ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
弛緩思考 Roundabout Speculation
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弛緩思考 Roundabout Speculation ◆76I1qTEuZw
要するに私は、
いつだって、少しだけ遅かったのだ。
そう、ほんの少しだけ。
/弛緩思考
波の音が、暗い倉庫街に静かに響く。
地図の上でも綺麗な直線を描く東の海岸線は、護岸工事でガチガチに固められている証。
大量のテトラポットを洗った波飛沫はコンクリートの海岸にぶつかり、泡となって砕けて消える。
大量のテトラポットを洗った波飛沫はコンクリートの海岸にぶつかり、泡となって砕けて消える。
海に程近いからか、それとも、飛行場も近くにあるせいか。
どうやらこのあたり一帯は、倉庫やらちょっとした工場やらが、海岸線に沿って集まっているようだった。
港と空港。船と飛行機。
それらは人を運ぶが、荷物も運ぶ。
物資の集積。そして、その集積の活用。
ここで整理し、時期を待ち、あるいは手を加え、またどこかに運びだす。そのための街並み。
もとより人の気配のない街ではあるが、仮に住人がいたとしても、この時間帯のこの辺りは無人に違いない。
どうやらこのあたり一帯は、倉庫やらちょっとした工場やらが、海岸線に沿って集まっているようだった。
港と空港。船と飛行機。
それらは人を運ぶが、荷物も運ぶ。
物資の集積。そして、その集積の活用。
ここで整理し、時期を待ち、あるいは手を加え、またどこかに運びだす。そのための街並み。
もとより人の気配のない街ではあるが、仮に住人がいたとしても、この時間帯のこの辺りは無人に違いない。
無作為に選んで無造作に踏み込んだその倉庫は、どうやら家具の類を保管するものらしい。
奥の方には保護のためか、薄いビニール袋に包まれた箪笥などがぎっちりと隙間なく。
しかし入り口近くはショールーム的な機能もあるのか、商品らしきソファーとテーブルがいかにもそれっぽく。
それぞれ、配置されていた。
天窓から差す月明かりが、ちょっとした体育館ほどもある空間をぼんやりと照らしている。
女は特に警戒する様子もなく歩を進めると、どさっ、と、そのソファーの上に横になった。
奥の方には保護のためか、薄いビニール袋に包まれた箪笥などがぎっちりと隙間なく。
しかし入り口近くはショールーム的な機能もあるのか、商品らしきソファーとテーブルがいかにもそれっぽく。
それぞれ、配置されていた。
天窓から差す月明かりが、ちょっとした体育館ほどもある空間をぼんやりと照らしている。
女は特に警戒する様子もなく歩を進めると、どさっ、と、そのソファーの上に横になった。
疲労があったわけではない。
眠気がなかったわけでもないが、しかし、我慢できないほどでもない。
ただ――いまいち感情が昂ぶらない。いまいち気合が入らない。
火がつかないから、倦怠感が先に立ってしまう。
眠気がなかったわけでもないが、しかし、我慢できないほどでもない。
ただ――いまいち感情が昂ぶらない。いまいち気合が入らない。
火がつかないから、倦怠感が先に立ってしまう。
くすぶっている。
両儀式は、自らの状態を正確に自覚する。
両儀式は、自らの状態を正確に自覚する。
いまの彼女には、坂井悠二にかかってきた電話のような、走り出すきっかけがない。
浅上藤乃の起こした事件の時のように、自分から探しに出る気分になれない。
巫条ビルの飛び降り事件の時のように、自分から動き出す気分になれない。
螺旋を描くマンションの時のように、自分から出向く気分になれない。
巫条ビルの飛び降り事件の時のように、自分から動き出す気分になれない。
螺旋を描くマンションの時のように、自分から出向く気分になれない。
当面の目的ならば、ある。黒桐幹也や黒桐鮮花との合流、がそれだ。
両儀式には動機がない。両儀式には殺すことしかできない。
とりあえずは友好的な知り合い2人と合流し、その先を考えよう――という発想だった。
だが、どうも本腰を入れて人探しに専念する気になれない。
どうも、どこか本気でない。
両儀式には動機がない。両儀式には殺すことしかできない。
とりあえずは友好的な知り合い2人と合流し、その先を考えよう――という発想だった。
だが、どうも本腰を入れて人探しに専念する気になれない。
どうも、どこか本気でない。
当面の方針ならば、ある。この催しにおいて「殺し合いに乗っている」奴がいたら、撃破することだ。
そのままの勢いで殺してしまっても、いいとさえ思っている。
しかしそれにしたって、ここまでに出会った人間は僅かに2人。
その坂井悠二は、一度は同行を望むようなことを言いながら、結局は1人で駆けていってしまった。
もう1人の銃を持った男は、それなりに隙のない姿を見せてはいたが、どうやらやる気は無かったようで。
もっと人が集まるであろう場所に行けば、あるいは、とも思うのだが、いまいち必死になれない。
そのままの勢いで殺してしまっても、いいとさえ思っている。
しかしそれにしたって、ここまでに出会った人間は僅かに2人。
その坂井悠二は、一度は同行を望むようなことを言いながら、結局は1人で駆けていってしまった。
もう1人の銃を持った男は、それなりに隙のない姿を見せてはいたが、どうやらやる気は無かったようで。
もっと人が集まるであろう場所に行けば、あるいは、とも思うのだが、いまいち必死になれない。
当面の標的ならば、いる。この催しの冒頭において演説をぶった、あの『人類最悪』を名乗る狐面の男だ。
一目見て、確信した。
あの男は式と同じく、そして、蒼崎橙子や荒耶宗蓮といった魔術師と同じく、境界の外側にいる存在だ。
群れの中に生きる、まっとうな人間ではない。
どこか外れている。
どこか追放されている。
《人類最悪》。
生物学的な意味での人類ではあっても、社会的な意味での人間ではない。
だから殺せる。あれは殺していい相手だ。殺さなければならない相手だ。
あれを殺害しても、それは「殺人」ではない――。
そう理解し、「狐面の男を殺す」、そんな目標を立てたのはいいが……手が届かない。
どうすればあの男を手の届く距離に収められるのか、見当もつかない。
一目見て、確信した。
あの男は式と同じく、そして、蒼崎橙子や荒耶宗蓮といった魔術師と同じく、境界の外側にいる存在だ。
群れの中に生きる、まっとうな人間ではない。
どこか外れている。
どこか追放されている。
《人類最悪》。
生物学的な意味での人類ではあっても、社会的な意味での人間ではない。
だから殺せる。あれは殺していい相手だ。殺さなければならない相手だ。
あれを殺害しても、それは「殺人」ではない――。
そう理解し、「狐面の男を殺す」、そんな目標を立てたのはいいが……手が届かない。
どうすればあの男を手の届く距離に収められるのか、見当もつかない。
両儀式はソファーに倒れこんだまま、自分の背中、赤いジャケットの下から1本のナイフを抜きだす。
彼女が普段から愛用しているものよりも、頑丈で凶悪な、おそらくは軍用の実用品。彼女の支給品の1つ。
彼女の好みではないが、しかし当面の武器としては十分過ぎるほどの一品だ。
手の届く距離にいる相手なら、それが神であっても殺すことができる。
視えるモノが相手なら、それがカタチのないモノであっても殺すことができる。
それが両儀式の、直死の魔眼。
それは例えば、そう、その気になれば、人ならざるトーチである、坂井悠二を殺すこともできたし――
その気になれば、さっき出会った、銃を持ったあの男を殺すこともできた。
まあ、あの男が本気で抵抗していた場合、いくらか被弾し、式もまた負傷していたかもしれないが……
下手をすれば、式もまた、致命傷を負って相討ちとなっていたかもしれないが。
それでも、あの男を殺すことはできただろう。
名前も知らぬあの男を、この、本来『伊里野加奈』という参加者が振るっていたらしいナイフでもって。
彼女が普段から愛用しているものよりも、頑丈で凶悪な、おそらくは軍用の実用品。彼女の支給品の1つ。
彼女の好みではないが、しかし当面の武器としては十分過ぎるほどの一品だ。
手の届く距離にいる相手なら、それが神であっても殺すことができる。
視えるモノが相手なら、それがカタチのないモノであっても殺すことができる。
それが両儀式の、直死の魔眼。
それは例えば、そう、その気になれば、人ならざるトーチである、坂井悠二を殺すこともできたし――
その気になれば、さっき出会った、銃を持ったあの男を殺すこともできた。
まあ、あの男が本気で抵抗していた場合、いくらか被弾し、式もまた負傷していたかもしれないが……
下手をすれば、式もまた、致命傷を負って相討ちとなっていたかもしれないが。
それでも、あの男を殺すことはできただろう。
名前も知らぬあの男を、この、本来『伊里野加奈』という参加者が振るっていたらしいナイフでもって。
だがそれは、逆に言えば、手の届かない所にいる相手には「どうしようもない」、という意味でもある。
走って間合いを詰められるならいい。
跳んだり落ちたりして距離をゼロにできるなら問題はない。
間を隔てるものが魔術や異能の防壁であるならば、それすらも「殺し」て踏み込むこともできる。
走って間合いを詰められるならいい。
跳んだり落ちたりして距離をゼロにできるなら問題はない。
間を隔てるものが魔術や異能の防壁であるならば、それすらも「殺し」て踏み込むこともできる。
だけども――
姿を見せない。
どこにいるかも分からない。
そもそも近づいてこない。
物理的に絶対的に距離が隔てられている。
――こういう相手には、途端に途方に暮れてしまうのだった。
姿を見せない。
どこにいるかも分からない。
そもそも近づいてこない。
物理的に絶対的に距離が隔てられている。
――こういう相手には、途端に途方に暮れてしまうのだった。
暗闇の中、抜いたナイフの煌きをしばらく眺めていた式は、溜息と共にそれを元の場所に戻す。
代わってデイパックの中から取り出したのは……どこか見覚えのある、狐の面。
それは、そう、あの狐面の男が身につけていたものと、同型・同タイプのもの。
先ほどのナイフと同様、両儀式の支給品として用意されたものであり……
先のナイフが有用な「当たり」だとすれば、こちらは実用性皆無の「ハズレ」とでも言うべき代物だった。
少なくとも、現時点では式はそのように判断していた。
代わってデイパックの中から取り出したのは……どこか見覚えのある、狐の面。
それは、そう、あの狐面の男が身につけていたものと、同型・同タイプのもの。
先ほどのナイフと同様、両儀式の支給品として用意されたものであり……
先のナイフが有用な「当たり」だとすれば、こちらは実用性皆無の「ハズレ」とでも言うべき代物だった。
少なくとも、現時点では式はそのように判断していた。
薄闇の中、式は手にした仮面をぼんやりと眺める。
あの狐面の男は、殺す。
本人の弁の通り、参加者に似たような立場の者だとしても、関係なく殺す。
あの狐面の男の裏側にいるのかもしれない、「本当の主催者」も、もし居て手が届くなら殺す。
それは既に式の中では決定事項に近いが……しかし。
あの狐面の男は、殺す。
本人の弁の通り、参加者に似たような立場の者だとしても、関係なく殺す。
あの狐面の男の裏側にいるのかもしれない、「本当の主催者」も、もし居て手が届くなら殺す。
それは既に式の中では決定事項に近いが……しかし。
ただ走りまわるだけで到達できるような相手と思えぬせいか、いまいち、火付きが悪い。
式はソファーの上で身じろぎをし、仰向けになると、何の気なしにお面を顔に乗せてみる。
あの男は何を考えてこんな仮面を被っていたのだろう。
何の意味があったのだろう。
ここに蒼崎橙子がいれば、「仮面」というモノが持つ魔術的な意味について滔々と解説してくれるのだろう。
仮面全般の持つ意味から、この狐の面独特の意味まで、詳細に語りつくしてくれるのだろう。
例によってその大半は意味の無い戯言に近いのだろうが、今なら少しだけそれに付き合ってもいい。
珍しく、そんな気分だった。
あの男は何を考えてこんな仮面を被っていたのだろう。
何の意味があったのだろう。
ここに蒼崎橙子がいれば、「仮面」というモノが持つ魔術的な意味について滔々と解説してくれるのだろう。
仮面全般の持つ意味から、この狐の面独特の意味まで、詳細に語りつくしてくれるのだろう。
例によってその大半は意味の無い戯言に近いのだろうが、今なら少しだけそれに付き合ってもいい。
珍しく、そんな気分だった。
狐の面を顔に乗せたまま、ふと式は思う。
そういえば、あの男は6時間ごとに脱落者の名前を読みあげる、と言っていた。
放送をする、と言っていた。
デイパックに入っていた時計が狂っていなければ、始まった時点の時刻はほぼ深夜0時。
つまり、最初の放送があるのは、午前6時ごろ。
季節や緯度経度によって多少のズレはあろうが、大雑把に言って日の出の前後だ。
そういえば、あの男は6時間ごとに脱落者の名前を読みあげる、と言っていた。
放送をする、と言っていた。
デイパックに入っていた時計が狂っていなければ、始まった時点の時刻はほぼ深夜0時。
つまり、最初の放送があるのは、午前6時ごろ。
季節や緯度経度によって多少のズレはあろうが、大雑把に言って日の出の前後だ。
どうやって「放送」するのかは分からないが、その性質から考えて、普通にしていれば聞こえるものだろう。
そしてあの男のことだ、単に脱落者の名前を列記するだけでは終わるまい。
橙子なみに、いや、橙子とは異質な方向で、余計なおしゃべりを好む雰囲気があった。
きっと、事務的な連絡だけでは終わるまい。
きっと、何らかの重要な手掛かりを漏らす――もちろん、無数の無意味な雑音に紛れ込ませる形で。
あるいはその内容次第では、両儀式も走り出すことになる……のかも、しれない。
そしてあの男のことだ、単に脱落者の名前を列記するだけでは終わるまい。
橙子なみに、いや、橙子とは異質な方向で、余計なおしゃべりを好む雰囲気があった。
きっと、事務的な連絡だけでは終わるまい。
きっと、何らかの重要な手掛かりを漏らす――もちろん、無数の無意味な雑音に紛れ込ませる形で。
あるいはその内容次第では、両儀式も走り出すことになる……のかも、しれない。
そうしてその放送で告げられるのは、脱落者。
そう、脱落者だ。
直接的な表現を避けつつも、あの男が示唆したのは参加者同士の血で血を洗う「殺し合い」に他ならない。
会場はどんどん狭くなるとは言うが、なにせ最初に消えるのは山のてっぺんからだ。
普通に考えて留まろうと思う場所ではないし、そこから退避するのだって容易い。山を降りればいいだけだ。
会場消滅に巻き込まれて脱落する者は、まず出ないだろう。
少なくとも、今回、この6時間の間には。
そう、脱落者だ。
直接的な表現を避けつつも、あの男が示唆したのは参加者同士の血で血を洗う「殺し合い」に他ならない。
会場はどんどん狭くなるとは言うが、なにせ最初に消えるのは山のてっぺんからだ。
普通に考えて留まろうと思う場所ではないし、そこから退避するのだって容易い。山を降りればいいだけだ。
会場消滅に巻き込まれて脱落する者は、まず出ないだろう。
少なくとも、今回、この6時間の間には。
……そういえば、いまいるこの場所、B-6というエリアも、だいたい半日ほどで消滅するのだったか。
地図の一番上の横一列が消滅したら、こんどは東側の海岸一帯が消滅する番だ。そう長居はできない。
とはいえ、まだ焦るような時間ではない。次の昼頃までにここを出ていればいいのだ。猶予はたっぷりとある。
頭の中で地図を思い浮かべ、指折り数字を数えて、両儀式は溜息をつく。
地図の一番上の横一列が消滅したら、こんどは東側の海岸一帯が消滅する番だ。そう長居はできない。
とはいえ、まだ焦るような時間ではない。次の昼頃までにここを出ていればいいのだ。猶予はたっぷりとある。
頭の中で地図を思い浮かべ、指折り数字を数えて、両儀式は溜息をつく。
なんとも思考にまとまりがない。焦点が合っていない。
今ここで両儀式が気にしなければならないのは、消滅によって狭くなっていく会場のことではないだろうに。
彼女自身、嘆息と共に自覚する。
今ここで両儀式が気にしなければならないのは、消滅によって狭くなっていく会場のことではないだろうに。
彼女自身、嘆息と共に自覚する。
脱落者が出るということは、十中八九、殺し合いに乗った奴が出たということだ。
そして、その犠牲者が出たということだ。
つまりこうしてる今にも、黒桐幹也が、黒桐鮮花が、誰かに襲われているかもしれない。
誰かに傷つけられているのかもしれない。
あまつさえ、殺されかけているのかもしれない。
あるいは考えたくもないことだが、既に無惨な骸を晒し、息絶えてしまっているのかもしれない――。
そして、その犠牲者が出たということだ。
つまりこうしてる今にも、黒桐幹也が、黒桐鮮花が、誰かに襲われているかもしれない。
誰かに傷つけられているのかもしれない。
あまつさえ、殺されかけているのかもしれない。
あるいは考えたくもないことだが、既に無惨な骸を晒し、息絶えてしまっているのかもしれない――。
そこまで危険を認識していながら、いまいち、両儀式の心には火がつかない。
実感がない。切迫感がない。弛緩してしまっている。
今すぐ走り出して彼らを探し出そう、一刻も早く保護しよう、という動機が沸きあがってこない。
それはもちろん、彼らの能力の高さ、基本的な部分での用心深さを信頼している、という側面もあるのだが。
今すぐ走り出して彼らを探し出そう、一刻も早く保護しよう、という動機が沸きあがってこない。
それはもちろん、彼らの能力の高さ、基本的な部分での用心深さを信頼している、という側面もあるのだが。
やはり、両儀式は、攻勢に出る方が性に合っている。
礼園女学院の一件で、改めて自覚した。
やはり、調査だとか、守るだとか、次の事件を防止するとか、そういうのは、両儀式のガラではない。
そんな曖昧なことでは、自発的に動きだす気が起きない。
もしもそこに誰かと殺し合える確信でもあれば、衝動を抑えられず飛びだすこともあるのだろうが……
あるいは、何か他の理由によって、考えるより先に走りだすこともあるだろうが。
いまのところ、そこまでの衝動が、湧きあがらない。
あるいはこれは、幹也や鮮花に迫る危機が曖昧模糊としたものでしかないせいであろうか。
あるいはこれは、いまだに両儀式が「殺し合いに乗った」相手と遭遇していないせいであろうか。
やはり、調査だとか、守るだとか、次の事件を防止するとか、そういうのは、両儀式のガラではない。
そんな曖昧なことでは、自発的に動きだす気が起きない。
もしもそこに誰かと殺し合える確信でもあれば、衝動を抑えられず飛びだすこともあるのだろうが……
あるいは、何か他の理由によって、考えるより先に走りだすこともあるだろうが。
いまのところ、そこまでの衝動が、湧きあがらない。
あるいはこれは、幹也や鮮花に迫る危機が曖昧模糊としたものでしかないせいであろうか。
あるいはこれは、いまだに両儀式が「殺し合いに乗った」相手と遭遇していないせいであろうか。
あまり、考えたくない……というより、式にとっては、望ましい展開ではないのだが。
仮に、である。
6時に予定されているその放送で、黒桐幹也の名が、あるいは黒桐鮮花の名が呼ばれてしまったら。
両儀式は、どうすべきなのか――いや、どうなってしまうのか。
仮に、である。
6時に予定されているその放送で、黒桐幹也の名が、あるいは黒桐鮮花の名が呼ばれてしまったら。
両儀式は、どうすべきなのか――いや、どうなってしまうのか。
たぶん、火はつく、だろう。
いまこうしてくすぶっているモノは、一気に吹き飛ぶだろう。
だが、そこから先が想像できない。両儀式自身にも、想像がつかない。
いまこうしてくすぶっているモノは、一気に吹き飛ぶだろう。
だが、そこから先が想像できない。両儀式自身にも、想像がつかない。
その殺害者を探し当てて、復讐する?
1人残ったなら、残った1人を守るために奔走する?
自棄になってこの場にいる全てを殺してまわる?
積極的に動かなかったこと・こんな所でくすぶっていたことを後悔し、自分を責め苛む?
1人残ったなら、残った1人を守るために奔走する?
自棄になってこの場にいる全てを殺してまわる?
積極的に動かなかったこと・こんな所でくすぶっていたことを後悔し、自分を責め苛む?
……分からない。いまは、分からない。
それは両儀式が望む展開ではなく、むしろあって欲しくないと願っていて、だからいまは、想像しきれない。
一気に火がついて動きだすだろうな、という予感はあっても、それ以上先に思考が進まない。
むしろ両儀式にとって、そこでどう行動するべきか、ということ以上に気になったのは。
それは両儀式が望む展開ではなく、むしろあって欲しくないと願っていて、だからいまは、想像しきれない。
一気に火がついて動きだすだろうな、という予感はあっても、それ以上先に思考が進まない。
むしろ両儀式にとって、そこでどう行動するべきか、ということ以上に気になったのは。
もしも万が一そんなことになったら、どういう表情を浮かべたらいいのか、ということだった。
泣けばいいのか。
怒ればいいのか。
それとも、いっそここは笑ってしまうべきなのか。
……やはり思考が支離滅裂だ。
考えるべきことを考えていない。考える必要のないことばかりに思考が逸れてしまう。
両儀式は軽く笑って、そしてふと、未だ顔の上に狐の面が乗ったままであることに気がついて、
怒ればいいのか。
それとも、いっそここは笑ってしまうべきなのか。
……やはり思考が支離滅裂だ。
考えるべきことを考えていない。考える必要のないことばかりに思考が逸れてしまう。
両儀式は軽く笑って、そしてふと、未だ顔の上に狐の面が乗ったままであることに気がついて、
ああ、そうか、と妙に納得してしまった。
あの狐面の男がお面を被っていた理由の、1つには。
自分がどんな表情をするべきなのか、分からなくなってしまった、ということもあるのではないだろうか、と。
自分がどんな表情をするべきなのか、分からなくなってしまった、ということもあるのではないだろうか、と。
どうやら境界の外に立つ雰囲気のあった、あの男。
因果の外に追放されたような気配のあった、あの男。
そんな立場に至るまでには、通常の喜怒哀楽では言い表しきれない様々な感情を体験したに違いない。
浮かべるに相応しい表情が思い当たらない、そんな気分に陥ったこともあったに違いない。
ならば、
因果の外に追放されたような気配のあった、あの男。
そんな立場に至るまでには、通常の喜怒哀楽では言い表しきれない様々な感情を体験したに違いない。
浮かべるに相応しい表情が思い当たらない、そんな気分に陥ったこともあったに違いない。
ならば、
「……もしもそうなった時には、オレも、この仮面を被ってみるか」
狐の面から伸びた紐を片手で弄びながら、
どこかの誰かに言い聞かせるかのように、
あえて『私』ではなく『オレ』という一人称を声に出し、
両儀式は、呟いた。
どこかの誰かに言い聞かせるかのように、
あえて『私』ではなく『オレ』という一人称を声に出し、
両儀式は、呟いた。
どうやら本格的に思考が迷走しているらしい。
どうやらとことん、グダグダなようだ。
独り言を声に出したのが切欠になったのか。
両儀式はようやくにして、ひとりで考えを巡らせ続けることの無意味さを、痛感した。
どうやらとことん、グダグダなようだ。
独り言を声に出したのが切欠になったのか。
両儀式はようやくにして、ひとりで考えを巡らせ続けることの無意味さを、痛感した。
考察の材料すら十分にない今、何かを考えても無駄だ。
そして日が出る前の街をあてもなく彷徨っても、得られるものは少ない気もする。
逆に、この場所に誰か他の者がこっそりやってくる可能性も低いだろう。
似たような倉庫が立ち並ぶ中、この倉庫をピンポイントで選ぶ理由はない。
ピンポイントで、式の枕元に忍び寄る道理はない。
そして、どうせあと3時間ほども待てば、動きだす契機は放送という形でやってきてくれるかもしれないのだ。
そして日が出る前の街をあてもなく彷徨っても、得られるものは少ない気もする。
逆に、この場所に誰か他の者がこっそりやってくる可能性も低いだろう。
似たような倉庫が立ち並ぶ中、この倉庫をピンポイントで選ぶ理由はない。
ピンポイントで、式の枕元に忍び寄る道理はない。
そして、どうせあと3時間ほども待てば、動きだす契機は放送という形でやってきてくれるかもしれないのだ。
ゆえに、両儀式は。
日が昇って、放送が始まるまでの間、軽く一眠りしておくことに決めた。
どうせ役に立たない時間なら、と、大胆にも気力・体力の充実のために充てることに決めた。
多少なりとも眠っておけば、まとまらない思考もすっきりするだろう。
これからどうするかなんて、放送を聴いたあとに考えればそれでいい。
そして彼女は、一旦心に決めてしまえばあとは早い。
日が昇って、放送が始まるまでの間、軽く一眠りしておくことに決めた。
どうせ役に立たない時間なら、と、大胆にも気力・体力の充実のために充てることに決めた。
多少なりとも眠っておけば、まとまらない思考もすっきりするだろう。
これからどうするかなんて、放送を聴いたあとに考えればそれでいい。
そして彼女は、一旦心に決めてしまえばあとは早い。
ちょっとした体育館ほどもある、高い天井の広い倉庫の片隅で。
まるで家具屋のショールームのように配置された、ソファーの上で。
両儀式は、ゼンマイの切れた人形のように、生気を感じさせない眠りにストンと落ちた。
死者の如き、停止に入った。
――動きだすべき時がくれば、きっとまた、すぐに蘇るのだろう。いまの両儀式とは、そういう存在だ。
まるで家具屋のショールームのように配置された、ソファーの上で。
両儀式は、ゼンマイの切れた人形のように、生気を感じさせない眠りにストンと落ちた。
死者の如き、停止に入った。
――動きだすべき時がくれば、きっとまた、すぐに蘇るのだろう。いまの両儀式とは、そういう存在だ。
天窓の向こうに見える空が、やがてゆっくりと明るんでくる。
相も変らぬ単調な波の音が、微かに聞こえてくる…………。
相も変らぬ単調な波の音が、微かに聞こえてくる…………。
【B-6/海沿いの倉庫街/一日目・早朝】
【両儀式@空の境界】
[状態]:健康。仮眠中
[装備]:狐の面@戯言シリーズ、伊里野のナイフ@伊里野の空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0~1個
[思考・状況]
基本:狐面の男を殺す。黒幕がいるなら、相手次第だがそいつも殺す。
1:放送まで休んでおく。
2:黒桐幹也、黒桐鮮花と合流する?
[状態]:健康。仮眠中
[装備]:狐の面@戯言シリーズ、伊里野のナイフ@伊里野の空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0~1個
[思考・状況]
基本:狐面の男を殺す。黒幕がいるなら、相手次第だがそいつも殺す。
1:放送まで休んでおく。
2:黒桐幹也、黒桐鮮花と合流する?
[備考]
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
「伊里野のナイフ」は革ジャケットの背中の下に隠すように収められています。
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
「伊里野のナイフ」は革ジャケットの背中の下に隠すように収められています。
【狐の面@戯言シリーズ(?)】
『人類最悪』こと西東天が被っていたものと、同じデザインの狐のお面。
OPにおいて彼が狐の面を被っていたことから、こちらは予備の一枚なのだろうか?
なんであれ、外見からは西東天の仮面と寸分の違いも見出せない。
『人類最悪』こと西東天が被っていたものと、同じデザインの狐のお面。
OPにおいて彼が狐の面を被っていたことから、こちらは予備の一枚なのだろうか?
なんであれ、外見からは西東天の仮面と寸分の違いも見出せない。
【伊里野加奈のナイフ@イリヤの空、UFOの夏】
伊里野が普段、隠し持っていたナイフ。
原チャリを盗む際に使用している。おそらくは4巻で使用したのも同じナイフ。
作中ではその凶悪な外見が強調されており、おそらくは軍用のコンバットナイフであると思われる。
柄の所にはパラシュートコードが巻きつけてあり、また、背中に隠すように収納できる鞘とホルダーが付属。
伊里野加奈は、これを制服の下、背中の所に隠すようにして持ち歩いていた。
伊里野が普段、隠し持っていたナイフ。
原チャリを盗む際に使用している。おそらくは4巻で使用したのも同じナイフ。
作中ではその凶悪な外見が強調されており、おそらくは軍用のコンバットナイフであると思われる。
柄の所にはパラシュートコードが巻きつけてあり、また、背中に隠すように収納できる鞘とホルダーが付属。
伊里野加奈は、これを制服の下、背中の所に隠すようにして持ち歩いていた。
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