小ネタ 飴と私
「ランダムキャンディ?」
「はい!!」
ジョセフスは、今日も4人の少女がやかましく騒ぐ場を提供していた。
普段は得てしてトラブルメーカーの少女が話題を提供するのだが、今回は珍しく彼女の親友がその大任を果たしている。
「で、結局なんですの?」
「この飴はですね、食べてる間にいろんな味に変わるんです!!」
「ふーん」
そういいながら、テーブルの上に転がっている飴を佐天は1つ口にする。
「ファミレスにお菓子持参していいの?」
「たまたま持ってたのをテーブルの上に置いただけです」
美琴も白井もため息を吐き諦めた。
「いろいろな味がする飴なんて、外にもありませんこと?」
「それがですねぇ……」
初春が含みを持たせて沈黙した後、
少しして佐天がおおっ!!と叫んだ。
「メロン味の後、空の味がする!!」
「「???」」
「共感覚性って覚えてます?」
「1つの刺激から2つの感覚を得るっていうあの?」
「そうです!! この飴は味覚を切り口にして脳に働きかけ、共感覚性を活用して、味がないものまで味わうことができたりする飴なんです!!」
「「「おおーー!!」」」
「飴を舐めてる本人の視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚すべての記憶をランダムで『味覚』として味わえるんです!!」
「へー、面白い!!」
美琴の言葉の後、佐天以外の3人も飴に手をのばす。
「おー!! 空の次は最新の都市伝説の味がする!!」
「……春上さんのやさしさの味がした後に、数学のテストの味になっちゃいましたぁ」
「これは、トルストイ『戦争と平和』の原文ね、訳だと味が違うのかしら? あっパガニーニのヴァイオリン協奏曲の味が始まった!!」
「おや? これはサモトラケのニケの味……本当にそうとしか言えないんですのね。と、思ったらビバリーシースルーの最新作の味ですの!!……まだCMでしか見たことないはずですのに……んっ!! この味は!!」
「「「???」」」
「お姉さまの過激な愛の味ですの~~!!」
「ぬうふぁ!! そんなもん与えてないのになんで記憶して……ッ!! どさくさに紛れて抱きつくな!!」ビリビリ
「そうそう!! これこれ!! で、すの」ガクッ
「ってことがあったのよ」
ところかわって上条の寮。
家主は「こうやって女の子向け商品の販売ルートは広がるのかぁ」と、口コミが作るマーケットの活用法を実感していた。
「お!! 昨日読んだ『密室×密室探偵』の味になった!!……と、いうことでアンタも食べない?」
「いや、不幸な予感がするからいい」
不用意に舐めると、ジジ魔神の恐怖やアックアのパワー……いや、オティヌスの幸福な世界や記憶を失った喪失感をわざわざ味わうことになりかねない。
「楽しいのに」
しかし、
「白井は、お前の愛を味わったって?」
「ん? そうなのよ。勘弁してほしいわ」
おっ、次はゲコ太の味だー幸せ!!
なんて叫ぶ美琴に上条は歩み寄り、隣に座る。
「やっぱり、舐めさせてくれよ」
「うん、はい、どー……」
唇が、塞がれた。
「んっ、うんっ…」
「あっ、んぷっ、ふぁ、はぁ」
さらに、上条の舌が、美琴の口内を蹂躙する。
「あっ、ちゅ、ふぅ……くふぅ、れろっ、と、うま、ぁ、んんっ」
「みこ、と、んく、はぁ、れろれろ、ちゅ、はぁ」
しばらく、上条は美琴を貪り続けた。
解放したときに、美琴の瞳はすでに焦点があっていない。
「ぷはぁ、はぁ、飴、美琴の味しかしなかったな」
「わ、らひも、はぁ、はぁ、当麻の味しか、しなかゃった」
「……20個入りか」
「ふぇ?……んぐっっ!!」
少女の口に入れられたのは、新たな飴と、男の舌。
美琴は意識が朦朧とするなか、これが幸せの味なのだと認識する。
いま口の中で溶けているのは、
飴か、それとも、己の自我か。