルを巻いた上条が浴室に入っていく瞬間だった。
ホッとすると同時に、心のどこかで残念だったような気がしないでもない。
ミサカネットワークでは大ブーイングが巻き起こっているが、知ったこっちゃない。

さて、ここからどうしよう。
逃げるチャンスはもう今しかない。
しかし、上条と一緒に風呂に入るチャンスも今しかないのだ。
美琴の姿なら、こんなシチュエーションはありえないだろう。
子供だと思っている、今【ラストオーダー】の姿だからこその、この状況なのだ。

美琴は、体感時間にして一時間(現実時間0.2秒)たっぷりと悩みに悩み、その答えを出した。
果たして美琴は上条と一緒の風呂に入るのか否か―――?



「し、しし、し、し、失礼します………」

結果、美琴は誘惑【ほんのう】に負けた。
前も後ろもバスタオルでがっちりガードし、美琴は浴室へと足を踏み入れた。
打ち止めの体なのは分かっているのだが、それでも羞恥心は捨てきれなかったのだろう。
上条は頭をワシャワシャ洗いながら、こちらを振り返らずに「あいよー」と軽い返事をする。

今更だが、何なのだろうかこの現状は。
美琴も、体が入れ替わってからというもの事件続きで、
いつもの冷静な判断がつきにくくなっているのかもしれない。
もっとも、冷静になったら色んな意味で終わりな気もするが。

ザバーっと頭からお湯をかぶり、泡を落とした上条は、またまたとんでもない事を言ってくる。

「ほら、打ち止めも座れって。俺が洗ってやるからさ」

上条の名誉の為に再度言っておこう。
上条さんは決して少女の体を弄ったり嬲ったりして興奮するような性的嗜好は持ち合わせていない。
あくまでも、妹とお風呂に入るお兄ちゃん的な感じだ。
それは分かっている。分かっているのだが……

「イヤ、ホント、いいですから!!! もういっぱいいっぱいなんです!!!
 マジ勘弁してください!!!」

何か分からんがまたもや敬語になる美琴。
いや、一緒に風呂場に入ってる時点で、勘弁も何もないだろうに。
上条も同様の事を思っているらしく、「分かった分かった」と適当にあしらい美琴の背中を洗い始める。

「にょわわわわわわ!!!!!」
「何その奇声!? 変な声出すなよ」

打ち止めの体はとても小さく、当然背中も小さい。よって、あっという間に洗い終わってしまった。
助かった……と、思いきや。

「じゃ、次は頭な。ちゃんと目ぇ瞑ってろよ? 目にシャンプーが入ったら痛いからな」
「えっ……えええええぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

美琴の試練はまだまだ続く。上条は中々に世話好きらしい。
悪い事ではないのだが、今の美琴にとっては、ありがたいやら迷惑やら。

ちなみに、さすがに前だけは美琴が自分で洗ったようだ。



チャポーン、と天井から雫が落ちてくる。
今現在、上条と美琴の二人は、同じ浴槽に仲良く(?)入っている。
が、その距離は少々あいており、しかも向かい合わせではなく、美琴が背中を向ける形となっている。
図で説明すると、\上条→~~~←美琴/ ではなく、\上条→~~~美琴→/ な状態だ。
いつもと違って「ふにゃー」する気配はない(打ち止めの体だからだろうか?)が、
それでも真正面から上条の裸を直視する勇気はない。
美琴は壁に向かって体育座りをしているのだ。
もっとも上条は全く気にする様子もなく、暢気に鼻歌なんぞを歌っているが。

「はぁ~…いいお湯だなぁ~」
「そ、そそ、そうね!」
「あっ! 濡れた服、ちゃんと乾燥機にかけといたか?」
「そ、そそ、そうね!」
「風呂出たらコーヒー牛乳飲むか? それとも炭酸のがいい?」
「そ、そそ、そうね!」
「……1+1=?」
「そ、そそ、そうね!」

駄目だコリャ。
何を聞いても「そ、そそ、そうね!」しか言わない。かなりの緊張状態である事がうかがえる。
しかし、このままではいけない事も美琴は分かっている。
せっかくのこの状況。文字通り「裸の付き合い中(いやらしい意味ではなく)」だ。
しかも都合よく今は打ち止めの体で、上条も打ち止めだと思っている。
美琴【ふだん】のままでは聞けない事を聞くには、絶好のチャンス。今しかない。

「あ、あ、あ、あの……さ……」
「んー?」
「えと……わた…じゃなくて、お姉様…いるじゃない…?」
「美琴?」
「う、うん……その…お姉様の事だけど………」

美琴は

「お姉様の事…………」

勇気を

「ど…どど…どう思う!?」

振り絞った

「…へ? どうって?」
「だだ、だから!!! その!! じょ、女性として!!!」
「あー……どうなんだろ。考えた事なかったな」
「そ、そう…なんだ……うん、そう…よね………はは、は…何期待してたんだろ私………」
「あっ、でも」

その結果

「もし美琴と付き合ったら、毎日楽しそうだな」

上条からのサプライズが待っていた。

その言葉はつまり―――

「じゃ、じゃあ! もし私がアンt」

美琴は後ろを振り返った。上条の気持ちを知るために。
しかしそれは間の悪い事に、上条は浴槽から出る瞬間だった。
それはつまり、上条の生まれたままの姿を目撃した事になる。
美琴の目の前には、山の幸でいう所の「マツタケ」。海の幸でいう所の「ナマコ」。
要は上条さんの「下条さん」がぶら下がっていたのだ。

美琴はそのまま固まり、その場でパタリと倒れた。
遠くから上条の声で、「おい! どうした!? のぼせたのか!?」と聞こえてきた気がしたが、
そんな事はどうでもよかった。



「……ん…? あれ…ここどこだろ……?」

美琴が目を覚ますと、そこは見覚えのないカラオケボックスだった。
自分の身に何が起きたのか、ゆっくりと思い出していく。

(たしか……打ち止めと体が入れ替わって……シャワー借りる為にアイツん家行って……それから……
 ………………それからどうしたっけ? よく思い出せないわね……)

人はとてつもない精神的ショックを受けると記憶が飛ぶらしい。
どうやら浴室での出来事【じけん】はスッポリと忘れてしまったようだ。
美琴にとってそれが良かったのか、そうじゃないのかは分からないが。

ふと自分の体を見ると、いつもの制服を着ている。
どうやらあれから時間が経ち、美琴【じぶん】の体に戻ったらしい。
となると、ここは今まで打ち止め(の中身)が遊んでいた場所、という事になるのだろうか。
現状を把握するべく、美琴は周りを見渡してみる。

すると、隣のソファーでは、マイクを逆さに持つフレメア=セイヴェルンが明後日の方向を見つめている。
部屋の隅では、虚ろな目をしたフロイライン=クロイトゥーネがブツブツ言いながら体育座りをしている。
床では、頭からバケツを被った浜面仕上がパンツ一丁で大の字に寝ている。
天井では、首から上たけカブト虫になった垣根帝督がプカプカフワフワ浮いている。
そんな中、セーラー服を着た一方通行が疲れきった顔をしながら声をかけてきた。

「おォ……オリジナル………テメェにも色々事情があるンだろォけどよォ………
 今回みてェな事はこれっきりにしてくれねェかァ…?」

そう言い残し、彼はそのままぶっ倒れる。
そして最後に、美琴が腹の底から思いっきり叫んだ。

「打ち止め【あのこ】!! 私の体で何したの!!!」

彼女の絶叫はマイクを通し、エコーとなって響き渡ったという。



ちなみに余談だが、美琴は覚えていなくてもミサカネットワークは接続されていたので、
下条さんの一件は妹達に伝染して【しれわたって】おり、その日彼女達は、お祭り騒ぎだったらしい。










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