とある少年の泥酔騒動 2
あれ?なんだろう…すごく安心する。
ゆりかごにいるみたいな…そんな感じ。
でさ、この温もりがなによりも私を安心させるの。
自分が夢見てることぐらいわかってるけど。
もうずっとこのままでもいいかな…このまま夢の中で
「うぼえええ~」
……………んん??
目を開けるとそこにはツンツンした黒い髪があった。
先程までの心地の良い揺れは無くなり、なぜか前方向に体が傾いている。
大きな背中、太ももに触れる逞しい手、全身を包み込む優しい香り。
自分は今、気になるあの少年におんぶされていることが分かった。
(まだ夢の中にいるみたいね…)
ありえない状況に御坂美琴はそう簡単に結論付ける。
再び目を閉じうつらうつらしていると、ふと首筋に違和感を感じた。
なんだろう?と思って首筋に触れてみると一定の間隔を置いてだ円形状に跡がついていた。
(これは……歯型?なんでこんなところ…に)
「うっぷっ」
なぜおんぶされていて、なぜ首に歯形があるのだろう?
そして夢の中なのに想い人はなぜ先程から不快な声を上げているのだろう?
そう疑問を感じた時点で学園都市第3位は記憶を頼りに正しい答えを導き出す!
(ッッッッ!!!!!!!!!!!!)
現状を報告する。
御坂美琴は薄暗い夜の中、絶賛道端嘔吐中の上条当麻におんぶされている!!
ぽん!!という音と共に美琴の顔が真っ赤になる。普段なら漏電をしているとこだが上条の右手が太腿に触れているため何も起こらない。
「うひゃあああああ!!!」
美琴は叫ぶ。力の限り叫ぶ。
夢じゃないことはそれはそれで嬉しいのだが、なにせ心の準備ができていない。
叫んでいるから嫌そうに感じるが、暴れるようなことを美琴はしていない。なぜならただ単に緊張して上条の背中にしがみつくことで精一杯なのだ。
「あああ、アンタ!!!ほんとにお持ち帰りしてんじゃないわよ!!」
「ちょっとまって…いまとりこみちゅう」
「うわ!前かがみにならないで!!」
「じゃあお前は背筋ピーンの凛々しい顔で口から吐瀉しろと!!!」
「そこまで言ってないじゃない!!!」
「まてよ…いや、あるいはおろろろろろろろろろろ」
「ほんとにしやがった!?」
「ぐへ!逆流の逆流だと!?これは…」
「結局前かがみになんのかい!!」
「…なんか叫び声が聞こえたけど、ただの痴話喧嘩だったみたいね」
ん?と美琴は首だけ声のした方向に向ける。
そこには女子高校生ぐらいの、赤い髪を頭の両側でまとめた少女、結標淡希がポケットに手を突っ込んで立っていた。彼女を見た瞬間、美琴は目の色を変える。
「…結標淡希」
「そんなに睨まないで。もう終わったことじゃない」
この二人には美琴の後輩を巡っての因縁がある。結局は結標が逃げ切り、(以前会ったような気がするが)それ以来面と向かって顔を合わせていない。
「よくもそんな台詞が吐けるわね。私の後輩に手を出したんだから一発ぐらいぶん殴っても文句言えないことは理解できるかしら」
「…私もあの後けっこう苦労したのよ?」
「…分かっていないようだから覚悟、できてる?」
「ふ~ん。まあ好きにすれば?でもさ」
「なによ?」
「そんな格好で凄まれてもねぇ?」
ニヤニヤ顔の結標が美琴にトドメを刺す。
顔だけ結標に向けた美琴の格好は、おんぶされたことにより短いスカートの中身まで丸見えだったのだ。しかも上条が前かがみになっていることで、その姿はあられもない姿になってしまっている。
「な、なああああ!!」
「常盤台のエース様はガードが固いのね。でも中学生になってもそれじゃあ…」
「う、うっさい!!アンタに関係ないじゃない!」
結標に哀れな目を向けられて美琴は大声で怒鳴る。するとようやく落ち着いたのか、上条が今の状況に気づく。
「ん?誰かいるのか?」
「うひゃあ!!」
ぐるんと方向を180°変える上条。美琴は振り落とされそうになるが必死でしがみつく。
「あなたは救急車を呼んでくれた人じゃない。ふ~ん、あなたと御坂美琴ねぇ」
「…ミコっちゃんこの人知ってるの?」
「…ちょっとあったのよ。てかアンタも知ってるはずだけど」
「……んん??」
「…たく、この馬鹿は」
「まあ覚えてなくてもしょうがないわね」
少し悲しそうな顔をして結標は後ろを向き、その場から離れようとする。
「あ、こら待ちなさい!!」
「おっと。暴れるなミコっちゃん!」
「うっさい!いい加減離しなさい!」
「わかっていないな…いまだにターンは俺の番なのだ!!」
「!?ひゃあああ!!」
上条が美琴の太ももをなでるようにさする。美琴は上条の類まれなる繊細さを持つタッチで全身に鳥肌が立ち、のけ反ってしまう。
「ミコっちゃんはおとなしくしてろ。はやくお持ち帰りせねば」
「お持ち帰りいいいいいいい!!!!!??????」
「ああ、一大イベントだ。これだけは外せねえ」
キリッとした上条のイケメンAAの表情に美琴は再び頭から湯気を放つ。
「愉快な人たちね。お幸せに」
「おっ、おしあわせ…」
「あっそうそう。そこらへんで警備員が大騒ぎしてたから気を付けた方がいいんじゃない?」
「…てかここどこだ?」
「あなた本当に大丈夫?なんなら送ってあげてもいいけど」
「まじっすか?ならデパートまでよろしくお願いしやす」
「そう。じゃあその座標まで送るわね」
ヒュン!と音が鳴り、上条と美琴は座標移動によってその場を離れる。
…かと思いきやパキン!!!と鳴り、結標の能力がかき消される。
「…なにが起こったの?」
「ああ。コイツには超能力が効かないからなにしても無駄無駄」
「ふ~ん。あなた面白いわね」
「どもども」
「…ニヤニヤしてんじゃないわよ」
「どしたのミコっちゃん?」
「な!?べ!つ!に!!!」
「さすが第3位が選ぶだけの人ではあるわね」
「こ、コイツなんか選んでないし!!」
「選ばれてないし!!」
(…イラッ)
「(なんかこれ以上関わると面倒ね)…それじゃあ道はこの通りをまっすぐ行くとデパートにつくわよ」
「あざます!ミコっちゃん行くぞ!」
「ちょ!いい加減下ろせっつーの!!」
美琴が上条の上から打撃を食らえようとするが上条のターンは終わらない。とそんなことをしつつ、2人は仲良さげ?に教えてもらった道を沿って歩いてゆく。
「さてと。…ん?あれは一方通行じゃない」
結標が視線をそらすと、そこには白い少年を担いで走るチンピラのような少年とそれを追いかける有り得ない乳のでかさを持つ女の警備員がいた。
「なんで俺がこんな目にいいい!!!!!」
「待つじゃん!学生の飲酒は当然罰が必要じゃんよ!!あとその白いのをこっちに渡すじゃん浜面!」
「うっせー!警備員に易々と渡していいような奴じゃねーんだよこいつは!!」
「そいつはうちの居候じゃん!」
「んなわけあるか!もっとマシな嘘つけ爆乳!」
「ばっっ!…言葉遣いを含めて調教してやる必要があるじゃんよ!!!」
「あんたが調教なんて言葉使ってんじゃねーよ!こわいわ!!!」
激しい口論を繰り広げつつ、結標の前を走っていく二人。
いつまでたっても遠くから聞こえる汚い言葉のぶつけ合いに結標はクスッと笑い、軽い調子で言う。
「きょうは騒がしい夜ね…」
再びポケットに手を突っ込み、結標は帰路につく。
御坂美琴に仕掛けたちょっとしたイタズラに悪い笑みを浮かべて。
-To be continue-