とある秘密の合成写真【アイドルコラージュ】
コラ画像。それは写真やアニメの画像などを加工する事である。
その中でもアイドルの顔写真を使用した物は、アイドルコラージュ…アイコラと呼ばれている。
雑な切り貼りをしてネタとして楽しむ画像も多いが、
グラビアアイドルの体に自分の好きなアイドルの顔を付け足して、
『別の意味』で楽しむ方法も存在する。
さて、何故そんな説明を冒頭でいきなりしたのかと疑問を持った方も多いだろう。
実はここにいる青髪ピアス。何を隠そうアイコラの天才なのである。
学園都市の最先端の科学技術と、彼のエロスへの底知れぬ探究心は、
良い意味でも悪い意味でも相性が良い。
「変態に技術を与えた結果がこれだよ!」の典型的な例である。
結果的に彼は、その(どの?)界隈で名が知られるようになり、天賦夢路の時と同様、
一部の熱狂的なファンからは尊敬の念を込めて、今でも『BUAU』と呼ばれているのだ。
どうやら自分が作ったアイコラを、「欲しい!」と言う人に無料配布しているらしい。
「と、いう訳や」
「何が『と、いう訳』なんだよ…」
そんなBUAUこと青髪から、放課後にパソコン室で呼び出された上条は、
自慢なのか犯罪歴なのかよく分からない武勇伝を聞かされていた。
「で? お前のアイコラ技術が凄いって事を延々聞かされた上条さんは、
一体どのようなリアクションを取ればよろしいので?」
心の底からどうでもいい話に溜息交じりで相槌を打つ上条だが、
青髪は見透かしたようにニヤリと笑う。
「ふっふっふ…そんなん言うてもええんかな? これカミやんの為に特別に作ったのに」
言いながら青髪は、教室の中のパソコンを一台立ち上げる。
そして自分のアカウントのパスワードを入力して、フォルダーを開く。するとそこには…
「っんな!? こ、これ…は…!」
「せや! 御坂美琴ちゃんと富愚射華ちゃんのアイコラや!」
ディスプレイに写し出されたのは、ぽっちゃり系グラドルの体に、
上条のよく知る人物【みこと】の顔が貼り付けられたコラージュ写真だった。
元がグラビア写真なだけに、着ているビキニはワンサイズ小さく、
普段美琴が絶対に着ないであろうエロ水着姿はかなり新鮮だ。
そして加工技術もまた青髪が自画自賛するだけの事はあり、言われなければ…
いや、言われてもコラだと分からないくらいに自然だったのだ。
正に「継ぎ目すらない美しいフォルムだろ?」である。
「い、いつの間にこんなもん作ったんだよ!?」
「授業中にちょこちょこっと」
「お前…先生が知ったら泣くぞ…」
「せやから、バレてもうたからカミやんを呼んだんやないかい」
「…? どういう事だよ」
青髪は上条を呼び出した理由を説明しだした。
つまり、授業中にコラ画像制作している【あそんでいる】事が学校側にバレてしまい、
作った画像を全て消去して、反省文も書かないといけなくなったらしいのだ。
しかしデータは消してもすでにプリントアウトしてしまった物はどうしようもない。
かと言って自分で持っている訳にもいかないので、上条に処分【おすそわけ】を頼もうとしているのである。
それを聞いた上条は、青髪に向かって一言こう言った。
「お前バカだろ」
「バ、バカとは何やバカとは!
他にも欲しがる人おったけど、カミやんの為に取っておいたんやぞ!?」
プリプリ怒る青髪に対し、上条は腕を組みながら苦言を呈する。
「あのなぁ…確かにムチムチしててエロいけど、よく考えて見ろよ。
美琴はここまで肉付きが良くねーんだよ! リアリティが足りねーよリアリティがっ!」
…上条の言葉に、恐らく大半の方がこう思った事だろう。「ツッコむ場所そこじゃねーよ」と。
しかし青髪はそんな上条をキョトンと見つめ、その後すぐにカラカラを笑い始めた。
「ああ、そないな事かいな。心配せんでもええよ。
そういうリアル志向な人の為に、こんなんも作っといたから」
すると青髪は、自分の鞄の中から一枚の写真を取り出す。
これが先程の話に出ていた、すでにプリントアウトしてしまったコラ画像写真のようだ。
それを見た瞬間上条は、顔を赤くしながら「ぶふっ!!?」と吹き出してしまった。
その反応を見た青髪は、満足そうにニヤニヤ笑う。
「や~、しかしカミやんもマニアックやねぇ。貧乳の方がええやなんて。
ま、ボクかて嫌いやないけど、大多数の人はリアルやなくてもええからて、
おっぱいの大きい方を選んでくで?」
「い、いいいや! 違っ! そ、そういうんじゃなくてだなっ!」
上条は慌てて否定するが、そんな事をしても何の意味もない事は目に見えている。
そうなのだ。青髪が鞄から出したその写真は、
先程と同じコラ画像を扱った物だったのだが、何箇所かだけ違う部分がある。
しかしその違いは、先程の画像とは全く別物にする程の大きな違いなのだ。
端的に言えば、ウエストと手足は細く、そしてバストは小さく修整されている。
広報CMの美琴の体型を参考にしたらしく、それは誰がどこからどう見ても、
御坂美琴がエロ水着を着ている写真にしか見えなかった。
「まぁ、ええわ。ほんならボクは、これから秘密のフォルダーにデータ移さなアカンから、
カミやんはもう帰りぃ。渡した写真は先生に見つからんようにしてなー」
どうやら素直にデータを消去する気がないらしい青髪は、
上条に無理矢理(?)写真を押し付けると再びパソコンのディスプレイと向き直した。
しかし何故か上条は、受け取った写真を青髪に返還する事もその場へ捨てる事もせず、
自分の制服の内ポケットに、そっと仕舞い込むのだった。
◇
上条は変な緊張感を持ちながら、周りの様子をキョロキョロと警戒しつつ校門を出た。
喉は渇き、心臓は速く脈打つ。しかし気分は高ぶっている。
その様子はさながら、初めてエロ本を拾って帰る中学生男子の如くである。
理由は勿論、内ポケットに挟んである例のコラ写真だ。
こんな物を持っている事が誰かに知られたら、色んな意味でアウトとなる。
特に上条は他の人よりも不幸な事態に陥りやすく、本人もそれを自覚している。
だから警戒を怠る訳にはいかないのだ。
だったら何故そんな危険物を持って帰るのか…それを言うのは野暮という物である。
(う~…思わず持って来ちまったけど、これどうしよう…?
部屋ん中に、インデックスにもオティヌスにも見つからないような隠し場所ってあったっけ?)
やはり、お持ち帰りする事は確定しているようだ。だが上条が不幸なのもまた事実。
上条はこの直後、もっとも会ってはならない人物と遭遇する事となる。
「ご、ごほん! ちょろっと~? な、何か今日も偶然会っちゃったわねー!
まぁ多分何かの縁だろうし、い、一緒に帰らない?」
背後から話しかけてきたのは、正真正銘本物の御坂美琴だった。
まるで上条が学校から出てくるのを『待っていた』かのような偶然で、
本日も彼女と出くわす。もうツッコむのもめんどいので、ここは偶然という事にしてほしい。
さて、そんな美琴に声を掛けられた上条が、どんな反応を見せたのかと言えば。
「だあああああああぁぁぁあぁしっ!!!!!」
思いっきり大声を上げて背筋をビクゥッ!とさせたのだった。二人の役割がいつもの逆である。
上条の言動で美琴が奇声を発するのはよくあるが、このパターンは珍しい。
「ど、どうしたのよ急に!?」
「ななななな何でもありませんですことよ!!?
上条さんは何もやましい物など持っておりませんですはい!!!」
あからさまな挙動不審。何かを隠しているのは明白だ。
美琴はジト目で上条を睨みながら、「怪しい…」と呟いた。
対して上条は、滝のように冷や汗を流しながら目を泳がせている。
美琴はずいっと一歩前に出て上条に詰め寄り、同時に問い詰め始めた。
「アンタ何か隠してる事があるでしょ! 正直に白状しなさいよ!」
「だだだだから何も隠してないってば!!!
こ、ここ、これがウソついてる男の目に見えますか!!?」
「そんな50mプールを全力で往復したみたいに泳いだ目を見せられても、
信じられる訳ないでしょ!? また変な事件に巻き込まれてんじゃないでしょうね!」
確かにある種、事件に巻き込まれていると言えなくもないが、
決して美琴が心配するような事ではない。
しかしだからと言って詳しく説明する事は絶対に出来ないので、
(美琴からすれば)意味深に口ごもってしまう上条。ますます怪しい。
「アンタがどこかで戦う時は、私も一緒に連れてけって前にも言ったでしょ!?
そりゃ…あんな化物達と戦うのに私なんか足手纏いになるのかも知れないけど……
でも! だからって私に黙って行こうとするなんて…そんなの、そんなのって!」
瞳の中を薄っすらと潤ませ、何やら必死に訴えかける美琴だが、
そのシリアスな雰囲気は残念ながら無駄骨である。
だってそもそも上条は、これからどこかへ戦いに行く訳ではないから。
美琴のコラ写真を持っている事を、美琴本人にバレないようにここを切り抜けるには、
どうすればいいのかを考えているだけなのだから。
しかし何度も言うようだが、それを本人に説明する訳にはいかない。
それは秘密をバラしてしまうのと同義である。
だが先程も説明した通り、彼は自他共に認める不幸体質だ。
美琴に詰め寄られてアワアワをしている上条に、あろう事か、
ここで絶対に起きてはならない不幸が発動する。
パサッ…
突然、上条の胸ポケットから一枚の写真が落ちてきた。
原因はポケットの底に開いている大きな穴である。
上条は今ほど自分の不幸とマヌケさ加減を呪った事はないだろう。
何故このタイミングなのか。そして何故ポケットに穴が開いている事に気付けなかったのか、と。
「…? なに、これ?」
「ああああああああああ!!! ちょ、それらめええええええええええ!!!!!」
何だろうと思い、美琴はその写真を拾い上げる。
上条も止めようとしたのだが、コンマ数秒遅かったようだ。哀れ写真は美琴の手の中である。
そして写真を一目見た美琴は、見る見る内に顔を真っ赤にさせていく。
美琴は先程とは全く違った涙を目に溜めながら、全く違った理由で上条を問い詰める。
「なっ! なななな何なのよこの写真っ!!? 私こんなの撮った記憶が無いんですけど!!?
てかそれ以前に、ど、どどどどうしてアンタがこんなの持ち歩いてんのよ!!?
私に黙ってどうするつもりだったのよこの写真っ!!!!!」
「おおお、落ち着こうぜミコっちゃん!!! こ、これには深ぁ~いワケがありましてですね!!!」
「こんなの見せられて落ち着けって方が無理でしょうがっ!!!!!」
ごもっとも。
上条は必死に頭を回転させて、何と言えば美琴を説得出来るのかを思案する。
正直に話す…いや、駄目だ。火に油を注ぐような物だ。
「実は御坂妹に水着を着て撮らせて貰った」と言って誤魔化す…
いや、駄目だ。何故か殺されてしまうイメージが沸いてくる。
「実は美琴に催眠術をかけて、その間に水着を着せて」…いや、駄目だ。それ犯罪だ。
困った。何を言っても怒りを買ってしまうような気がする。
しかし黙っている訳にもいかないだろう。ここは何か言わなければ、完全に変態扱いされてしまう。
なので上条はとっさに。
「い、いやこれ、その、今度、つ、『使おう』と思ってだな…」
考えうる最低の言葉を残した。
上条としては、別に何に使うかとか考えていた訳ではなかった。
ただ無意味に持っているよりも、何かに使うと言った方が罰も軽減されると思ったのだ。
理由がある【つかう】のなら仕方ない…美琴もそう思ってくれるのではないかと思ったのだ。
しかしどうだろうか。エロ水着姿の美琴の写真を、『使う』というのは。
使う用途など限られてくるのではないだろうか。
冒頭でアイコラは『別の意味』で楽しむ方法も存在すると説明したが、正にそれなのではないか。
そこに気付いた上条は、言った直後にハッとして、真っ青になった。
「あっ!!? いや、ちょ待て美琴っ!!! 今のは間違い!!!
そ、そういう意味で使うって言ったんじゃなくてだな!!!」
しかし美琴は聞く耳を持たない。
真っ青になった上条とは対照的に、ふにゃー寸前まで真っ赤になった美琴は。
「そっ!!! そそそそそんなに使いたきゃ好きにすればいいじゃない!!!!!
アアアアンタが私の写真でナニしようが私には全然関係なんて
ないんだからああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そう捨て台詞を吐きながら、美琴は脱兎の如く走り去ってしまった。
自分が撮った記憶の無いその写真の正体を、上条に問いただすのも忘れるくらいに。
一人ポツンと置いていかれた上条は、小さくなって行く美琴の背中を眺めながら、
「……助かった…のか?」
と一言漏らしたのだった。
◇
部屋に戻った美琴は、ルームメイトの白井に一つ質問をした。
「……ねぇ、黒子。アンタ前に、やたらと際どいビキニ着てたじゃない…?」
「ああ、皆で水着のモデルをした時ですの?
わたくしとしては、アレはまだ大人しめなつもりだったのですが…」
白井が着たのは大事な所がギリギリ見えない黒のマイクロビキニだったのだが、
アレが大人しいなら普段は一体どんな水着を着ているのだろうか。
「それで、それがどうかいたしましたの?」
「うん…その、私も……ああいう水着とか…買ってみようかな~、なんて…」
その言葉を聞いた白井は、一気に目をキラキラさせる。
「まぁ! まぁまぁまぁ! お姉様もいよいよ目覚めましたのね!?
いいですわよ~! わたしくがお姉様に合うアダルティな水着を選んで差し上げますの!
んっふっふ…あの少女趣味全開だったお姉様がついに……ぐへへへへ!」
相談する相手を間違えたかな、と少し後悔する美琴。
「ですが一体どのようなご心境の変化ですの?
それにまだ水着を慌てて選ぶような季節でもありませんが…」
白井の疑問に美琴は赤面し、ベッドの布団をギュッと掴みながらこう答えた。
「わ…私が、エ……エッチな水着を、着て、しゃ…写真に撮ったら………
アアア、アイ、アイツがその…つ…『使う』って…言うから…」
瞬間、白井は空間移動で上条の下まで駆けつけた。
結局の所、上条は何一つ助かってなどいなかったのである。