とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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鳥頭なんて言わせない




「待てこの野郎っ!!!」

第7学区に怒号が響く。
その少年は、目の前で嘲ているかの様に飛び回る『ソイツ』をとっ捕まえるべく、
右手に虫取り網、左手に鳥かごを装備したまま全力疾走していた。
だが『ソイツ』はバサバサと羽をはためかせ、一定の距離を保ったまま上空を自由に泳ぐ。
そして馬鹿にしているのかそうでないのか、
たまに少年の隙を見つけては彼の頭に乗り、すぐにまた飛び去って行く。
しかも飛び去る瞬間に鳴くのだが、これがまたイラッとさせるのだ。

『ソイツ』は鳴く。

『アー、ドウシヨー。コンゲツモウ2セン7ヒャクエンシカナイヤー。フコウダー。フコウダー』

と。
対して少年も叫ぶ。

「やめてー! 上条さんの懐事情を勝手に喋んないでー! 何かすっげぇ恥ずかしいからっ!!!」

少年はちょっと涙目になりながら、虫取り網をブンブンと振り回す。
しかし『ソイツ』はヒラヒラとかわし、一向に捕まってくれる気配は無い。
と、ここで少年を援護するべく、二人の増援が駆けつける。
バイクで二人乗りしているその者達が、横につき話しかけてきた。
バイクを運転している方が言う。

「大将! 俺は次の交差点を右に曲がって先回りすっから、大将はそのまま奴を追っててくれ!」
「了解!」

続いて後ろに乗っている方が言う。

「あンのクソ鳥がァ……焼き鳥にして食ってやらァっ!!!」
「お、落ち着けって! 殺しちゃ駄目だぞ!?」

後ろに乗っていた方は、自分の首に巻かれているチョーカーのスイッチをカチリと入れ、
そのまま『ソイツ』目掛けて大ジャンプをする。
しかし『ソイツ』はヒラリとかわし、その少年の頭に乗った。

『トットトオワラセテカエンネェト、ラストオーダーガシンパイスンダヨナァ。シンパイスンダヨナァ』
「こっ…のっ! 余計な事をベラベラとおおおォォォ!!!」
「だから落ち着けって!
 『ソイツ』は俺達の考えが分かるんだ。だから動きも読まれてるのかも知れない!」
「そうだぜ第一位。あのアホ毛の子が心配しないように早く終わらせる為には、
 3人のチームワークが必要なんだから―――」
「うっせェよ三下共がァァァァァ!!!」

ギャアギャアと言い合いながら三人の少年が追いかける『ソイツ』は、
鳥でありながら人の考えが分かるらしい。
つまり、

「とにかく、あの読心能力《鳥》のオウムを何とかしないとな」



時は少々遡りその日の朝、上条は土御門からの電話で妙な話を聞かされていた。

「読心能力鳥?」
『ああ。どっかの研究機関が動物にも超能力が使えるかって実験をしているらしくてにゃー。
 で、そこのサンプルが一匹…いや、一羽逃走したみたいなんだぜい
 何でも、頭に乗った人物の思考を喋るオウムって話だにゃー』
「へー…」

特別驚く事でもない。この学園都市で働く研究者達なら、真っ先に思いつきそうな実験である。

「そりゃ別にいいけど…いや良くはないけどさ、それを何で俺に?」

電話の向こうで、土御門がニヤリと笑った気がした。

『実はその研究機関が懸賞金をかけたんだぜい。
 そのオウムを捕まえた者には何と!
 100万円をその場で取っ払いするって、ついさっき公式発表したんだぜい!』
「ひゃひゃひゃ100万イェンですとおおおおおっ!!?」

上条は思わず大声を出した。
100万円…それは諭吉さん100人分の力である。

「それはつまり軍用に開発された100人のクローンの諭吉さん、
 通称『諭吉達【ユキチーズ】』という事でありますかっ!!?」
『お、落ち着けカミやん! 興奮しすぎて訳の分からん事を口走ってるぜよ!
 あとちょっと、日本を代表する明治時代の思想家【ものすごくえらいひと】に謝っとけ!』



上条が興奮するのも無理はない。何しろ彼は、万年金欠状態なのだから。
それは今月も例外ではなく、奨学金が下りるまでの残りの数日間、彼は二人+一匹分の生活費を、
2,700円という何とも心もとない軍資金でやりくりしなければならない。
そんな状態でのこの朗報、地獄に仏とはこの事である。

「いやでもちょっと待てよ。そんなお得な情報を何でこっちに流してくれたんだ?
 そりゃ俺としてはありがたい話だけど、黙ってれば一人で100万手に入れられただろ?」
『いやいや、懸賞金までかけたって事はそれだけ捕獲が難しいって事だぜい。
 それにこの事はもう既に広く知られている。何たって「公式」発表だからにゃー。
 つまりオレが黙っていようがいまいが、いずれカミやんも知ってたって事だぜい』
「そうかも知れないけどさ…」
『それに、オレは今回のお祭り騒ぎ【ミッション】には参加するつもりは無いぜい。
 今日はせっかくの舞夏とのデートなのに、邪魔されたくないからにゃー♪』

100万円よりも義妹とのデートを優先する土御門に、
「このリア充が!」と心の中で毒づく上条だが、それがブーメランである事に本人は気づいていない。
と、その時だ。同居人であるインデックスが、お腹を空かせて起きてきたようだ。

「おはよーとうま。お腹空いたかも」
『オナカスイター。オナカスイター』
「ああ、ちょっと待ってろ。今大事な話してるか…ら…?」

そして同時に、異変に気づく。いや、異変と言うよりは異常だ。

『ああ、そうそう。そのオウムの特徴だけどにゃー、全体的に赤くて羽がカラフルな奴で―――』
「……で、尻尾の方が青くて? くちばしの下が黒くて?」
『お? お、おお。よく分かったにゃー』

説明する土御門の言葉を上条が引き継ぐ。何故かと言えば、

「すまん土御門。ソイツ今、俺の目の前にいるわ。…てか、インデックスの頭の上に」
『何っ!?』

インデックスの頭上に、見覚えのないカラフルなオウムがそこにいるから。
しかもそれだけではない。

「? どうしたのとうま、変な顔して」
『オナカスイタンダヨー。ハヤクトウマノツクッタゴハンガタベタイナー。タベタイナー』

明らかにインデックスの思考をトレースしている。
こいつが件のオウムである事に間違いないだろう。

上条は慌てて携帯電話を切り、オウム目掛けて突進する。
何を勘違いしたのか、インデックスが「わっ、わわ、そそ、そんな急に困るんだよ!」
と顔を赤くしながら良く分からない事を言っていたが、構っている余裕はない。

上条はインデックスの頭上に手を伸ばすが、オウムはそのままバサリと飛び上がり、
右手は虚しく空を切る。

「このやろっ!」

諦めずに再び飛び掛ろうとした上条だが、その闘争心でも感じ取ったのか、
オウムは窓から逃げ出してしまった。

「あああっ!?」
「と、とうま…? 何がどうしたのかな…?」

まだ寝惚け気味で状況を把握できていないインデックスを横目に、
上条は物置から鳥かごと虫取り網を掘り出した。
そしてオウムを追うべく外に出る。

玄関で、「インデックス…今日の夕飯は、高い肉をたらふく食わしてやるぞ!」と一言残しながら。
インデックスは思った。「夕ごはんのご馳走よりも、とりあえず朝ごはんはどうしたのかな?」、と。



寂れた公園で、浜面は5人分の缶ジュースを持ちながら、どうしてこうなったのかと溜息をついていた。
今日は滝壺と二人っきりでデートをするという予定だった。
しかしジュースの数からも分かるように、二人っきりではない。
彼の視線の先には、滝壺の他に3つの人影。

「浜面あああ! テメェ、毎度毎度ジュース買ってくんのにどんだけ時間かかんだよ!
 パシリのスキルもっと磨いとけや!」
「仕方ないですよ、所詮は超浜面ですから。ここは大目に見てあげるのが超大人の余裕って奴ですよ」
「にゃあ! 大体私の浜面を好き勝手に使うな!」

麦野、絹旗、フレメアの三名だ。いつもの事なので、諦めるしかなさそうだ。
一方の滝壺はと言えば、浜面同様この状況に不満を持っている…訳でもなく、
わりと現状を楽しんでいるらしい。それもまた、いつもの事である。

ふと、滝壺が眠たそうな目を明後日の方向に向ける。
不思議に思い、浜面は滝壺の分のジュースを渡しながら話しかけた。

「どうした滝壺?」
「……南南西から何か来る」

「何かって何?」と聞き返そうとしたその時、浜面の頭にその『何か』がとまった。
赤を基調としたカラフルな羽毛で覆われたオウムだった。
そしてその場にいる何人かが気がついたのだ。
確かどこかの研究機関から逃げ出した、読心能力使いのオウムがこんな感じだった筈だ、と。
ついでにそのオウムには懸賞金がかけられていた筈だ、と。

「浜面ぁ! 今すぐソイツを捕まえろ!」と言う麦野の命令に、否応なく反応してしまう浜面。
着々とパシリスキルは磨かれている様子だ。
しかしオウムはそれをアッサリとかわし、すぐに飛び立ってしまった。

『オレハバニーガスキナンダー。アノタニマトカ、アノクイコミトカー。アノクイコミトカー』

と言い残しながら。
その場の空気が瞬間冷凍された事は言うまでもないだろう。



オウムを追って近くの公園までやってきた上条。
浜面の頭から飛び去るのを確認し、そのまま追跡を続行する。



一方通行はスーパーから不機嫌そうに出てきた。
右手で現代的なデザインの杖をつき、左手にはレジ袋をぶら下げている。
そして彼の後ろには、打ち止めと番外個体の二人。
ぶっちゃけ、おつかいである。どうやら黄泉川に頼まれたようだ。

「何なンですかねェ…この絵面はよォ!」

悪党としてのプライドを持っていた一方通行にとって、このほのぼのとした感じは居心地が悪いらしい。
それは番外個体にとっても同様だが、それ以上に

「いいじゃん、シュールコントを見てるみたいでミサカ的にはウケるぜ? ギャッハハ☆」

一方通行をおちょくる事の方が優先順位は高いのであった。

「でもでもミサカはアナタとお出かけできてちょっと嬉しいかも、
 ってミサカはミサカは少し照れながら言ってみたり」

打ち止めの小さな告白に、一方通行は小さく舌打ちし、番外個体はケツを掻いた。
と、その時だ。

バサリ、と音を立て一方通行の頭に『何か』がとまる。
赤いオウムだ。そしてソイツは、今朝のニュースか何かで見覚えがあった。
確かそう、頭に乗った人物の思考を読み取るというオウムが、
どこかの研究機関から逃げ出したとか何とか―――

瞬時に「マズイ!」と思った一方通行はレジ袋を番外個体に放り投げ、
即座にそのオウムを捕らえにかかる。
しかしやはりというか、オウムはそれをスルリとかわし、そのまま飛び立ってしまった。

『オレモラストオーダートイッショニイラレテウレシイヨ。
 コノヘイワヲトリモドスタメニ、オレハタタカッテキタンダカラナァ。キタンダカラナァ』

と、捨て台詞を吐いて。
その数秒後、顔を真っ赤にさせた打ち止めと、大爆笑する番外個体。
そして今まで見た事のない表情をする一方通行の姿がそこにあった。



オウムを追って近くのスーパーまでやってきた上条。
一方通行の頭から飛び去るのを確認し、そのまま追跡を続行する。



上条「はぁはぁ」と息を荒げつつ、周りをキョロキョロと見回していた。
それだけ聞くと完全にアブナイ人だが、勿論そういう理由ではない。

「はぁ…はぁ……くそっ…! アイツどこ行った!?」

どうやら件のオウムを見失ってしまったらしい。
不幸体質の彼が闇雲に探しても、見つかる可能性は低い。諦めかけたその時、

「大将! あのオウムを探してんだろ!? 俺も手伝うぜ!」
「ぜってェに見つけ出して八つ裂きにしてやらァ!!!」

思わぬ応援が駆けつけた。バイクに乗った浜面と、能力を使いひとっ飛びでやって来た一方通行だ。
二人とも気合十分である。

「マジか!? 助かる! けど、いいのか?」
「ああ…俺はアイツを捕まえないと麦野からブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い、が待ってんだ……」
「そォでもしねェと俺の失ったもンは取り戻せねェ……」
「そ、そうか。何かよく分かんないけど、二人とも大変なんだな…
 まぁいいや。じゃあ三人で手分けして探そう。見かけたらケータイな!」
「任せろ!」
「俺は一人でもやるがなァ」

こうして、100万という大金に目がくらんだヒーロー、
お仕置きが怖くてそれを回避する為に働くヒーロー、辱めを受けて復讐に燃えるヒーロー。
以上、三種類のヒーローが手を組んだのだった。



時を同じくして、とあるファミレスの中では、4人の少女達が話に花を咲かせていた。

「ほら! このサイトにも載ってるじゃないですか読心能力鳥!」
「ホントだ…懸賞金まで懸けられてるのね」

いつもながら、佐天のネタ振りが始まった。しかし今回は怪しげな都市伝説ではない。
初春のノートパソコンのディスプレイには、とあるオウムの情報が映し出されている。
美琴も今朝のニュースで知ってはいたが、懸賞金の事は知らなかったようで、改めて驚く。

「全く迷惑な話ですわよ。風紀委員にも捕獲命令が出ておりますのよ?」

白井と初春は、本来ならば今日は風紀委員が非番の日なのだが、
今回の一件のせいで休日ではなく、あくまでも待機扱いになっているらしい。
白井が不機嫌になるのも無理はない。

「でもそんなオウムにとまられたら大変ですよね。
 秘密が全部バラされちゃうかも知れないんですから」
「女の子の敵だよね。スリーサイズや体重まで言われたら……」
「ほわああああ! それは考えただけでも恐ろしいですよ!」

青ざめる初春。最近お腹周りが気になり始めたようだ。…パフェばっか食ってるからではないだろうか。

「わたくしは自分のスタイルに自身を持っておりますので、その辺りは気になりませんの」

と、自信満々に凹凸のない胸を張る白井。その様子に、美琴は訝しげに訪ねた。

「黒子は他に厄介な『秘密』があるんじゃないの?……パソコン部品の件とか」
「ななな何の事ですのお姉様!?」

白井はあからさまに動揺している。余程知られたらマズイ『秘密』があるらしい。
と、ここで佐天がふと思いつく。
何を?、と問われればそれは勿論、

「そう言う御坂さんも、バラされたらヤバイ事があるんじゃないんですか?」
「…? 例えば?」
「それは勿論、上条さんの事ですよ! …いや、むしろバラされた方が都合がいいのかも!」

美琴を弄る方法である。

「さ、さささ、佐天さんっ!!? ななな、何言ってんの!? そ、そんな訳ないでしょっ!?」

慌てて否定する美琴。
「そんな訳ない」と言うのは、はてさて「ヤバイ事がある」についてなのか、
「上条さんの事」についてなのか、それとも「バラされた方が都合がいい」についてなのか。
もしくは全部なのかも知れないが。

「佐天さん! 毎回毎回その手の話題を振るのはお止めくださいまし!
 お姉様とあの類人猿はただのお知り合いだと何度も―――っと、こんな時に!」

白井が佐天に対して苦言を呈そうとしたこのタイミングで、白井の携帯電話が鳴り出す。

「はい白井ですの。…あら固法先輩、お疲れ様ですの。……ええ、ええ。はい。
 初春も一緒ですが………えええっ!!? わ、分かりました。今すぐ現場へ向かいますわ!」

仕事が入ったらしい事は何となく分かった。

「黒子、何があったの?」
「ええ実は、例のオウムがこの近辺に現れたらしいんですの。
 初春! 待機命令解除ですのよ! あなたも出動しなさいな!」
「ええ!? でも私はデスクワーク派ですし、何より注文したジャンボデラックスパフェが…」
「そんなもんキャンセルしやがれですの!」

風紀委員の仕事を(強制的に)優先させられ、泣きながら白井に引きずられていく初春。
残された二人は、と言えば、

「……御坂さん。あたし達もそのオウム見たくありませんか?」
「……私、佐天さんのそういう所、嫌いじゃないわ」

お互いに珍しい物好きで面倒事に首を突っ込みたがる性格なので、
先に出た二人を追いかける形で店を出た。
大人しく待っている、という発想は、美琴と佐天の頭には全く無いようである。



「どんだけすばしっこいのでせうかこの鳥はっ!?」
「また飛びやがった! 第一位、頼んだ!」
「あァン!? バッテリーなンざとっくに切れてンだよクソがァ!」
「だーもう! 何で捕まえられへんねん!」
「吹寄さん。そっち。今行ったから」
「駄目だわ! 狭い場所に逃げ込まれた!」
「こっちからじゃ届かないけど! 鞠亜! そっちから回り込め!」
「ぐっ…! 人使いの荒い姉だな……だがこっちも無理だ。ここからじゃ奥に行けない」
「半蔵様! もういっそ、撃ち落した方が早いのでは!?」
「アホかっ! 警備員や風紀委員がいる前で銃なんか使えるかよ! しまっとけ!」
「ぬぅぅっ…! この俺から逃げ続けられるとは、根性の入りまくったオウムだな!」
「…まさか貴方の座標移動を使っても捕らえられないとは、少々誤算でした」
「冷静に分析してないで、あなたも手伝いなさいよ海原!」
「ああん、もう! 動物には私の洗脳力が通用しないのよねぇ!」
「私の未元物質で足止めしますから、その隙に!」
「無茶言うなァ! 私の窒素爆槍は器用に手加減できるような代物じゃねェンだよ!」
「風紀委員ですの! 一般の方々はお下がりくださいまし!」
「し、白井さ~ん…やっぱり応援呼びましょうよ~……」

上条、浜面、一方通行の3人から始まったオウムの捕獲作戦は、
いつしか被害者(主に公衆の面前で恥部を暴かれた者達)を着々と増やし、
大勢の人間を巻き込んだ大捕り物になっていた。カオスである。
これだけの超能力が街中で飛び交うのは、おそらく大覇星祭以外では初ではないだろうか。
もっとも、それでも捕まえられないオウムも凄いが。レベル5が半数以上投入させているというのに。

「わ…わぁ。すごい事になってますね……」
「そ、そうね……」

中々衝撃的な風景にさすがの美琴と佐天も唖然とする。と、そこへ

「あれ? 何だ、美琴達もアイツを捕まえに来たのか?」

上条が話しかけてきた。

「あ、いえ。あたし達は見学と言いますか…」
「てかアンタ。結構な大騒ぎになってるけど、大丈夫なのこれ?」
「いや、俺もここまで酷い事になるとは思わなくてな…アイツ全然捕まんねーんだもん」

上条が愚痴をこぼしつつ溜息をついたその時、オウムはまたもや上条の周辺を飛び回り始めた。

「っんの! マジでおちょくってんじゃねーのか!?」

おちょくっているのかどうかは分からないが、上条の頭にとまろうとするオウム。
彼はそれを、虫取り網の棒の部分を振り回し、追い払う。
自分の頭にとまられては捕獲するのは難しい。と言うか、また妙な事を暴露されても嫌だし。
オウムは上条の頭を仕方なく諦めたらしく、新たなターゲットを見つけ出す。

上条のすぐ隣、御坂美琴の頭に。

「わっ、わっ、何っ!?」

バサリ、と羽を閉じ美琴の頭上に着陸するオウム。
上条はほぼ反射的に、美琴の頭ごと被せる様に虫取り網を振り下ろす。

『ギャエー! グエー!』

全く可愛らしくない鳴き声が、網の中から鳴り響く。ついに…ついに捕らえたのだ。
周りからも、「おおおおお!!!」という観衆の感嘆の声。上条も「獲ったどー!」を雄たけびを上げる。
が、次の瞬間、オウムはとんでもない事を口走る。

さて、この瞬間に起きた事を、一つ一つ説明させてもらおう。
このオウムは、頭に乗った人間の思考をそのまま口にするという能力鳥である。
故に、今は美琴の思考を読み取る訳だ。
だが本来ならば、すぐに飛び立ってしまう為に、暴露するのも精々一言二言の短文である。
つまり、頭に乗っている時間に比例して、読心能力を使う時間も長くなるのだ。
しかし虫取り網で捕らえられている現状では、飛び立つことはできない。
要するに、飛び立てないからその分長文を喋ってしまう。
そして美琴自身ついてだが、オウムにとまられた事で、先程佐天と話していた事を思い出してしまった。
より正確に言うならば、「バラされたらヤバイ事があるんじゃないんですか?」のくだりである。
瞬時に「マズイ!」と思った美琴は、必死に上条について何も考えないようにした。
しかしながら、「何も考えないようにする」というのは「その事について考えてしまう」のと同義であり、
つ  ま  り、



『ヤーンドウシヨー! コノママジャ、ワタシガトウマノコトヲダイスキダッテバレチャウジャナイー!
 コンナオオゼイノマエデソンナコトバラサレチャッタラ、モウハズカシクテイキテイケナイワヨー!
 デモデモ、モシソウナッタラソウナッタデ、セキニントッテモラエルカモシレナイシー……
 ッテコトハ、ワタシガトウマノオヨメサンニー!? ワタシ、カミジョウミコトニナッチャウノー!?
 ッテ、ソンナノダメヨー! プロポーズハ、イッショウニイチドノオモイデナンダカラ、
 ソンナイイカゲンナノハナシヨ、ナシナシー!
 …デモチョットマテヨー? トウマッテバモノスゴクドンカンダシ、
 ソレグライノハプニングガアッタホウガイイノカシラー?
 イママデモ、ワタシガヒッシニアプローチシテモゼンゼンキヅカナカッタシー……
 アアモウ、ホントニニブインダカラー! スコシクライハ、ワタシノキモチニキヅキナサイヨネー!
 …ナンテ、ソンナトウマヲスキニナッチャッタンダケドネー。スキニナッチャッタンダケドネー』



時が、止まった。
大勢の前でそのオウムが喋った事は、要約すると「とにかく美琴は上条の事が好き」という物だった。

「なっ、み…こ、と……さん…?」

いくら鈍感力レベル5の上条でも、それがどういう意味かは分かるだろう。
顔が「かあぁっ…!」と熱くなる。
一方、それ以上に熱を帯びていると思われる美琴だったが、逆に血の気が引いているようだ。
カチコチに固まり、まるで置物のようになっている。

さあ、周りの民衆もそろそろ何が起こったのか気づき始める頃合だ。
時が動き始めたその瞬間、追いかけっこの第二ラウンドのゴングが鳴るだろう。
ただし、今度の相手はオウムではないだろうが。



ちなみにその後。

「兄貴兄貴ー。何か赤いオウムを捕まえたぞー」
「……無欲の勝利ってヤツかにゃー」










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