手にする為の代償は
皆さんは巨乳御手【バストアッパー】というのをご存知だろうか。
学園都市内で真しやかに囁かれている都市伝説である。
「その者厚き乳袋をまといて視線の先に降り立つべし」という言い伝えは残されている(?)が、
それが真実かどうかは分からない。長らくそう思われていた。
しかしここ最近、巨乳御手を使い、成功したと思われる事例が報告されている。
サンプルとなったのは吹寄制理と固法美偉の二名。
両名は通う学校も住む地域も違う。しかし、一つだけ共通点がある。
「ムサシノ牛乳」である。
彼女達のとても豊かなおぱーい様は、愛飲しているその牛乳に原因があるのではないか、
というのが今現在の定説なのだ。
話は唐突に変わるが、ここに胸の事でお悩み中の少女が一人いる。
名を御坂美琴。言わずと知れた、常盤台の超電磁砲だ。
彼女は脱衣所の鏡の前で、裸になった自分の姿を見つめている。
小さくはない。
お世辞にも決して「大きい」とは言えないが、小さいという訳ではないと言い切れなくはない気がする。
と、自分を誤魔化しても何の意味もないので、とりあえず彼女はorzと床に手を着けた。
あの噂を知り、彼女は毎日欠かさずムサシノ牛乳を飲んだ。多い日は一日2ℓぐらい飲んだだろう。
雨の日も風の日も、お腹がピーピーになった日ですら飲んだ。
しかし、それでも胸は育たなかった。
「もしかして、よりにもよって『ここ』だけママから遺伝しなかったんじゃないか」と思うくらい、
全く変わってはくれなかった。
彼女がここまで胸に固執するのには理由がある。
彼女の想い人である上条当麻(本人は真っ赤になって否定するが、周囲の人間にはバレバレである)
の周りには、やたらと巨乳の女子高生が集まってくるのである。(新約2巻参照)
いや、それだけではない。以前銭湯で一緒になった、地味目で二重まぶたの女性も、
中々の代物をお持ちだった。(16巻参照)
しかも彼は、好きな女性のタイプは「寮の管理人のお姉さん」と公言しているらしい。
これはつまり年上の女性が好きと言っている訳で、
年下な上に色気が足りないと自覚している彼女にとっては、
せめて胸の装甲だけでも強化しておきたい所なのである。
要するに、他の女性陣【ライバル】に対抗できるだけのお乳【ぶき】が欲しいのだ。
だが先程も説明したように、それは叶わなかった。
彼女は巨乳御手という幻想を、見事にぶち殺されたのである。
しかしそれでも
(…まだだわ……まだ『アレ』が残ってる……)
彼女の脳には「諦める」という言葉はなかった。
(…こうなったら、邪魔なプライドなんて捨ててやるわ……)
彼女は再び立ち上がる。
(もう手段なんて選んでられない……)
ただしそれは禁断の呪法。
(目的の為なら、どんな手でも使ってやる!)
決して手を出してはいけない、神の領域だった―――
その翌日。
学校の帰り道、「ちょろっと~? アンタ、待ちなさいよ」といつも通りに声をかけられ、
上条は声のした方に振り向く。
「よう、美琴。最近よく会う…な……?」
いつも通りの風景。いつも通りの会話。
だが今日のこの日は、明らかにいつも通りではない箇所が一つだけあった。
「あっ…な…み、美琴…さん…? その、えと…なな、何と言いますか……
む…胸……ど、どど、どうしたので…せうか…?」
上条が驚愕したのも無理はない。
そこには、昨日までは無かった『あるモノ』が、堂々と目の前で主張しているのだ。
擬音で例えるなら、「バイーン」とか「ボイーン」である。
つまり、『おっぱいぷるんぷるん』なのである。
美琴は憂いを含んだ表情でふっと笑った。
「ああ、気づいた? これね、巨乳御手を使ったのよ」
「バ、巨乳御手…? 噂には聞いてたけど、実際にあったなんて……」
しわかには信じられないが、事実、目の前にあるのだから信じる他にない。
何かしらの能力が関係している可能性もあるが、それを確かめる為に右手で触るのはアウトである。
なので目で確かめるべく、上条は再びチラリと視線を落とす。
……デカイ。
(ぬおわああぁぁぁ!!! 何だ!? 何だこの感情!!?
何かイケナイ事をしてるような背徳感と、それでいてやめられないとまらないような高揚感は!!?)
正直な所、上条は興奮していた。
そんな冷たい目で見ないであげてほしい。彼だって男子高校生なのだから。
急激な美琴の変化で、見事ギャップ萌えにやられる上条。
そんな明らかにドギマギする彼に対し、美琴は心の中でガッツポーズを取る。
「おおぉ…その者厚き乳袋をまといて視線の先に降り立つべし。古き言い伝えはまことであった」、と。
しかし、これほどに強大な力が何の代償もなしに手に入る訳がない。
ある錬金術師の格言にこんなの物がある。
「人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。何かを得るためには同等な代価が必要である」
神の領域に足を踏み入れた美琴は、それ相応のしっぺ返しが待っていた。
ポトリ
と美琴の服から何かが落ちる。
シリコンで出来た凸型の物が二つ。大きさは本日の美琴の胸と同等ぐらい。
中にジェルの入った水風船を内蔵しているらしく、
二つの『それ』は一度ポヨンとバウンドしてから地面に着地する。
そして『それ』が落ちた瞬間、『何故か』美琴の胸はいつものサイズに戻っていた。
二人の間に、何とも言えない気まず~い空気が流れる。
とはいえ、いつまでもこのまま固まっている訳にはいかない。
とりあえず美琴を慰める為に上条が声をかける。
「え…っと……美琴さん?」
だが次の瞬間、
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁん!!! 馬鹿あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と、美琴は泣きながら走り去っていった。
上条に全く非はないのだが、何故か捨て台詞を言われながら。
一人取り残された上条は、まだ生暖かい『それ』を拾い上げこう呟いた。
「…胸パッド【これ】、どうすりゃいいんだよ……」