とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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借りたままの貴方の温もりを




常盤台中学学生寮208号室、その美琴用のクローゼット。
ここには白井も知らない隠し引き出しがついている。

ご存知の通り、この部屋には美琴と白井の両名が生活を共にしている訳だが、
ただでさえ一緒に暮らしているのに、そこに加えて白井の空間移動の悪用と、
彼女のストーキング行為&ストーキング好意により、美琴のプライバシーは無いに等しい。
現に白井は度々美琴の下着を盗み出し、それを被ったりクンカクンカしたりしている。
まずは自分自身を「風紀委員ですの!」した方がいいのではないか…とお思いの方も多いだろうが、
そんな物は散々周りの人間【みことやういはる】から言われているので、今更である。
そういった経緯があるので、美琴は自分のクローゼットに隠し引き出しを作ったのだ。

クローゼットの中身は、殆ど学校の制服と短パンと寝巻きと下着と小物類で埋め尽くされている。
これは常盤台中学が校則として、外出時は制服着用を義務付けているからであり、
そのおかげで私服を着られる機会があまりないからだ。
なので変態さん【ルームメイト】に盗られて困るような物は無い(下着は諦めた)のだが、
そこはやはり女子中学生。他人に見られたくない乙女の秘密的な物もあったりする。
例えばそう。今、美琴が持っている

「う~~~っ…ど、どうしよう…」

片袖の無いジャージとか。
美琴は自分のベッドの上で、何故か顔を赤くしながらそのジャージを広げているのだが、
しかしこのジャージ、片袖が無い以外にもおかしな点が多くある。
まずサイズが合わない。
美琴は同学年の人間と比べて、特別小柄(胸の話ではなく)という訳ではないが、
それでも一回りくらいサイズが大きいのだ。
そして何よりこのジャージ、驚くほどにボロボロなのである。
あちこちが破れており、およそ常盤台のお嬢様が持つには似つかわしくない状態となっている。
明らかに美琴の物ではない上、白井に隠しておいた事からも察っせるように、
どうやらかなりのワケアリなジャージらしい。

「はぁ……やっぱりアイツに返さなきゃよね…これ…」

美琴はジャージを持ったまま、ゴロンと横になった。
アイツに返す…つまりこのジャージは、元々上条の物だという事になる。

    知    っ    て    た    け    ど    ね

大覇星祭の二日目、美琴はある事件に巻き込まれた。
詳しい説明は省くが、その時助けてくれた人達の中には上条もいた。
上条の役割は暴走した美琴と止める事だった。つまり上条は直接美琴と対峙していたのである。
最終的には美琴も元に戻った訳だが、暴走中に美琴の着ていた衣服などは弾け飛んでしまい、
つまりは美琴は裸同然…というよりも裸そのものだった。
紳士を自称する上条がそんな状態で放っておくなんてプレイをする筈もなく、
自分の着ていたジャージを美琴に着せたのである。
そしてその時のジャージこそが、今、美琴の手にしているジャージという訳だ。


(今にして思えば…私ってアイツに……は、裸を…み、みみみ見られて~~~!!!)

あの時はそれ所ではなかったが、今になって冷静に考えてみると中々にショッキングな事実だ。
こうなったら責任を取って貰って、お嫁さんにしてもらうしかないのではないか、
とまぁ、そこまで妄想した所で、美琴はハッと我に返った。

「いやいやいや! 今はコレをどう返すかって悩んでるんだったわ!」

美琴は再びジャージに目を向ける。
上条のジャージは、あの時の状態のままで保存されており、
クリーニングはしたものの、それでも上条の汗やら何やらが染み付いている事は間違いない。
返さなきゃならないのは美琴も分かっている。
おそらく上条の事だから
『え? わざわざクリーニングして返しに来てくれたのか?
 そんなの、別に捨ててくれても良かったのに…』
とか言いながら、ちょっと困った顔でもするのだろう。
いくら毎月ギリギリの生活費でやりくりしている上条でも、
ここまでボロボロになったジャージは流石に着ない。
運が良くても、雑巾として生まれ変わり第二の人生が始まるだけである。
しかしそれでもやはり、美琴は返しに行かなければならないのだ。何かそんな気がする。
だが今までタイミングが合わず、ズルズルと気付けば11月も末。
9月に行われた大覇星祭から大分経ち、もう一端覧祭も終わっている。
その間にも上条とは何度も顔を合わせている筈なのだが、結果はこの通り散々なものだ。
その理由の一つには、やはり上条への恋心の自覚が挙げられるだろう。

ある日第22学区で見た、このジャージ以上にボロボロになった上条。
そして彼の口から聞いた覚悟の言葉。その瞬間、美琴は知ってしまったのだ。
自分の内側にあった、自分だけの現実すら粉砕する、その圧倒的な感情を。

それで何が変わったのかと聞かれれば、端的に言うと「テンパりが酷くなった」の一言だ。
それ以前にも上条と顔を合わせればワタワタしていた美琴だったが、
自分の感情を自覚してからは、殊更ワタワタするようになった。遅めの初恋故の弊害である。
美琴は中学生でありながら、小学生以下の初々しい反応をしてしまっているのだ。
その圧倒的な感情は悪化の一途をたどっており、
今では「上条」の文字を見るだけでドキドキしてしまう始末である。
そんな状態の美琴が、上条の着ていたジャージなどを手にしてしまった日には、
もう心臓が破裂するんじゃねーかってくらいバクバクしてしまうのである。

美琴は目の前で広げたままのジャージを穴が空くほど(最初から空いてはいたが)見つめ、
何を思ったのかそれをクシャクシャにして抱きかかえた。


(か、返さなきゃなんないのは分かってるけど、
 も、もも、もう少しだけ堪能しちゃってもいいわよねっ!!?)

いいわよねって、誰に対して言い訳をしているのか。
これもジャージを未だに返却できていない理由の一つである。
美琴は現状のように部屋に一人きりの【しらいがいない】時に限り、
このようにしてこっそりとジャージを抱き締めたりしているのだ。
冒頭で白井が美琴の下着を云々と説明したが、実は美琴も同じような事をしているのである。
美琴は上条のジャージを大切そうに抱き締めたままウットリとする。

「こうしてると…アイツに抱き締められてるみたいな気がしゅりゅ~♡」

何とも小っ恥ずかしい独り言を漏らしながら、恍惚の表情でベッドの上をゴロゴロ転げる美琴。
こんなだらしない姿を、彼女に憧れを持つ後輩達(主に白井)が見たらどう思うだろうか。

「アイツの…匂いがする………♡」

かと思えば今度は何とも痛々しい独り言も漏らしながら、ゆっくりと鼻で深呼吸する。
クリーニングに出している為その匂いは有機溶剤の物なのだが、
それでも気分的に、上条の匂いがしているような気がするのだろう。
初恋をこじらせるとこうなってしまうのだ。
そんな事をしていて、時間が経つのすら忘れてしまっていたばっかりに、

「お姉様~! ただいま黒子が帰って参りましたの~!」
「びゃアアアアあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

このようにルームメイトが風紀委員の仕事から帰ってきた瞬間、
死ぬほどビックリさせられるハメとなるのである。
美琴は一人でエッチなビデオを観ていたら突然家族が帰ってきた男子学生の如く、
ものっそい速さで証拠を隠滅し(具体的にはジャージを毛布の中に隠し)、誤魔化す。

「おおおおおおおかえり黒子っ!!!
 思ってたより早かったのね! もう少しゆっくりしてても良かったのにっ!」
「いえ…いつも通りの時間でしたが……
 それよりお姉様…今、何か隠されませんでしたか…?」
「にゃにゃにゃにゃにゃんの事っ!!!? べっ、べべ、別に何も隠してないけどっ!!!?」

白井の目がジトっとする。完全に疑われているようだ。
それはそうだ。ここまであからさまに挙動不審で、怪しまれない方が不思議である。
しかし美琴も慣れたもので、こういう時の白井の気の逸らし方も熟知している。

「そ、そう言えば黒子! 今日プリン買ったんだけど、一緒に食べない!?」
「まあ! まあまあまあ、お姉様がわたくしの為に!? 是非とも頂きますの!」

どうやら、うまく誤魔化されてくれたようだ。
しかしこれで白井が次に部屋を出るまでジャージをベッドの中から出す事も出来なくなり、
こうして今日も、美琴は上条にジャージを返す機会を失ってしまったのだった。


 ◇


ちなみにその後、結局ジャージの行方がどうなったかと言えば。

「ね! ね! これこれ、これ見てっ! 大覇星祭でアナタが着てたジャージ!
 ほら、私が変な力で暴走しちゃって、アナタが助けてくれた時のヤツ!」
「うっわ! すげーボロボロじゃん…それは流石に捨てようぜ? 右袖も無いし」
「絶対にイヤっ!!!」

さほど遠くない未来。未だに上条へ返却はされていなかったが、
そのジャージは美琴と上条…いや、『二人の上条』の共有物となっているのであった。










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