「あぁ、不幸だ………」
上条は部屋に帰ってくるなり机に突っ伏した。
スフィンクスはそんな上条の様子を気にすることもなく、以前送られた高級爪とぎ板でゴソゴソとやっている。
インデックスはどこかで遊んでいるのだろうか、部屋にはいない。
といっても時刻も遅いのでもう少しすれば『お腹が減ったんだよ!』とか叫びながら帰ってくることだろう。
「………もう、やだ」
上条は机に突っ伏したまま禍々しいまでの負のオーラを放っている。
ぴんぽーん!と、その負のオーラで満ちる部屋に間抜けなベルの音が響く。
(こんなときにお客さん?)
上条はゆっくりと立ちあがると、フラフラとした足取りで玄関に向かいドアノブに手をかけたところで止まる。
「……あれ、アイツまだ帰ってないのかな?さっき、歩いてるの見たんだけど……」
そとから声が聞こえてきた。もちろんインデックスではない。
(なんだよ、御坂か……不幸だ)
上条は居留守を決め込もうと、ドアノブから手を離し、再び部屋に戻ろうとした。
がちゃり、とドアが開く音がする。
「あ、鍵しまってない。勝手に上がったら嫌われるかな?でも、夕飯準備して、『ご飯にする?お風呂にする?それとも…』なんていうのも」
きぃっ、とドアが開いていき、真っ青な上条と真っ赤な美琴の目が合う。
「…………」
「…………」
「…………御坂?」
「………あ、あんた…いたの?」
上条は背中に冷たい汗が流れる。居留守がバレてしまっては『超電磁砲』ぐらい射たれるかもしれない。
対する美琴は顔をより赤くして固まっている。1人で妄想したことを全て口にしていたのだから。
「……ねぇ、聞こえ、た?」
「な、なんのことでせうか?」
「だから、ご飯にする?おふってなに言わせようとしてんのよっ!この馬鹿!!」
「んなっ、やめろぉぉぉぉっ!」
びりびりびりっ、と雷撃の槍が放たれ、上条の右手に吸い込まれていった。
上条は部屋に帰ってくるなり机に突っ伏した。
スフィンクスはそんな上条の様子を気にすることもなく、以前送られた高級爪とぎ板でゴソゴソとやっている。
インデックスはどこかで遊んでいるのだろうか、部屋にはいない。
といっても時刻も遅いのでもう少しすれば『お腹が減ったんだよ!』とか叫びながら帰ってくることだろう。
「………もう、やだ」
上条は机に突っ伏したまま禍々しいまでの負のオーラを放っている。
ぴんぽーん!と、その負のオーラで満ちる部屋に間抜けなベルの音が響く。
(こんなときにお客さん?)
上条はゆっくりと立ちあがると、フラフラとした足取りで玄関に向かいドアノブに手をかけたところで止まる。
「……あれ、アイツまだ帰ってないのかな?さっき、歩いてるの見たんだけど……」
そとから声が聞こえてきた。もちろんインデックスではない。
(なんだよ、御坂か……不幸だ)
上条は居留守を決め込もうと、ドアノブから手を離し、再び部屋に戻ろうとした。
がちゃり、とドアが開く音がする。
「あ、鍵しまってない。勝手に上がったら嫌われるかな?でも、夕飯準備して、『ご飯にする?お風呂にする?それとも…』なんていうのも」
きぃっ、とドアが開いていき、真っ青な上条と真っ赤な美琴の目が合う。
「…………」
「…………」
「…………御坂?」
「………あ、あんた…いたの?」
上条は背中に冷たい汗が流れる。居留守がバレてしまっては『超電磁砲』ぐらい射たれるかもしれない。
対する美琴は顔をより赤くして固まっている。1人で妄想したことを全て口にしていたのだから。
「……ねぇ、聞こえ、た?」
「な、なんのことでせうか?」
「だから、ご飯にする?おふってなに言わせようとしてんのよっ!この馬鹿!!」
「んなっ、やめろぉぉぉぉっ!」
びりびりびりっ、と雷撃の槍が放たれ、上条の右手に吸い込まれていった。
玄関先で大騒ぎするわけにもいかず、上条は美琴を招き入れる。
テンションが最底辺にある上条に対し、部屋に上がることのできた美琴はそわそわとしている。
「で、何しに来たんだよ、ビリビリ?」
「ビリビリ言うなぁ!」
美琴が帯電しだすのを見て、上条は半ば呆れたように右手をその頭に置く。
ぽふっ、と可愛らしい音がし飛び散っていた電気が消え去る。
「はいはい、すいませんでした。上条さんが悪ぅございましたよー」
「っんの、馬鹿にしてっ………ん」
美琴は上条に子供のようにあしらわれた事に憤る一方で、頭を撫でられる心地よさに喉を鳴らしてしまう。
ほんのりと頬を染め目を潤わせながらも、何か言いたげに口を尖らせている美琴に、上条は妙にドキドキとしてしまう。
(こ、これ以上はやばい!中学生だぞ、落ち着け当麻!!)
上条は少し名残惜しくも感じながら、美琴の頭から手を離す。ビリビリは収まっていた。
「ぁ……」
美琴が小さく声を漏らす。その恥ずかしさのあまり、肩を小さくして俯いてしまう。
(な、なんなんですか、この可愛い御坂さんは!?偽物とかじゃないですよねっ!?)
妹達にしては感情豊かだし、まさか魔術の影響かとも考えるが、隣の土御門は大人しいし。
上条が首を傾げていると、美琴は少し不満そうな顔をしてキッチンに向かっていった。
「おい、御坂、なにしてんだよ?」
「晩御飯作ったげる」
一言だけ言い、美琴は換気扇のスイッチを入れる。そう言えば、手にスーパーの袋を持っていた。
「あれ?お前、そのために来たの?」
「なっ!?何言ってんのよ、マンガ読みに来ただけだって」
キッチンにいる美琴は大慌てで首をブンブンと振っている。なぜ慌てているのか、上条は首を傾げるばかりだ。
「………今日は木曜日で、月曜日じゃないんすが?」
「もう一度読みたくなったのよ!そんでタダじゃ悪いと思ったから晩御飯も作りに来たのっ」
「まぁ、不幸の底にいた上条さんにとっては嬉しい申し出ですけど………」
上条はそこまで言うと、思いだしたかのように肩を落とし、ガラステーブルに突っ伏す。
「不幸だ………」
再びどよーんとしたオーラを撒きだす。そんな上条に驚き、美琴は部屋に戻ると上条の隣に座る。
「いつにも増して負のオーラ出てるけど……どうしたのよ?」
「ちょっとな……授業で恥ずかしいもんを出しちまったわけですよ」
「はぁ?なにそれ」
上条はゆるゆると動き、鞄から一枚の紙を出し、美琴に手渡す。
出されたA4判の紙には、上条の筆跡でなにやら書かれている。
「なにこれ?ポエム?」
「授業の一環で『日常』をテーマに詩を書かされたんです」
「ふーん。どれどれ」
(アイツが普段思ってる事が書かれてんのよね)
少しドキドキしながら、美琴は上条の詩に目を通す。
テンションが最底辺にある上条に対し、部屋に上がることのできた美琴はそわそわとしている。
「で、何しに来たんだよ、ビリビリ?」
「ビリビリ言うなぁ!」
美琴が帯電しだすのを見て、上条は半ば呆れたように右手をその頭に置く。
ぽふっ、と可愛らしい音がし飛び散っていた電気が消え去る。
「はいはい、すいませんでした。上条さんが悪ぅございましたよー」
「っんの、馬鹿にしてっ………ん」
美琴は上条に子供のようにあしらわれた事に憤る一方で、頭を撫でられる心地よさに喉を鳴らしてしまう。
ほんのりと頬を染め目を潤わせながらも、何か言いたげに口を尖らせている美琴に、上条は妙にドキドキとしてしまう。
(こ、これ以上はやばい!中学生だぞ、落ち着け当麻!!)
上条は少し名残惜しくも感じながら、美琴の頭から手を離す。ビリビリは収まっていた。
「ぁ……」
美琴が小さく声を漏らす。その恥ずかしさのあまり、肩を小さくして俯いてしまう。
(な、なんなんですか、この可愛い御坂さんは!?偽物とかじゃないですよねっ!?)
妹達にしては感情豊かだし、まさか魔術の影響かとも考えるが、隣の土御門は大人しいし。
上条が首を傾げていると、美琴は少し不満そうな顔をしてキッチンに向かっていった。
「おい、御坂、なにしてんだよ?」
「晩御飯作ったげる」
一言だけ言い、美琴は換気扇のスイッチを入れる。そう言えば、手にスーパーの袋を持っていた。
「あれ?お前、そのために来たの?」
「なっ!?何言ってんのよ、マンガ読みに来ただけだって」
キッチンにいる美琴は大慌てで首をブンブンと振っている。なぜ慌てているのか、上条は首を傾げるばかりだ。
「………今日は木曜日で、月曜日じゃないんすが?」
「もう一度読みたくなったのよ!そんでタダじゃ悪いと思ったから晩御飯も作りに来たのっ」
「まぁ、不幸の底にいた上条さんにとっては嬉しい申し出ですけど………」
上条はそこまで言うと、思いだしたかのように肩を落とし、ガラステーブルに突っ伏す。
「不幸だ………」
再びどよーんとしたオーラを撒きだす。そんな上条に驚き、美琴は部屋に戻ると上条の隣に座る。
「いつにも増して負のオーラ出てるけど……どうしたのよ?」
「ちょっとな……授業で恥ずかしいもんを出しちまったわけですよ」
「はぁ?なにそれ」
上条はゆるゆると動き、鞄から一枚の紙を出し、美琴に手渡す。
出されたA4判の紙には、上条の筆跡でなにやら書かれている。
「なにこれ?ポエム?」
「授業の一環で『日常』をテーマに詩を書かされたんです」
「ふーん。どれどれ」
(アイツが普段思ってる事が書かれてんのよね)
少しドキドキしながら、美琴は上条の詩に目を通す。
「ふーん。なかなか上手く書けてんじゃないの?」
「上条さん的にも少し自信があったんですよ」
「ならなんで?授業で書かされたんなら恥ずかしがるもんでもないでしょ?」
美琴は紙をガラステーブルの上に置くと、理解できないというような顔で上条を見る。
上条はよろよろと右手を動かすと、紙の一番右端を指差す。詩のタイトルが書かれた部分だ。
「ん?えっと……『Dairy Life』?」
「日常って言われて思いつかんかったから………そのまま英語にしたかったんですけどね」
上条は右手をだらんと床に下ろす。もう魂でも抜けてそうなくらい元気が無い。
「…………あれ?」
「…………」
「ねぇ、RじゃなくてLよね?」
「…………そうですね」
「もしかして、間違えた?」
上条はプルプルと震えると、美琴から顔を背ける。
「ぷっ、くっ、あははははははっ!!」
「うにゃぁぁぁっ!!笑うんじゃねぇぇぇ」
上条は頭を抱えクネクネと気持ちの悪い動きをするとそのまま床に転がった。
「っあ、苦しいっ!お腹痛いっ!!」
「…………不幸だ」
「あぁ、もう。今どき中学生でもこんなミスしないわよ」
「それを現役中学生に言われてしまうとは………」
美琴はごめんごめんと手を合わせる。その顔はまだニヤケが取れていない。
上条は床に転がったまま動かなくなる。口からは『不幸だ…もうだめだ』などと漏れてくる。
「いやーでも何なのよ。これじゃ『酪農生活』じゃない。やれんならやってみなさいよ」
美琴の言葉に上条はピクピクと震える。
「ごめんごめん、ちょっといじめすぎたわ。ご飯作ってくるから、それまでに元気出すのよ?」
そういって美琴はキッチンへと向かう。
因みに出しっぱなしになった詩は帰ってきたインデックスに読まれて、もう1度同じ笑われ方をする事になる。
「上条さん的にも少し自信があったんですよ」
「ならなんで?授業で書かされたんなら恥ずかしがるもんでもないでしょ?」
美琴は紙をガラステーブルの上に置くと、理解できないというような顔で上条を見る。
上条はよろよろと右手を動かすと、紙の一番右端を指差す。詩のタイトルが書かれた部分だ。
「ん?えっと……『Dairy Life』?」
「日常って言われて思いつかんかったから………そのまま英語にしたかったんですけどね」
上条は右手をだらんと床に下ろす。もう魂でも抜けてそうなくらい元気が無い。
「…………あれ?」
「…………」
「ねぇ、RじゃなくてLよね?」
「…………そうですね」
「もしかして、間違えた?」
上条はプルプルと震えると、美琴から顔を背ける。
「ぷっ、くっ、あははははははっ!!」
「うにゃぁぁぁっ!!笑うんじゃねぇぇぇ」
上条は頭を抱えクネクネと気持ちの悪い動きをするとそのまま床に転がった。
「っあ、苦しいっ!お腹痛いっ!!」
「…………不幸だ」
「あぁ、もう。今どき中学生でもこんなミスしないわよ」
「それを現役中学生に言われてしまうとは………」
美琴はごめんごめんと手を合わせる。その顔はまだニヤケが取れていない。
上条は床に転がったまま動かなくなる。口からは『不幸だ…もうだめだ』などと漏れてくる。
「いやーでも何なのよ。これじゃ『酪農生活』じゃない。やれんならやってみなさいよ」
美琴の言葉に上条はピクピクと震える。
「ごめんごめん、ちょっといじめすぎたわ。ご飯作ってくるから、それまでに元気出すのよ?」
そういって美琴はキッチンへと向かう。
因みに出しっぱなしになった詩は帰ってきたインデックスに読まれて、もう1度同じ笑われ方をする事になる。
週末。
朝から上条にメールで呼び出された。
「いったい何の用よ?」
「いやいや、ちょっと付き合ってもらいたい事があってな。こっちこっち」
そういうと上条は歩き出す。
「ちょっと待ちなさいよ。わざわざ第4学区まで来てなにすんの?」
上条達は第4学区の牧場関連施設に来ている。
「今から無塩バター作り体験をしに行くんです!!」
上条は左手でグッとサムズアップをし、美琴に見せつける。その顔は悪戯っぽく笑っていた。
「なんでわざわざそんなことを…………タダでバター貰えるから、とか?」
それもあるな、と上条は呟く。
「それも?」
「あぁ、木曜日に言われちまったからな。その仕返し……でもないか」
なんて言うんだ、こういうの、と上条は首を傾げる。美琴は木曜日の事を思い出している。
(そういえば……)
美琴は思い当たる節を見つけたかのように眉をひそめる。それを見た上条はニヤリと口元を歪めた。
「思いだしたか?」
「えっと……『Dairy Life』?」
「そうだ!今から酪農生活を体験しに行くんです!!」
上条は美琴の手を握ると、施設の集会室のようなところに向かう。
「はい、美琴!楽しんで行きましょー」
「ちょ、アンタっ、手っというか、名前………手…」
美琴は舌も上手く回らないまま手を引かれて受付に並ばされる。
(アイツの手が、アイツの手が、アイツの手がぁぁぁ)
全身の血液が顔に集まるような気がするほど顔を赤くしてしまう。
その間に上条は2人分の受付を済ませ、長靴と泥除け用のエプロンのようなものを受け取っていた。
「おい御坂、大丈夫か?」
「………だいじょうぶ」
「よし、じゃぁ、これ着て、長靴に履きかえろ」
上条は美琴にそれらを手渡すと、自らもそれらを身に着けていく。
「これから何すんのよ?」
「言ったろ?酪農生活だって」
「だぁかぁら、詳しく何すんのか聞いてんのよ」
ビリビリッと美琴の前髪から青白い電気が迸り、上条は慌てて右手をかざす。
「あぶねぇ!気ぃつけろって」
「アンタがちゃんと説明しないからでしょうが!!」
「牛の乳搾りです」
「はい?」
「だから牛の乳搾りです、とトウマは繰り返し説明してみまっ!?」
「妹の真似せんでいいっ!!」
美琴の右手が上条の顎に突き刺さった。
朝から上条にメールで呼び出された。
「いったい何の用よ?」
「いやいや、ちょっと付き合ってもらいたい事があってな。こっちこっち」
そういうと上条は歩き出す。
「ちょっと待ちなさいよ。わざわざ第4学区まで来てなにすんの?」
上条達は第4学区の牧場関連施設に来ている。
「今から無塩バター作り体験をしに行くんです!!」
上条は左手でグッとサムズアップをし、美琴に見せつける。その顔は悪戯っぽく笑っていた。
「なんでわざわざそんなことを…………タダでバター貰えるから、とか?」
それもあるな、と上条は呟く。
「それも?」
「あぁ、木曜日に言われちまったからな。その仕返し……でもないか」
なんて言うんだ、こういうの、と上条は首を傾げる。美琴は木曜日の事を思い出している。
(そういえば……)
美琴は思い当たる節を見つけたかのように眉をひそめる。それを見た上条はニヤリと口元を歪めた。
「思いだしたか?」
「えっと……『Dairy Life』?」
「そうだ!今から酪農生活を体験しに行くんです!!」
上条は美琴の手を握ると、施設の集会室のようなところに向かう。
「はい、美琴!楽しんで行きましょー」
「ちょ、アンタっ、手っというか、名前………手…」
美琴は舌も上手く回らないまま手を引かれて受付に並ばされる。
(アイツの手が、アイツの手が、アイツの手がぁぁぁ)
全身の血液が顔に集まるような気がするほど顔を赤くしてしまう。
その間に上条は2人分の受付を済ませ、長靴と泥除け用のエプロンのようなものを受け取っていた。
「おい御坂、大丈夫か?」
「………だいじょうぶ」
「よし、じゃぁ、これ着て、長靴に履きかえろ」
上条は美琴にそれらを手渡すと、自らもそれらを身に着けていく。
「これから何すんのよ?」
「言ったろ?酪農生活だって」
「だぁかぁら、詳しく何すんのか聞いてんのよ」
ビリビリッと美琴の前髪から青白い電気が迸り、上条は慌てて右手をかざす。
「あぶねぇ!気ぃつけろって」
「アンタがちゃんと説明しないからでしょうが!!」
「牛の乳搾りです」
「はい?」
「だから牛の乳搾りです、とトウマは繰り返し説明してみまっ!?」
「妹の真似せんでいいっ!!」
美琴の右手が上条の顎に突き刺さった。
「はい、ではやってみてください」
飼育員の人の説明を一通り受け、上条と美琴は乳牛と対峙する。
といっても、美琴はその能力のせいで乳搾りには参加できず、隣で見ているだけとなってしまった。
「早くやりなさいよ」
「はいはい、すいませんね」
美琴に背中を叩かれ、上条は乳牛に近寄る。どこか怖がっているようにも見える。
「そんなに怖がらなくても噛まれませんよ」
見かねた飼育員の人が上条に説明するが、上条にとっては信用しきれない。
(不幸な上条さんに動物が絡むとロクなことがないのですよ)
本当に噛まれないか怖がりながら、説明を受けたように乳牛の隣に屈みこむと乳搾りを始める。
「そうです、ゆっくりやさしくお願いしますね」
飼育員の指示に従い、上条は乳搾りを続ける。段々と慣れてきたためか、始めは怖がっていた上条にも楽しむ余裕が出てきた。
「おー、慣れてくると結構簡単にできるんだな。ほら、御坂!なかなか面白いぞ?」
「……………」
(それにしても牛って、その、大きいわよね)
「…………御坂?」
「……………」
(毎日触られてるからかしら?いやいや、なんで人間と牛を比べてんのよ………でも、触られたら大きいっていうし)
「おーい、御坂ー?どうした?」
黙ったまんま顔を赤くして固まっている美琴に只ならぬものを感じたのか、上条は手を休めて美琴の前に立つ。
(じゃ、じゃぁ私も触ってもらったら……って、誰に触ってもらうってのよ)
「おい、御坂!!お前も触ってみたいのか?」
「誰が、触って欲しいって言ったぁっ!」
「ちょ、待て!やめろぉぉぉぉぉっ!!」
上条は慌てて美琴の頭に手を置く。電撃が飛ぶのは防げたものの、美琴は顔を真っ赤にしている。
「いきなりどうしたんでせうか?」
「ば、ななななんにもないわよ!アンタはさっさと搾りなさいよ!」
「えっと、なんだか理不尽に怒られてますけど。御坂が元気ならそれでいいです」
上条は美琴に何があったのか良く分からないまま、乳搾りに戻る。
暴走してしまった美琴は飼育員の『気をつけてくださいね』という言葉に謝り、しゅんと俯いた。
飼育員の人の説明を一通り受け、上条と美琴は乳牛と対峙する。
といっても、美琴はその能力のせいで乳搾りには参加できず、隣で見ているだけとなってしまった。
「早くやりなさいよ」
「はいはい、すいませんね」
美琴に背中を叩かれ、上条は乳牛に近寄る。どこか怖がっているようにも見える。
「そんなに怖がらなくても噛まれませんよ」
見かねた飼育員の人が上条に説明するが、上条にとっては信用しきれない。
(不幸な上条さんに動物が絡むとロクなことがないのですよ)
本当に噛まれないか怖がりながら、説明を受けたように乳牛の隣に屈みこむと乳搾りを始める。
「そうです、ゆっくりやさしくお願いしますね」
飼育員の指示に従い、上条は乳搾りを続ける。段々と慣れてきたためか、始めは怖がっていた上条にも楽しむ余裕が出てきた。
「おー、慣れてくると結構簡単にできるんだな。ほら、御坂!なかなか面白いぞ?」
「……………」
(それにしても牛って、その、大きいわよね)
「…………御坂?」
「……………」
(毎日触られてるからかしら?いやいや、なんで人間と牛を比べてんのよ………でも、触られたら大きいっていうし)
「おーい、御坂ー?どうした?」
黙ったまんま顔を赤くして固まっている美琴に只ならぬものを感じたのか、上条は手を休めて美琴の前に立つ。
(じゃ、じゃぁ私も触ってもらったら……って、誰に触ってもらうってのよ)
「おい、御坂!!お前も触ってみたいのか?」
「誰が、触って欲しいって言ったぁっ!」
「ちょ、待て!やめろぉぉぉぉぉっ!!」
上条は慌てて美琴の頭に手を置く。電撃が飛ぶのは防げたものの、美琴は顔を真っ赤にしている。
「いきなりどうしたんでせうか?」
「ば、ななななんにもないわよ!アンタはさっさと搾りなさいよ!」
「えっと、なんだか理不尽に怒られてますけど。御坂が元気ならそれでいいです」
上条は美琴に何があったのか良く分からないまま、乳搾りに戻る。
暴走してしまった美琴は飼育員の『気をつけてくださいね』という言葉に謝り、しゅんと俯いた。
「さて、そろそろいいですか?」
暫くして、飼育員の言葉で乳搾りを終える。上条はゆっくりと立ち上がり、うんっと身体を伸ばした。
美琴は未だにヘコんでいるのか、顔を俯けていた。
「おい、いつまで気にしてんだよ」
上条は美琴の隣に立つと、しゅんとしている美琴の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「元気出せよ。元気にしてる方が可愛いんだからよ」
「っ!?」
「お、元気出た?」
ばっと音が鳴るような勢いで顔を上げた美琴に、上条はにっと笑いかける。
「うん……ありがと」
美琴は蚊の鳴くような声で上条に言うと、恥ずかしそうに微笑んだ。
「よし、良くできました」
上条は満足そうに頬を緩めたかと思った瞬間、その顔は恐ろしいものに変わった。
「っったぁぁあぁっ!?」
上条の尻に乳牛が噛みついていた。
暫くして、飼育員の言葉で乳搾りを終える。上条はゆっくりと立ち上がり、うんっと身体を伸ばした。
美琴は未だにヘコんでいるのか、顔を俯けていた。
「おい、いつまで気にしてんだよ」
上条は美琴の隣に立つと、しゅんとしている美琴の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「元気出せよ。元気にしてる方が可愛いんだからよ」
「っ!?」
「お、元気出た?」
ばっと音が鳴るような勢いで顔を上げた美琴に、上条はにっと笑いかける。
「うん……ありがと」
美琴は蚊の鳴くような声で上条に言うと、恥ずかしそうに微笑んだ。
「よし、良くできました」
上条は満足そうに頬を緩めたかと思った瞬間、その顔は恐ろしいものに変わった。
「っったぁぁあぁっ!?」
上条の尻に乳牛が噛みついていた。
上条と美琴は長靴と泥除けを返し、待ち時間の間ぶらぶらと施設を見ていた。
さっき搾った牛乳は、遠心分離機にかけられて生クリームを作っている。あとは、その生クリームを瓶に入れて振り混ぜることで無塩バターの完成だ。
上条達はその遠心分離の待機時間を埋めるべく、放牧されている牛や羊を見ている。
「いやいや、やっぱり何か起こると思ったのですよ」
上条は心を許した牛に噛まれた事でヘコんでいるようだ。飼育員から凄い勢いで謝れたものの、痛いものは痛い。上条は噛まれたところを擦りながら涙目である。
「気にしないの」
「ん?」
「元気出しなさいよ。その、アンタも………笑ってたほうが、カッコイイっていうかなんていうか」
美琴は小さな声で上条に言う。言われた上条はキョトンとしていた。
「か、勘違いしないでよ?さっき、言われた事の……お返しっていうか、なんていうか」
再び小さくなっていく美琴の声に、上条の頬がゆるむ。
「あぁ、すまん!元気出た。ありがとうな、美琴!」
「アンタ、また名前で!」
「お、ソフトクリーム食おうぜ」
上条は美琴の言葉をスルーするとソフトクリームの屋台に駆けて行った。
(アイツは…人の気持ちも知らないで)
美琴は近くにあったベンチに座って上条の帰りを待つ。上条は屋台の前で驚いたり肩を落としたり喜んだりしていた。
(ソフトクリーム買ってくるくらいでなんであんなにリアクションとれんのよ)
上条の起伏の激しさに疑問を抱きながら、美琴は溜息をついた。
朝呼び出された時はデートかと心を躍らせたりしたもんだが、実際は良く分からない、上条なりの仕返しだった。
(まぁ、2人で出掛けてるんだけど)
「デート、なのかな」
美琴はもう一度溜息をつき、上条を見る。ソフトクリームを1つだけもって。
「な、なんで1つなの?」
「いや、最後の1つだったんだよ。自分の分だけ買ってくるとか、そんなセコい真似はしませんよ」
そのお陰で半額になったんですけどね、と言うと、上条は美琴にソフトクリームを差し出す。
「なによ?」
「ほら食えよ。上条さんだけ食うのも悪いし、お前にやる。今日ついて来てくれたお礼ってことで」
な、と突き出してきたソフトクリームを受け取り、一口舐めた。
搾りたての牛乳で作ってあるらしく、お嬢様の下でも美味しさに驚くほどである。
「美味しい」
「おー、それはよかった。俺が作ったもんじゃねぇけど、不味かったらどうしようかと思った」
上条は美琴の隣に座るとぐでーっと足を伸ばした。
牧場施設はこう見えて屋内であり、完璧な温度設定が施されている。暦的には冬に近いが、施設内は暖かだ。
季節外れに思えるソフトクリームも美味しく食べられる。
美琴は舌鼓を打ちながら、隣に座る上条と手元のソフトクリームを交互に見る。
顔が熱くなるのを感じつつ、ソフトクリームを上条の前に突き出した。
「どうした?」
「ア、アンタも食べなさいよ。せっかくなんだし」
「………いいんでせうか?」
「うん」
上条がソフトクリームを受け取ると同時に、美琴は身体ごと上条から背けて赤くなった顔に両手をそえる。
(わ、わわわっわ!?)
「うん、うまい」
「っ!?」
美琴が横目でうかがうと、上条は美味しそうにソフトクリームを食べている。
(わ、私が食べた後を…アイツが……こ、これって、間接………)
ぼんっ、と音がしそうなくらい美琴の顔が耳まで赤く染まる。頭から煙まで出そうだ。
(も、もう1度返してもらったら………わ、私は、なな何を考えてんのよ)
これじゃまるで黒子じゃないか、と思いながら、再び上条を見ると、その手元には何もなかった。
「うん、美味かった。ごちそうさまです」
「あ………」
「どうした、御坂?」
「食べちゃった?」
「あ。わりぃ!あんまり美味くて」
美琴はほっとしたような、落胆したような顔で固まるしかなかった。
さっき搾った牛乳は、遠心分離機にかけられて生クリームを作っている。あとは、その生クリームを瓶に入れて振り混ぜることで無塩バターの完成だ。
上条達はその遠心分離の待機時間を埋めるべく、放牧されている牛や羊を見ている。
「いやいや、やっぱり何か起こると思ったのですよ」
上条は心を許した牛に噛まれた事でヘコんでいるようだ。飼育員から凄い勢いで謝れたものの、痛いものは痛い。上条は噛まれたところを擦りながら涙目である。
「気にしないの」
「ん?」
「元気出しなさいよ。その、アンタも………笑ってたほうが、カッコイイっていうかなんていうか」
美琴は小さな声で上条に言う。言われた上条はキョトンとしていた。
「か、勘違いしないでよ?さっき、言われた事の……お返しっていうか、なんていうか」
再び小さくなっていく美琴の声に、上条の頬がゆるむ。
「あぁ、すまん!元気出た。ありがとうな、美琴!」
「アンタ、また名前で!」
「お、ソフトクリーム食おうぜ」
上条は美琴の言葉をスルーするとソフトクリームの屋台に駆けて行った。
(アイツは…人の気持ちも知らないで)
美琴は近くにあったベンチに座って上条の帰りを待つ。上条は屋台の前で驚いたり肩を落としたり喜んだりしていた。
(ソフトクリーム買ってくるくらいでなんであんなにリアクションとれんのよ)
上条の起伏の激しさに疑問を抱きながら、美琴は溜息をついた。
朝呼び出された時はデートかと心を躍らせたりしたもんだが、実際は良く分からない、上条なりの仕返しだった。
(まぁ、2人で出掛けてるんだけど)
「デート、なのかな」
美琴はもう一度溜息をつき、上条を見る。ソフトクリームを1つだけもって。
「な、なんで1つなの?」
「いや、最後の1つだったんだよ。自分の分だけ買ってくるとか、そんなセコい真似はしませんよ」
そのお陰で半額になったんですけどね、と言うと、上条は美琴にソフトクリームを差し出す。
「なによ?」
「ほら食えよ。上条さんだけ食うのも悪いし、お前にやる。今日ついて来てくれたお礼ってことで」
な、と突き出してきたソフトクリームを受け取り、一口舐めた。
搾りたての牛乳で作ってあるらしく、お嬢様の下でも美味しさに驚くほどである。
「美味しい」
「おー、それはよかった。俺が作ったもんじゃねぇけど、不味かったらどうしようかと思った」
上条は美琴の隣に座るとぐでーっと足を伸ばした。
牧場施設はこう見えて屋内であり、完璧な温度設定が施されている。暦的には冬に近いが、施設内は暖かだ。
季節外れに思えるソフトクリームも美味しく食べられる。
美琴は舌鼓を打ちながら、隣に座る上条と手元のソフトクリームを交互に見る。
顔が熱くなるのを感じつつ、ソフトクリームを上条の前に突き出した。
「どうした?」
「ア、アンタも食べなさいよ。せっかくなんだし」
「………いいんでせうか?」
「うん」
上条がソフトクリームを受け取ると同時に、美琴は身体ごと上条から背けて赤くなった顔に両手をそえる。
(わ、わわわっわ!?)
「うん、うまい」
「っ!?」
美琴が横目でうかがうと、上条は美味しそうにソフトクリームを食べている。
(わ、私が食べた後を…アイツが……こ、これって、間接………)
ぼんっ、と音がしそうなくらい美琴の顔が耳まで赤く染まる。頭から煙まで出そうだ。
(も、もう1度返してもらったら………わ、私は、なな何を考えてんのよ)
これじゃまるで黒子じゃないか、と思いながら、再び上条を見ると、その手元には何もなかった。
「うん、美味かった。ごちそうさまです」
「あ………」
「どうした、御坂?」
「食べちゃった?」
「あ。わりぃ!あんまり美味くて」
美琴はほっとしたような、落胆したような顔で固まるしかなかった。
その後、急に元気のなくなった美琴を連れて上条は最初の部屋に戻った。
配られた広口のビンに出来たての生クリームを入れて振り、無塩バターを完成させ、そのままお持ち帰りしたのだ。
そんなイベントを経て、上条達は帰路についている。
「疲れた…」
「はいはい。ぐだぐだしないの」
上条は自分の分を完成させた後、上手く出来ずにビリビリしだした美琴の分まで振ることになったのだった。
それゆえ、2人分振った右腕は疲労からパンパンになっていた。
「ありがとうね、私の分まで」
「……どういたしまして」
上条は右腕をブンブンと振りまわすと大きく息を吐いた。
「結構楽しかったわね」
「お前は殆ど仕事してないけどな」
「ぐっ」
美琴は乳搾りもしていないなければ、肝心の振る作業すら上条任せだった。
「でもまぁ、確かに楽しかったよな。牛の乳搾りなんて滅多にできねぇし。また来るか」
上条は思いだすかのように、空中で手を握る。『こうか、いや、こうだったか』とか言いながら手をニギニギとする。
「アンタ、牛の乳がそんなに良かったの?」
「はぁっ!?なに言ってますかこのお嬢様はっ!?」
上条は慌てたようにニギニギをやめると、美琴を見る。『うわぁー』と言った目で見てくる美琴を本気で殴ってやろうかとすら思った。
「牛の乳なら合法的に揉めるものね?」
「さ、さすがに上条さんも牛の乳は御免ですよ?」
「…………牛じゃないならいいの?」
「いや、それは人間の、女の子の胸は健全なる男子高校生の上条さんにとっては魅力的ですけども!」
そこまで言うと、2人は顔を真っ赤にして固まった。
「あー、落ち着け!上条さんは紳士ですから、思っても行動には移しませんことよっ」
「小さくても………」
「はい?」
美琴はモジモジとしながら俯いている。
「御坂、サン?」
「小さくても、興味あるの?」
美琴は自分の胸を見ながらそう言った。
(これはアレですか、『私は小さいですけど、ダメかな?』的なヤツですか!?)
上条はオロオロと焦りながら考える。下手に『巨乳じゃないとだめ』なんていうとビリビリになる。
「あー、御坂」
「……………」
「小さいのがいいとは言いませんけどね。その、御坂の……には興味があります、っていうか……」
「……」
「ミサカサン?」
「ふにゃー」
「またこのオチかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
配られた広口のビンに出来たての生クリームを入れて振り、無塩バターを完成させ、そのままお持ち帰りしたのだ。
そんなイベントを経て、上条達は帰路についている。
「疲れた…」
「はいはい。ぐだぐだしないの」
上条は自分の分を完成させた後、上手く出来ずにビリビリしだした美琴の分まで振ることになったのだった。
それゆえ、2人分振った右腕は疲労からパンパンになっていた。
「ありがとうね、私の分まで」
「……どういたしまして」
上条は右腕をブンブンと振りまわすと大きく息を吐いた。
「結構楽しかったわね」
「お前は殆ど仕事してないけどな」
「ぐっ」
美琴は乳搾りもしていないなければ、肝心の振る作業すら上条任せだった。
「でもまぁ、確かに楽しかったよな。牛の乳搾りなんて滅多にできねぇし。また来るか」
上条は思いだすかのように、空中で手を握る。『こうか、いや、こうだったか』とか言いながら手をニギニギとする。
「アンタ、牛の乳がそんなに良かったの?」
「はぁっ!?なに言ってますかこのお嬢様はっ!?」
上条は慌てたようにニギニギをやめると、美琴を見る。『うわぁー』と言った目で見てくる美琴を本気で殴ってやろうかとすら思った。
「牛の乳なら合法的に揉めるものね?」
「さ、さすがに上条さんも牛の乳は御免ですよ?」
「…………牛じゃないならいいの?」
「いや、それは人間の、女の子の胸は健全なる男子高校生の上条さんにとっては魅力的ですけども!」
そこまで言うと、2人は顔を真っ赤にして固まった。
「あー、落ち着け!上条さんは紳士ですから、思っても行動には移しませんことよっ」
「小さくても………」
「はい?」
美琴はモジモジとしながら俯いている。
「御坂、サン?」
「小さくても、興味あるの?」
美琴は自分の胸を見ながらそう言った。
(これはアレですか、『私は小さいですけど、ダメかな?』的なヤツですか!?)
上条はオロオロと焦りながら考える。下手に『巨乳じゃないとだめ』なんていうとビリビリになる。
「あー、御坂」
「……………」
「小さいのがいいとは言いませんけどね。その、御坂の……には興味があります、っていうか……」
「……」
「ミサカサン?」
「ふにゃー」
「またこのオチかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」