とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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小ネタ いつもの病室にて



上条当麻は目を覚ました。
しかし、目を開け見えた景色はいつも通りの天井ではなく”いつも通りの病院の天井”だった。
体は思うように動かなく、重い。まるで体全体の筋肉が落ちたような感覚を上条は味わう。
「また、振り出し(スタート)か……」
上条は嬉しそうに、また悲しそうにそう呟く。以前の上条だったらこんなことは無かった。以前なら心から病院にいること、全てがうまくいったことを喜べていた。
でもそう思えなくなったのは
「と、当麻!!」
コイツ、御坂美琴の彼氏になってからだ。

上条は今さっきまで寝ていた体を起こす。
「あら、御坂さん?いつから俺の名前を普通に言えるようになったんですか?」
「……馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
と美琴は真剣な顔で、怒る。
それはそうだ。上条は美琴の知らないところで闘って、知らないうちに傷ついて帰ってきたのだ。待たされた方からすれば堪ったもんじゃない。
「私が・・・どれだけアンタを心配したと思ってんのよ!?」
美琴の怒声が病室に響く。でも、その怒声は尖がったものではなくて、どこか温かい心にしみる声だった。
「………心配、したんだから」
そう言うと美琴は上条の右腕あたりに顔をうずくめる。しっかりと上条の手を握って。
「ゴメンな」
上条は罪悪感が無かったわけではない。むしろ大有りで、心がきりきりと痛んでいる。
上条が人を助けるのに難しい理由はいらない。ただ単純な理由で行動する。
でも、現実はそんな単純ではない。上条がなにかしら動けば、助かるものもいれば、必ずではないが苦しむものもいる。どこかに影響が出てしまう。
そう今ここで不安に駆られている美琴のように。

「……あのさ、御坂を悲しませる気はないんだけどな、誰かが俺に助けを求めたら、なにがなんでも俺はそいつを助けに行く。たとえ美琴を悲しませても。
それが俺だから、上条当麻だから」
美琴は落ち着いたのかゆっくりと顔を上げると、上条をまっすぐ見つめる。目の周りは真っ赤で、まだ目じりに涙が浮かんでいた。上条はそれをみて、つい辛い顔をしてしまう。
「バカ、アンタがそんな顔すんじゃないわよ。………わかってるわよ?アンタが誰かに助けを求められたら絶対に助けに行くって。でもね、わかっていても不安なの。
もしアンタが帰ってこないと思うと、胸が張り裂けそうで世界が真っ暗で」
「……………」
「だからさ、アンタには帰ってきたとき明るい顔しててほしいのよ。私がどれだけ心配したんだーって怒れるくらいに。今日みたいに暗い顔されてちゃあ、堪んないわよ」
「わかった、約束する」
「破ったら、殺すわよ」
「はは、そりゃあ守らなくちゃな」
あと、と美琴は付け足す。
「アンタがどっかに行ったら、なにがなんでも付いていくから、追っかけるから」
「………………」
「?……否定、しないの?」
美琴はいつものことだから否定されると思っていたのだろう、急にキョトンとした顔になる。実際、いつもなら上条がお前に傷ついてほしくないからと美琴を押し返していた。
だが、今日の上条は違っていた。今まで考えていたこと、今決心したことを話す。
「なあ、御坂。一つだけ約束してくれるか?」
「なに?」
「絶対に俺の命令は聞くこと」
「無理」
「は、早いな。………まあ、いいか。今日、上条当麻は御坂美琴にどっかに行くときは必ず話してから行くと誓います」
「え?」
「でも、一緒に行くとかは出来ないからな。急いでるときもあるし。ああ、あとお前も勝手な行動はしないこと。上条さんに必ず報告すること」
「だだ、だって、アンタはいつも勝手に!?」
上条でも今までのことを考えると、随分と突拍子もないと思う。でも、毎回、毎回、美琴の辛そうな顔を見ていたら考えが変わった。いや、変われたと言うべきだろうか。
「いやですね、いつも美琴を放っておくと、待ってろって言ったのに来たり、突然ロシアまで追っかけてきたりするから、こっちも気が気ではないんですよ。
だから、そんなことになるくらいないならもう初めっから巻き込んじまおうと思って。そっちの方が守りやすいし」
美琴はだんだんと驚いた顔から、にらみ顔に変わっていき、上条の鼻をつまんでぐりぐりといじる。
「アンタがっ!言える立場じゃないでしょうが!!あと、守るのは私!少しぐらいは借りを返させなさい。アンタだって少しは私に頼ったっていいんじゃない?」
「じゃあ、少しは頼らせてもらうかな」
「………アンタ、いつもなら私に頼らないのに……変わった」
上条は少し自嘲気味に笑って、
「本当、誰だよ俺を変えちまった奴は。きっと俺はその誰かさんのせいで、大変な思いをする様になるんだろうな。まあ、お互い様ってその誰かさんに痛いほど教えられたから、
たとえどんなところにいようとも守ってみせるって決心できたんだけどな」
誰に言うでもなく前を見てそう言う。
暫く沈黙が続くが、上条は恥ずかしいのと、見たら怒られそうなので隣にいる美琴の顔は見ないようにした。小さく鼻のすするような音が聞こえる。
「………バカ。そんな我侭で自分勝手な人の言うこと聞いちゃって。本当にバカ」
美琴が上条の手を握る強さはかなり強い。上条もその力に負けないように握り返して、
「ああ、本当に馬鹿だ」
としっかりとその言葉を口にした。

病室にいる二人はこれから危険な道を一緒に歩いていかなければならない。今までは上条だけが危険な道を通っていたが、これからは美琴も一緒についてくる。
上条は、守るべき対象が増えて大変だと思った。でもそのことを不幸だとは思わなかった。


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