ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
CROSS†POINT――(交錯点) 前編
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CROSS†POINT――(交錯点) 前編 ◆EchanS1zhg
【0】
『キョンくん、でんわ~』
【1】
泣くに泣いて、そして泣いて泣き止んだ頃には目の前にまっすぐと立つ電柱の影も随分と短くなっていて、
それに気づいてようやく自分がどれだけの涙を零したのか大河は知って、ぐしぐしとブラウスの袖で涙の跡を拭った。
それに気づいてようやく自分がどれだけの涙を零したのか大河は知って、ぐしぐしとブラウスの袖で涙の跡を拭った。
「……おなか減った」
眩しく輝く太陽を見上げて大河はぽつりと零した。
メイドさんが出してくれたラーメンも飛び出してきたせいでろくに食べていない。
運動もしたし泣いたこともある。おなかはさっきよりももっと減っていた。油断すればくぅと音を鳴らしてしまいそうなぐらいに。
メイドさんが出してくれたラーメンも飛び出してきたせいでろくに食べていない。
運動もしたし泣いたこともある。おなかはさっきよりももっと減っていた。油断すればくぅと音を鳴らしてしまいそうなぐらいに。
「……おなか減った」
もう一度呟いて、今度は涙がぽつりと零れた。
思い出し、思い浮かぶ。何を食べたいのか。誰が作ったものを食べたいのか。それが叶った日々。そうでない今。
どこに戻っても、どこに帰ってもそれが実現しないということに、また小さな肩が揺れる。
思い出し、思い浮かぶ。何を食べたいのか。誰が作ったものを食べたいのか。それが叶った日々。そうでない今。
どこに戻っても、どこに帰ってもそれが実現しないということに、また小さな肩が揺れる。
「痛いなぁ……」
誰も聞いてないのに空々しく言って、大河は電柱を蹴りまくって痣の浮いた足をさすった。
さすりながらまた目元を擦る。今の涙はそのせいだと、小さな彼女のほんのちっぽけな強がり。
今更だが、見たら足は裸足で泥だらけ、上着は着てなくて、着たまま寝ていたブラウスはぐしゃぐしゃのしわだらけだった。
さすりながらまた目元を擦る。今の涙はそのせいだと、小さな彼女のほんのちっぽけな強がり。
今更だが、見たら足は裸足で泥だらけ、上着は着てなくて、着たまま寝ていたブラウスはぐしゃぐしゃのしわだらけだった。
ぶんぶんと頭を振って跳ねるように立ち上がる。思いのほか身体は軽く動いてくれた。
とりあえず、今はここまで。
もう一度頭を振り、大河は社務所に帰ろうとして……そして、大河はその社務所から漏れてくる音に気づいた。
とりあえず、今はここまで。
もう一度頭を振り、大河は社務所に帰ろうとして……そして、大河はその社務所から漏れてくる音に気づいた。
りーん、りーん、りーん……と、鳴り響くそれが何の音なのか、一瞬わからなくて、そして少ししてそれが電話の音だとわかった。
【2】
すこし前のこと。
対少女としては最も効果的でおぞましい方法を使われ、まんまと敵に逃れられてしまった二人の少女が道を歩いていた。
片方。10歳と少しかというほどの背に、膝裏までに達しそうな豊かな黒髪を持つのは《炎髪灼眼の討ち手》であるシャナ。
その隣を行くのは年を考えれば標準的で、しかし小柄なひとりの女子中学生である《超電磁砲(レールガン)》こと御坂美琴。
少女というくくりで言えば、間違いなく最強の1位2位を占めるであろう二人は、らしくもなく浮かない顔で歩を進めている。
片方。10歳と少しかというほどの背に、膝裏までに達しそうな豊かな黒髪を持つのは《炎髪灼眼の討ち手》であるシャナ。
その隣を行くのは年を考えれば標準的で、しかし小柄なひとりの女子中学生である《超電磁砲(レールガン)》こと御坂美琴。
少女というくくりで言えば、間違いなく最強の1位2位を占めるであろう二人は、らしくもなく浮かない顔で歩を進めている。
「もうついてないかな……?」
シャナはあれから何度目かの問いをして、同行する美琴に背中と髪に毛虫がついてないかを確かめてもらった。
フレイムヘイズとしてはいささか以上になさけない姿ではあるが、気持ち悪いというのはどうしようもないのだ。
あのツンツンとした毛がわさわさとしていて、足がいっぱいあってうねうねと這う姿は思い返しただけで怖気が走る。
フレイムヘイズとしてはいささか以上になさけない姿ではあるが、気持ち悪いというのはどうしようもないのだ。
あのツンツンとした毛がわさわさとしていて、足がいっぱいあってうねうねと這う姿は思い返しただけで怖気が走る。
「それで、シャナさんは”アイツ”と会ったのよね?」
「うん。そうだけどそれがどうかした?」
「えっと、いや……別にどうともしないわよ! ただ、まぁ……無事でよかったなぁ、とか……」
「そう。でも私も安心した。あいつが悪いやつじゃなくて」
「うん。そうだけどそれがどうかした?」
「えっと、いや……別にどうともしないわよ! ただ、まぁ……無事でよかったなぁ、とか……」
「そう。でも私も安心した。あいつが悪いやつじゃなくて」
シャナは美琴がいうアイツ――上条当麻が危険な人物どころか真逆の正義漢であると知って胸を撫で下ろした。
その背中を黙って見送ることしかできなかった実乃梨。
彼女が北村殺しの犯人として追った彼がそういう人物ならば、おそらく彼女は大丈夫だろう。
当麻と一緒にいたかなめも美琴の仲間から安全な人物だと保証されているらしいので、これで不安が一つ消えたことになる。
その背中を黙って見送ることしかできなかった実乃梨。
彼女が北村殺しの犯人として追った彼がそういう人物ならば、おそらく彼女は大丈夫だろう。
当麻と一緒にいたかなめも美琴の仲間から安全な人物だと保証されているらしいので、これで不安が一つ消えたことになる。
「とは言え、ならばあれらとは別に得体の知れぬ殺人者が他にいたということになる。しかも、おそらくは複数だ」
シャナが首にかけているペンダントから遠雷のような響きを持つ威厳ある声が発せられた。
フレイムヘイズたる”炎髪灼眼の討ち手”の契約者であり、シャナの身に宿る紅世の王《天壌の業火・アラストール》の声である。
フレイムヘイズたる”炎髪灼眼の討ち手”の契約者であり、シャナの身に宿る紅世の王《天壌の業火・アラストール》の声である。
「秀吉をバラバラにした奴。北村を刺した奴。それと喉を切り裂かれたのと、滅茶苦茶に潰されてた奴……」
「どれも手口は違う。最悪、別々の者による仕業とすればあそこには4人の殺人者がいたということになるだろう」
「けど、温泉の3人は仲間割れとかかもしれない。上条当麻達が出てからそんなに誰かが来る時間はなかったもの」
「ふむ。確かに”一度”に起こったという可能性は高いだろうな」
「どれも手口は違う。最悪、別々の者による仕業とすればあそこには4人の殺人者がいたということになるだろう」
「けど、温泉の3人は仲間割れとかかもしれない。上条当麻達が出てからそんなに誰かが来る時間はなかったもの」
「ふむ。確かに”一度”に起こったという可能性は高いだろうな」
シャナは事態に当たり敵を想定することで自身の冷静さが戻ってきていることに安堵した。
そして、おそらくはその為に話を切り出してくれたアラストールの気持ちに感謝し、その頼りがいを改めて実感する。
そして、おそらくはその為に話を切り出してくれたアラストールの気持ちに感謝し、その頼りがいを改めて実感する。
「中でも気をつけるべきは、あの鋭利な断面を見せたままに人間をバラバラにした殺人者であろう。
尋常な状態ではなかった故に、おそらくは宝具の類を用いたか、御坂美琴の言う《能力》の使い手かもしれぬ」
尋常な状態ではなかった故に、おそらくは宝具の類を用いたか、御坂美琴の言う《能力》の使い手かもしれぬ」
ならば油断はできないし、無能力者である上条や実乃梨の命もまだ保証されたわけでないとアラストールは付け加える。
確かにその通りだとシャナは気を引き締めなおした。
ヴィルヘルミナの元には実乃梨が言っていた大河という少女もいるらしい。
ならば、神社についたらヴィルヘルミナに捜索隊を出すことを頼んでもいいだろうと、そうシャナは考える。
確かにその通りだとシャナは気を引き締めなおした。
ヴィルヘルミナの元には実乃梨が言っていた大河という少女もいるらしい。
ならば、神社についたらヴィルヘルミナに捜索隊を出すことを頼んでもいいだろうと、そうシャナは考える。
「……あのさ。多分だけど、そのバラバラってやつ。犯人がわかってるかも」
おずおずとかけられた美琴の声にぴくりと反応し、シャナは続きを促した。
そして美琴が説明するにそれは”紫木一姫”という少女の仕業であり、《曲絃糸》という殺人技術によるものだという。
そして美琴が説明するにそれは”紫木一姫”という少女の仕業であり、《曲絃糸》という殺人技術によるものだという。
「紫木一姫と零崎人識が同じ世界の住人で、その紫木って方が秀吉と大河の大切な人を……」
「美波という娘を襲ったのが学校ならば場所も時間も近い。その紫木という娘が下手人と見て間違いないであろうな」
「美波という娘を襲ったのが学校ならば場所も時間も近い。その紫木という娘が下手人と見て間違いないであろうな」
けど……と、シャナは言葉をつけくわえる。
普通の人間にそんなことができるというのは、フレイムヘイズ以前の自身を思い返すと少し信じられないことだった。
しかしアラストールはそれにこう答える。《物語》が違う以上、我々の普通は通用するものではないと。
現に、目の前にいる御坂美琴にしても《普通の人間》にしか見えないが、電撃を操る《超能力者》なのである。
普通の人間にそんなことができるというのは、フレイムヘイズ以前の自身を思い返すと少し信じられないことだった。
しかしアラストールはそれにこう答える。《物語》が違う以上、我々の普通は通用するものではないと。
現に、目の前にいる御坂美琴にしても《普通の人間》にしか見えないが、電撃を操る《超能力者》なのである。
「さて、もうちょっとよ」
路地から大きな通りへと出たところで美琴がそう口にした。
太陽を背に向こうを見れば新緑鮮やかでなだらかな山が見える。
どうやら、ここから道なりに進めばヴィルヘルミナらが拠点とする神社へと到達するらしい。
太陽を背に向こうを見れば新緑鮮やかでなだらかな山が見える。
どうやら、ここから道なりに進めばヴィルヘルミナらが拠点とする神社へと到達するらしい。
「シャナさんが他に探しているのは坂井悠二さん?」
不意にそう聞かれて、シャナは小さくそうだと返事を返した。
神社に集まっただけでも8人以上で、シャナ自身も少なくない人数と接触をしているが、想い人である彼の消息は未だ不明だ。
それなりの信頼もあるし、むしろこういう状況でこそ真価を発揮するとも知っているが、やはり心配なのは変わらない。
神社に集まっただけでも8人以上で、シャナ自身も少なくない人数と接触をしているが、想い人である彼の消息は未だ不明だ。
それなりの信頼もあるし、むしろこういう状況でこそ真価を発揮するとも知っているが、やはり心配なのは変わらない。
「大切な人?」
「うん。……御坂美琴にはいるの?」
「うん。……御坂美琴にはいるの?」
無意識の内にそう問い返していた。
実乃梨にぶつけられた言葉が心の中でまだ強く残っていたせいなのだが、シャナ自身はそれには気づかない。
ただ、大切な人を想う気持ちというのを色々な人から教えてもらおうという無自覚な行動であった。
実乃梨にぶつけられた言葉が心の中でまだ強く残っていたせいなのだが、シャナ自身はそれには気づかない。
ただ、大切な人を想う気持ちというのを色々な人から教えてもらおうという無自覚な行動であった。
「いやいや……ないない! いや、あれはちょっと……いやでも……」
美琴の答えにシャナは少しだけがっかりする。
もっとも、ある程度心の機微に敏ければ美琴にそういう相手がいるというのは明白なのだが、生憎とシャナは気づかない。
そして、悠二のことを考えるとまた不安定な自分になってゆくので、今度は意識して敵の話題を切り出した。
もっとも、ある程度心の機微に敏ければ美琴にそういう相手がいるというのは明白なのだが、生憎とシャナは気づかない。
そして、悠二のことを考えるとまた不安定な自分になってゆくので、今度は意識して敵の話題を切り出した。
「それで御坂美琴。古泉という奴。次会ったらどうするの。やる事は決まってると思うけど」
「……勿論ぶっ飛ばすわよ。許さないんだから……あの思い出すだけで腹が立つ」
「……勿論ぶっ飛ばすわよ。許さないんだから……あの思い出すだけで腹が立つ」
案の定、美琴は大きな怒りを露にした。連続で飛び出す罵詈雑言は、少し引いてしまうほどである。
しかし、心の中に食い込んだ不安は深く、引き剥がすことも無視することも簡単にはできない。
取り返しがつかないことが起きる不安に心臓がドクドクと脈打ち、頭の中が真白になりかけたその時――、
しかし、心の中に食い込んだ不安は深く、引き剥がすことも無視することも簡単にはできない。
取り返しがつかないことが起きる不安に心臓がドクドクと脈打ち、頭の中が真白になりかけたその時――、
「駄目だ……こりゃ……あーあ。部長も”悠二”さんもぶじかなぁ……」
――その名前が耳の中に飛び込んできた。
【3】
どこから出てきたのかも覚えていなかったので、大河は結局、外をぐるりと周って玄関から社務所の中に入った。
足の裏についた泥を玄関マットで落とすと、ぺたぺたと音を立てながら板張りの廊下を歩いてゆく。
あまり大きな建物でもないのでそれも長くは続かず、ほどなくして先ほどまでいた畳張りの部屋へと到着した。
足の裏についた泥を玄関マットで落とすと、ぺたぺたと音を立てながら板張りの廊下を歩いてゆく。
あまり大きな建物でもないのでそれも長くは続かず、ほどなくして先ほどまでいた畳張りの部屋へと到着した。
「あ、おかえりなさい」
少しだけ目元に赤色が残り、無愛想な顔で帰ってきた大河を出迎えてくれたのは、ぎこちなくも明るい顔の美波だった。
うん。と、それだけ答えて大河は彼女の隣へと腰を下ろし、そしてメイドさん――ヴィルヘルミナの姿を探す。
暗色のワンピースに純白のエプロン。更にはヘッドドレスと正しくそれであり、目立つ彼女の姿はしかし部屋の中にはなかった。
うん。と、それだけ答えて大河は彼女の隣へと腰を下ろし、そしてメイドさん――ヴィルヘルミナの姿を探す。
暗色のワンピースに純白のエプロン。更にはヘッドドレスと正しくそれであり、目立つ彼女の姿はしかし部屋の中にはなかった。
「ねぇ、美波。あの人はどこに行ったの?」
「それなら、さっき電話があってそれを取りに……須藤さんからだって。何かあったみたい」
「それなら、さっき電話があってそれを取りに……須藤さんからだって。何かあったみたい」
そっか。と、返事をして大河は膝を抱えて丸まった。
先ほどはほとんど上の空ではっきりとは覚えていないが、確か街に食料などを調達にしにいっている人達がいたはずだ。
ここまで一緒に来た(須藤)晶穂もそこに。そして記憶が確かならテッサの方は山の上の方に向かったと聞いている。
テッサのことは今は置くとして、晶穂のことが少し心配になる。
電話をかけて来たということはまだ余裕があると言えるが、しかし電話をかけるだけの理由(トラブル)もそこにあるのだろう。
先ほどはほとんど上の空ではっきりとは覚えていないが、確か街に食料などを調達にしにいっている人達がいたはずだ。
ここまで一緒に来た(須藤)晶穂もそこに。そして記憶が確かならテッサの方は山の上の方に向かったと聞いている。
テッサのことは今は置くとして、晶穂のことが少し心配になる。
電話をかけて来たということはまだ余裕があると言えるが、しかし電話をかけるだけの理由(トラブル)もそこにあるのだろう。
「あの、ちょっといいかな……これなんだけど」
「んん……?」
「んん……?」
膝の上に顎を乗せてむぅと唸っているところに、美波がおずおずと声をかけて何かを大河の方へと差し出してきた。
彼女の手のひらの上にあるそれは何の変哲もないただのデジカメだったが、しかし少しだけ別の意味がある。
彼女の手のひらの上にあるそれは何の変哲もないただのデジカメだったが、しかし少しだけ別の意味がある。
「これ、大河のものじゃないかな?」
「……言われてみれば私のみたい、けどどうしてこんなところに?」
「うん。水前寺の鞄の中に入っていたんだって、それで今はウチが持っているんだけど返しておいたほうがいいと思って」
「別にいいけど……。そっか、じゃあよくわかんないけど返してもらっとく」
「……言われてみれば私のみたい、けどどうしてこんなところに?」
「うん。水前寺の鞄の中に入っていたんだって、それで今はウチが持っているんだけど返しておいたほうがいいと思って」
「別にいいけど……。そっか、じゃあよくわかんないけど返してもらっとく」
なんで自分のデジカメがここで誰かの鞄の中に、つまりは配られているのかさっぱりわからない。
けど、見てみれば確かに自分のものらしかったので大河はそれを素直に受け取った。
そして自分の鞄を引き寄せてごぞごぞと漁り、代わりと言ってはなんだがとひとつの缶を美波に手渡した。
けど、見てみれば確かに自分のものらしかったので大河はそれを素直に受け取った。
そして自分の鞄を引き寄せてごぞごぞと漁り、代わりと言ってはなんだがとひとつの缶を美波に手渡した。
「何これ……?」
「フラッシュグレネード。いざって時の為にいっこ持っておきなさい」
「え! ちょっと……これって、爆弾……!?」
「別に本物の爆弾じゃない。光が出て目くらましになるだけ。さっきのデジカメのお返し。一個貰ったから一個あげる。いい?」
「フラッシュグレネード。いざって時の為にいっこ持っておきなさい」
「え! ちょっと……これって、爆弾……!?」
「別に本物の爆弾じゃない。光が出て目くらましになるだけ。さっきのデジカメのお返し。一個貰ったから一個あげる。いい?」
美波が納得したのを確認して、大河はデジカメを鞄の中に仕舞おうとする。
しかしその直前にはたと気づいた。デジカメの中になにかデータが残っていたっけかと、脳の中の記憶野をぐねぐねこねる。
何を撮ったなんてよく覚えてないけど、もしかしたら”彼”の写真がこの中に残っているかもしれない。
しかしその直前にはたと気づいた。デジカメの中になにかデータが残っていたっけかと、脳の中の記憶野をぐねぐねこねる。
何を撮ったなんてよく覚えてないけど、もしかしたら”彼”の写真がこの中に残っているかもしれない。
そしたら……、そしたらどうしよう……?
【4】
「はい、それで部長は浅羽を探しに行って……はい、どこまで行ったかはちょっと。それで、ですね――……」
晶穂は電話口の向こうにいる硬質な声色のメイドとその相棒であるヘッドドレスの声にただただ恐縮していた。
助けを求めようと同行することとなった3人の方を見てみるが、そっちはそっちで忙しいらしく救援は望めそうにない。
助けを求めようと同行することとなった3人の方を見てみるが、そっちはそっちで忙しいらしく救援は望めそうにない。
そもそもとして、どうしてこんなことになったのか。
発端はやはり部長こと水前寺邦博のせいであると言えるだろう。比率で言えば、ほぼ100%部長が悪い。
まず、神社に残るはずだった自分を無理矢理連れ出した。
その時は納得というか、言いくるめられたが、別に浅羽の話をするのはあの時でなくともよかったのではと思える。
そして、物資調達に行った市街で件の古泉一樹に襲われることとなった。
これはボディーガードとしてついて来てくれていた美琴のおかげで事なきを得た……らしい。
戻ってきた美琴がものすごく怒っていたが、とりあえず怪我などがなかったのは置いていった身としてはほっとするところだ。
そう。彼女を置いていった。これも部長のせい。
超能力者同士の戦いになんて参加できないのは同意するところだけど、考えれば別の方法もあったんじゃないかと思える。
それは部長の狙いが戦場からの避難ではなく単独行動をすることにあったからだ。
部長は最初から浅羽を探しに行くつもりだったらしい。
よく考えたら美琴に荷物を預ける必要はなくて、そこで気づくべきだったろう。もっとも、気づいたからどうだという話だが。
2人きりになったところで部長は選択を要求してきた。ついてくるか、それともついてこないのか。
色々な理由が複雑に絡み合っていたけれど、要は勇気の問題だったのだと思う。
浅羽にもう一度会えたとして、何をどう言えるのか、どんな顔ができるのか。部長はそれを見抜いていたんだろう。
結局、ついてはいけない――そう部長に判断されてしまった。ほっとしたけど、逆に辛くもあった。
発端はやはり部長こと水前寺邦博のせいであると言えるだろう。比率で言えば、ほぼ100%部長が悪い。
まず、神社に残るはずだった自分を無理矢理連れ出した。
その時は納得というか、言いくるめられたが、別に浅羽の話をするのはあの時でなくともよかったのではと思える。
そして、物資調達に行った市街で件の古泉一樹に襲われることとなった。
これはボディーガードとしてついて来てくれていた美琴のおかげで事なきを得た……らしい。
戻ってきた美琴がものすごく怒っていたが、とりあえず怪我などがなかったのは置いていった身としてはほっとするところだ。
そう。彼女を置いていった。これも部長のせい。
超能力者同士の戦いになんて参加できないのは同意するところだけど、考えれば別の方法もあったんじゃないかと思える。
それは部長の狙いが戦場からの避難ではなく単独行動をすることにあったからだ。
部長は最初から浅羽を探しに行くつもりだったらしい。
よく考えたら美琴に荷物を預ける必要はなくて、そこで気づくべきだったろう。もっとも、気づいたからどうだという話だが。
2人きりになったところで部長は選択を要求してきた。ついてくるか、それともついてこないのか。
色々な理由が複雑に絡み合っていたけれど、要は勇気の問題だったのだと思う。
浅羽にもう一度会えたとして、何をどう言えるのか、どんな顔ができるのか。部長はそれを見抜いていたんだろう。
結局、ついてはいけない――そう部長に判断されてしまった。ほっとしたけど、逆に辛くもあった。
そこから展開は加速し、現状へと辿りつく。
ひとり戻るために車を降りたというところで、二人の男性が現れた。
片方は優しい感じ。学ランの高校生、坂井悠二。もう片方は少し怖い感じ。ブレザーの高校生、名前は……キョン?
二人は話を聞いていたらしく、部長に北東へと向かうことを止めるように言った。なんでもとても危険らしい。
その時耳に届いたのは部長の小さな舌打ち。
前言撤回しなくてはならないだろう。部長は最初から浅羽をすぐに助けにいかねばならないと考えていたのだ。
結局、学ランの悠二の方が部長についてゆくことになった。
そしてキョンという方が神社へと同行してくれることになる。少し心細かったが、そう思う間も僅かに更に急展開。
ひとり戻るために車を降りたというところで、二人の男性が現れた。
片方は優しい感じ。学ランの高校生、坂井悠二。もう片方は少し怖い感じ。ブレザーの高校生、名前は……キョン?
二人は話を聞いていたらしく、部長に北東へと向かうことを止めるように言った。なんでもとても危険らしい。
その時耳に届いたのは部長の小さな舌打ち。
前言撤回しなくてはならないだろう。部長は最初から浅羽をすぐに助けにいかねばならないと考えていたのだ。
結局、学ランの悠二の方が部長についてゆくことになった。
そしてキョンという方が神社へと同行してくれることになる。少し心細かったが、そう思う間も僅かに更に急展開。
「悠二はどこにいるの。話しなさい」
呆気に取られるというか見惚れること数瞬。目の前に美少女。誇張なくそうだと言える小さな女の子が現れた。
美琴も一緒に出てきて、聞けば古泉との戦いの中で助太刀をしてもらったとか。
そして、ヴィルヘルミナが言っていた《炎髪灼眼の討ち手》とやらが、彼女であったらしい。
どことなく大河を連想させる彼女は同じ《物語》の登場人物である坂井悠二がどこにいるのかと喰いついてきた。
美琴も一緒に出てきて、聞けば古泉との戦いの中で助太刀をしてもらったとか。
そして、ヴィルヘルミナが言っていた《炎髪灼眼の討ち手》とやらが、彼女であったらしい。
どことなく大河を連想させる彼女は同じ《物語》の登場人物である坂井悠二がどこにいるのかと喰いついてきた。
「そうだ。そういえば、あいつ携帯持ってたじゃないか!」
悠二がもうここにいないと知ってシャナが走り出そうとした時、キョンがそんなことを言った。
だったら、話は簡単。一緒に行った部長も安心だ。
……と思いきやそうはならなかった。肝心の携帯の番号を聞いてなかったのである。
だったら、話は簡単。一緒に行った部長も安心だ。
……と思いきやそうはならなかった。肝心の携帯の番号を聞いてなかったのである。
「でも、電話するってのはいいじゃない」
キョンを使えないと罵倒するシャナの隣で美琴がポンと手を打う。
そもそも神社から出てくるにあたって途中経過を報告するということを失念していたのがアレと言えるが、そうすることになった。
4人で目の前のコンビニに入り、美琴からその役を押し付けられ、今こうして以上のことを報告しているというわけである。
電話番号は誰も控えてなかったけど、この街に神社はひとつしかないらしく、電話帳の中にそれらしいのはすぐに見つかった。
そもそも神社から出てくるにあたって途中経過を報告するということを失念していたのがアレと言えるが、そうすることになった。
4人で目の前のコンビニに入り、美琴からその役を押し付けられ、今こうして以上のことを報告しているというわけである。
電話番号は誰も控えてなかったけど、この街に神社はひとつしかないらしく、電話帳の中にそれらしいのはすぐに見つかった。
そして、以上にて報告は終わり。
”炎髪灼眼の討ち手”に電話を代わるよう言われて、ようやく私はこの大任から解放されることとなったのだ。
”炎髪灼眼の討ち手”に電話を代わるよう言われて、ようやく私はこの大任から解放されることとなったのだ。
【5】
「いかに合理的な理由があろうとも和を乱す行為は許されるものではないのであります」
「独断専行」
「独断専行」
不意にかかってきた電話により、晶穂から事の顛末を報告されたヴィルヘルミナは水前寺の行動に対し論外だと断じた。
頭に頂くヘッドドレスの形をした相棒であるティアマトーも同意であり、表情に出さぬ代わりに受話器をミシと握る。
頭に頂くヘッドドレスの形をした相棒であるティアマトーも同意であり、表情に出さぬ代わりに受話器をミシと握る。
電話を”彼女”に変わってもらうよう要請し、その間に現状を頭の中で素早く整理する。
古泉と遭遇するも行方を消失。相手側の損耗の程度については、実際に戦った者から聴取する必要がある。
水前寺は独断にて北東方面に移動。普通の人間にとっては貴重な移動手段である車両を持っていってしまっている。
加えてそこに坂井悠二が同行しているという。どちらも重要でありながら別の感情もあるという……難しいところだ。
そして、電話口の向こうには須藤晶穂と御坂美琴。”彼女”とキョンという人物がいるとのこと。
”彼女”については考えるまでもない。何を置いてもまずは合流すべき、論議にアラストールが加わると心強いというのもある。
キョンという人物についても重要人物として扱う必要があるだろう。
あの古泉一樹と涼宮ハルヒと《物語》を同じくとし、それらについて事情を知っているという。貴重な情報源だ。
水前寺は独断にて北東方面に移動。普通の人間にとっては貴重な移動手段である車両を持っていってしまっている。
加えてそこに坂井悠二が同行しているという。どちらも重要でありながら別の感情もあるという……難しいところだ。
そして、電話口の向こうには須藤晶穂と御坂美琴。”彼女”とキョンという人物がいるとのこと。
”彼女”については考えるまでもない。何を置いてもまずは合流すべき、論議にアラストールが加わると心強いというのもある。
キョンという人物についても重要人物として扱う必要があるだろう。
あの古泉一樹と涼宮ハルヒと《物語》を同じくとし、それらについて事情を知っているという。貴重な情報源だ。
「……ヴィルヘルミナ?」
不意に”彼女”の声が耳を触り、ヴィルヘルミナはびくりと身体を振るわせた。
「大丈夫でありますか?」
「報告要請」
「うん。私は全然平気。ヴィルヘルミナは?」
「こちらも一切の問題は生じてないのであります」
「湛然無極」
「報告要請」
「うん。私は全然平気。ヴィルヘルミナは?」
「こちらも一切の問題は生じてないのであります」
「湛然無極」
互いの無事を確かめ合いヴィルヘルミナはほっと胸を撫で下ろす。
万が一などとは考えていなかったが、事態が事態だけにそうだと確かめられたのは嬉しいことだ。
万が一などとは考えていなかったが、事態が事態だけにそうだと確かめられたのは嬉しいことだ。
「《万条の仕手》よ。確認したいことがあるがかまわないか?」
受話器からシャナとは別の厳しい音声が伝わってくる。誰と問う必要はない。聞きなれた声はアラストールのものであった。
「なんでありましょうか。こちらからも確認したいことがありますれば、手短に済ませたいのであります」
「うむ。では単刀直入に問おう。”狩人・フリアグネ”の存在についてだ」
「うむ。では単刀直入に問おう。”狩人・フリアグネ”の存在についてだ」
その名前を聞いてヴィルヘルミナの表情がより真剣みを増したものに変わった。
紅世の王の一人である狩人・フリアグネ。それだけでも重要な案件ではったが、今はそれだけではない。
彼がすでに討滅されているという事実がそれで、それを成したのが電話の向こうの彼女らなのである。
紅世の王の一人である狩人・フリアグネ。それだけでも重要な案件ではったが、今はそれだけではない。
彼がすでに討滅されているという事実がそれで、それを成したのが電話の向こうの彼女らなのである。
「あれが存在すると坂井悠二――正確にはあやつと同行していたキョンという少年から聞き及んでいる。
なにやら人間を手下として活動しているとのことだ。燐子にしても弱いものながら生み出しているとも聞いている」
「そうでありますか」
「そして、須藤晶穂という少女から万条の仕手がすでに行き会っていると聞いた」
「正しい情報であります。確かにあの紅世の王と相対したのであります」
「”本物”であったか?」
なにやら人間を手下として活動しているとのことだ。燐子にしても弱いものながら生み出しているとも聞いている」
「そうでありますか」
「そして、須藤晶穂という少女から万条の仕手がすでに行き会っていると聞いた」
「正しい情報であります。確かにあの紅世の王と相対したのであります」
「”本物”であったか?」
アラストールは問う。それはそうだろう。
討滅したはずの相手なのである。人間で言えば死んだということだ。それが蘇ってくるなどとは尋常な事態ではない。
討滅したはずの相手なのである。人間で言えば死んだということだ。それが蘇ってくるなどとは尋常な事態ではない。
「少なくとも、”紅世の王”であることは間違いないかと」
「何か含みを持った言い方だな」
「知者である《禁書目録(インデックス)》によれば、”複製”の可能性もありうると。死者蘇生よりかはあり得る話なのであります」
「なるほどな……しかしこちらでは別の可能性が持ち上げられたぞ」
「何でありましょうか?」
「時間跳躍を可能とするものによる仕業ではないかというものだ」
「何か含みを持った言い方だな」
「知者である《禁書目録(インデックス)》によれば、”複製”の可能性もありうると。死者蘇生よりかはあり得る話なのであります」
「なるほどな……しかしこちらでは別の可能性が持ち上げられたぞ」
「何でありましょうか?」
「時間跳躍を可能とするものによる仕業ではないかというものだ」
ヴィルヘルミナの口から空白が零れた。言葉を失うとはこういうことかと、それぐらいに荒唐無稽な話であった。
封絶などを用いれば一時的に因果律を断ち切ることは可能だが、この場合はそのような程度の話ではない。
封絶などを用いれば一時的に因果律を断ち切ることは可能だが、この場合はそのような程度の話ではない。
「俄かには納得しかねる童の空想が如き妄言なのであります」
「もっともだ。しかし彼が嘘をついているという風もない。
そして、そちら側で捜索対象となっている涼宮ハルヒなる少女だが、彼に言わせれば《万物の創造主》であるらしいぞ」
「それは……確かにそうであれば、”全員が救われる方法”と言うのもありえるでしょうが……」
「ふむ。それもどうやら一筋縄ではいかないらしいがな」
「つまり、その”式”を発動させる”条件”が必要なのでありましょうか?」
「もっともだ。しかし彼が嘘をついているという風もない。
そして、そちら側で捜索対象となっている涼宮ハルヒなる少女だが、彼に言わせれば《万物の創造主》であるらしいぞ」
「それは……確かにそうであれば、”全員が救われる方法”と言うのもありえるでしょうが……」
「ふむ。それもどうやら一筋縄ではいかないらしいがな」
「つまり、その”式”を発動させる”条件”が必要なのでありましょうか?」
自らが所属する世界とまた別の世界があるならば、自分達の《物語》以上に途轍もないものがあってもおかしくない。
とりあえずはそう納得してヴィルヘルミナは思考する。
須藤晶穂からは御坂美琴の世界が、御坂美琴からは自分の世界が”ありえない”のである。
ここで自分だけ首を振るわけにもいかない。
とりあえずはそう納得してヴィルヘルミナは思考する。
須藤晶穂からは御坂美琴の世界が、御坂美琴からは自分の世界が”ありえない”のである。
ここで自分だけ首を振るわけにもいかない。
「詳細についてはまた合流後に話そう。
そちらの事情も把握したいところであるし、何よりこちらも件の少年から全てを聞いたわけでもない」
「確かに。《世界の壁》などの問題も現在調査中なのであります。
こちらは正午に合流。材料を持ち寄り考察を行う予定であったのであります。ですから――」
「うむ。我々も参加させてもらおう」
そちらの事情も把握したいところであるし、何よりこちらも件の少年から全てを聞いたわけでもない」
「確かに。《世界の壁》などの問題も現在調査中なのであります。
こちらは正午に合流。材料を持ち寄り考察を行う予定であったのであります。ですから――」
「うむ。我々も参加させてもらおう」
そして最後にシャナの声を聞いてヴィルヘルミナは受話器を置いた。
話の重さとこの先また議論が混沌とするだろうことに、知らずと小さな息が零れる。
話の重さとこの先また議論が混沌とするだろうことに、知らずと小さな息が零れる。
「情報過多」
「《物語》同士が合わさればそれも必然でありましょう。そして――」
「《物語》同士が合わさればそれも必然でありましょう。そして――」
まだ、解決せなければいけない問題はあると、ヴィルヘルミナは廊下を辿り美波らが待つ部屋へと戻った。
【6】
長い長い夜が明けてより、ようやく希望の光が見えてきた俺の物語もまた怪しい雲行きとなってきた。
ジェットコースターに例えるなら、晩から夜明けまでが最初の急降下で、坂井と会った頃がゆるやかな昇り。
でもって今は目の前にきついカーブが見えてきたというところだ。まだまだ流されるだけの展開は終わらないらしい。
ジェットコースターに例えるなら、晩から夜明けまでが最初の急降下で、坂井と会った頃がゆるやかな昇り。
でもって今は目の前にきついカーブが見えてきたというところだ。まだまだ流されるだけの展開は終わらないらしい。
なんてことを考えながら俺ことキョン(誰かと出会うたびに同じ説明をしている)はコンビニで紙パックのジュースを飲んでいた。
やはり食事を採るなら味のあるものがいい。
そんなことを正直に思い、不貞腐れて粗末なカンパンで腹を満たした朝方の自分を叱責しに行きたいとも思った。
まぁ、我ながら調子のいいことだが、これでは話が進まないのでつらつらと現状について考えてみよう。
やはり食事を採るなら味のあるものがいい。
そんなことを正直に思い、不貞腐れて粗末なカンパンで腹を満たした朝方の自分を叱責しに行きたいとも思った。
まぁ、我ながら調子のいいことだが、これでは話が進まないのでつらつらと現状について考えてみよう。
まずは現在地(ここ)。なんの変哲もないコンビニだ。
電話を借りる為に入ったというわけだが、みっともないことにその目的である坂井の電話番号がないときた。
あの時の女子3人の俺を見る目はしばらく忘れられないかもしれない。
電話を借りる為に入ったというわけだが、みっともないことにその目的である坂井の電話番号がないときた。
あの時の女子3人の俺を見る目はしばらく忘れられないかもしれない。
その女子3人だが、これが我がSOS団に所属する彼女らにも引けをとらない美貌と肩書きの持ち主である。
須藤晶穂。よくも悪くも平凡な子である。部長に引っ張りまわされているという点では共感を抱かないでもない。
どこの世界でも割を食うのは普通の人間なんだと、それを再確認することになった。
御坂美琴。あの古泉と同じく超能力者である。しかも電撃を放つといういかにもかつ実用的な能力の持ち主だった。
今時ルーズソックスなんてのはどうかと思うが、まぁつっこむことはすまい。藪を突付いて感電なんてのは洒落にならない。
炎髪灼眼の討ち手・シャナ。フレイムヘイズという世界の裏側から来る異世界の敵と戦う戦士だそうだ。
しかも3人の中でもとびっきりの美少女ときており、首から提げたペンダントは魔法少女の定番よろしく口をきく。
今ここでどいつが一番漫画っぽいかと問われれば俺は遠慮なく彼女を指差すだろう。
須藤晶穂。よくも悪くも平凡な子である。部長に引っ張りまわされているという点では共感を抱かないでもない。
どこの世界でも割を食うのは普通の人間なんだと、それを再確認することになった。
御坂美琴。あの古泉と同じく超能力者である。しかも電撃を放つといういかにもかつ実用的な能力の持ち主だった。
今時ルーズソックスなんてのはどうかと思うが、まぁつっこむことはすまい。藪を突付いて感電なんてのは洒落にならない。
炎髪灼眼の討ち手・シャナ。フレイムヘイズという世界の裏側から来る異世界の敵と戦う戦士だそうだ。
しかも3人の中でもとびっきりの美少女ときており、首から提げたペンダントは魔法少女の定番よろしく口をきく。
今ここでどいつが一番漫画っぽいかと問われれば俺は遠慮なく彼女を指差すだろう。
今は、その3人の中でももっとも常識に通じていそうな須藤が仲間の待つ神社へと電話をしている。
もちろん、常識という点では俺も引けをとるつもりはないが、あいにくと神社には知り合いがいないのでその役目はこなせない。
代わりといっちゃなんだが、目の前に美少女二人と喋るペンダントに迫られての尋問中である。
もちろん、常識という点では俺も引けをとるつもりはないが、あいにくと神社には知り合いがいないのでその役目はこなせない。
代わりといっちゃなんだが、目の前に美少女二人と喋るペンダントに迫られての尋問中である。
いかついオッサン声で喋るペンダントはともかくとして美少女に迫られるというのは決して悪くはない。
しかしどうして俺がこう憂鬱な気持ちでいるかというと、その尋問の内容にあった。
古泉一樹。
あの一年中変わらない微笑を浮かべている美男子はここでも相変わらずで、最悪なことに人を殺しまわっているらしい。
とは言え、高須竜児というのは別の誰かが殺して、御坂に関しては未遂に終わったらしいのでまだ前科はないようだが、
しかし今もどこかで、またはこれまでのどこか預かり知れぬ所で犯行を行っていた可能性は否定できない。
全くなにをやっているんだと、今すぐにでも探し出し、襟首掴んで問い詰めたいところだ。
しかしどうして俺がこう憂鬱な気持ちでいるかというと、その尋問の内容にあった。
古泉一樹。
あの一年中変わらない微笑を浮かべている美男子はここでも相変わらずで、最悪なことに人を殺しまわっているらしい。
とは言え、高須竜児というのは別の誰かが殺して、御坂に関しては未遂に終わったらしいのでまだ前科はないようだが、
しかし今もどこかで、またはこれまでのどこか預かり知れぬ所で犯行を行っていた可能性は否定できない。
全くなにをやっているんだと、今すぐにでも探し出し、襟首掴んで問い詰めたいところだ。
しかし、あいつが何を狙ってそんな非人道な行為に手を染めているのか、俺には大体予想がついていた。
そもそも、(俺が知る範囲に限定すればだが)あいつはそんな殺人なんてことが簡単にできる奴じゃ決してない。
買いかぶりと言われようが、身内贔屓と言われようが、俺はそれを断言できる。
ならなんであいつがそんなことをしているかと言うと――涼宮ハルヒの為であり、ひいては平穏な日常の為なのだろう。
そもそも、(俺が知る範囲に限定すればだが)あいつはそんな殺人なんてことが簡単にできる奴じゃ決してない。
買いかぶりと言われようが、身内贔屓と言われようが、俺はそれを断言できる。
ならなんであいつがそんなことをしているかと言うと――涼宮ハルヒの為であり、ひいては平穏な日常の為なのだろう。
ハルヒの持つ力についてはその理屈はなにもわかっていない。
ただ、願望したことがその時々の程度に差はあれ実現してしまうという事実だけがわかっているだけだ。
俺たちにできることは、ハルヒが無茶な願いを持たないようにその周りを右往左往するぐらいで、
その中でも古泉はそれに一番熱心なやつだったと思う。さすがは副団長といったところだろう。今更ながらに納得だ。
ただ、願望したことがその時々の程度に差はあれ実現してしまうという事実だけがわかっているだけだ。
俺たちにできることは、ハルヒが無茶な願いを持たないようにその周りを右往左往するぐらいで、
その中でも古泉はそれに一番熱心なやつだったと思う。さすがは副団長といったところだろう。今更ながらに納得だ。
そして、一番ご機嫌取りのうまかったあいつ(というかあいつの超能力もそもそもはそのためのものらしい)が、
どうしてハルヒが聞けばブチ切れそうなことをしているかと言うと、そのまんまハルヒをブチ切れさせたいのだろう。
どんな形であれ、ハルヒが「こんなのはなし!」って、そう思えばいいとそういう算段に違いない。
神人が現れてこの世界の端とやらをブチ壊してもいいし、この世界が崩壊しても、別の世界が新しく誕生してもいいわけだ。
どうしてハルヒが聞けばブチ切れそうなことをしているかと言うと、そのまんまハルヒをブチ切れさせたいのだろう。
どんな形であれ、ハルヒが「こんなのはなし!」って、そう思えばいいとそういう算段に違いない。
神人が現れてこの世界の端とやらをブチ壊してもいいし、この世界が崩壊しても、別の世界が新しく誕生してもいいわけだ。
と、そんなことを俺は聞かれるまま、吐き出したいままに目の前の美少女らに話した。
よほど突拍子もなく聞こえたのだろう。二人の目は懐疑的でやや引き気味である。悪かったな、俺が一番漫画っぽいよ。
しかしそれでも目のないペンダント(アラストールという名前らしい)は、俺の話を冷静に聞いてくれた。
声の通りに長生きしているのだろう。年配の男性の頼りがいというのをひしと感じるところだったね。
よほど突拍子もなく聞こえたのだろう。二人の目は懐疑的でやや引き気味である。悪かったな、俺が一番漫画っぽいよ。
しかしそれでも目のないペンダント(アラストールという名前らしい)は、俺の話を冷静に聞いてくれた。
声の通りに長生きしているのだろう。年配の男性の頼りがいというのをひしと感じるところだったね。
ほっとした俺は更にあれこれを聞かれるままに答えた。
朝比奈みくるや長門有希。朝倉涼子など、名簿に載っていた知り合いについて洗いざらいに喋ってしまう。
もちろん、朝比奈さんの胸元に星型のほくろがあるだとかそんなことは話さない。
言うまでもなく聞かれなかったが、一応俺自身の面子を保つ為にそれだけはここで言わせてもらおう。
朝比奈みくるや長門有希。朝倉涼子など、名簿に載っていた知り合いについて洗いざらいに喋ってしまう。
もちろん、朝比奈さんの胸元に星型のほくろがあるだとかそんなことは話さない。
言うまでもなく聞かれなかったが、一応俺自身の面子を保つ為にそれだけはここで言わせてもらおう。
ここらへんで、須藤が電話から帰ってきて今度はシャナが電話口へと走っていった。
なんでも神社で待っているメイドさん(少し難解な名前だった)が彼女の仲間らしい。
電話口とは言え、仲間と声を交し合い互いの無事を確認できるなんて、全く羨ましいことだ。
なんでも神社で待っているメイドさん(少し難解な名前だった)が彼女の仲間らしい。
電話口とは言え、仲間と声を交し合い互いの無事を確認できるなんて、全く羨ましいことだ。
そう。俺の知りあいであるハルヒや朝比奈さん。古泉は勿論、朝倉にしてもその神社にはいなかった。
出会ったり話を聞いたという者すらいなかったらしく、古泉のせいもあって俺たち一派は謎の存在として見られていたらしい。
逆に言えば、神社に集まった8人とその関係者で名簿の大半は埋まったということになる。
なんでも別世界や異世界人というはみんなお互い様で、とりあえずはそれぞれを《物語》という単位で括っているらしい。
出会ったり話を聞いたという者すらいなかったらしく、古泉のせいもあって俺たち一派は謎の存在として見られていたらしい。
逆に言えば、神社に集まった8人とその関係者で名簿の大半は埋まったということになる。
なんでも別世界や異世界人というはみんなお互い様で、とりあえずはそれぞれを《物語》という単位で括っているらしい。
須藤が鞄から取り出した名簿とメモを見て、こいつはすごいと唸った。(ちなみに御坂はメモを取っていなかったらしい)
さすがは新聞部に所属しているからなのか情報を聞き出してまとめる力には長けているようだ。
ここにハルヒがいればきっとスカウトしていたことだろう。
もっとも、あの水前寺という部長と大喧嘩になることが簡単に想像できるので、実現してほしいとは思わないが。
さすがは新聞部に所属しているからなのか情報を聞き出してまとめる力には長けているようだ。
ここにハルヒがいればきっとスカウトしていたことだろう。
もっとも、あの水前寺という部長と大喧嘩になることが簡単に想像できるので、実現してほしいとは思わないが。
そうこう思っているうちに、俺とシャナがこれまでに出会った人、聞いた名前を埋めることで名簿はほぼ完成した。
すでに放送で名前を呼ばれたやつを除けば所属の解らないのは8人で、名簿に載ってないのは3人となる。
このうちの数人が”忍者の物語”に所属するようだが、言われれば確かにそれっぽい名前がいくつかあるとわかるな。
すでに放送で名前を呼ばれたやつを除けば所属の解らないのは8人で、名簿に載ってないのは3人となる。
このうちの数人が”忍者の物語”に所属するようだが、言われれば確かにそれっぽい名前がいくつかあるとわかるな。
さて、虜囚の捕虜よろしく情報を垂れ流すばかりだった俺だがそろそろいいところを見せなくてはなるまい。
言ってる間にシャナも帰ってきて、3人の美少女に揃って期待の”こもってない”視線を向けられるがそれも今のうちだ。
言ってる間にシャナも帰ってきて、3人の美少女に揃って期待の”こもってない”視線を向けられるがそれも今のうちだ。
「坂井悠二と連絡を取る方法を思いついたぞ」
そう発言する。勿論、冗談なんかじゃない。手順は踏むが正真正銘あの携帯電話に電話をかける方法だ。
坂井は俺と出会った時にこんなことを言っていた。警察署から変な電話が携帯にかかってきた、と。
だからあいつは警察署に向かっていたわけで、水前寺と一緒に行く時も一応とその用件を俺に託したわけだ。
ここでポイントとなるのは、警察署から坂井の携帯に電話がかけられたという事実が確定しているというところ。
勿体つけるな? ごもっとも、俺は古泉じゃないからな、すっぱりと解答を披露しよう。
坂井は俺と出会った時にこんなことを言っていた。警察署から変な電話が携帯にかかってきた、と。
だからあいつは警察署に向かっていたわけで、水前寺と一緒に行く時も一応とその用件を俺に託したわけだ。
ここでポイントとなるのは、警察署から坂井の携帯に電話がかけられたという事実が確定しているというところ。
勿体つけるな? ごもっとも、俺は古泉じゃないからな、すっぱりと解答を披露しよう。
警察署の電話に携帯へとかけた発信履歴が残っている。
つまり、警察署まで行ってその怪しい人物が使った電話を見つけて発信履歴を確認すればいい。
そうすればそこから先はいつでも坂井の持っている携帯へと電話をかけられる。
つまり、警察署まで行ってその怪しい人物が使った電話を見つけて発信履歴を確認すればいい。
そうすればそこから先はいつでも坂井の持っている携帯へと電話をかけられる。
「じゃあ、警察署に行く」
メロンパンをほうばっていたシャナが発条のように飛び上がってズンズンと出口である自動ドアの方に向かってゆく。
止める間もないとはこういうことか、ドアを潜るとまさに風と形容すべき速度で行ってしまい――そしてすぐに帰ってきた。
止める間もないとはこういうことか、ドアを潜るとまさに風と形容すべき速度で行ってしまい――そしてすぐに帰ってきた。
「……発信履歴って何?」
少しだけこの魔法少女に勝った気がした。だからどうだという話だが。子供相手だし大人気ないこと甚だしい。
まぁ、ともかくとして一つの懸念事項として警察署には謎の、しかも物騒そうな女がいるかもしれないのだ。
ならば考えなしに飛び込むのも迂闊がすぎるものだろう。
まぁ、ともかくとして一つの懸念事項として警察署には謎の、しかも物騒そうな女がいるかもしれないのだ。
ならば考えなしに飛び込むのも迂闊がすぎるものだろう。
「それもそうだけど、キョンは何か索敵の自在法でも使えるの?」
自在法というのは所謂魔法らしい。原理の説明を繰り返したりはしないが、とりあえず俺にはそんな力はない。
こちとら立派な一般人代表。フレイムなんとかのそれは今は使えないらしいが、それ以上をこっちに期待するのは間違いだろう。
なのでこちらは文明の利器を使用する。目には目を、歯には歯を、電話には電話だ。
とりあえず、警察署に電話をかけて、怪しい奴が出たら対策を練る。そうでないなら慎重に行く。ずば抜けた名案と言えるねこれは。
こちとら立派な一般人代表。フレイムなんとかのそれは今は使えないらしいが、それ以上をこっちに期待するのは間違いだろう。
なのでこちらは文明の利器を使用する。目には目を、歯には歯を、電話には電話だ。
とりあえず、警察署に電話をかけて、怪しい奴が出たら対策を練る。そうでないなら慎重に行く。ずば抜けた名案と言えるねこれは。
警察署の番号ならわざわざ電話帳を捲る必要もない、おなじみのたった3桁。
1・1・0とボタンを押して俺は何が出てくるのかと待ってみる。
トゥルル……トゥルル……と、耳元で繰り返されること20回ほど、そろそろ見切りをつけようかというところで誰かが電話をとった。
1・1・0とボタンを押して俺は何が出てくるのかと待ってみる。
トゥルル……トゥルル……と、耳元で繰り返されること20回ほど、そろそろ見切りをつけようかというところで誰かが電話をとった。
『もしもし、どなたでしょうか?
あなたが意を持ってかけてきたのだとすれば、僕は期待通りの相手ではないかと思いますが』
あなたが意を持ってかけてきたのだとすれば、僕は期待通りの相手ではないかと思いますが』
電話口の向こう。いつどこでも変わらぬキザったらしいその口調。勘違いするわけがない。それは間違いなく、
古泉一樹の声だった。