バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー

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kyogokurowa

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「......」

「そんなに緊張して、怖いのかしら」

「当たり前だろう...アレはあの教団の象徴...いや、全てを滅ぼす『破壊』という概念そのものだ。アレの前ではμからもらった鋼鉄の身体も意味がない」

「そうね。アレはあなたからしてみれば『世界』そのもの。抱く恐怖も人並みならないでしょうね」

「でも大丈夫よ。アレが出てくることは想定済み。予定よりは早かったけれど誤差でしかないわ」

「しかし...」

「貴方は貴方のするべきことをすればいい。...μ、どうしたの?」

「...そう。ちょうどいいわ、歌ってあげてあげて。彼の為に、私の為に、貴女が奏でる破壊の歌を」


空が吞まれていく。

その力は空間を歪ませ、まだ日が昇り切って間もないというのに周囲一帯が暗黒に包まれていく。

眼には見えぬ強大な力の幕がエリア1マス分を覆い、周囲からの、周囲への情報の一切を遮断する。

来る者拒まず。訪れた者には隔てなく破壊(ちょうあい)を。

血と愛憎に乱れ、白も黒も交じり合う灰色の世界に破壊の神が降り立ち。

奏でられるはたった一人の独奏曲。


いがみ合う者も。初めて会った者たちも。友を失った者も。

眼前に現れたソレを見て瞬時に悟った。

―――コイツを野放しにしてはいけない。

銃声と共に弾丸が放たれる。

最初に動いたのは神隼人。

彼の撃った弾丸は破壊神の身体に着弾する。
だがそれだけだ。のけぞりも怯みもせず、破壊神、依然健在。
巨大さとはそれだけでも武器である。
身体が大きければその分体力も多く、100の体力に10のダメージを受けるのと1000の体力に10のダメージを受けるのでは全く意味合いが異なってくる。

破壊神は口角を釣り上げお返しと言わんばかりに雑に腕を振り下ろす。
技術も工夫もない。ただの腕力にモノをいわせただけの攻撃、にすらならない一つの動作。
だがそれだけで地面に爆弾の如き衝撃が走り、爆風じみた暴風は人の体重など軽々と吹き飛ばす。


その暴風に煽られ参加者たちはちりぢりにふきとばされ、ここに開戦の合図は鳴った。


「こなくそっ!!」

真っ先に反撃に出たのは体重が重く重心が低い弁慶だ。
武器を持たない彼はそのまま駆け出しその身一つで破壊神へと殴り掛かる。
破壊神は三対のうち一つの右拳を繰り出す。

「ぬぐっ...おおおおお!?」

弁慶は自分の身体程もあるそれを全身で受け止めるも、耐え切れず後方へ押し出されていく。


「なめんじゃ...ぐおおっ!」
「ジオルド!」

弾き飛ばされる弁慶と入れ替わるように志乃の叫びと共にジオルドが飛び出し、炎の魔法を放つも、破壊神は尻尾を叩きつけるだけであっさりと消火。
その風圧で二人とも吹き飛ばされ彼方へと飛ばされていく。


吹き飛ばされた二人をクオンが受け止め、着地のダメージを軽減し、二人を下ろすとそのまま駆け出す。

「アリア、万が一の時の為に脱出ルートの確保をお願い」
「うっ、うん!」

クオンの指示に従いアリアが離れていくのと同時、破壊神はクオンへ向けてはげしい炎を吐き出した。

クオンはそれを躱し、次いで繰り出される拳を躱し、伸びた腕を伝い破壊神のもとへと駆けていく。
ハエを払うかのようにクオンが伝う腕を振り回せば、クオンは即座に着地し、また腕が振るわれればそれに乗り。
ほどなくして距離が縮まると、跳躍し宙がえりと共に踵落としを脳天目掛けて振り下ろす。
破壊神は防御すらなく頭頂で受け止め、しかし怯むどころか笑みすら浮かべて咆哮を上げる。

そのあまりの圧力にクオンの身体は硬直し、その隙を突き破壊神は頭突きを放つ。
防御を取る暇すらなかったクオンの身体はそのあまりの威力にメキメキと音を立て、すさまじい速さで地面に叩きつけられ、二・三度地面をバウンドし沈黙する。

「燃え尽きよ怪物!」

マロロが背後より火計の術により破壊神の身体へと火を放つ。
が、肉体に火がまわるよりも先に尻尾を振り回せば火は四散、その火と風の入り混じる熱風がマロロに襲い掛かる。

「くおぉ...!」

マロロは眼前に防壁陣を張り熱風を防ぐ。
その背中を無断で借り、咲夜が熱風を防ぎつつ様子を伺う。

破壊神は必死に護るマロロを嘲笑うかのようにその腕を振り上げ防壁を破壊しようとする。

(いまっ!)

瞬間、咲夜は時間停止を発動し、ナイフを構えマロロの背中から姿を現し投擲の姿勢に入る。
狙うはシドーの眼球。如何に硬い皮膚や巨躯に見合った体力とはいえ、急所の一つである目を撃たれれば多少は効くはずだ。

ナイフが咲夜の手元を離れる瞬間

ピクリ

動いた。
同時に。ガラスが割れるような音と共に咲夜だけの世界が『破壊』された。

「なっ!?」

咲夜は驚愕に目を見開く。
時間停止による攻撃を破られたことは幾度もあった。
けれどそれらは時間停止が終わった後の攻撃に関してだ。
時間が停止した空間自体を破られたことなど今まで一度もない。
咲夜は知らない。
世界すら壊せる破壊神は時間を操る程度の能力では縛れないことを。

その驚愕に気を取られた隙を突かれ、咲夜は振り払われた腕にマロロごと吹き飛ばされる。

「ぶふっ」
「かはっ」

腹部に走る激痛に血を吐き纏めて吹き飛ばされる二人。

「ビルド、俺に合わせろ!」
「うん!」

隼人とビルドが共に駆ける。
このまま普通に攻撃していても拉致があかない。
眼前の怪物がシドーから出てきたモノだということはわかっている。
ならばまずは呼びかけてみる。それがビルドの提案だった。

ある程度の距離まで近づいたところで先導していた隼人が振り返り、両掌を組み合わせ足場を作る。
ビルドはそれを足場にし、高く跳躍し破壊神に迫る。

「シドー!!」

手を伸ばし身体に触れようとするビルドだが、しかしそれは破壊神の指一つで弾かれ、その身体を地面に叩きつけられる。
意識を失いかけるビルドの身体を隼人が回収しに向かえば、それを狙ったかのように破壊神は岩石を連続で投下し始めた。

「クソッ!」

隼人は降り注ぐ岩石をよけ続け、どうにかビルドのもとへ辿り着きどうにか回収に成功。
それと同時に、破壊神の腕が襲い掛かり隼人とビルドを殴り飛ばす。

吹き飛ばされていく二人を目で追いつつ、みぞれを抱えた早苗が滑空し破壊神へと急接近していく。
振り向きざまに振るわれる腕を躱し、二人で共に飛び上がると、みぞれは氷の槍を、早苗は五芒星の光を共に放つ。

その二つのエネルギーは破壊神へと着弾する寸前、目に見えぬ障壁に阻まれ四散する。
破壊神の持つ闇のちからによる防御壁だ。

蠅を払うかのように振るわれる腕はどうにか躱すものの、その余波で生じる暴風は容赦なく二人の身体に負荷をかけ、二人は上下の感覚がわからなくなるほどの勢いで回転しもみくちゃになりながら吹き飛ばされていく。

「あぶねえ!」

復帰した弁慶はみぞれたちを受け止めダメージを軽減させ、優しく地面に下ろす。

吹き飛ばされ、ダメージを負いつつも戦える力を持つ者たちはまだ共通の敵を見据えている。

だが。

彼らは一様にして理解していた。こんなものがアレの全力ではない、なにも力を見せてなどいないことを。

「こんなの...」
「どうしろっていうのよさ...」

各々の意思を、手段を用いながら尚も向かっていく戦士たちの心情を代弁するかのように。
何もできない久美子とアリアは共にそう呟いた。


.........


.........


...おとがきこえる

だれかがくるしむようなおとが。

だれかがかなしむようなおとが。

みんな、みんなおれにすがるようになにかをさけび、うったえかけている。

おれはやめろといったはずなのに、こんなもののぞんでなんかいないとおもっていたのに。

どうしてみみをふさげない。

どうしてねむろうとしない。

どうして、こんなにここちいいんだ

どうして...ひとつだけあるこのひかりをうっとうしくかんじてしまうんだ


「ᛖᚳᛋᛏᚪᛋᚤ!!」

その傲岸無礼な慟哭も。

如何な罵詈雑言も。

有象無象の悲鳴すらも慈しみ歓喜するかのように破壊神は叫びあげる。

どろり。

咆哮と共に破壊神の影が蠢き無数の塊となって戦場へと降り注ぐ。

カタカタカタ、となにかを鳴らすような音と共に黒漆の骸骨兵が無数に湧きあがってくる。

「な、なんなのこれ」

戸惑う間にも骸骨兵たちは歓迎するかのように剣を構え参加者たちを取り囲んでいく。

「やめて、やめてよっ!」

久美子は叫び必死に腕を払って抵抗しようとするも、にじり寄ってくる骸骨兵たちは微塵も怯まず、久美子を集団で取り押さえていく。

脇の下から腕をまわし羽交い絞めにされ、頭突きもできないように髪を、顔を掴まれ前方に固定され。
その両足にも骨の腕で纏わりつかれ。
凹凸のない肢体を磔の処刑台のように骸骨たちが纏わりつく。

処刑人のように剣を構えた骸骨が久美子の制服に剣を宛がい振り下ろし、一閃。
久美子の首元から腹部までの衣服が縦に割かれ、白い肌と下着が露わになる。

「やだっ、やだぁ!」

涙を流し悲鳴をあげる久美子を嘲笑うかのように骸骨たちはカラカラとその顔を揺らす。
そしてそのまま、剣を持った骸骨がゆっくりとその刃を久美子の胸に近づけていき――


「フリーズ・バレット!」
「なにしてやがるてめえらっ!」

みぞれの放った氷の礫が剣を構えていた骸骨兵を吹き飛ばし、動かないクオンとビルドを背負った弁慶が力づくで久美子に纏わりつく骸骨たちを引きはがし握りつぶす。
新たに現れた骸骨兵が弁慶目掛けて剣を振り下ろすも、その喉元から剣が突き出されるとほどなくして消える。

「...なるほど。どうやらこれは奴の分身体のようなものらしいですね」

罪歌で斬っても呪いを流すよりも早く四散したことから、志乃はこの骸骨たちの正体を看破する。

(一体一体は大した脅威ではない...けれど問題は)

志乃が思考している間にも影の骸骨兵たちは際限なく湧き出てくる。
それはこちらだけではなく、遠方ではマロロ達や隼人、早苗も湧き続ける骸骨たちを相手取っていた。

(このままではこちらが万策尽きるのも時間の問題...!ならばやはり本体を!)

「弁慶さん、みぞれさん!黄前さんを頼みます!...行きますよ、ジオルド!」

二人に指示を投げ、志乃はジオルドと共に破壊神本体へと駆け出していく。
その判断と同じくして、隼人は骸骨兵たちを裂きながら、マロロは笏で殴り、あるいは防壁陣を駆使し骸骨兵たちの処理を最低限にこなしつつ破壊神めがけて向かっていく。
その間にも骸骨兵たちは行く手を阻まんと湧きあがり足止めしようと束になり襲い掛かってゆく。

「キリがねえんだよ!」

隼人は眼前の骸骨兵を蹴り飛ばし、纏わりつこうとする骸骨兵を爪で裂きながら前進していく。

「影は影へと還るでおじゃ!」

マロロはその身の軽さで次々に剣を躱していき、笏へと炎を纏わせ火球と共に骸骨兵たちをなぎ倒していく。

「ジオルド、私の背中を護りなさい」
「はい母さん」

志乃の命令に従い、ジオルドは志乃の背中を護りつつ、共に骸骨兵たちを斬り伏せていく。

三方向からの進撃を歓待するかのように破壊神は両腕を広げ、雄たけびを上げる。


「ᛒᚱᛁᚾᚵ ᛁᛏ ᛟᚾ!!」

言葉として認識できないその声と共に、新たな三つの影が破壊神から吐き出される。

新たに現れた三つの影はそれぞれ蠢きながら三人へと向かっていく。

「なにやら姿を変えたようでおじゃるが...所詮は影にすぎぬでおじゃる!」

マロロは唾を吐き捨てるほどに叫び炎の渦を影へと放つ。
だが、渦に呑まれる瞬間影の姿は消え去り、一瞬でマロロの真横に移動していた。

「ひょっ!?」

驚愕するマロロの反応を愉しむかのようにドレッドヘアーの屈強な男を象った影は両掌を顔の横で開き、「バァ」などとふざけた擬音を口ずさみながら手刀を放つ。

「ふぎゃっ!」

マロロは痛みと共に悲鳴を上げ尻餅を着かされる。

「邪魔をするなああああ!!」

隼人は今までの影と同じく爪で切り裂き突破しようとする。
だが、その影はヘルメット型の頭部が消えたというのに姿までは消えず、どころか影を伸ばして隼人の腕と足を絡めとり宙へと放り投げそのまま地面に叩きつけた。

そんな二人を横目で見つつ、志乃は自分たちの前に現れたこの影もただものではないと推測し、ジオルドを先行させ影の塊へとレイピアを突き出させる。

だがその影は寸前でレイピアを躱し、新たに形を象ると懐に入り込みニタリと口元を象った。
そのふわふわとした髪型に。
顔も色もわからない漆黒でありながらもお嬢様然とした雰囲気を醸し出す像にジオルドは思わず口走った。

「マリア...!?」

その罪歌の洗脳を微かに乱し生じた隙を影は見逃さず、ジオルドの身体に飛びつきもみくちゃになりながら押し倒す。

「ジオルド!?くっ...!」

影に纏わりつかれているジオルドを捨て置き、志乃は単身で破壊神へと肉薄する。
もともとは使い捨ての肉壁程度にしか考えておらず、いまは一刻を争う事態だ。
彼を気にする一秒ですら惜しい。

(この距離なら...!)

数メートルにまで辿り着いた志乃はそこで足を止め、居合斬りの構えを取り、ふぅ、と息を吐く。
破壊神は腕を振り上げ、拳を叩きつけようと振り下ろす。
だが、破壊神の腕がその身に届くよりも早く、志乃の身体が影の隙間を縫うように疾駆する。
その速度はまさに疾風。
これぞ巌流・燕返し―――その派生技。
「巌流―――飛燕返し!!」

放たれた居合斬りは破壊神の腕を斬りつけ、初めて手傷を負わせることに成功する。

同時に。

『愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛愛愛愛愛愛愛あい』

罪歌の呪いが破壊神の腕を通じて全身へと流れ込んでいく。

「......!!」

その感触に破壊神の目が見開かれ

「ᛞᛖᛚᛁᚳᚪᚳᚤ」

恍惚と共に吊り上がる。
呪いを司る大神官ハーゴン。
彼の崇める破壊神が、人を愛する呪いなどに支配されるはずもなかった。

ズンッ、という衝撃と共に志乃の横腹に痛みが走る。
志乃の防御が間に合わず、破壊神の爪が志乃の腹部を裂いたのだ。

「ぁ...」

腹部から血を流し、よろける志乃にトドメを刺さんと再び腕を横なぎに払う。

「させません!」

志乃を再び切りつける瞬間、早苗が志乃を抱きかかえ離脱、距離を取りながら五芒星を描き始める。

「掛けまくも畏き諏訪の御湖に神溜まります、健御名方人...」

詠唱と共に巨大な五芒星を描けば、発光と共に五つの光に分かれ破壊神へと狙いが定まる。

「もろもろの渦事罪穢あらんをば、祓え給い、清め給えと白す事を聞示せ、恐み恐も白す―――!!」

放たれる光は破壊神を滅さんとばかりに、闇のオーラによる障壁を破壊しその身を貫く。
だが。

「...!」

その攻撃すらも破壊神にとっては児戯に等しいものだったのか。
光の矢が貫こうとも破壊神には僅かなダメージしか与えられていない。
そして。

「しまっ...!」

現状での最大火力を誇る攻撃を放った代償に鈍った動きの隙を突かれ、早苗は志乃もろとも破壊神の巨大な張り手により久美子たちのもと―――北宇治高等学校にまで吹き飛ばされる。

(これは...もはやここに留まる理由はないわね)

一連の流れを見ていた咲夜は早々に戦場へと見切りをつけて破壊神とは逆の方角へと足を向ける。
咲夜の戦う理由はあくまでも生還すること。
あのような怪物を討伐することでなければ、参加者を皆殺しにすることでもない。
なにはともあれ自分の命だ。

同盟相手すら捨て、エリアの外へ向かって駆け出していく。

だが。
その果てでは紫色の引力空間―――ブラックホールのような何かがリングロープのように連なっており、逃げ出すことすら不可能であるのを端的に示していた。

「行くも地獄、帰るも地獄、ですか...!」

悪態をつく間にも、破壊神は頭上に両手を掲げその掌にゆっくりと光を集めている。
それはまるで死の宣告を告げる死神の如く。
視認できるほどの巨大な球状のエネルギーの向く先は、久美子たちがいる北宇治高等学校。
咲夜にはそれが『次はお前だ』と言っているようにしか見えなかった。

「ぁ...」

地球の終わる瞬間とはこういうものなのだろうか。
迫りくる巨大な力の塊に、徐々に吹き飛ばされていく骸骨の影と校舎を前に、久美子はそんな力の抜けた声を漏らす他なかった。

セルティに庇われた時以上の強大な"死"の気配の前には、もはや恐怖すら抱けず諦観する他なかった。

「くそったれ...!」
「......!」

もはや周囲に逃げることはできない。
弁慶は一か八か己の身体の丈夫さに賭けて久美子や倒れ伏す志乃たち、ビルドを抱え込み、みぞれは少しでも抵抗になればと氷の障壁を張る。

「我が父の名において、この身に穿たれし楔を...解き放たん!!」

学校が崩壊しきるその直前、破壊神のエネルギーから皆を護らんと光り輝く人影が割って入る。
クオンだ。
彼女は気絶していたのではなく、リックを相手にした時と同様、己の力を引き出す為に氣を高めていたのだ。

「ぐっ...はああああああああ...」

己の身を護っているはずの『氣』すらも破壊されていき、徐々に肌が裂け血がにじみ出していく。

(ダメ...このままじゃ...!)

本来は在りえぬことだった。この力は云わば神に等しき御業。本来の神力には及ばずともこの地上でソレに対抗できる者などいなかった。
だが。彼女は現に押されている。
それにはなんのタネもない。
彼女のいた世界では、神に等しき存在などと拳を交えることはなかったが、破壊神は神そのもの。だから現人神では力が及ばない。
ただそれだけのこと。

「――――あああああああああ!!!」

だが。彼女は吼える。
ただ我武者羅に。ひたすらに。

自分でも不思議だった。
なぜ、同盟を組んだマロロでなく、かつての知己たちでもない彼らの為にこうも身体を張っているのか。
まるで、こいつにだけは負けるわけにはいかないと、意地を張るかのように昂っているのか。

その答えを自覚する暇もなく、破壊の力は校舎にまで迫り―――北宇治高等学校は完膚なきまでに『破壊』された。


破壊神はその破壊から奏でられた音を、まるで誕生日を迎えた子供のように満面の笑みを浮かべ聞き惚れるのだった。



「いい曲だったわよ、μ」

「......」

「まだ顔色が悪いわね」

「当たり前だ...理屈はわかったが、あいつに勝てると決まったわけじゃない」

「そうね。でもこれで『彼』が牙を剥いてきても負けることはなくなった」

「それでも確実じゃないだろう!やはり今のうちに奴を始末して...!」

「それをすれば始末されるのは貴方よ。大丈夫、μを信じなさい。それに...まだ『彼』が勝つとは限らない」

「なに...?」

「神様は破壊神一人じゃないということよ」



崩壊した学校の瓦礫を押しのけ、弁慶が姿を現す。
背中は焼けた。出血だけでなく、打撲や骨にヒビといった怪我も恐らくしている。
だが、志乃、早苗、ビルド、久美子の庇った四人にはほとんど新しい怪我は負わせなかった。
ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、すぐに見当たらない二人を思い出す。

「みぞれちゃん、獣の嬢ちゃん!無事か!?」

大声で呼びかけるが返事はない。
まさかと思い、弁慶はすぐに近くの瓦礫をどかし掘り起こす。
探し人はほどなくして見つかった。

「み、みぞれちゃん!」

みぞれはすぐ隣にいた。
氷の壁を張る為に弁慶の身体に隠れられなかったみぞれは、クオンでも防ぎきれなかった破壊のエネルギーを一部受けてしまった。
現人神ですら防ぎきれない力を一部でも受ければどうなるか。
左腕は消し飛び、全身は焼かれ、彼女本来の美貌は見る影もなくなっていた。
それでも生きていたのは運が良かった、としか言いようがないだろう。
彼女の呼吸はまだあった。

「クオン殿、しっかりするでおじゃるクオン殿!お労しや...ようやくオシュトルのもとから目を覚ませると思った矢先に...こんな...こんな...!」

叫びの聞こえた方へと目を向ければ、そこにはみぞれ以上に全身を焼かれていたクオンがマロロに抱かれていた。
弁慶は思わず息を呑む。
彼はクオンについて何も知らない。けれど、こうまで身体を張ってくれた者がこのような惨状になれば怒りを抱かずにはいられない。

「――――おおおおおおお!!!!」

彼は思わず叫んだ。
感情のままに拳を瓦礫に叩きつけた。

「許さねえ、てめえだけは、てめえだけはぁ!!」

けれどなにも変わらない。
破壊神がいる限りいくら吼えようが怒りを湧きあがらせようが、ただ破壊されるのを待つだけだ。


「弁慶!」

遅れてやってきた隼人が駆け寄ってくる。
彼も彼で、影たちとの相手や重なる破壊神からの攻撃で満身創痍だった。

「いったん体勢を立て直す。今は奴から距離を取るぞ」
「なっ...ふざけんな隼人!ここまでやられてケツまくって逃げんのか!?」

感情のままに隼人の胸倉を掴む弁慶に、隼人は冷静に見据え淡々と告げる。

「このままでは全滅は免れん。奴を殺す為にも今は退くべきだ」

「無理よ、逃げることなんて」

二人の口論に割って入るのは、咲夜と逃げ道の確保を任されていたアリア、そして主からの命令が無くなりひとまず戻ってきたジオルド。
彼らは他の面々に比べれば極めて軽傷ではあるが、しかし咲夜とアリアの二人は声だけでなくその表情にも陰りがさしていた。

「辺り一帯...およそ一エリア丸ごとくらいね。球体状の引力場...ブラックホールのようなものに囲まれていたわ。ナイフだろうが岩石だろうが構わず分解してしまうほどの」
「隙間を探そうにも吸い込まれてどうにもならないんよ。それに...気のせいじゃなかったらどんどん円が小さくなっていってる」

「――――クソッ!」

苛立ちのままに隼人は瓦礫を殴りつける。
戦っても敵わない。逃走もできない。
あとはただただあの傲慢な破壊神に裁かれるのを待つだけ。

―――ふざけるな。こんなところで終われるわけがない。
―――帰るべき場所へ帰らなければならない。
―――護るべき者たちを護らなければならない。
―――友の仇を討たねばならない。
―――友を正気に戻してやらねばならない。

各々の願いを胸に抱けど、叶える神はここにはおらず。
どれだけ前向きになろうとしても胸に共通して去来する諦観の念。

破壊の神が人間たちに与えるその感情の名をこう記す。

『絶望』と。




然らば。

神の与えし絶望に人の身では抗えないというのならば。

それを覆すのもまた、神の役割だろう。


破壊神の投げつけた巨大な闇のエネルギー球。
触れれば破壊される死の塊。
それが―――止められた。

ヒトの身ではない。

焼け付いたクオンの躰、その背中から生える黒き茨のような影に。

クオンの躰から溢れ出る黒いソレは、破壊神の放ったエネルギーを粉砕し、四散させる。

そのままクオンの躰に絡みつけば、強く、より強い力で締め付けていく。

クオンの躰の中から『力』が大気に漲り、溢れ出てくる。

それはクオンを、破壊神の生み出し空間の摂理そのものを蝕み、変容させていく。

「なにが...なにが起こっているでおじゃるかクオン殿...」

あまりの出来事に呆然と眺めることしかできないマロロの問いかけに応えるように、『力』は新たなる姿を纏い―――爆発。

その風圧に一同は校舎であった瓦礫諸共吹き飛ばされ彼方へと消えてゆく。

その姿を。己にも比類するほどの『力』と巨大さを放つソレを認識した瞬間、理解した。

この者は、自らを滅ぼし得る宿敵であると。


これは運命である。

これは贖罪である。

母の命を喰らって生まれてきた、我の原罪であり宿業である。

それを果たせぬまま...それを、我以外の真祖に阻まれるのを許せるのか。

否。

我は認めぬ。貴様の存在を。

我だけではない、愛しき者たちすら破壊するであろう貴様の存在を。

過ぎたる力には代償を伴う...その理すら捻じ曲げる貴様の業を。

許せない。私は貴様の存在を根源より否定する。

破壊の神よ。

畏れよ。屈せよ。

我が名に、ウィツアルネミテアの名のもとに。

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英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー シドー 英雄の唄 ー 三章 Godsー
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