とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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お客様、店内でのそういったプレイはお止めください




セブンスミスト内にある、女性用下着売り場。
そこへ幼女と手を繋ぎながら歩く怪しい少年が一人。
名を上条当麻というその少年は、この状況に対し心の中で叫んでいた。
「不幸だ」、と。



彼がこうなったのは、かれこれ十数分前。いつものスーパーへと向かう途中だった。
「今日は鍋にでもしますかね」などと夕飯の献立を考えながら歩いていたら、背後から

「あっ! お兄ちゃんだ!」

と声をかけられた。
小学校低~中学年らしい、短めのツインテールをした可愛い女の子だった。
その口ぶりから上条の知り合いである事は間違いなさそうだが、彼には覚えが無い。
どうやら記憶を失う以前に出会った子のようだ。
忘れてないフリ【このかんじ】も久々だな、と内心で苦笑いしつつ、少女に話を合わせる。

「おー、久しぶりだな。元気だったか?」
「うん元気だよ!」

「にぱっ」、と眩しい笑顔を向ける少女。
普段から『何故か』不機嫌な女性達を相手にしている上条にとって、
純真無垢なその笑顔は、とても癒されるものだった。
…何故彼の周りの女性達が『不機嫌』な態度を取るのかは、まぁ察してもらえるだろう。

「一人でお出かけしてんのか?」
「そうだよ。今からね、『セブンスミスト』行くの。あの時と一緒だね!」
「あ、ああ。そうだな。あの時と一緒だな」

勿論、上条には「あの時」がどの時なのかはサッパリ分からない。
だがどうやら、一緒にセブンスミストへ行った仲ではあるようだ。

この少女の名前は硲舎佳茄(はざまや かな)。
7月18日に洋服店を探していた所、
たまたま通りかかった上条に声をかけられ、セブンスミストに案内された過去があるのだ。
その日、事件に巻き込まれたという事もあり、彼女はその日の事をよく覚えていた。
なので一度しか会った事のない上条の顔も、よく覚えていたのだ。

「あ、そうだ! お兄ちゃんも一緒に来てくれない?
 私今日初めて買うから、どんなのにすればいいのか分からなくて…お兄ちゃんにも手伝ってほしいの」

正直、一人にしておくのは少し心配だったし、まだスーパーのタイムサービスまで時間があるので、
上条は硲舎の申し出を受け入れる事にした。

「いいけど…何を買いに行くんだ?」

だがそれこそが、本日の不幸イベントの第一歩であった。
何故なら…

「えっとねぇ…『ぶらじゃー』を買いに行くの!」

なん…だと…?



そんな訳で上条は、幼女を引き連れて下着売り場に来ているのだ。
ぶっちゃけ硲舎の体型を見る限り「ぶらじゃー」とやらはまだ必要ないように思えるが、
「同じクラスの女の子が使い始めたから、自分も使いたい」
という乙女心【げんそう】をぶち殺す訳にはいかない。女の子に恥をかかせてはいけないのである。
しかしそれはそれ、これはこれだ。
思春期真っ只な高校一年生の男子学生が、女性用の下着売り場に来るというのは、
なかなかどうして、かなりの拷問である。その上、幼女という付加価値がついていれば尚更だ。

(うおおおお!!! めっちゃ気まずい!!! 何か周りから変な目で見られてる気がする!!!)

それは上条の被害妄想…かどうかは分からないが、少なくとも周りをキョロキョロしている今の上条は、
完全に不審者【あやしいひと】である。

「お兄ちゃん、こういうのとかはどうかな?」

上条が追い込まれている事など露知らず、無邪気にジュニア用の『それ』を手に取る硲舎。
対して上条は、

「あ、う、うん。いいんじゃないかな。お兄ちゃんもそれが可愛いと思うぞ。
 あくまでもお兄ちゃんとしての意見な!? うん、お兄ちゃんとして」

『それ』がいいかどうかよりも、周りへ「お兄ちゃん」をアピールする方に必死である。
それが余計に怪しさを醸し出しているという事に、お兄ちゃんは気がついていないのだろうか。

その時だ。アクシデントの発生である。
身振り手振りで大げさに分かりやすく「自分は不審者じゃありませんよアピール」をしていたのだが、
上条の不幸体質がそうさせたのか、手が隣のマネキンに当たってしまった。
倒れそうになるマネキン。しかし、このまま倒してしまったら、余計に注目を浴びる事となる。
上条は持ち前の反射神経で、マネキンの体を支える。
セーフだった。……マネキン『本体』は。
だがそのマネキンが被っていたカツラがズルリと落ちたのだ。

冷静に思い返してみれば、カツラぐらいならば落としても大して問題はなかっただろう。
けれども人は何かを落とした時、それこそ反射的に手を伸ばしてしまうものだ。
とっさに空中でカツラをキャッチしようとした上条だったが、
マネキン本体を支えた直後だったので、バランスを崩してしまう。
そしてそのまま彼は、事もあろうに頭から突っ込んでしまったのだ。

下着売り場、その  試  着  室  に。

直後、大きな悲鳴と、最大級の『電撃』が上条を襲った。


上条達がセブンスミストへとやって来るその数分前、御坂美琴は下着売り場で悩んでいた。

彼女の通う常盤台中学では、外出時でも制服着用が義務付けられている。
しかしお嬢様と言えど中学生。オシャレを楽しみたいお年頃である。
なので見えない所【インナー】にお金をかける生徒も少なくないのだ。
その例に漏れず、美琴もお気に入りの下着を買いに来た訳だが、
彼女は悩んでいたのだ。

(う~ん……中学生用ってあんまり可愛いの無いのよね……かと言ってこっちのは小学生用だし……)

美琴の御目に留まったのは、何かこう、フリフリしたヤツだった。
いや、百歩譲って少女趣味なのはまだいいだろう。問題はもっと他にある。
事もあろうにそのブラジャー、カエルのキャラクター【いつものアイツ】がプリントしてあるのだ。
人に見せる為の物ではないとはいえ、そのチョイスはさすがにどうなのだろうか。
だが彼女の悩みは、「さすがにこれは恥ずかしいかな…」ではなく、

(小学生用じゃサイズが合わないわよね…これのもう一回り大きいのって無いのかしら?)

であった。もはや重症である。
だがここで、美琴はとんでもない事に気づく。
小学生用…とは言っても、最近の小学生というのは成長が早い子も多い。
加えて美琴の胸は、お世辞にも大きいとは言えないサイズである。
つまり、だ。

(……あれ…? 意外とこれ、サイズ的にピッタリかも……)

サイズが合いそうという高揚感と、小学生用なのにサイズが『合ってしまいそう』という絶望感で、
複雑な感情が入り乱れる美琴。
だがまぁ、本当に合うかどうかは服の上からではイマイチ分からない。
美琴はとりあえず試着してみる事にした。
喜ぶのも落ち込むのも、本当にサイズが合うかどうか、試してからでも遅くはない。



試着室に入り、制服と自分のブラを脱ぎ捨てる。
上半身裸となった美琴は、先程手に取ったキャラ物のブラをさっそく着けてみた。
ピッタリだった。泣きながら笑い、ガッツポーズをしながら崩れ落ちた。
しかし合った物は仕方がない。これは買いだ。

試着も終わったので、元の制服姿に戻る為にカエル柄のブラのホックを外そうとしたその時、
キャイキャイした会話が試着室の外から聞こえてきた。

「お兄ちゃん、こういうのとかはどうかな?」
「あ、う、うん。いいんじゃないかな。お兄ちゃんもそれが可愛いと思うぞ。
 あくまでもお兄ちゃんとしての意見な!? うん、お兄ちゃんとして」

どうやら兄妹らしい。声質からして、兄は高校生、妹は小学生だろうか。
しかしながらこの二人の声、何となく聞き覚えがある気がする。
特に兄の方は、毎日でも聞いているかのような。

(…ああ、カナちゃんとあの馬鹿か。
 ……………
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

気づいたその3秒後、

(あの馬鹿あああああぁぁぁぁぁ!!!?)

美琴は一気にテンパった。
何故上条が女性用下着売り場【こんなところ】にいるのか、
そして何故自分が試着室にいる時に【このタイミング】で現れるのか。
とにかくこの状況は非常にマズイ。
相手はあの上条だ。
あくまでも『例えば』の話だが、もし本人に悪気ややましい気持ちが無くとも、
『不幸にもマネキンを倒してしまい、咄嗟にマネキン本体は支えられたのだが、
 その拍子にカツラが落ち、それをキャッチした時にバランスを崩し、そのまま試着室内へダイブする』、
という普通なら絶対に有り得ない行動を、彼ならばいとも容易くやってのけるかも知れない。
あくまでも『例えば』だが。

しかし美琴がアレコレと考えているうちに、その最悪の事態が起こってしまう。
ご期待通りである。

突然試着室の中に、カツラを持った変態さんが乱入してきた。
バッチリと目が合ったその変態が言った第一声は、

「あ…あーその……に、似合ってますね……」

だった。
瞬間、美琴の大きな悲鳴と、最大級の電撃が変態を襲った。



試着室に頭から突っ込んで行った上条の脳裏にまず浮んだ事は、

(あ…俺死んだ)

だった。
カーテンが閉まっている以上、そこで誰かが試着しているのは明白だ。
しかもここは、選りにも選って下着売り場である。
つまり、下着を試着中なのである。
「キャー、のび太さんのエッチー!」とビンタされるだけで済むなら問題ないが、
下手をすれば警備員に通報され、臭い飯を食わされるかも知れない。
色々と覚悟を決めつつ、上条は中の人と目が合う。

見覚えがあった。

不幸中の幸いなのか不幸中の不幸なのか、上条はその人物と顔見知りであった。
だがこれはチャンスでもある。
知り合いならば、誠心誠意説明すれば、分かってくれるかも知れない。
しかし説得させるにも、最初の一言が肝心だ。
何しろ相手からすれば、知り合いと言えども上条【じぶん】は完全なる変質者だ。
まずは相手を落ち着かせるべきだろう。
となれば、とりあえず褒めるのが手っ取り早いのではないだろうか。
女性は誰でも、褒められて悪い気はしない…と、雑誌に書いてあった気がする。

とまぁ、上条はそんな事を一瞬で考えた訳だ。
それで彼が言った一言が、

「あ…あーその……に、似合ってますね……」

なのであった。
目の前の、下着姿の美琴に向かって。



「き………きゃああああああああああっ!!!!!」

悲鳴と同時に電撃が放たれる。
この状況で「似合ってますね」は、完全に火に油を注ぐだけだったのだ。うん、だろうね。
上条は電撃を右手で打ち消し、そのままの流れで美琴の口を塞ぐ。
事情を知らない人が見たら…いや、知ってる人から見てもアウトである。

「しーっ! 静かにしてくれ! こ、これには事情があってだな!」
「もごもごもごっ!!!」

店員がこの騒ぎに駆けつけたら、上条の人生が詰んでしまう。
美琴が暴れないように押さえつける上条。もう一度言うが、美琴は上半身下着姿である。

上条は自分が置かれている状況を早口で、だが懇切丁寧に説明した。
試着室という半密室で、半裸の少女と密着しながら。



「―――って訳でしてですね!」
「だ、だだだ、大体分かったわよっ!!! だからもう、は、は、離れてっ!!!」

正直、こんな状態で上条の話など聞く余裕がなく、内容も半分くらいしか理解できなかったが、
とりあえず悪気は無かったというのは伝わったので、一応許した。
というか、一刻も早く試着室【このば】から出て行ってほしかったので、
下手に反論せず、話を打ち切りたかったのである。
だが上条は、そんな美琴の気持ちをアッサリとそげぶする。

「い、いや、待て。少し外がザワついてきた。今出てったら、本当に終わっちまう。
 わ…悪いんですが、もう少しこのままにしてはいただけませんかね…?」
「えええええぇぇぇぇぇ!!!?」

美琴にとって、嬉しいやら恥ずかしいやら。



それから二人の体感時間では数分後(実際には数秒後)。
肌に触れるか触れないかの微妙な距離で、二人は何か変な気持ちになっていた。
試着室というのは、着替える為にそれなりのスペースはあるが、基本的に一人用である。
二人も入れば必然的に、密着状態となってしまうのだ。

(や…やだ…私汗臭くないかな……てか近いわよ~~~っ!!!
 コイツの息がダイレクトに当たってくるし……
 あ~もう! ドキドキしてんのがバレちゃうじゃないのよ馬鹿~~~!!!)
(ヤ、ヤバいな……ダブルの意味でヤバい。
 ……改めて見ると、美琴って線細いんだな。それにすっげぇ肌綺麗だし……
 …あっ…何か甘い匂いとかしてきた………って、いか~ん!!! 今はそれ所じゃねぇっ!!!)

そう。ラブコメってる場合ではない。
お互いに、「今ここで私が目を瞑ったら、コイツもキスとかしてくれるのかしら…」とか、
「いっその事、何もかも忘れて美琴を抱き締めてしまうのは駄目でせうか?」などと一瞬でも思ったが、
もう少し自分達が公然わいせつ罪スレスレである事を自覚していただきたい。
しかしここでありがたい事に(迷惑な事に?)、
試着室に突っ込んで行ったまま帰ってこない上条を心配した硲舎が、外から声をかけてきた。

「お兄ちゃーん! 大丈夫ー!?」

ギクリ!とする二人。そんな大声で呼ばれては困る。
下着売り場の試着室(しかも使用中)に向かって、『お兄ちゃん』はマズいだろう。
上条は中から、小声で返答する。

「あ、あー…俺は大丈夫だから、心配すんなって。も、もう少しここにいるからさ」
「何でー?」

小声で聞き取りにくかったのか、硲舎はカーテンを少し開け、顔だけひょこっと出してきた。
するとそこには当然、

「あっ! 常盤台のお姉ちゃんだ! 何してるの?」

美琴がいた訳だ。
しかし、詳しく説明している時間はない。先程の硲舎の行動で、益々人が集まってくる…かも知れない。
だがピンチは逆にチャンスでもある。美琴は硲舎に、こんな提案をしたのだ。

「ひ、久しぶりね、カナちゃん。今私達、スパイやってるの」
「スパイ?」
「そう。それでここから逃げなくちゃいけないんだけど、人がいっぱいで逃げられないの。
 だからここに人が来ないように、カナちゃんが協力してくれないかな?」
「私もスパイになれるの!?」
「うん、勿論!」

うまいもんだな、と上条は関心していた。
遊びに引っ張れば子供も協力してくれるだろうし、「スパイ」という響きも子供心をくすぐるワードだ。
その上で人払いもできる。その隙に上条が脱出できれば、彼は臭い飯を食う事もなくなるだろう。
硲舎は嬉々として、美琴の提案に乗っかった。

だがこれですんなり終わるほど、上条の不幸体質は甘くない。
ここにきて上条達は、本日最大の不幸を食らう事となる。


外から会話が聞こえてくる。

「久しぶりですね、セブンスミスト」
「でもさー、どうせなら御坂さんも誘いたかったよね。まだ連絡つかないんですか?」
「それが…携帯電話をお部屋に置いてどこかへ行かれたようで、連絡の取りようがありませんの…
 はぁ……お姉様…今どこで何をしていらっしゃいますの…?」

聞き覚えのありすぎる声に、二人は固まる。
しかしそれだけではない。

「ひょうかひょうか! ここにはどんな美味しい物があるのかな!?」
「えっと…ここに食べ物は売ってないと思うな……」

「ここは。中々品揃えがいい。吹寄さんも。きっと気に入ると思う」
「ありがとう姫神さん。
 私基本的に服とかも通販で買っちゃうから、こういう店ってあまり知らないのよね」

「そろそろ今のブラが合わなくなってきちゃったけど」
「Gめ! それ以上発育してどうする気だ!?」

「わ…わたくし、お友達とこのようなお店に入るのは初めてですわ…」
「まぁ! では本日を記念日にいたしましょう」
「ふふふっ。わたくしも湾内さんも、婚后さんに喜んでいただけて嬉しいですわ」

「女王。こちらのお洋服などは如何でしょう」
「ちょ~っと趣味力が違うのよねぇ。もう少しシックなのってなぁい?」

「う~ん…やっぱり子供服しか合うサイズがありませんね……
 黄泉川先生のようにグラマラスでしたら、選ぶのも楽しいのでしょうけども……」
「いや、私はこういった事に興味がないから、
 私からすればむしろオシャレを楽しめる月詠センセの方が羨ましく感じるじゃんよ」

「兄貴は下着売り場でも堂々としてるなー。恥ずかしいとかは思わないのかー?」
「俺は隣に舞夏がいるなら、女性専用車両にいても何とも思わないぜい。むしろご褒美だにゃー」

何故だ。何故このタイミングなのだ。続々と二人の知り合い達が集結してくる。
頼みの綱は硲舎しかいない。
うまくスパイの仲間になりきって、彼女(一部、彼)達を追い払ってくれるのを待つだけだ。

「あっ! 風紀委員のお姉ちゃん!」
「あら、あなたはバッグの…」

初春達と接触した硲舎が放った一言は……

「今ね! 常盤台のお姉ちゃんとツンツン頭のお兄ちゃんが試着室【あそこ】にいるけど、
 スパイだから言っちゃ駄目なの! だから内緒だよ!?」

大声で。それはもう、売り場中に聞こえるくらい大声で。
「常盤台のお姉ちゃん」と「ツンツン頭のお兄ちゃん」…その場にいた者達は、
真っ先に『ある人物達』を思い浮かべ、そのまま凍りつく。
しかし、それ以上に凍りついたのは、中にいる当事者達だ。

数秒後、吹寄の手によって試着室のカーテンがガラッと開けられる。
中には上条と、半裸状態の美琴がそこにいた。

上条は今度こそ、臭い飯を食う覚悟をしたのだった。
もっとも、無事にここから生きて出られたら、の話だが。










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