小ネタ 新米カップルのイチャイチャ研修録
浜面仕上と滝壺理后。
上条からすれば、共に何度も死線をくぐり抜けてきた戦友とよく知らない人。
美琴からすれば、ハワイで一緒になった元・スキルアウトと
8月19日に交戦した暗部組織・アイテムの一員。
共通の認識としては、「その二人は付き合っている」という事だ。
情報としては知っていたが、上条と美琴は改めてその事実を再確認する。
何故なら目の前オープンカフェのテラス席で、
「はまづら、ここは『あーん』するのが正しいマナー」
「い、いやでも周りから見られてるしさ!」
「大丈夫、はまづらは見られて興奮する性癖の持ち主だから。私はそんなはまづらを応援してる」
「バニー好きに続いて、変な性癖【オプション】つけないでっ!?」
いちゃこら(?)している姿を見たから。
「…よくやるなー、あいつら……」
などと暢気な感想を漏らす上条とは対称的に、美琴は感心していた。
(そうよ、これよ! これが本来カップルの有るべき姿なんだわ!)
美琴がそんな事を思うのには理由がある。
実 は 上 条 と 美 琴 の 二 人 も 付 き 合 っ て い る の だ。
数多なライバル達…具体的には、インデックス五和姫神妹達オティヌス神裂オルソラレッサー小萌雲川姉妹食蜂吹寄風斬結標バードウェイアニェーゼルチアアンジェレネサーシャサンドリヨンフレイヤエキシカ姉妹フロイラインシャットアウラ乙姫シェリーキャーリサオリアナヴェントフレイスフロリスサフリー獣少女etcetc。
上条に対する好感度はそれぞれ大なり小なり差があるが、全て上条にフラグを建てられた女性達だ。
ざっと挙げただけでもこれだけのライバルに勝利し、
見事「上条の彼女」という栄光を掴んだ美琴だが、何故かご不満の様子である。
(だって付き合い始めてから一ヶ月にもなるのに、まだ手も握ってくれないんだもん!
ああもう、この鈍感馬鹿! 少しはそういう所にも気づきなさいよねっ!)
相当ご立腹だ。
だが浜面達を見て、美琴も決心する。この鈍感男には、自分からリードしなくてはいけないのだと。
「私たちもそこのカフェ入るわよ!」
「え…でも昼飯にはまだ早―――」
「は・い・る・のっ!」
「―――……はい…」
美琴の迫力に負け、仕方なく店に入る上条であった。
テーブルに着き、上条はコーヒーを、美琴は紅茶とパンケーキを注文する。
せっかくなので上条も軽く食べられる物を注文しようとしたのだが、美琴に止められたのだ。
そこには勿論、理由がある。
ここからでも見えるオープンテラス。そこでいちゃいちゃしているカップルが先程言っていた事。
『ここは「あーん」するのが正しいマナー』
つまり美琴もそれがやりたいのだ。料理が一つなら、必然的に食べさせ合いをするチャンスも増える。
注文した物が到着し、美琴はさっそくパンケーキを一口サイズに切り分ける。
そしてそれをフォークに刺すと、
「ほ…ほら、口開けなさいよ……た、食べたかったんでしょ?」
上条の口元に持っていった。
「え…美琴が食うんじゃねーの?」
「アアアアンタねぇ!! どんだけ鈍いのよ!!
私だってもうすでに頑張りが許容範囲超えてんだから、これ以上間を空けないでよっ!!!」
真っ赤になりながらフォークを向け、思いの丈をぶちまける美琴。
そしてその言葉を聴き、今何をするべきかをやっと理解する上条。
上条は頭をポリポリと掻きながら、心の中で呟いた。
(ああ…そっか……アホだな、俺……)
今までこういった出来事に縁が無かった(?)上条にとって、
恋人っぽい行為など、全く考えもつかないらしい。しかしそれではきっと駄目なのだろう。
美琴だって本来、素直になれない性格なのに、ここまで頑張ってくれているのだ。
ここで何もしなければ、彼氏として失格である。
上条は口を大きく開けた。
「あー……んぐっ! …んぐんぐ…」
「お…美味しい…?」
「ごくっ! ああ、美味いよ。…美琴の味だ」
「なっ!!!?」
正直、「美琴の味」の意味が全く分からない。というか、上条自身も分かっていない。
美琴が頑張ってくれたから、上条も上条なりに頑張ってみたらしいのだが、
自分で言って速攻で後悔した。恥ずかしすぎである。
だが美琴は何故か言われて嬉しかったらしく、
「わわ、わらひにょあじとか……にゃにゃにゃ、にゃにへんにゃこといってんにょよ……」
顔からぽっぽぽっぽと煙を出しながら喜んでくれている。結果はオーライである。
「じゃ、じゃあ次は美琴の番な! ほら、口開けて?」
蒸し返されると尚更恥ずかしいので、とっとと次のターンへと移行させる上条である。
美琴が目を瞑って口を大きく開けた。
上条はフォークに一口サイズのパンケーキを刺し、美琴の口にそれを近づける。
その時だ。何気なくテラスの様子が目に入った。
どうやら浜面が、滝壺の口の周りの生クリームを、ナプキンで拭き取っているらしい。
上条は、「勉強になるなぁ」とカップルの先輩達に敬意を表する。
が、余所見をしていた上に美琴も目を瞑っていた為、
狙いが外れ、パンケーキは美琴の口内ではなく、頬の辺りに直撃した。
「にゃがっ!!? ちょっと、何やってんのよ!?」
「ああああ! 悪い!」
上条は慌ててナプキンを取り出そうとした。しかし、ここで上条の不幸発動だ。
(あれっ!? ナプキンが無い!!? おしぼり…は手を拭いちまったしなぁ……)
拭く物が無いのだ。だが美琴の頬には、べっとりと生クリームが付いている。上条のせいで。
仕方が無い、と上条は心に決めた。
ここは甘んじて、もう一度恥ずかしい思いをしてやろうと誓ったのだ。
上条は立ち上がり、そして、
「ペロッ…」
舐め取った。
舐めて! 取ったのだ!
美琴の頬に付いていた生クリームを、自分の舌で!
「なっ、ななな、な、な……………なあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
さすがに予想できなかったらしく、美琴は声を上げた。
「お、落ち着けって美琴! その…アレだ……ほ、他に方法が無くてですね!!!
……って、あれ、美琴? もしもーし、美琴さーん!? 聞こえてますかー!?」
上条の言葉は美琴には届いていなかった。
何故なら彼女は、そのまま気絶していたからだ。
気絶する直前、美琴は薄れゆく意識の中で、こんな事を思っていたようだ。
(もう、お嫁に貰ってもらうしかない!)
、と。