小ネタ 捕まえた
「美琴かわいい」
言ったとたん、
目の前の彼女は
どんどんどんどん顔を赤くした。
ここは上条宅。
例によって例のごとく、休日のたびに早朝から上がり込んでいる彼女、御坂美琴。
週に2度のご馳走に満足したインデックスは風斬と遊びに出かけた。
オティヌスもスフィンクスに拐われている。
つまり、2人っきりのやりたい放題なのだった!!!
だというのに!!
「…………」
右側の彼女と自分の間には隙間があった。
2人ともベッドを背にして並んで座っている。
まぁ、2人分も間を空けといて並んでって表現が適切かはわからないけども。
「…美琴さん」
「な、なによ」
「先ほど隣に来たいって言ったのは美琴さんですよ?」
「わ、わかってるわよ!!」
テーブルの向かいで座っていた彼女が、
百面相しながら「隣にいっていい?」と聞いてきたとき、あまりの可愛さにベランダで愛を叫んでしまいそうになったが自重。
年長者の余裕を演じて許可を出したらこのざまだ。
距離を詰めようとしたら、その分遠ざかる。
恋の駆け引き(物理)なのだった。
「み…美琴?」
「ちょ、ちょっとくらい待ちなさいよ!!」
わかりましたよ。
かれこれ20分たったけども。
しかし、自分から行ってはいけない。
無理やり近づこうものなら、レベル5の電撃を見ることができる。
ついでに黒焦げになった蒲団も見れるし、自己嫌悪する彼女も見れる。
1週間前のように。
故に毎度の策にでる。
「…美琴、かわいい」
「ふにゃっ!!?」
ビクンッ!!
と震える彼女の姿に、今すぐ抱きしめたくなる衝動に駆られるが我慢。
「美琴かわいい」
「い、いきなりなに言ってんのよ!!」
ビリビリと帯電して目をつり上げる彼女に苦笑を禁じ得ない。
まるでネコだ。
すぐそんな表情するから、昔の自分は顔の赤みを怒りのシグナルと捉えてしまっていたのに。
1ヶ月は、性格を修正する時間にしては短い。
だから、受け入れてしまおう。
「怒った顔もかわいい」
「ふぇっ!! い、いい加減にしなさいよ!!」
じわり、とにじりよる。
「照れ隠しする顔もかわいい」
「べあっ!! そ、そんなこといわれても……」
おろおろしながらも、美琴は後退する。
「あたふたする美琴もかわいい」
「びゃえっ!!」
「ちょっと涙目なのもかわいい」
「くみゃっ!!」
「短い髪も似合っててかわいい」
「にょこっ!!」
「同じ表情を続けられない顔も好みすぎてかわいい」
「ちょえっ!! 」
「胸が小さいと気にするところもかわいい」
「しゅびゃ!!」
「その小さい胸もかわいい」
「ぴぃう!!」
「短パンで安心して無防備な太もももかわいい」
「みゃぅぅ…」
コツン、と美琴の後頭部が壁にぶつかる。
美琴の顔はもう白いところがないほど赤い。
「オレのことが好きすぎるのもかわいい」
「あわわ」
「素直になれないところもかわいい」
「あうあう」
「そんなことで悩んでるのもかわいい」
「あう」
「大好きな美琴の全部がかわいい」
「ぁぅ」
もう空いていた距離はない。
皆も記憶にないだろうか?
相手を捕まえるときは、
弱らせてゲージを赤くする必要がある。
「ぁぅ…ふにゃ…ぁぅぁぅ」
顔を真っ赤にして、眉はハの字。
涙目で口をへにゃへにゃにしながら震える彼女。
あと、ビリビリ帯電している。
そろそろ限界だ。
右手で顎を上げる。
そしてすぐ唇を落とした。
美琴がビクン!!と震えたのが伝わる。
約5秒。
ゆっくり離すとこちらに倒れ込んできた。
限界らしい。
「ふにゃ~~~~~~~~」
これでこの先大丈夫かとも思うが、
現状自分も幸せなのでよしとする。
彼女と2人きりになって1時間強。
ようやく触れることができた。
ゆっくりと力を込めて抱きしめる。
すると、弱々しくだが、抱きしめかえしてくれた。
これだけで喜ぶのだから、安上がりな彼氏だとも自分で思う。
ここまで読んでくれた諸君ならお気付きと思うが、
虜となっているのは自分の方だ。