本稿では、元であるPC版とパワーアップキット版(以下「PK版」)について紹介する。PC版(パッチ修正分を含む)はクソゲー判定、PK版は改善されたゲームとなっている。 ---- #contents() ---- *三國志11 【さんごくしいれぶん】 |ジャンル|歴史シミュレーションゲーム|CENTER:&amazon(B000FA4TNE)| |対応機種|Windows 2000/XP|~| |発売・開発元|コーエー|~| |発売日|無印初期版:2006年3月17日|~| |分類|''クソゲー判定''|~| |ポイント|フリーズ含むバグまみれ&br()客を完全に有料デバッガー扱い&br()&color(red){糞藝爪覧}|~| |>|>|CENTER:[[''三國志シリーズリンク''>http://www26.atwiki.jp/gcmatome/pages/1471.html]]| **概要 コーエーの看板とも言える三國志シリーズの第11作目。これまでローマ数字だったタイトルナンバーがアラビア数字になった。~ 前作は個人武将を選んでプレイするスタイルだったが、本作にて再び君主プレイに戻った。~ マップは1枚マップだが、本作では3Dマップとなったため、従来より高性能のビデオカードを要求するスペックとなっている。 **システム 内政は、いわゆる箱庭形式。 -各都市に存在する空き地に農地や市場などを建設することで、その都市の収入を高める。徴兵や武器生産も対応した施設を建設して初めて可能になる。 -戦争や内政によって技巧ポイントを得ることができ、それを消費することで兵科強化や施設強化が可能。 戦争は、マップ上の自部隊を移動させて敵部隊や敵施設に通常攻撃、計略、戦法を用いる形式。 -通常攻撃は気力を消費せずに相手部隊に損害を与えるが、付与効果はない。 -計略は複数種類あり、成功率は部隊を率いる武将の知力に依存する。使用時は、部隊気力を消費する。 -戦法は部隊の兵科(槍、騎馬など)によって異なり、それぞれの兵科に複数の戦法が存在する。使用時は、部隊気力を消費する。 -武将によって得意な兵科、苦手な兵科が存在し、兵科適性としてS,A~Cのランクが振り分けられている。使用可能な戦法の数もこれによって決まる。 -マップ上には攻撃施設や気力回復などの補助施設、さらに火計用の罠などを建設することができる。 武将には1武将につき1つの「特技」が設定されている(特技を持たない武将もいる)。 -内政に役立つ物、戦争に役立つ物と様々。能力値が中途半端な武将でもいぶし銀な特技を持っていることがあり、個性付けがされている。 -「部隊」は主将1人、副将2人で編成されるので、1部隊は最大3つの特技を持つことができる。~ そのため、強力な部隊を編成するには率いる武将の組み合わせが肝心となる。 **問題点 -AIが馬鹿。 --金と時間と労力をかけて一生懸命城の周りに防壁を築いても、都市行動を「委任」にした途端、真っ先に自国の防壁を全力で破壊し始める。 --委任すると褒美や治安を無視して行動するため、委任軍団の武将が次々と裏切り、都市には賊が次々と発生する。 --戦闘委任すると、圧倒的優勢にも関わらず行動を停止したり、自軍がしかけた罠を壊して回るなど暴走する。 -武将の引き抜きが「相性」優先にし過ぎたのか、忠誠度100でも引き抜けるor引き抜かれることがある。~ これまでの同シリーズ作品なら、多少差異はあるが忠誠度が94くらいでなければ引き抜きは出来ない。 --孫堅、孫策、孫権という実の親子軍団で出兵したところ突然孫策の旗の色が変わって何ごととか思ったら、「大変です!孫策様がひきぬかれました!!」 -ゲームバランスを崩している強力な特技が存在する。 --例としては諸葛亮の特殊能力「神算」。この特技は、自分より知力の低い相手に対する計略がクリティカルで必ず成功するというもの。~ 諸葛亮の知力は100であり、同知力の三国志武将はいない。そのため、相手が防計系特技を持っていない限り100%計略が成功する。 ---敵が攻めてきても、諸葛亮で偽報を流せばほとんどの敵が必ず撤退。同士討ちのみで敵を撃退することも可能。 -お約束のフリーズバグ。強制終了も存在。あまりのバグの多さにユーザーが公式サイトの掲示板に突撃し炎上。とんでもない有様となった。 --そのため2006年4月10日に既存のバグを修正し、バランス調整を図った修正パッチが発表された。~ 通常コーエーの出す修正パッチは、中古対策のためにゲームのシリアルナンバーを入力してユーザーズページに登録しなければダウンロードすることができないが、~ 今作のVer1.1パッチは登録していなくても修正パッチを落とすことができる(Ver1.2以降のパッチは他作品同様ユーザー登録が必要)。 ---そのパッチだが、敵はとことん攻めてくるわ、武将はとことん引き抜きにくくなるわと、まるでコーエーが逆ギレしたかのような内容だったため、~ ユーザーからは''「コーエー逆ギレパッチ」''とまんまな呼び名を付けられている。 --ユーザーからの不評があまりにも大きかったためか、コーエーはバグの修正パッチ配布だけでなくディスク交換も無償で応じるという対策を採った。~ ただ、ディスク交換は下記の糞藝爪覧を隠すためではないかとの見方もある。同年4月17日にはバグを修正したバージョンを再発売した。 -「&color(red){糞藝爪覧}」事件が起こった。三國志シリーズの凋落と不信を象徴する代表的事件である。 --あるユーザーによって、武将データベースの中に「''糞藝爪覧''」という名前が発見されたことが発端。糞が姓、藝が名、爪覧は字(あざな)。 ---当然だが実際のゲームには登場せず、データベースを直接見ないと確認はできない。 ---この武将は「フンゲイ ソウラン」と仮名振りされていたが、「''クソゲー ツマラン''」と読むことができ、武将説明文には「あーつまらん」と一言だけ記述されていた。 ---悪ふざけとしては明らかに度が過ぎる。だが、逆に「何らかの理由によって開発陣の士気が大きく下がり、本作の開発が投げやりになっていたのではないか」と憶測を立てることもできる。 ---ちなみに、他にも武富士(アコム)、毛沢東、周恩来などのデータも入っていた。 -何故か毎年「豊作」になる都市が固定で、その都市さえ押さえておけば兵糧問題が解決する。 -数ある書物アイテムの効果が全て同じで、舌戦で全話術が使えるようになると言うもの。 **評価点 -火種・火球といった火罠のおかげで、工夫すれば寡兵でも大軍を撃退できるようになっている。 -罠や攻撃用施設を建てて都市周辺を要塞化すること自体はそれなりに楽しい。 -技巧研究の効果が目に見えて優秀。戦争を重ねると物資が疲弊するが、同時に技巧ポイントのおかげで戦力が上がるように調整されている。 --このため1都市に籠城していると、そのうちに技巧研究の進んだ強力な敵軍に攻められるようになるため、単純な引きこもりプレイは通用しない。 -洗練された一騎討ち、舌戦 --一騎討ちは攻撃方針を選択して自動で戦わせるタイプ。仲間の救援、アイテムの使用、闘志を使った攻撃など奥が深い。 --文官の一騎討ちにあたる舌戦は、武将ごとに定められた性格と所有話術によって歯ごたえのある勝負ができ、こちらも奥が深い。 -バグやシステム面の問題に隠れがちだが、実は''「三国志」を元にしたキャラゲーとしては''意外に出来がいい。~ 少なくともこの点においては、「三国志」に対する愛を感じるものとなっている。~ そのため「三国志が好きだから三國志11をやる」ユーザーにとっては、ロマンの面に限れば割と納得できる形となっている。~ 本作はパワーアップキットである程度の回復を見せるが、この「キャラゲーとしての優秀さ」が大きな土台となったことは見過ごせないだろう。 #region(その内容) -ほとんどの武将が持つ「特技」によって、強弱が固定されがちだった武将間に新たなバランスを見出している。 --具体的には牛金、傅彤などの脳筋が渋い特技のおかげで活躍できたり、基本能力値の高い趙雲、郭嘉が強力だが決定力のある特技では無かったりする。~ 皆ひと癖ありながらイマイチ表現できていなかった朱桓、陳武、蒋欽、徐盛らの呉将も上手く個性付けがなされている。 --前述の諸葛亮のように基本能力値が高く特技も強力なバランスブレイカーもいるのだが、逆に考えればそれだけ有名武将の「手強さ」を再現できているとも言える。 --特技の種類自体が非常に多いのも良点。「空気」な特技も多いのだが…。 -個々の武将の持つ基本設定が非常に豊富。以下の設定は''登場する700人近い武将全て''に与えられている。 --武将の基本能力値は年齢とともに変化する。その変化の仕方にも各能力ごとに成長期・能力持続期間が定められている。 ---一般的な武将は壮年時にピークを迎え年を重ねるごとに能力値が劣化してゆくため、世代交代のリアリティを感じつつプレイできる。 ---一方で黄忠の能力は老齢になるほど高くなったり、虞翻の魅力が能力維持型だったりと、ややシニカルな調整が垣間見える点も面白い。 --武将の兵科適性はしっかり全ての兵科についてのS,A~Cが振り分けられている。 ---兵科による特化型・万能型の武将の個性付けができており、その場その場に合った武将の運用を考慮する戦略性を生んでいる。 ---兵科適性により、能力が高くても兵を実際に率いるのが苦手な純粋な軍師と、戦術・戦略の両面に優れた将軍型軍師の区別もしっかりなされている。 --親愛・嫌悪武将が設定されており、それぞれにメリット・デメリットが存在する。 ---いくらか疑問符のつくものもあるものの概ね原典通りに再現されており、張飛と劉巴や袁術と陳矯といった細かな人間関係もしっかりカバーしている。 ---親愛だと同部隊引率時に部隊能力補正がついたり、嫌悪だと逆の補正がついたりと、しっかりシステム面にも人間関係が反映される仕組みになっている。 --この他にも前述した性格、話術、さらには口調、在野時の都市移動傾向、出身地(武将推挙に関係)、婚姻、義兄弟、個人イベントなど武将ごとの設定は非常に多い。 -有名武将には顔グラフィックが若年・老年の2種類存在する。 --史実シナリオだと年代によって顔グラが変化するため、年齢的な顔グラの違和感がある程度解消されている。 --特に趙雲、甘寧、姜維といった従来はお決まりのイケメンキャラだった武将が、''渋みと威厳のある老将''に変化することは非常に好評であった。 -非常に多くの武将に戦法時、被ダメージ時、死に際、一騎討ち時などの専用セリフがあり、元ネタの分かる三国志ファンはニヤリとする場面も。 --具体的には、曹操攻撃時の馬超、戦法クリティカル時の賀斉、落雷を受けた時の劉備、''処断時の陳寿''など。 --閻行、華覈、孫皎、張悌、傅僉といったややマイナーな武将でもしっかり専用セリフが搭載されている点がなかなかニクい。 --楽進、周泰のように「無口」という個性付けをされている武将もおり、顔グラや来歴と相まって評判は良い。 --夏侯淵vs夏侯惇、孫策vs周瑜、果ては荀彧vs荀攸の一騎討ちにまで、しっかり専用セリフが盛り込まれている。 --特に呂布と張飛はほぼ全てが専用セリフであり、脳筋2人の舌戦時のセリフは非常に楽しませてくれる。 -英雄集結シナリオに通好みな勢力が追加されている。 --具体的には蜀の地で最期を遂げた鍾会、鄧艾や、淮南の三叛をまとめた毌丘倹などがそれに当たる。もちろん君主となるのは初。 #endregion() **総評 一万円を超えるバグゲーをリリースしてユーザーの信頼を大きく失ったコーエー。このような事態が起きた理由として、開発時期が決算間近であったことが挙げられる。~ 「糞藝爪覧」事件についても、決算期に合わせる形で到底無理な納期を要求され、不本意な形で手放さざるを得なくなった現場の「ささやかな抵抗」であると言われている。~ だがしかし、結局のところそういった現場の衝突によって実害を被るのは、他でもない''ユーザー''なのである。~ どんな理由があるにせよ、ユーザーを裏切る数多くのバグと企業問題レベルの悪ふざけは決して看過できる問題ではない。~ 本作の存在がコーエーの企業体質の問題をこれまで以上に表面化したことは紛れも無い事実だろう。~ 目先の利益に囚われて中途半端な物を売る事は、巡りめぐって自身の首を絞める……コーエーがその事に気付くのは、一体いつになるのだろうか。 ---- *三國志11(パワーアップキット) |対応機種|Windows 2000/XP&br()プレイステーション2&br()Wii|CENTER:&amazon(B000HT2LTW)| |発売日|【Win】2006年9月8日&br()【PS2/Wii】2007年3月21日|~| |分類|''改善されたゲーム''|~| |ポイント|粗も残るが及第点に足る内容&br()CS版はさらに優秀|~| |廉価版|【PS2/Wii】KOEI the Best:2008年11月13日/3,990円&br()【PS2】コーエーテクモ定番シリーズ:2010年9月2日/2,079円|~| 『三國志11』のPK版。~ ユーザーからの第一印象こそ芳しくなかったものの、技巧研究の充実、決戦制覇モードの搭載、わずかながらAIの行動の改善などもあってまずまずの評判を獲得。~ 特にCS版はPC版の内容に加えて、ステージシナリオ、水滸伝武将などの限定武将((PC版は水滸伝武将はDLC。))、一風変わった限定シナリオを搭載している。~ これによって少なくともクソゲー呼ばわりには当たらない内容となり、次作『[[三國志12]]』までに時間が空いたこともあって多くのやりこみプレイが生まれた。~ 今ではその評価の回復ぶりは、作品自体の意外な奥の深さもあってシリーズ屈指の充実具合を誇る攻略wikiからも見てとれる。~ なお、決戦制覇モードにおける武将たちの会話の中には、思わず笑ってしまうような秀逸なネタが含まれていて大変好評である。 ---- **余談 -本作の発売以降、2011年に『三國志12』が発表されるまで長い間三國志シリーズは過去作のリメイクが行われるのみとなっていたが、これは本作での失態というよりも、『[[オプーナ]]』の影響が尾を引いていた可能性のほうが高い。 ----