上琴・アート・オンライン
自室のベッドの上で美琴は非常に悩んでいた。というより後悔していた。
何度もチャンスがあったのにも関わらず上条との距離を縮めることができなかったからである。
例えばクリスマス。
それとなーく聞いてみたところ特に予定はなく、家帰って寝るだけだと言うではないか。
この話を聞いた時から、必ず誘って自分に素直になってみせるなんて鼻息を荒くして意気込んでいたのだ。
結果は想像通り失敗。
どのようにして誘おうか悩んでいたら、クリスマスを過ぎてしまった。
本末転倒である。
年は変わり、後輩の黒子達に誘われ初詣に出かけることに。
クリスマスから引きずっている自己嫌悪で引きこもっていた美琴にとってはおよそ1週間ぶりの外の空気だった。
「お姉さま大丈夫ですの?」
「いいのよ、もう。私ごときがアイツと相思相愛になれるなんて思ってなかったけどさ・・・一緒にお出かけぐらいはしたかったなぁ」
「せっかく新年を迎えたのですしここらで心機一転なさってはどうですか?」
「そうね・・・心配かけて悪かったわ」
「いえいえ。それはそうと気持ちを入れ替えるついでにわたくしでお姉様を染めたいですわ!」
ちゃっかり欲望を混ぜ、風紀委員を棄てた変態中学生は襲いかかってきた。
「その身も心もいただきますわ!覚悟おおぉぉ!」
「アンタはやっぱりそれか!!」
流石に手慣れたもので反射的に後輩を焦がす美琴。
この辺は記憶を失っても電撃を打ち消す上条と似ている。
「じゃ行こっか」
「「あの~白井さんはどうするんですか?」」
「そのまま転がしておけばいつか気づくわよ」
「それもそうですねー」
白井のことを頭の片隅に追いやり、3人は神社へ向かった。
「うーん、こんな日ぐらい人がいてもいいと思うんだけどねぇ」
「ですねー」
「まぁ仕方ないですよー。仮にも科学の総本山なんですから。」
超能力さえ科学的に研究している学園都市に染まって、信仰心を持てという方が難しいのかもしれない。
元旦にもかかわらず人が全くいないのもうなずける。
財布から10000円札取り出し、賽銭箱に投げ入れる。
お願い事なんかとっくに決まってる。
あのバカと一緒になれますように。
いいとも。その願い叶えてやろう。
は?誰?
私か?私は神様だ。この神社のな。
眉唾ね。でも本当に叶えてくれるのね?
なにも魔法みたいにパッと君らを恋人にするわけじゃない。
私にできるのは舞台を整えるところまで。そこからは役者である君次第だ。
なるほどね・・・乗るわ。
契約成立だな。
帰り道
「御坂さん、結構長い時間お参りしてましてけど、どんなお願いしたんですか?」
「もしかして例の上条さんですか」
まぁどうせ、アイツはそんなんじゃないわよ!!っていつものツンデレ発揮するんだろうなぁ、ねぇ初春?
そうでしょうねぇ。御坂さん素直じゃないですからね。もうバレバレなのにー。
「そ、そうよ。アイツと一緒になりたいってお願いしてたの・・・」
え?
「「ええええ!?」」
「どうしたのよ!?」
「あなた本当に御坂さんですか!?」
「そうです!私たちの知ってる御坂さんはそんなに素直じゃありません!」
「そこまで!?」
「何があったんですか?」
「ちょっとね・・・でも近いうちにアイツを私の虜にしてみせるんだから!」
「頑張ってください!大丈夫、御坂さん可愛いんですから!素直になった御坂さんを止められるものなんてありませんよ!」
「うん、ありがと!」
その日の夜
これからのことを考えつつ、美琴はベッドに入った。
今まであまり眠れなかったせいか、すぐ夢の世界へと旅立った。
ふと気がつくと真っ白な世界にいた。
ここは?
あぁ、夢の世界ね。
何かに導かれるまま歩いていくと、人が現れた。
「アンタ!?なんでここにいるのよ?」
「うーんうーん。御坂!?なんでって・・・ここは俺の夢の世界だからな」
ここまでで美琴は今置かれてる状況をある程度把握した。
つまりどういうわけかは知らないけど、あいつの夢と私の夢が一つになっていて、互いに共有し合っているってとこかしら?
「しかし、夢の中でまで御坂に会うとはなー」
「なによ、嫌なの!?」
「違う違う、そうじゃない。意外だっただけだ」
「まぁいいわ。んでアンタさっき唸ってたけど、また何かに巻き込まれたの?」
「ソンナコトアリマセンヨー」
はい、嘘ー
汗ダラダラ流して言っても説得力がない。
そもそもこれまたどういう原理か知らないが、上条が隠そうとしているであろうものが直接映像として流れてくる。
きっと神社の神様のおかげだ。そういうことにしておこう。
ブチッ
「ほーう。これがあんたの言う不幸ね・・・まさか今までの不幸もこんな類のもんじゃないでしょーね・・・?」
「ハハハ・・・」
次から次へと上条の不幸(ラッキースケベ)の映像が頭に入ってくる。
な、なによこれえええ
巨乳、幼女、貧乳、年上、露出狂、シスター、などなどありとあらゆる女に手を出している(美琴視点)のだ。
結局アンタは誰でもよかったのかああい!!
そんなの例え想いを受け入れてもらっても、すぐに別の女の人にホイホイついていってしまうだろう。そんなのは私の望んだことではない!
ここまで考えて、美琴は膝をついてしまった。
そんなのどうしようもないじゃない・・・
その時、どこからか声がーー
諦めるのか?
仕方ないじゃない・・・わたしがどれだけ強く想っても、アイツは本当の意味で振り向いてくれない。
それは君たちに一緒になってもらいたいという我々の想いを侮辱する言葉だ。
あの時自分に素直になって、彼に本気でぶつかっていくと決めたのだろう。
さあ立ちたまえ御坂くん!
「な、なぁ大丈夫か御坂?うおっ!?」
「よく聞いて!」
「はい、なんでしょう!?」
「私が言いたいのはたった一つ・・・。例えアンタが他の子を好きでも、私はずっと唯一アンタだけが好きだああ!」
その後のことはよく覚えてない。気づいたらいつも通り自室のベッドにいた。
「私ったらあんなに恥ずかしいことを・・・!ううんでもこれからはあんな感じでガンガンぶつかっていくって決めたものね!」
まずは彼に会いにいくことから始まる。
「なんでいつもは意識してなくても会うのにこんな時だけいないんだあぁ」
「出てこーい、上条当麻ああぁ!」
「えっ?」
「あっ・・・」
本当に現れたよ・・・なんなのよこいつ。
「今呼ばれた気がしたのでせうが・・・」
「あっ・・えーっとね、その・・・あんたに話が・・・あって」
「奇遇だな、俺もだ」
「えっ?それどう言う意m」
「御坂、今度一緒に出かけようぜ」
恋人の関係まではまだ遠いのかもしれない。
でも今はそれでもいい。
少しずつ近づけてるのだから。