小ネタ 新妻美琴は待ち侘びて
(……遅い)
しかめっ面で椅子に座っている女性。上条美琴。
時刻は既に夜の10時。彼の仕事は4時には終わるし、このマンションからは歩いても1時間とかからない。
彼女らは結婚して半年にも満たない新婚であったが、出会って10年近く経ち、愛する旦那の帰りが遅い時は決まって何か事件(決まって女性が関わっている)に巻き込まれていると容易に想像できた。
せっかく彼のために作った味噌汁や肉じゃがも冷え切ってしまい、彼女の目の前は何もよそられておらず、ひっくり返された食器類が二人分。
もう我慢できないと立ち上がる美琴であったが、何かに気づくと、お腹を擦り再び椅子に座った。
「あーもう早くしないと一人で食べちゃうんだから!」
そんなことを言う美琴であるが、頬をプクーっと膨らませるだけど手を動かそうとしなかった。
旦那と一緒に食べることに価値があるのだと考える新妻美琴はかれこれ3時間、同じことの繰り返しである。
朝起きたらおはようのキスをして、旦那が仕事に行く時に行ってらっしゃいのキスをする。そして帰ってきたら一緒に夕飯を食べて、最後は同じベッドで愛を育む。それが美琴の新婚生活であり幸せである。一つでも欠ける事は彼女には耐えられないのだ。
(早く帰ってきなさいよ。馬鹿)
とうとう耐えきれなくなり、目元に涙を浮かべ始めた瞬間、玄関の扉が開く音がした。
「た、ただいまー」
袖で流れかけた涙を拭うと、そこには頭に包帯を巻き、顔にいくつかの擦り傷が出来ている、待ち侘びた愛しい人の姿があった。
美琴にとって、遅くなった事や怪我をしていることよりも、ただここに帰ってきたのが嬉しかった。
抱きつきたくなる気持ちもあったが、美琴は我慢してツンと構えた。
ここで抱きつきたいたら、また寂しがりやなどと言われるからだ。
「遅いのよ!この馬鹿当麻!!」