私とアイツの日曜日
チュンチュンと小鳥のさえずる声と共に、私は狭めのベッドの上で起床した。
狭め、とは言っても、一人で寝るには十分な広さがある。
けれど、二人で一緒に寝るには少々窮屈だ。
もっとも、私はこの狭さが嫌いじゃない。なぜなら、彼の体温を近くに感じられるから。
そう、私の隣には愛する彼がいる。
不思議な右手を持つその彼は、私の頭を撫でながらこう言ったのだ。
「よう、おはよ!」
私は開けたばかりの目をふっと瞑り、寝たフリをする。
「う~ん、おはようのチュウしてくれないと起きられないなー。むにゃむにゃ…」
私は薄目を開けて、照れて困る彼を見て楽しむ。
彼は頭をカリカリと掻き、「仕方ないなぁ…」と呟いた。
そして彼は私の頭に手を回し、―――唇を重ねた。
「こ、これでいいでせうか…?」
彼は顔を真っ赤にしてそう言った。対して私は、
「ふにゃー」
といつものように漏電するのだった。
だ、だって! からかう為に言っただけで、本当にキスしてくれるなんて思わなかったんだもん!
「えーっとですね…毎回キスする度に電撃を出されますと、ワタクシの身がもたないのですが……」
「し、しょうがないでしょ!? 私だって好きで出してる訳じゃないんだから!」
私は電撃使いだ。しかも自慢じゃないけど、並の電撃使いより『ちょっとだけ』強い。
故に彼に甘えたりしてパーソナルリアリティを崩壊させてしまうと、
今のように能力が『ちょっとだけ』暴走する。
それでも私は、遠慮なく彼に甘えてしまうのだ。なぜなら……
「まったくもう。俺には電撃が効かないからいいようなものの……」
そうなのだ。彼には電撃が効かない。
いやそれどころか、どうやら能力そのものが通用しないらしい。
「こんなんじゃ、俺以外の男と付き合えねーぞ?」
彼がそんな事を言ってきたので、私はカチンとなって言い返した。
「いいのよ! どうせこれから一生、アンタ以外の男と付き合う事なんてないんだから!」
「い、一生…って……」
瞬間に、彼の顔が「かぁぁ」っと染まっていく。
そんなつもりでは無かったけれど、彼の様子を見て自分で何を言ったのか理解した私は、
彼につられて赤面する。
は、恥ずかしい~!
トントントン、とネギを刻む音が台所に響き渡る。
常盤台の寮では食事は食堂でとるため、こんな風に朝食を作る機会はない。
だから、料理をするのがこんなに楽しいなんて知らなかった。
ううん。それだけじゃない。
きっと、愛する人のために作るから楽しいのだろう。
こうしていると、まるで新婚さんみたいで―――
「きゃっ!!?」
―――何て事を思っていたら、急に彼が背後から抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと! 危ないわよ! 包丁持ってんだから!」
「い、いや…その、すまん……エプロン姿のお前が可愛すぎて…つい……」
ばつが悪そうにそう答える彼だが、離れる気はないらしい。
「このまま…って、駄目でせうかね…?」
「だ、駄目じゃないけど……」
そんな風に頼まれたら、私が断れない事を彼は知っているのだ。
ずるいなぁ、もう…
「ごっそさん! はー、美味かったー!」
「お粗末様でした」
やっぱり、美味しいって言ってくれるのは嬉しい。作って良かったと心から思える。
彼の笑顔を見るだけで、私もお腹いっぱいになってしまう。
朝食が終わり、後片付けを始めようとすると、彼が食器を重ね始める。
「いいよ。後は俺がやっとくから、お前は寛いでてくれ」
せっかくなので、彼の言葉に甘える事にした。
と、同時に先ほどの仕返しをしてやろうと思いつく。
彼が洗い物をし始めた時、私は背後から彼に抱きついた。
「うえっ!!? な、ちょ、ちょっと!?」
「えっへへ~。さっきのお返し♪」
正直ちょっと恥ずかしいけど、彼にお仕置きするためだ。仕方がない。
このまま抱き締め続けるのも個人的には構わないが、ここでちょっと私のイタズラ心が疼きだす。
今の彼の右手は、スポンジを装備したまま目の前のマグカップと格闘中だ。
つまり、今なら電撃が効く訳だ。
私は抱き締めている両手から微弱な電気を流す。あたかも低周波治療器の様に。
「!!? あ、あひゃ、きゃひひひひ! や、やめ、それ、俺、弱い、んだから!! あはははは!!」
彼が思わず笑い出す。勿論、これが弱点な事が分かっているからやったのだけど。
でもそこで思わぬ事態となる。
彼が私の手を振りほどこうとした時、足を滑らせ二人一緒に転倒する。
と同時に、上から食器用洗剤が落ちてきて、私達は洗剤の雨を頭から被る事となった。
忘れていた。彼が不幸体質だという事に。
な、何事もやりすぎは良くないって痛感したわ…
私の心臓は爆発しそうなくらいバクバクしていた。
頭から被った洗剤を洗い落とすために、私は浴室のドアを開けた訳だけど、
「何してんだ? 早く入れよ」
目の前にはタオル一枚で隠す所だけ隠した彼がいるのだ。
勿論、私もバスタオルでがっちりガードしているが。
洗剤は二人の頭に直撃した訳で、(とは言っても原因は私にあるけれど…)
お風呂でそれを洗い流すのは自然な流れだ。
とは言っても普通お風呂は一人で入るものであって、
当然どちらかが入っている間、もう片方は我慢しなくてはならない。
負い目も感じている事もあって、私は後でいいと言った。
しかし彼は、「いや、そのままだと気持ち悪いだろ? 気にしなくていいから一緒に入っちまおうぜ」
と言ってきたので、現在こんな展開を迎えている。
彼と付き合い始めて約半年になるが、一緒にお風呂に入るのは初めてだ。緊張しない訳がない。
「何恥ずかしがってんだよ。裸なんて今まで何度も見ただろ?」
「そ、それとこれとは違うのっ!!!」
大声でツッコんだ。
しかしせっかくの初・お風呂で一緒イベントだ。私だって出来れば楽しみたい。
なので私はこんな提案をした。
「ね、ねぇ。何だったら、私が洗ってあげようか? ほら! 元々私が悪い訳だし、お詫びとして……」
すると彼は、あっさりと答える。
「えっ? マジで? じゃあ頼むわ」
ワシャワシャと、その大型犬のようなツンツン頭を洗う。
触り心地は意外とふわふわしていて、見た目とのギャップにクスッと笑ってしまった。
それにしても…
(背中広いなぁ…やっぱり男の子だもんね……)
何と言うか、ものすごくドキドキする。見慣れた背中のはずなのに。
そんな事を考えながら洗っていた私は、
「な、なぁ。もういいんじゃないか?」
と彼に言われるまでポケーっとしていた。私は慌てて彼の頭をお湯で流す。
「じゃ、次は俺の番な。背中向けて?」
「えっ!? わ、私はいいわよ!」
「いいからいいから」
今度は私が洗われた。
ゴツゴツとした手が私の頭を優しく包む。意外なほど繊細な手つきにちょっと驚いた。
「女の子の髪は優しく洗わないと駄目だって、前に何かの雑誌でやってたからな。
…あれ? テレビだったか?」
言わなければかっこいいのに、と私はプッと吹き出した。
けれど、こういう少し間の抜けた所が彼らしいと言えば彼らしい。
ま、そんな所も含めて好きになっちゃったんだしね。
狭い浴槽に、私達は向き合って入っている。
けど流石にこの状態は気まずく、二人とも目を逸らしてソワソワしている。
それなのに、彼は容赦なくこんな事を要求してくる。
「な、なぁ…ちょっと足伸ばしていいかな…?」
「ふぇっ!!? あ、う、うん! どど、どうぞ!」
私と彼の足が絡む。
「な、なぁ…もうちょっと近づいていいかな…? 肩まで浸かれなくて…」
「ふぇっ!!? あ、う、うん! どど、どうぞ!」
私と彼の距離が縮む。
「な、なぁ…今度は―――」
「これ以上何させようってのよっ!!!」
うぅ~……これじゃあまた「ふにゃー」しちゃうよぉ~!
お風呂から上がった後も、何とも言えない微妙な空気が流れている。
体がぽっぽと温かいのは、さっきまで湯船に浸かっていたから…という理由だけではない。
それは彼も同じらしい。
沈黙に耐えかね、「コーヒーでも淹れようか?」と私が言おうとした瞬間、
袖を引っ張られ、ベッドの上に押し倒された。
「あ、あの…?」
「いや、その…何と言いますか……さ、先ほどからワタクシ非常にムラムラとしておりまして……
よ…よよ、よろしいでせうか…?」
彼からのお誘いに、私はコクリと頷いた。
もう……エッチなんだから………♡
f i n
「私とアイツの日曜日」 著:佐天涙子
あとがき
いやー! ネット小説って書くの初めてなので、うまく書けたか少し不安だったりします (;^_^A
でも感想とか聞けたら嬉しいです!
あ、ちなみに今回書いたカップルには実はモデルがいるんですよ。
小説の中に色々とヒントが出てますので、誰なのか推理するのも面白いかも知れません。
ではこの辺で~♪
コメント一覧
1.通りすがりのお花畑 ★★★★★
素晴らしかったです佐天さん! 是非また書いてください!
2.通りすがりの変態淑女 ★☆☆☆☆
こんなのはフィクションですの! 実在の人物・事件・団体などとは一切関係ありませんのよ!!!
3.通りすがりの財閥令嬢 ★★★★☆
ま、まぁまぁでしたわね。ただその…さ、最後のくだりは少々ハレンチなのでは…?
4.通りすがりの妹10032 ★★★☆☆
ベッドシーンの詳しい説明を要求します、
とミサカは女性のモデルがミサカではない事に憤慨するのを忘れるほど
男性のモデルの方の濡れ場に興奮しています。
5.通りすがりのアオザイ ★★☆☆☆
え~? ここで終わり~? ヤってる描写は無いの~? ミサカつまんな~い。
6.通りすがりの女王サマ ★☆☆☆☆
ストーリー自体は別に悪くないんだけどぉ、モデルになった女の人に不快力があるのよねぇ。
7.通りすがりの自称悪党 ★★★★☆
いいンじゃねェのか? ガキにゃァ見れらねェ内容だけどよォ。
8.通りすがりのゲコラー ★★★★★
よ、良かったと思うわよ!? モ、モデルになった人たちも将来こうなったら…なんて……
べ、べべべ別に私は関係ないけどねっ!!? わ、私がそのモデルって訳じゃないしっ!!!
9.通りすがりの不幸体質 ★★★★★
普通に面白かった。けど結局モデルって誰だったのでせう?