上琴の朝チュン妄想を垂れ流してみた
朝露の香りが残る時間。
窓から差し込む陽の光と、小鳥が囀るその声で、少女は目を覚ました。
「う…ん~……」
まだ半分は夢の世界にいるせいか頭がポヤ~っとしているが、
目を擦り、容赦なく二度寝を促してくる眠気と戦い始める。
「ふあっ! あ…ぁ~………起きよ…」
あくびをしながら上半身を起こしたその少女は、その身に一糸纏わぬ姿だった。
「へくちっ! う~…さすがに寝る前は服着た方が良かったかな?」
可愛らしいクシャミをして鼻をスンと鳴らす。
まだ肌寒い時間だという事も手伝い、少女は再び毛布に包まり、そして、
「もうちょっとだけ、アンタに温めてもらっちゃおうかな♪」
隣に寝ている少年に抱きつき暖を取る。少女同様、生まれたままの姿である少年に。
湯たんぽ兼抱き枕として使われたそのツンツン頭の少年は、
「くかー……くかー……む~ん…美琴ぉ………」
と夢の中で少女の名を呼び、その少女もまた、
「なぁに? 当麻♡」
と頬を緩めながら少年の寝言に返事をするのだった。
◇
彼の名は「上条当麻」。その右手に幻想殺しを宿した、不幸体質の少年である。
彼女の名は「御坂美琴」。常盤台の超電磁砲の異名を持つ、レベル5の第三位だ。
同じベッドで眠り、二人とも何も身につけていない現状、そしてこの甘々な雰囲気。
皆さんがお察ししている通りの状況である。
恋人同士である二人は、今日が休日という事もあり、昨夜は激しく『愛し合った』のだ。
「爆発しろ」と思うか「いいぞもっとやれ」と思うかは、各々個人差があるだろうが、
とにかく、もう事後なのである。
美琴はムニャムニャと呟く上条の頬を、愛おしそうに指で突く。
その度に上条は「ぶぇっ…」と変な声を出すので、美琴は面白がって何度も突いた。
「くすくすっ…当麻ってば、全然起きないんだから」
ここまでやっても全く起きる気配の無い上条に、やがて美琴は更なる悪戯心を芽生えさせる。
「ほ~ら、起きなさいよ当麻。起きないとチューしちゃうわよ?」
「くぴー……くぴー……」
だが上条は起きない。
「……ホントにチューしちゃうわよ…?」
「かー…くー……みゅぁ~……」
だが上条は起きない。
「……しちゃうからね? 当麻が寝てるのが悪いんだからね?」
「んー……くしゅくしゅくしゅ…」
だが上条は起きない。なので、
「………んっ…♡」
美琴は上条の唇に、『約束通り』口付けをした。
その甘い行為に、ほんのちょっぴりの電撃をスパイスに加えながら。しかしそれでも…
「ん…んー…? ………くかー…」
「……これでもまだ起きないか」
仕方ないので、美琴は二度目の口付けをするのだった。
◇
「……んがっ…」
アレからどれだけ経ったのか、詳しい時間は定かではないが、暫くして上条も目覚めた。
若干、舌にピリピリとした痺れを感じながら。
「ふっ…あ、ぁ~あ……はよー…美琴……」
上条は上半身を起こしつつ大きく伸びをしながら、隣にいる美琴に話しかけた。すると美琴は、
「お…おはよう……」
と何故か顔を赤くしながら、ボソボソと挨拶するではないか。
「あれ…どうしたの美琴たん?」
冗談交じりに問いかけてみると、美琴は小声で返答した。
「………12回……」
「えっ…12って、何の回数?」
その言葉に美琴は赤面したままキッと睨みつけ、声を荒げながら答えた。
「当麻っ! アンタ、12回も損してるんだからね!
ったくもう、全っ然起きやしないんだから……」
「えっ!? えっ!? えっ!?」
つまるところ、美琴は計12回もおはようのチューをしたらしいのだ。
だが上条は起きなかった。
初めのうちは、何度もキスできて嬉しいやら恥ずかしいやら、
甘酸っぱい感情で舞い上がっていた美琴だったのだが、
その内、これだけの事をしても起きてくれない上条に腹が立ってきたのだ。
こっちは何度もチューした記憶があるのに、むこうはその間の記憶が全く無い事に、
美琴は遺憾の意を表しているのである。
起床をコントロールできないのは上条自身が悪い訳ではないし、
その怒りは美琴のワガママで自分勝手なのだが、それが自分で分かっていながら膨れる美琴である。
美琴が不機嫌な理由を聞いた上条は、「あはは…」を苦笑いしつつ頭を掻く。
「でもさぁ、舌が痺れる程のキスって……美琴さん、俺が寝てる間にどんだけ激しいのしたの」
「なっ!? ち、違うわよ! それは私の能力で、口の中をちょっとビリビリさせただけっ!!!」
予想だにしなかった方向からのツッコミに、美琴は顔から煙を出しながら反論する。
上条は「あ、そうなんだ?」と軽く言いながら、右手の人差し指で自分の舌を触る。
小さくパキン!と音がすると同時に、痺れも取れた。
すると上条は、何かを企んでいるようなイヤらしい笑みを浮かべる。
「な、何…?」
「さ~て、と。ベロの痺れも取れたし、今からミコっちゃんの機嫌を直しにかかります」
「どういう意m……………っ!!!?」
「どういう意味なの?」と美琴が口にする前に、美琴の口は塞がれていた。
上条からの口付けによって。
「んっ! んんっ…! ……………ん…♡」
次第に表情をトロトロにさせていく美琴。作戦成功だ。これはつまり、
「俺にキスした記憶が無いのが美琴の不機嫌の原因なら、
絶対に忘れられないような激しいキスで上書きしちゃえばいいじゃない」作戦なのである。
上条の作戦通り、二人は舌と舌を絡ませ合った。
絶対に忘れられないように、それこそ『痺れる』ような激しいキスを。
◇
「も、もういい加減起きましょうか……」
「あ、ああうん。そうだな……」
しとしきり舌戦(本来の意味とは多少異なるが)を繰り広げた二人は、
冷静さを取り戻し、お互いにそっぽ向きながら明後日の方向を見つめている。
恥ずかしさMAXである。
休日、とは言え、いつまでも裸のままベッドに横たわっている訳にもいかず、
美琴は立ち上がろうとする。だが、
「あっ! やっぱちょっと待って!」
と上条が美琴の腕を引っ張り、再びベッドの中へと引きずり込む。
「きゃっ!!? な、何よ~!」
「んー…いやさ。せっかくだから、今日はこのままベッドの上で過ごさないか?」
「は…はあっ!?」
上条からの、とんでも提案。
「そ、そんなの駄目に決まってるでしょ!? 大体、ご飯とかどうするのよ!」
「じゃあ午前中だけ! なっ? いいだろ?」
「うっ…!」
上条にお願いされると、断りにくい美琴である。
普段は中々自分から甘えてこない上条だけに、
たまにこんな事されるとその効果は絶大だったりするのだ。
「で…でも駄目っ! このまま、なし崩し的にイチャイチャしちゃったら、
当麻ってば絶対にエッチな事始めるんだもん!」
だがそれでも誘惑(?)に打ち勝って断る美琴。第三位のパーソナルリアリティは伊達ではないのだ。
「しないって!」
「するもん!」
「し~な~い!」
「……ホントに?」
「ホントに」
「……絶対?」
「絶対」
「…………ご…午前中だけだからね」
第三位のパーソナルリアリティは伊達だったようだ。
そして上条の策略にまんまと嵌った美琴は、その後、
「あっ…♡ んっ♡ も、もうバカぁあ♡
エッチな事はしないって…は、ぁっ♡ い、言ったのにぃぃぃいいいいい♡」
『昨夜の続き』をさせられるのであった―――
『―――「昨夜の続きをさせられるのであった―――」
…みたいな事にはなってないの!? 美琴ちゃん!』
「なってるかあああああああああああっ!!!!!
わざわざ電話かけてきてまで、何、長々と訳の分かんない妄想を垂れ流してるのよこの母親はっ!!!」