小ネタ もしも上条さんが自分の恋心に気付いてしまったら
「はああああぁぁぁぁぁぁぁ………」
上条は重苦しい溜息を吐いていた。
つい先日まで彼は『ある条件下』で発症する、
謎の動悸と息切れと発熱と緊張状態に悩まされていたのだが、それが無事に解決した。
が、解決したからこそ、彼は溜息を漏らすのである。
悩みの解決の糸口となったのは、意外な事に浜面だった。
それまで上条はその悩みの事を、同居人を始めクラスメイト達にも相談したのだが、
何故かみんなキレ気味で「知らない」と言ってきたのだ。
しかも相談した相手が、男性だった場合は5割近い確率でぶん殴られ、
女性だった場合は6割近い確率で泣き出されてしまった。
そんな時、偶然街中で出会った浜面にも(殴られる覚悟で)相談した所、
目から鱗が落ちるような回答が返ってきたのだ。浜面はこう言った。
「それ、惚れてるからじゃね?」と。
そう。『ある条件下』とは、特定の人物と話している時や、その人物の事を考えている時だった。
動悸や息切れは心臓がドキドキしていたからで、
発熱や緊張も要するに、その相手の事が好きだったからなのだ。
その相手…つまりは御坂美琴の事を、である。
浜面に言われて美琴への恋を自覚した上条な訳だが、
自覚してしまったが故に新たな悩みをかかえている。
「……これから先、美琴にどう接すりゃいいんだ…?」
今まで普通に友人として接してきたつもりだったが、一度意識してしまったら、
それまでと同じような態度で接する事は出来ない。
しかも「美琴の事が好き」なのだと自覚してしまうと、今まで彼女に行ってきた行為が、
黒歴史となって彼に重く伸し掛かってきたのである。
例えば、偽デートの時のホットドッグ間接キス(したのかも知れない)事件。
例えば、大覇星祭の時のドリンク間接キス事件と床ドン事件。
例えば、罰ゲームの時の抱き寄せてからのツーショット写真事件。
ちなみに一端覧祭準備期間中の胸タッチ事件もあるのだが、
上条はその時の美琴をトールだと思っているのでノーカン扱いだ。
「うわああああぁぁぁ! 何やってたんだ俺ええええ!!!」
思い出した瞬間に急速に赤面して、その場でうずくまってしまう上条。
天然フラグメイカーな彼だが、本人的には全て無自覚だった為、
自覚してしまうと年齢=彼女いない歴の童t…もとい、純情少年になってしまうのだ。
だがそんな彼にも、運命というのは情け容赦なく厳しい試練を与えてくる。
いつものように学校から帰宅する途中に、
「ちょ、ちょろっと~?」
いつものように話しかけられたのだ。
その声の相手は言うまでもなく、現在上条の悩みの元凶でもある、美琴である。
「うおぁあっ!!? みみ、みこ、美琴っ!!?」
「な、なな何よっ!? そんなにビックリしなくてもいいじゃない!」
「い、いやその…ちょうど美琴の事を考えてた所だったから…」
「えっ…? ……えええええっ!!? わわ、私の事って、そのど、どんな事!?」
「あああ、いやあの! べ、別に大した事じゃないからっ!」
「あ、そ、そうよね! あはは…何期待してんだろ私……って! 期待とかしてないわよっ!」
何だこの二人。
両片想いとなった鈍感少年とツンデレ少女は、
お互いに真っ赤になりながら言い訳合戦を始めてしまった。
今どき小学生でも、ここまで初々しくないだろうに。
「じゃ、じゃあ……か、帰ろうか…?」
「そ、そう…ね……」
二人はお互いに「かあぁ…!」と熱くさせた顔を背け合いながら、
心地良い沈黙が流れる中で、一緒に下校するのだった。
二人の恋は、まだ始まったばかりである。