バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

英雄の唄 ー 三章 Godsー

最終更新:

kyogokurowa

- view
メンバー限定 登録/ログイン


破壊神シドー。

かつて彼は「勇者」と名乗る者に打ち倒された。

しかしそれは彼の脆弱さを表すものではない。

もしも挑んだのが勇者一人であれば、たちまちに破壊し勝利を収めていただろう。

勇者は仲間を連れていた。旅で苦楽を共にし絆を育んだこれ以上ない仲間たちが。

破壊神一体に対し、複数で挑み死闘の末に勝利をもぎ取った。即ち、個々体においては破壊神には及ばなかったということだ。

事実、彼に勝る個体など存在しなかった。

故に最強。故に神。

彼を慕う者はあれど、上に立つどころか並ぶ者はどこにも存在しなかった。



『ひれ伏せ』

そのシドーが。



【ぬ...おおおおおおっ!!】

巨腕の一撃のもとにおいて頭を垂れていた。


シドーの生み出した異空間が蝕まれていく。
影より生み出した骸骨兵たちは余波に呑まれ消し飛ばされ、景色は暗闇ではなく星空に似た、しかし煌びやかさは感じられないうす暗い光に覆われていく。

己が破壊の為に創り出したモノが悉く否定される未だかつてなき事態に彼は初めての畏怖を覚えていた。


【グオオオオオオオ!!】

無理やり頭を上げ、眼前の敵を破壊せんと拳を振るうのに対し、黒き装甲龍―――ウィツアルネミテアもまた同じく拳を返す。
衝突する二つの拳は轟音と共に暴風を生じさせ、周囲を陥没させる。

【あり得ぬ...こんなもの..!!】

自分と同じ神格の者の存在は感じ取っていた。
自分の言葉すら理解できぬ有象無象の贄、その中でも己の言葉を理解し得た現人神が二人。
しかしそのどちらも己には到底及ばない弱者―――そのはずだった。

だが。
1人を極限まで追い込み産まれしモノはどうだ。
巨大さも。力も。
全てが自分を上回っている。

神の言葉もわからぬ有象無象共からすれば同じように見えるだろうが、より近い領域にいる破壊神だからこそ理解できる。
目の前の神とは文字通り『格』が違うと。

【認めぬ...貴様の存在を、我は認めぬ!】

拳の押し合いに負けると察した破壊神は炎を口の中に溜め、その身全てを焼き尽くさんとはげしいほのおを吐き出した。
身動き一つすることなく業火に身を包まれるウィツアルネミテアを見ながら叫ぶ。
己が存在価値を高々に詠いあげる。

【我こそが根源!破壊こそが全ての真理!!貴様のような贋物は須く消え失せよ!!!】



『我を畏れよ』

その宣言を否定するように、業火が弾き飛ばされ、ウィツアルネミテアの全貌がシドーの視界に再び現れる。
多少の火傷はある。だが、負わせた怪我もジクジクと蠢き再生してしまう。

『我を讃えよ』

破壊神はギリリと歯軋りと共に再び腕を振るいその巨爪で胸部を切りつけるも、やはりすぐに再生を始めてしまう。
だが破壊神は屈さない。
破壊できぬものを前に膝を着いてなにが破壊神か。
己の存在意義を賭けて、破壊のエネルギーを何度もぶつけ続ける。
狙いはウィツアルネミテアのむき出しの腹部、緑色の球体に浮かぶクオンの肉体。
だが、破壊神の力を以てしても球体は無傷。
眠る少女は目を覚ましもしない。

『その身に刻め。我が真名を―――ウィツアルネミテアの名を』

地面が揺らぎ、地盤が破壊されるのと共にウィツアルネミテアの紫の氣が立ち昇り破壊神の身体を吞み込んだ。

【グオオオオオオオオオオオォォォォォ―――ッッ!!!!!】

己の身体に襲い掛かる激痛と焼け付くような灼熱に破壊神はたまらず叫び声をあげる。
だが、ウィツアルネミテアの氣に容赦という言葉はない。
立ち昇る氣は破壊神の身体に纏わりつくように凝縮され―――爆発。
現代兵器さながらの大爆発は灼熱の如き爆風と多大なる破壊を伴い一帯に波及する。

【ハアーッ、ハアーッ】

それを受けてもなお五体を保っているのはさすがに神格といえよう。
しかしその身は誰がどう見ても満身創痍。
あともう一度の攻撃で斃れるのは火を見るより明らか。

『終わりだ』

神々の戦いに終止符を打たんとウィツアルネミテアが拳を振り上げる。
同情も。慈愛も。
そのような煩わしきものは根源たる神は抱かない。

万物の願いを叶える神も、己が領域を穢す異教徒の望みを叶える義理はない。






破 壊 神 シ ド ー は ベ ホ マ を と な え た !


『...!?』

ウィツアルネミテアの拳が驚愕で止まる。
今の今まで、破壊神の身体は死に体であった。
にもかかわらず、コンマ数秒の間に全て回復したのだから。

ウィツアルネミテアは知らない。
破壊神シドーは兼ねてより破壊を冠する神でありながら癒しの魔法の極致、『ベホマ』を使えることを。
悠久の時を経て忘れてしまったソレを、この会場でマリア・キャンベルの『光の魔法』を取り込むことで思い出したのを。

再び咆哮と共に破壊神がウィツアルネミテアに躍りかかる。
振るわれる四爪に対し、ウィツアルネミテアもまた拳で返す。
だが。
結末は変わらない。
一時は拮抗するソレも、ウィツアルネミテアの巨腕には及ばずそのまま弾き返され宙を舞う。

『滅びよ』

ウィツアルネミテアの掌が破壊神の尻尾を掴み、そのまま地面に叩きつければ地面が割れ岩盤が舞い上がる。
そのまま追撃としてウィツアルネミテアの悍ましいほどの気が再び破壊神の身体を穿つ。


破 壊 神 シ ド ー は ベ ホ マ を と な え た !


肉体が死する寸前に再び破壊神のじゅもんが傷を癒し再び立ち上がる。
その度にウィツアルネミテアは攻撃を繰り返し、破壊神は瀕死に陥る度にベホマで傷を癒し立ち向かう。

なんとも滑稽な姿だろう。
人間に絶望を与える破壊神ともあろうものが癒しの魔法を頼りに必死に食らいつくなど。
だが破壊神は手段を厭わない。

例え無様であろうとも。
例え格下の技を用いようとも。

最終的に勝利を収めればなんということもないのだから。

そしてその時は遂に来る。


幾度も破壊と再生を繰り返し続け、不毛とも思える攻防にウィツアルネミテアの攻撃の波が緩んだ。
その隙を突き、破壊神はベホマで身体を癒した瞬間、ウィツアルネミテアへと一気に距離を詰める。
振り下ろされる破壊神の手刀、しかしそれでもウィツアルネミテアの腕も速い。
破壊神の腕が振るわれ、それをウィツアルネミテアが受け止める。
幾度も繰り返されたこの攻防。だが、この時ばかりは破壊神の腕はほんの少しだけ早かった。

その差さが、分かれ目だった。

破壊神の腕は、止められることなく『振り下ろされた』。

ピッ

ウィツアルネミテアの鋼鉄の如き硬さを誇る腕に一筋の線が走る。
ズルリ、とウィツアルネミテアの腕がずり落ちていき、やがて地に落ちる。

そして。

その線は胸部の球体にまで達しており、その中で眠るクオンの身体から鮮血が舞った。

『...!?』

なにが起きた。
これまで攻勢に徹していたウィツアルネミテアに一転、動揺と衝撃が走る。

その答えを知る者は破壊神ただ一人。

【虚空の王(ベルゼブブ)】

用いた力の名を口ずさむ。
シドーが取り込んだのはマリア・キャンベルの光の魔法だけではない。
王(ワン)の使用する異能(シギル)、虚空の王(ベルゼブブ)。
狭い範囲ではあるが、物質ではなく空間を切断するという一点においては神にも引けを取らない異能である。
ソレを彼は己の中に落とし込み、出力したのだ。


【戦いはここからだ。根源たる神よ】
『...忌々しい。今すぐに我の前から消え失せよ』

互いが互いを否定し、己の存在を確立する為に。
神々の戦いは更に苛烈さを増していく。


ブルルルン

影の馬がうなり声をあげる。
コシュタ・バワーは学校の崩落に巻き込まれた後、神々の戦いの余波で吹き飛ばされた生存者たちを回収し、比較的安全な場所に移送していた
比較的―――そう、もはやこのエリアに安全と言える場所などどこにもない。

「......」

参加者たちは呆然と目の前の光景を眺めていた。

それは現か幻か。
腕の一振りごとに大気は震え、衝突の度に衝撃で地が泣き叫ぶ。
眼前で繰り広げられる神話の戦いに、彼らは為す術もなく見守ることしかできなかった。

「ひょほほ...なんでおじゃるのかこれは...マロは...夢でも見ているのでおじゃるか...?」
「夢だったらどれほどよかったのかしらね...一応、周りのブラックホールは動きを止めているけれど、果たしてこれは救いと言えるのかしら?」

幻想郷という秘境で神々の民に触れてきた咲夜も、修羅と化した筈のマロロも。
世界をも改変・破壊する神々の前ではその執念も保てず。
恐怖は強大すぎる力の前ではもはや消え失せ、ただ諦める他なく、一周回って美しいとすら思える景色をぼんやりと眺める他なかった。

「......」
「ジオルド...そういや、お前さんは志乃ちゃんに洗脳されてたんだっけか...今なら、意識がないってのも少し羨ましいかもな」
「弁慶さん...」
「...悪い、久美子ちゃん。俺にはもうどうすりゃいいかわからねえんだ」

彼らしかぬ弱音を吐く弁慶に対し、久美子は責めるようなことは言わなかった。
自分でもどうしていいかなんてわからないのだ。
こんな、人智を越えすぎたおとぎ話みたいな光景に人間がどうしろというのだ。
いくら強くても、心が折れてしまうのを誰が責められようか。

「...どうして、私はあそこにいないんでしょうかね」

早苗は俯きながら、ギュッと己の腕に爪を立てる。
東風谷早苗は現人神ではある。だがしかし、アレらとはあまりにも神としての『格』が違いすぎる。
この中で唯一、神の言葉を解せる存在だからこそ、己の矮小さも一際思い知らされる。
もっと力があれば。もっと神様としての格が高ければ。
...それでも、到底あれらには敵わないと思うが。

人は宛てもない暗闇に落とされた時、心が折れてしまう生き物だ。
それは誰にも止められるものではなく、抗いがたい生物的本能だ。

だが。


「ふざけるな...!」
「隼人?...!ちょっ、あんた、それ...!」


その中でも運命に抗おうとする者はいる。


「みぞれさん、なにを...!」
「おねが、い、しの、さん」


世界が暗闇に墜ちてゆく中、それでも光を求めて進む者がいる。
絶望に染まる世界を変えようと足掻く者がいる。


「...シドー」


彼らは、己が魂を削り道を切り開き新たな世界を築く者はかく呼ばれる。


「こんなもの...僕たちの旅の果てじゃない...!」


『英雄』と。


前話 次話
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 投下順 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー

前話 キャラクター 次話
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 神隼人 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ビルド 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー クオン 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー シドー 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 武蔵坊弁慶 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 黄前久美子 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 鎧塚みぞれ 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ジオルド・スティアート 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 佐々木志乃 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー マロロ 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 十六夜咲夜 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー 東風谷早苗 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー
ウィキ募集バナー