とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

2-848

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集

小ネタ BAD END

注意!美琴死亡ネタです!!


息が白い。
凍てついた空気に包まれ、空も大地も、雪一色に染まっている。
降り積もった雪を踏みしめ、一人の足跡が続いていた。
白い世界の中で、一人の少年は空を見上げながら、
「綺麗だな…」
小さく呟いた。
少年は制服の上に黒のダウンを着込み、ピンク色のマフラーを巻いていた。ツンツンとした黒髪にも雪が積もっていたが、掃おうとはしなかった。
周囲の人々は道を空け、少年は歩いていく。
「雪ってこんなに綺麗なんだな…」


「そう思わないか?なぁ、美琴」


少年は、背中に担いでいる御坂美琴に声をかけた。
「ホワイトクリスマスって、温暖化の時世にしては珍しいよなぁ」
見回すまでもなく、今日はカップルが多い。
「今日は一日中ふるって言ってたし…・あ、でも最近の天気予報は当てにならないか」
御坂美琴をおぶっている上条当麻も、周囲から目には仲の良いカップルに映るだろう。
通り過ぎる多くの人々は、この二人に目を向けていた。
彼女が常盤台中学の制服を着ているからだろうか。
違う。彼女は制服の上に紺色のPコートを羽織っていて、チェック柄のスカートに刻まれている校章は見えない。少年は学ランのズボンはありふれたものであって、周囲の人々が注目すべきものではない。
それでも人々は、彼らを見ていた。
往来の場で、彼女をおんぶをしているシチュエーションに人々の目は惹かれたのだろうか。


もしそうだったら、どんなに幸せだろうと…上条当麻は思った。


彼が歩いてきた足跡と共に、赤い斑点がある。
一定間隔に滴り落ちていて、真っ白に染まった歩道を赤く濡らしていた。
近くにいた少女が、彼らを指差して、小さな悲鳴を上げた。
指指す先にあるものは、
彼女の腕から流れ落ちる、
真っ赤な血。


「俺さ……」
息が白い。
「やっと…気付いたんだ」
少年は独白する。
「馬鹿で、他人の好意に鈍いって言われる俺でも、やっと…気付いたんだよ」
すぅ、と大きく呼吸して、


「お前が…御坂美琴が、好きだって」


彼女がずっと待ち続けていた言葉が、今、紡がれた。
だが、返事は無い。
「妹を思うような気持ちじゃねぇ……一人の女の子として、お前が好きなんだよ」
それでも尚、上条当麻は彼女に話しかけた。
彼女が答えてくれない事は分かっているのに、言葉が止まらない。
「もっと早く…気がついておけばよかった」
少年は立ち止った。
ゆっくりと、空を見上げる。
世界は何処までも、白く、冷たかった。
上条当麻の瞳に、
「やっと…気付けたのに」
大粒の涙が零れ落ちる。
「こんなことって…ねえよっ…」
無意識に唇を強くかみしめる。
じわりと視界が歪んだ。
「ぅわっ…」
足元が滑り、大きな音と共に、二人は地面に転がってしまった。
派手な転び方をした彼らに、人々の視線が集まる。
だが、笑う者は誰一人としていない。
上条当麻は直接手に雪を握り締め、芯が凍るような冷たさが体に響く。
すぐに上半身を起こし、目を閉じたままの彼女に触れる。


彼女の頬は、氷のように冷たかった。



御坂美琴は死んだ。
今日、一二月二五日に起きた魔術師との戦いの最中に、上条当麻を庇って、命を落とした。
彼女は、恋焦がれる少年の腕の中で想いを告げ、
息を引き取った。
死の間際に、心配をかけまいと零した笑顔が、脳裏にこびりついて離れない。
上条当麻は未だに現実を受け入れられなかった。
あの日、自分は、彼女の笑顔を守ると誓ったのではないのか。
あの日、自分は、彼女とその世界を守ると誓ったのではないのか。

それを、自分は、最悪の形で破ってしまった。

「いつもみたいに…軽口を叩いて、叫びながら、ビリビリ、してくれよ…」
彼女がお揃いで編んだマフラーの端が、焼け焦げていた。
「いつも、みたいに……笑って…くれよ……」
分厚いPコートにも大量の血が染み込んでいて、雪を赤く濡らした。
周囲が何やら騒がしいが、どうでもいい。
「今なら言えるのに…お前の事が、好きだって…大好きだって……」
御坂美琴の眠りが覚める事は二度と無い。
「愛してるって…言えるのに………」
少年は願う。
もう一度、目を覚ましてほしい。
そして、もう一度、笑ってほしい。
いつもの笑顔で。

大好きな彼女の笑顔を、もう一度見たい。

上条当麻の涙は止まらなかった。
声にならない感情が、内から溢れ出した。
「う」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオッッッ!!」



世界に少年の声が木霊する時、
上条当麻は『覚醒』の時を迎える。


ウィキ募集バナー