御坂美琴は学園都市の中を走っている。
彼女は、病院から突然姿を消した上条当麻を探していた。
彼女は、病院から突然姿を消した上条当麻を探していた。
(……ったく! あの馬鹿は!)
上条は病気のため、満足に動くこともできないはずだ。
そんな状態の彼が、どうして姿を消したのか。
おそらくは、御坂妹から上条自身が狙われている事を伝えられたのだろう。
たとえ上条が動けなくなったとしても、彼を守ろうとする人は大勢いるだろう。当然美琴もその一人だ。
しかし、上条はその事を良しとするだろうか。
逆に、自分を守った人が傷つけられる可能性を恐れるのではないか。
それならばいっそのこと……
そんな状態の彼が、どうして姿を消したのか。
おそらくは、御坂妹から上条自身が狙われている事を伝えられたのだろう。
たとえ上条が動けなくなったとしても、彼を守ろうとする人は大勢いるだろう。当然美琴もその一人だ。
しかし、上条はその事を良しとするだろうか。
逆に、自分を守った人が傷つけられる可能性を恐れるのではないか。
それならばいっそのこと……
(考えてる事バレバレなのよ!)
上条のいる場所に当ては無い。そのため、美琴には心あたりにある場所をひたらすら走り回るしかなかった。
「きっと、ミサカがあの人に、狙われているという事を伝えてしまったからです……
と、ミサカは激しい後悔の念に苛まれながらお姉さまに報告します」
と、ミサカは激しい後悔の念に苛まれながらお姉さまに報告します」
美琴と携帯電話で連絡を取り合っている御坂妹の声が聞こえてくる。
「アンタが落ちこむ事はないわよ。悪いのは全部、勝手にどっかいったアイツなんだから」
「しかし……」
「いいから! そんなことより、アイツを探すのに集中するわよ」
「了解しました……とミサカは力無く答えます」
「こら、そんなにしょぼくれてちゃ、見つかるものも見つからないわよ……って」
「しかし……」
「いいから! そんなことより、アイツを探すのに集中するわよ」
「了解しました……とミサカは力無く答えます」
「こら、そんなにしょぼくれてちゃ、見つかるものも見つからないわよ……って」
美琴の言葉が途中で途切れる。
「お姉様?」
「……いたわ」
「……いたわ」
美琴の視線の先には、見覚えがある鉄橋と、その上でたたずんでいる上条の姿があった。
―――
「やっと見つけたわよ」
上条のすぐそばまで近付き、美琴が声をかける。
「……御坂か、奇遇だな」
「ふざけないで! アンタ、こんなところで何しようとしてんのよ」
「ふざけないで! アンタ、こんなところで何しようとしてんのよ」
二人の間にしばし沈黙の時間が続く。
やがて、上条は全く違う話を始めた。
やがて、上条は全く違う話を始めた。
「俺さ、なんかこのままだとすげー迷惑をかけちまいそうなんだ」
「迷惑?」
「お前も知ってるんだろ? 俺がコールドスリープ状態になったら、どっかの連中が狙いに来るって」
「……」
「迷惑?」
「お前も知ってるんだろ? 俺がコールドスリープ状態になったら、どっかの連中が狙いに来るって」
「……」
美琴の沈黙を肯定と受け取って、上条は言葉を続ける。
「それも、めちゃくちゃ物騒な奴ららしいじゃねえか……参った参った」
「心配しなくても、アンタの事は私たちが守るわ」
「……余計なお世話だ、っていったらどうする?」
「ふざけんな、って言いたいところだけど……
どうせアンタには動けないんだし、大人しく守られてるって選択肢しかないのよ。
いっつも回りをどんだけ心配させてるか、逆の立場になって一度味わえばいいわ」
「心配しなくても、アンタの事は私たちが守るわ」
「……余計なお世話だ、っていったらどうする?」
「ふざけんな、って言いたいところだけど……
どうせアンタには動けないんだし、大人しく守られてるって選択肢しかないのよ。
いっつも回りをどんだけ心配させてるか、逆の立場になって一度味わえばいいわ」
上条の言葉に対して、美琴は落ち着いて対処できていた。
どれも、ここにくるまでに想定していたものだからだ。
どれも、ここにくるまでに想定していたものだからだ。
「たしかに、お前の言うとおりなんだよなあ……」
上条は一度ため息をついた。
「だから動けるうちに……ってここに来たんだけどな」
その言葉を聞き、美琴は厳しい表情で上条を見据える。
「させないわよ」
「……冗談だよ。まあ、病院を出たときはわりと本気だったんだけどな」
「アンタね、私達がどれだけ心配したかわかってんの!?」
「……わりい」
「……冗談だよ。まあ、病院を出たときはわりと本気だったんだけどな」
「アンタね、私達がどれだけ心配したかわかってんの!?」
「……わりい」
そう答える上条の声は非常に弱弱しい。
「仲の良かった奴が、急にいなくなるのはきついもんな」
「急になにを……」
「夢を見たんだ」
「夢?」
「急になにを……」
「夢を見たんだ」
「夢?」
どうして急にそんな話を、と不思議がる美琴にかまわず、上条は話を続ける。
「ふと目が覚めたら、みんながおめでとうって言ってくれたんだ。
そこで俺は、ああ、病気が治ったんだって思った。嬉しかったよ。俺だって死にたくねえしな。
んで、きっと御坂が治してくれたんだろう、お礼いわなきゃなって思って、お前を探したんだ。
でも、お前はその場にいないんだ。なんかおかしいなって思ってたら、唐突に気付いちまったんだ。
ほら、俺がコールドスリープに入ったら俺を狙いにくる連中がいるって話があっただろ?
お前は、その連中から俺を守って……」
そこで俺は、ああ、病気が治ったんだって思った。嬉しかったよ。俺だって死にたくねえしな。
んで、きっと御坂が治してくれたんだろう、お礼いわなきゃなって思って、お前を探したんだ。
でも、お前はその場にいないんだ。なんかおかしいなって思ってたら、唐突に気付いちまったんだ。
ほら、俺がコールドスリープに入ったら俺を狙いにくる連中がいるって話があっただろ?
お前は、その連中から俺を守って……」
上条はそこで一旦言葉を途切れさせた。
「そこで目が覚めた。夢の設定だからいろいろおかしいんだけど、
あのときは現実感ありまくりで全身から震えがとまらなかったよ。
あんな未来もあり得るかもって思うと、怖くてしかたなかった。
それで、何か俺にできることはないのかってずっと考えてた。
……で、気がついたらここにいた」
あのときは現実感ありまくりで全身から震えがとまらなかったよ。
あんな未来もあり得るかもって思うと、怖くてしかたなかった。
それで、何か俺にできることはないのかってずっと考えてた。
……で、気がついたらここにいた」
美琴にも上条の気持ちは理解できた。もし立場が逆だったら、自分は上条同じ行動を取るかもしれない。
しかし、だからといって上条を見逃すわけにはいかなかった。
しかし、だからといって上条を見逃すわけにはいかなかった。
「それでも、アンタがいなくなったら……」
上条がいなくなったら、私達が悲しい。そう言葉を続けることは美琴にはできなかった。
その言葉は上条を追い詰めるだけかもしれない。
その言葉は上条を追い詰めるだけかもしれない。
「わかってるよ。俺が死んでみんなが安全になったとしても、
それじゃみんなに、あの夢の立場を逆にして押し付けてるだけだよな」
「……そうね」
「そんなことはわかってるんだ。わかってるんだけどよ……」
それじゃみんなに、あの夢の立場を逆にして押し付けてるだけだよな」
「……そうね」
「そんなことはわかってるんだ。わかってるんだけどよ……」
上条は美琴から視線を外す。
そのまましばらく黙り込んだ後、意を決したように声を絞り出した。
そのまましばらく黙り込んだ後、意を決したように声を絞り出した。
「だったら、俺には何ができるんだ? 何もできねえのか? このまま黙って眠ってるしかねえのか?」
その言葉は、美琴へ向けたものではなく、上条が自身に問いかけたものだったのだろう。
しかし、その言葉は美琴の胸に突き刺さった。美琴には、上条の問いに答えることができない。
実際に、今の状況では上条ができることは何も無いのだ。
しかし、その言葉は美琴の胸に突き刺さった。美琴には、上条の問いに答えることができない。
実際に、今の状況では上条ができることは何も無いのだ。
美琴が思い悩む一方で、弱音を吐き出して少し楽になったのか、上条は少し落ち着いた声で美琴に謝った。
「わりい。せっかくお前が頑張って俺を助けてくれようとしてるのに、こんな弱音吐いちまって」
「べ、別に謝らなくても……」
「そういや、前にもこんな事あった気がするな」
「べ、別に謝らなくても……」
「そういや、前にもこんな事あった気がするな」
上条の脳内に、ハワイでのグレムリンとの戦っていた時のことが思い浮かんだ。
あの場で、上条は失敗を犯した。そして自棄になり、身を捨てても自分の道を突き進もうとしていた。
そんな時、その重荷を一緒に背負うと声をかけてくれた少女がいた。
あの場で、上条は失敗を犯した。そして自棄になり、身を捨てても自分の道を突き進もうとしていた。
そんな時、その重荷を一緒に背負うと声をかけてくれた少女がいた。
「あの時も、お前が近くにいてくれたんだよな」
その後、危険に晒すことを恐れて置き去りにしてしまったが、
美琴の言葉は上条に救いを与えていた。
美琴の言葉は上条に救いを与えていた。
「あの時と一緒で、お前と話したらちょっとだけ気が楽になったよ。ありがとな」
そう言って、上条は再び視線を美琴に戻す。
少し落ち着きを見せた上条とは逆に、美琴はより辛そうな表情をしていた。
少し落ち着きを見せた上条とは逆に、美琴はより辛そうな表情をしていた。
「御坂?」
上条が呼びかけても返事はない。
美琴は上条が心の内を吐露してから、ずっと考えていた。
美琴は上条が心の内を吐露してから、ずっと考えていた。
上条の苦しみは、自分が想像しているよりはるかに大きかった。
こんな状態の彼に、何せず、じっと眠ってすべてが終わるのを待っていろというのは正しいのだろうか。
いや、きっと正しくない。
こんな状態の彼に、何せず、じっと眠ってすべてが終わるのを待っていろというのは正しいのだろうか。
いや、きっと正しくない。
もっと他に、いい方法はないのだろうか?
安全で、上条に無駄な心配をかけさせなくてもよい方法が。
安全で、上条に無駄な心配をかけさせなくてもよい方法が。
そもそも、上条がコールドスリープに入らなければならないのは、
彼を治す準備に時間が必要だったからだ。
彼を治す準備に時間が必要だったからだ。
その時間を短縮することはできないのか。
それは、本当に手を尽くした上でのリミットなのか。
まだ何か、手は残っていないのか。
それは、本当に手を尽くした上でのリミットなのか。
まだ何か、手は残っていないのか。
そう考えた瞬間、美琴の頭にあるアイデアが浮かんだ。
「ごめん」
「え?」
「私が間違ってた」
「御坂? どうしたんだよ急に」
「え?」
「私が間違ってた」
「御坂? どうしたんだよ急に」
美琴の真意が読めず、聞き返す上条。
「時間に余裕があると思ってた。
私は心のどこかで、アンタを眠らせた後、アンタを守りながらゆっくりと準備をすればいいって思ってた。
……でも、アンタはそれじゃ嫌なのよね」
「それは……」
私は心のどこかで、アンタを眠らせた後、アンタを守りながらゆっくりと準備をすればいいって思ってた。
……でも、アンタはそれじゃ嫌なのよね」
「それは……」
肯定したいが、それは自分のわがままなのではないかと思い、上条はすぐに返事ができない。
「だったら明日……いいえ、今日中に、アンタを治せるようにする」
美琴は上条に向かって宣言する。
「……無理だろ。気を使ってくれるのは嬉しいけど、いくらなんでもそんな都合のいい話が」
「アイデアはあるわ」
「……マジかよ」
「解決しなきゃいけない問題が別のところで残ってるけど……でも、絶対になんとかする。
危険な事も、何一つ起こさせない。だから……」
「アイデアはあるわ」
「……マジかよ」
「解決しなきゃいけない問題が別のところで残ってるけど……でも、絶対になんとかする。
危険な事も、何一つ起こさせない。だから……」
美琴は両手で上条の右手を優しく包み込み、自らの胸の前に移動させる。
上条自身は気づいていなかったが、その右手は美琴と会ったときからずっと震えていた。
上条自身は気づいていなかったが、その右手は美琴と会ったときからずっと震えていた。
「だから、アンタは何も怖がることなんかないのよ」
美琴のその言葉は、上条の不安を取り除きたいという思いだけではなく、
絶対に上条を助けるんだという自らへの誓いでもあった。
絶対に上条を助けるんだという自らへの誓いでもあった。
美琴の強い想いが熱となり、腕を通り、絶望で冷たくなっていた心に流れ込んでくる。そのように上条は感じた。
気が付くと、上条の手の震えは止まっていた。
気が付くと、上条の手の震えは止まっていた。
「……はは」
「何よ」
「いや、なんでだろうな。正直何するのか全然わかんねえんだけど、
お前の顔見てたら、もう大丈夫な気がしてきた」
「何よ」
「いや、なんでだろうな。正直何するのか全然わかんねえんだけど、
お前の顔見てたら、もう大丈夫な気がしてきた」
これがお姉様パワーってやつなのかね、と上条は軽口を叩き始める。
「な、何よ。人が真剣に話してるってのに……」
美琴が文句を言おうとしたところで、二人の背後で車のブレーキ音が鳴った。
そこには救急車が停まっており、その中から御坂妹が姿を現した。
そこには救急車が停まっており、その中から御坂妹が姿を現した。
「報告を受けたので急いで来てみれば……何をやっているのですか。
ずるい、という感情をミサカは隠しきれません」
「うわわっ!?」
ずるい、という感情をミサカは隠しきれません」
「うわわっ!?」
急いで上条の右手を離す美琴。
「お姉さまは二人の世界に没頭していたのですね。とミサカは呆れます」
「ぼ、没頭してない! ああもう、んなこと言ってないで早くコイツを病院まで連れて行くわよ」
「ぼ、没頭してない! ああもう、んなこと言ってないで早くコイツを病院まで連れて行くわよ」
照れ隠しをしながらも、美琴と御坂妹は二人で上条を救急車に乗せた。
その後、美琴は御坂妹に頼みごとをする。
その後、美琴は御坂妹に頼みごとをする。
「悪いんだけどさ、後はアンタ一人でやってくれる? 私はこれから行かなきゃいけないところがあるの」
「それはかまいませんが……あの人に付き添わなくてよろしいのですか? とミサカは問いかけます」
「ちょっとね、あんまり時間が残ってないのよ」
「それでは私があの人と二人っきりになれますね。とミサカは漁夫の利を得た事に気付き、高揚した気分になります」
「はいはい……それじゃ、まかせたわよ」
「それはかまいませんが……あの人に付き添わなくてよろしいのですか? とミサカは問いかけます」
「ちょっとね、あんまり時間が残ってないのよ」
「それでは私があの人と二人っきりになれますね。とミサカは漁夫の利を得た事に気付き、高揚した気分になります」
「はいはい……それじゃ、まかせたわよ」
そう言って、美琴はその場から離れようとする。
その瞬間、その光景を見ていた上条の心の中に、言い表しようのない不安が沸き起こった。
美琴に会うのは、これが最後かもしれない。なぜだかそのような予感がした。
気がつくと、上条は美琴を呼び止めていた。
その瞬間、その光景を見ていた上条の心の中に、言い表しようのない不安が沸き起こった。
美琴に会うのは、これが最後かもしれない。なぜだかそのような予感がした。
気がつくと、上条は美琴を呼び止めていた。
「御坂」
走り出そうとしていた美琴は、上条の言葉で立ち止まる。
「何?」
「いや……なんかよくわからねえんだけど。……また、病院に戻ってくるよな?」
「当たり前でしょ? 何言ってんのよ」
「そうだな……悪い」
「いや……なんかよくわからねえんだけど。……また、病院に戻ってくるよな?」
「当たり前でしょ? 何言ってんのよ」
「そうだな……悪い」
何かを心配しているような上条の様子を、美琴はしばらく眺めていた。
しかし、その後上条が何か言うこともなかったので、美琴はその場を離れる事にした。
しかし、その後上条が何か言うこともなかったので、美琴はその場を離れる事にした。
―――
美琴は、友人であり風紀委員でもある、初春飾利へと電話をかけていた。
「初春さん、ちょっとお願いがあるんだけど、今いい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「風紀委員としてはちょっと問題ある内容なんだけどね、人を探す協力をして欲しいの。
……学園都市の監視カメラの映像から探せないかしら」
「ええっ!?」
「今すぐに力を借りないといけない人がいるの……お願い」
「はい、大丈夫ですよ」
「風紀委員としてはちょっと問題ある内容なんだけどね、人を探す協力をして欲しいの。
……学園都市の監視カメラの映像から探せないかしら」
「ええっ!?」
「今すぐに力を借りないといけない人がいるの……お願い」
美琴の頼みごとは、風紀委員の職権を超えていた。
そのため初春は一瞬躊躇する。しかし、美琴がそのことを想像できないとは思えない。
だとするなら、きっと何か事情があるはずだ。だったら自分がやることは一つ。
そのため初春は一瞬躊躇する。しかし、美琴がそのことを想像できないとは思えない。
だとするなら、きっと何か事情があるはずだ。だったら自分がやることは一つ。
大事な友人のために、初春は危ない橋を渡る覚悟を決めた。
「わかりました。名前とか学校とかわかれば、調べられると思います」
「名前は布束砥信、長点上機学園の生徒よ」
「了解です……所属データを見つけました。監視カメラの映像と照合させて、どこかでこの人が写ってないか調べます」
「名前は布束砥信、長点上機学園の生徒よ」
「了解です……所属データを見つけました。監視カメラの映像と照合させて、どこかでこの人が写ってないか調べます」
そして、1分もたたないうちに初春は布束を見つけだした。
どうやら長点上機学園の近くにいるようだ。
どうやら長点上機学園の近くにいるようだ。
「ごめんね。もし怒られたら、私が謝るから」
「気にしないでください。御坂さんの事ですから、きっとこれは大事な事なんですよね?」
「うん。……初春さん、ありがとう」
「いえいえ。それに、私は証拠を残すような事はしませんから、問題ありません」
「そ、そう。心強いわね……」
「気にしないでください。御坂さんの事ですから、きっとこれは大事な事なんですよね?」
「うん。……初春さん、ありがとう」
「いえいえ。それに、私は証拠を残すような事はしませんから、問題ありません」
「そ、そう。心強いわね……」
初春があまりにも自身満々なため、逆に少し不安になった美琴だったが、言葉には出さないでおいた。
―――
学園都市、第18学区。
能力開発のエリート高が集うその学区の中を美琴は走っていた。
彼女が持っている電話から声が聞こえる。
能力開発のエリート高が集うその学区の中を美琴は走っていた。
彼女が持っている電話から声が聞こえる。
「御坂さん、その人は1分前に次の角を右に曲がって行きました」
「オッケー。ありがとう初春さん」
「オッケー。ありがとう初春さん」
美琴が道を曲がると、目的の人物が見つかった。
「久しぶり、かしらね」
「あなたは……」
「アンタに用があるの」
「あなたは……」
「アンタに用があるの」
長点上機学園の制服を着たその少女の名は布束砥信。
かつての絶対能力進化実験の際に、美琴と面識のある人物だった。
突然の来訪者に驚いている布束の次の言葉を待たずに、美琴は質問をぶつける。
かつての絶対能力進化実験の際に、美琴と面識のある人物だった。
突然の来訪者に驚いている布束の次の言葉を待たずに、美琴は質問をぶつける。
「アンタ、学習装置《テスタメント》ってのに詳しいのよね?」
布束砥信、長点上機学園の三年生。
彼女はかつて、妹達を用いた絶対能力進化計画の中で洗脳装置(テスタメント)と呼ばれる装置の開発に携わっていた。
彼女は一度、危機的状況に陥ることがあったが、現在では普通の学生生活を送るようになっていた。
彼女はかつて、妹達を用いた絶対能力進化計画の中で洗脳装置(テスタメント)と呼ばれる装置の開発に携わっていた。
彼女は一度、危機的状況に陥ることがあったが、現在では普通の学生生活を送るようになっていた。
「……用件は何かしら」
「その前に、場所を変えましょう」
「その前に、場所を変えましょう」
その場ではそれ以上話ができないということで、二人は場所を変えた。
美琴が布束を連れてきたのは、閉鎖されている研究所の跡地だった。
そこは、かつて妹達の研究が行われていた場所だった。
そこは、かつて妹達の研究が行われていた場所だった。
美琴は布束に上条の状況と、時間に猶予が無い事を説明する。
そして一瞬で必要な知識を得るために、学習装置《テスタメント》を使うことができないかと尋ねた。
そして一瞬で必要な知識を得るために、学習装置《テスタメント》を使うことができないかと尋ねた。
「そのために、こんな場所までつれて来たというわけね。
学習装置《テスタメント》については……たしかに、理論上は可能ね」
「本当!?」
「However, やめておいた方がいいわね。危険が伴うわ」
「……多少危険だからって、引くわけにはいかない状況ってことを理解してくれないかしら」
学習装置《テスタメント》については……たしかに、理論上は可能ね」
「本当!?」
「However, やめておいた方がいいわね。危険が伴うわ」
「……多少危険だからって、引くわけにはいかない状況ってことを理解してくれないかしら」
一度ため息をつき、布束は言葉を続ける。
「たしかに、妹達にしたように、貴方の脳へ学習装置《テスタメント》で必要な知識を書きこむ事は可能よ。
ただし、まっさらな状態だった妹達の脳と、今の貴方の脳は状態が違う。これが何を意味しているかわかる?
学習装置《テスタメント》は貴方の脳のすでに保存されていた情報を、別の情報で上書きしてしまうかもしれない。
そうなった場合、記憶や人格に影響が出る可能性がゼロとは言えないわ。」
ただし、まっさらな状態だった妹達の脳と、今の貴方の脳は状態が違う。これが何を意味しているかわかる?
学習装置《テスタメント》は貴方の脳のすでに保存されていた情報を、別の情報で上書きしてしまうかもしれない。
そうなった場合、記憶や人格に影響が出る可能性がゼロとは言えないわ。」
布束の言葉を聞き、美琴は息を飲んだ。
学習装置によって人格が変わる、あるいは記憶が消えてしまうかもしれない。
そうなってしまった場合、今、こうして考えている御坂美琴は消え去るということだろうか。
学習装置によって人格が変わる、あるいは記憶が消えてしまうかもしれない。
そうなってしまった場合、今、こうして考えている御坂美琴は消え去るということだろうか。
一瞬、途方も無い恐怖にとらわれる美琴だったが、すぐに視線を布束に戻した。
「それでも、私はやらなきゃいけないのよ」
記憶や人格を失ったとしてもかまわない。美琴の視線には強い意思が込められていた。
布束はもう一度ため息をつき
「私に協力する義理は無い、と言いたいところだけれど……
そうね。あの実験に関わった一人として、貴方への罪滅ぼし代わりにはなるかもしれないわね」
そうね。あの実験に関わった一人として、貴方への罪滅ぼし代わりにはなるかもしれないわね」
美琴に協力することを了承した。
その後、布束は少し離れた場所にあった棚まで行くと、そこから何かを取り出し、美琴に渡す。
「学習装置《テスタメント》の準備には少し時間がかかるわ。その間にこれを使いなさい」
渡されたものは、数個のボイスレコーダーだった。
「ボイスレコーダー? 何に使うの?」
若干の沈黙の後、布束は答えた。
「杞憂に終わればいいのだけれど、もしもの場合への備えといったところよ。
貴方が今の貴方であるうちに、知り合いに遺言でも残しておきなさい」
貴方が今の貴方であるうちに、知り合いに遺言でも残しておきなさい」
遺言。その不穏な単語に、美琴は息をのむ。
布束は美琴の反応を待たずに、学習装置《テスタメント》が設置されている部屋へと入っていった。
布束は美琴の反応を待たずに、学習装置《テスタメント》が設置されている部屋へと入っていった。
しばし呆然としていた美琴だったが、やがて気を取り直すと、気合を入れるために自らの両頬を軽く叩く。
「ったく、何ビビッてんのよ。
どんなことでもするって決めたんでしょ。覚悟を決めなさい」
どんなことでもするって決めたんでしょ。覚悟を決めなさい」
そう呟いた後、美琴はボイスレコーダーのスイッチを入れた。
―――
学習装置《テスタメント》での知識の書き込みが終わり、装置の中から美琴が姿を現した。
「気分はどうかしら」
「……特に、変わったとは思わないわね。ったく、アンタ脅しすぎよ」
「……特に、変わったとは思わないわね。ったく、アンタ脅しすぎよ」
美琴は文句を言いながらも、手に持ったメモのようなものを眺めている。
それは事前に作った記憶のチェックリストであり、美琴は何か忘れていることがないかどうかを調べていた。
それは事前に作った記憶のチェックリストであり、美琴は何か忘れていることがないかどうかを調べていた。
「うん、問題なさそうね」
どこかホッとした様子の美琴に、布束が話しかける。
「一応、脳の精密検査もした方がいいと思うのだけれども」
「今はいいわ。とにかく時間がないの」
「そう」
「……アンタにはお礼を言わなくちゃいけないわね」
「必要ないわ。私が過去にしてきたことを思えばね」
「それでも、ありがとう」
「……」
「今はいいわ。とにかく時間がないの」
「そう」
「……アンタにはお礼を言わなくちゃいけないわね」
「必要ないわ。私が過去にしてきたことを思えばね」
「それでも、ありがとう」
「……」
その後、少しの会話を交わした後、美琴は上条の待つ病院へ向かった。
その場に残された布束は手に持っている。ボイスレコーダーを眺めながら呟いた。
その場に残された布束は手に持っている。ボイスレコーダーを眺めながら呟いた。
「これは回収しなくてよかったのかしら。あるいは、忘れてしまったのか……」