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糸語(意図騙)

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糸語(意図騙) ◆LxH6hCs9JU



 【0】


 童を両の肩に乗せりて、櫓を行かん。
 糸舞い意図散る、二者一者の判別不能。
 これぞ甲賀流忍法――肩車《かたぐるま》也。


 ◇ ◇ ◇


 【1】


 甲賀卍谷衆がひとり、如月左衛門
 曲絃師にしてジグザグ、紫木一姫

 行くは肩車。
 向かうは南。

 街を離れ海へ。
 温泉地を離れ自然の泉へ。
 アスファルトを離れ泥土ある地面へ。

 すべては変顔の忍法を見せんとする為。
 なぜ、変顔の忍法を見せんとするのか?
 それはそれ、理由と呼べるもの四つ有。

 一つ!
 甲賀卍谷衆が頭領、甲賀弦之介の首を奪還したがため。
 弦之介の死を隠蔽し、自身が弦之介に成り代わり甲賀を率いる。
 これは、後に控える忍法殺戮合戦、その終極を乗り切るに必要なこと。

 二つ!
 甲賀流忍法、肩車《かたぐるま》の安定性を高めんとするため。
 女である櫛枝実乃梨の姿のままでは、当然のごとくその肩幅も狭いまま。
 肩に乗せる紫木一姫は小柄でこそあったが、やはり男の肩であったほうが安定する。

 三つ!
 女の姿でいるのはやはり疲れる。
 如月左衛門は男であるがゆえに。

 四つ!
 同盟を組んだ紫木一姫に、変顔の忍法を見せつけるのも一興。
 忍法を秘すは忍者の鉄則なれど半分ほどは既に露見している。
 ならば半端に秘すよりもその術理を教え評価を得たほうが良し。

 さてさて、この忍者と少女の奇っ怪なる同盟。いつまで続くやら?
 互いが互いに、意図を騙り意図を秘す。
 意図は糸のようには交差せず、しかし正面衝突とまではいかず。
 糸《ライン》を見極め緊張を保つ、至難。
 どちらかがぐうの音をあげるか、どちらかが先にお陀仏となるか。
 忍者か少女か? 左衛門か、一姫か?
 いやいや案外長く連れ合うとも限らぬ、先の見えぬ二人也。――


 ◇ ◇ ◇


 【2】


 現在位置は、【F-3】。海と、『黒い壁』が一望できる町の外れ。
 地面の質が変わり、灰色が土の茶色と草の緑色に変わった。
 ここならば、粘度も申し分ない最高の泥土を練れることだろう。

 到着後、早速の用意を済ませ、自慢の忍法を披露しようとするは、如月左衛門。
 変顔の忍法。読んで字のごとく顔を変える技。変装術を超越したメーキャップ術。
 変わりゆく顔、変わりゆく姿態、変わりゆく性別に、紫木一姫は震撼した様子だ。
 どひぇーっと驚いたと言っても過言ではない。というか実際、どひぇーっと驚いた。

 かくして、《櫛枝実乃梨》の姿をしていた《如月左衛門》は、《甲賀弦之介》へと生まれ変わる!

 憎き怨敵、がうるんとの決着を済ませたいま、もはや後顧の憂いなし。
 今後は甲賀弦之介として生き、主の首も、肌身離さず持ち帰ると誓う。
 一姫にも、おれのことは甲賀弦之介と呼ぶのじゃぞ、と言い聞かせた。

「姫ちゃん、ちょっと残念です。如月左衛門さんの素顔がどんななのか見たかったのに」
「おれの素顔なぞ、見ておもしろいものでもあるまいて」
「でも、どんななのか気になるじゃないですかー」
「ふむ。そうじゃの、しいて言うならば、《印象に残らぬのっぺりした顔》かの」
「えー。なんかつまらなそうな顔じゃないですか、それ」
「言ったはずじゃぞ、一姫。おれの素顔なんぞ、見ておもしろいものでもないとな」

 左衛門の忍法は、一姫に知れた。しかし左衛門の素顔は、未だ一姫には秘されたままだ。
 顔は、櫛枝実乃梨から甲賀弦之介へ。いちいち元の素顔、左衛門の顔に戻す必要はない。

「さて、これがおれの《顔を変える》忍法よ。顔だけでなく、体格もある程度は融通が利く」
「まるでこんにゃく人間みたいですね。ボディのメリハリとかはどうしているんですか?」
「骨をずらし、筋肉を移動させ、それでも上手くいかぬなら詰め物じゃ。ゆえに、おなごの姿は疲れる」
「声まで自由自在だなんて、すごく便利そうですよね。姫ちゃんの声も出せますか?」
「応。《それくらい朝飯前ですよ》……このように少し声を絞れば、ほれ」
「ぞぞー。そっくりだけど、その顔でその声は、そこはかとなく気色悪いです」
「《やれやれ、ひどい娘っ子じゃのう》」

 あえて紫木一姫の声を真似て言った。
 紫木一姫は露骨に嫌そうな顔をした。

「ところで一姫。おれもそなたの忍法に興味がある。《曲絃糸》という名のあれじゃ」
「夜叉猿さんの縄術とやらじゃないですよ? それから忍法とかでもないです。姫ちゃん、忍者じゃなく《ジグザグ》ですから」
「たしかに、あやつめは伊賀猿には違いないが……それはそれとして、その《曲絃糸》とやら」
「はい」
「どのような技か、詳しく聞きたい」
「詳しくって、実際に見たじゃないですか」
「おれが知りたいのは、見ただけではわからぬ部分よ」

 如月左衛門は甲賀弦之介の顔で、にたりと笑った。

「そなたもおれの忍法を知った。ならば、おれもそなたの《曲絃糸》を知るべきじゃろう?」
「……交換条件ってやつですか? 後から見返りを求めるだなんて、アコースティックギター生涯ですね」
「よくわからぬが、おれはそなたの足となることを受諾した。手を組むのに、理解は必要だろうて」
「百里ありますね」
「遠いの」

 様々な意味で。

「まあいいです。でも姫ちゃん、説明は得意なほうじゃないですから。結構時間かかっちゃうかもですよ?」
「構わんさ。話している間に時間も流れよう。ぼちぼち、がうるんの名が呼ばれる時刻じゃ」

 そうして、《曲絃師》紫木一姫は《曲絃糸》について語り始める。
 如月左衛門は一姫の語る内容を知識として吸収していき、改めて目の前の娘の恐ろしさを知る。
 そうこうしている内に時刻は正午、狐面による二回目の放送へ。
 さてさて次なる放送、狐さんの口からはいったい何人の名前が告げられるのか。期待が高まる。


 ◇ ◇ ◇


 【3】


「あっ、死におった」

 狐さんによる放送。呼ばれた名は十一。
 その中にはもちろん、がうるんの名前も入っていた。
 が、しかし左衛門に衝撃を与えたのは、他の二つの名であった!

「朧と、薬師寺天膳が。伊賀を相手取る上で厄介だった二柱が、揃って死におった! 死におったぞ!」

 伊賀の姫君――朧。
 伊賀の重鎮――薬師寺天膳。

 敵方、伊賀の上位二名が、この地で脱落したという朗報だった!
 この死が甲賀と伊賀の忍法合戦、その戦局を左右するは必定!
 左衛門の顔が笑む! 口の端がほころぶ! 笑いが止まらぬ!
 死んだ、死んだ、死んだ――! 死におったぞ、伊賀者めらが!

「これは早速、朧と薬師寺天膳の名に血の線を引かねばならぬなぁ」

 手元に人別帖がないことが悔やまれる。

「……《零崎》」

 如月左衛門が一人、歓喜に浸っていると、一姫は珍妙に唸った。
 紫木一姫は活発な娘だが、今は印象がガラリと変わり、知的にも思える。
 はて、これはどうしたことか――? 左衛門は訝り、笑いを抑えて一姫に問うた。

「どうした、一姫? よもや、読み上げられた名の中にそなたの《師匠》がおったのか?」
「そうじゃないです。けど、ある意味では……厄介な名前が呼ばれちゃったですよ」
「零崎、と呟いたな。となると、《零崎人識》……とは、いったいなにものじゃ?」
「同姓同名とかでなければ、十中八九《零崎一賊》の一員……《殺し名》の《零崎》です」
「ふむ、《零崎》。甲賀と伊賀の手練はだいたい把握しておるが、聞かぬ名じゃの」

 意気消沈の一姫、窺える様相は悲哀というよりも焦燥。
 零崎なる者、いったい何者か? 左衛門は再び問うた。

「《零崎》は《零崎》、《殺し名》の《零崎一賊》に決まってるじゃないですか。
 如月さん、じゃなくて《弦之介さん》。《殺し名》を知らないですか? 《呪い名》は?
 まあ、姫ちゃんも詳しいってわけじゃないですけど……ほとんど萩原さん経由の情報ですし。
 でも弦之介さんほどの人が《殺し名》を知らないって、どういうことなんですか?
 あ、そういえば《玖渚機関》はどうですか? え、知らない? ばっかじゃねーの!」

 どうやら、左衛門と一姫では常識と捉える捉える常識に若干の齟齬がある様子。
 とにもかくにも、《零崎》。とにもかくにも、《殺し名》。とにもかくにも、《零崎一賊》。
 これらのキーワードに興味を惹かれた左衛門は、一姫にさらなる説明を求めた。

 紫木一姫曰く、《殺し名》と呼ばれる集団、七つ有り。

 《匂宮》――序列第一位《殺し屋》。別名《匂宮雑技団》!
 《闇口》――序列第二位《暗殺者》。別名《闇口衆》!
 《零崎》――序列第三位《殺人鬼》。別名《零崎一賊》!
 《薄野》――序列第四位《始末番》。別名《薄野武隊》!
 《墓森》――序列第五位《虐殺師》。別名《墓森司令塔》!
 《天吹》――序列第六位《掃除人》。別名《天吹正規庁》!
 《石凪》――序列第七位《死神》。別名《石凪調査室》!

 非尋常にして異常なる単語の羅列。どれもこれもがおぞましい、肩書きの群集。
 甲賀や伊賀、忍者にも劣らぬ使い手たちの存在を、左衛門は知ることとなった。

「ふうむ。よもや、卍谷の外にそのような者たちがおったとはな」
「実際に相対したことはないですけど、《零崎》なんて最低最悪です。絶対、敵に回すべきじゃないです」
「じゃが、その《零崎人識》も死んだ。恐ろしい相手だということはわかったが、過ぎたことではないか」
「過ぎてません。一人《零崎》がいたってことは、他にも《零崎》がいるかもしれないってことですよ」
「あっ、《名知れず》の十人のことか?」
「はい。この名簿に載ってる師匠じゃないほうの《師匠》とかも、《零崎》だったりするかもしれませんし」
「偽名……か。なるほど、ありえぬ話ではないな」
「他の《殺し名》……特に《匂宮》なんてのが紛れていたとしても最悪ですよね」
「ほう、《匂宮》。《零崎》以外にも、厄介なる使い手はおると?」
「有名所だと、《殺戮奇術の匂宮兄妹》とかしゃれになりません」
「……もしや臆しておるのか、一姫? そやつらは、そなたの《曲絃糸》を持ってしても敵わぬ相手なのか?」
「そんなことはないですよ。けど、姫ちゃんは弦之介さんと違って、自分が無事ならそれで安心ってわけじゃないですから……」

 左衛門は弦之介の姿を保ち、弦之介の首も持ったまま、最後の一人となればそれで良し。
 しかし一姫は、己ではなく彼女が敬愛する師匠の生存を第一に考え、行動を起こしている。
 零崎や匂宮が紛れていたとして、その連中に師匠が害されることを、一姫は危惧している。

「しかし、かような心配は不要やもしれぬぞ?」

 左衛門は言った。

「思い出してみい、一姫。これまで放送で名を呼ばれた、すなわち脱落した《名知れず》どもの名を」

 一姫は口に手を添え考えた。
 左衛門と答え合わせをする。

 一人――《メリッサ・マオ》!
 二人――《北村祐作》!
 三人――《木下秀吉》!
 四人――《土屋康太》!
 五人――《白純里緒》!
 六人――《零崎人識》!

 《名知れず》は、残り四人。

「そしてここに、《名知れず》は二人おる。そう、おれと一姫じゃ。二人とも、人別帖には名が載っておらぬ」

 七人――《如月左衛門》!
 八人――《紫木一姫》!

 《名知れず》は、残り二人。

「いいや、一人じゃ。忘れたか、一姫? そなたは先刻、自分でその名を口にしたではないか」

 そうだ。一姫は既に、残り二人の《名知れず》の内、一人と相対した。
 高須竜児がまもり、叫んだことで名が知れた、ポニーテールの少女。
 あれはなんという名前だったか。確かに名簿には載っていなかった。 
 一姫が殺しそびれた、是が非でも殺しておくべきだった少女の名は。

 九人――《島田》!

「つまり、《名知れず》は残り一人じゃ。《殺し名》がいたとしても一人じゃ。そう構えることはあるまい」

 なんと、如月左衛門は脱落した《名知れず》の数と、一姫の話から、残りの《名知れず》の数を算出してみせたのだ!
 不思議か、否。
 《泥の死仮面遣い》如月左衛門――その本領は、姿を偽り、敵を欺き、隙を突く、頭脳冴えたる策士ぶりにこそあり!

「残る《名知らず》は一人。《零崎》や《匂宮》はたしかに厄介やもしれぬが、いるとは限らぬであろうよ。
 願わくば、最後の一人は伊賀の朱絹あたりであってほしいものじゃが……この場はあやつらを討ち取る好機ゆえ。
 残る伊賀方は朱絹と蛍火と蓑念鬼と雨夜陣五郎の四人。甲賀はおれと霞刑部、室賀豹馬、陽炎の四人。
 おお、鍔隠れとの戦いはもはや勝ったも同然か。いやいや、弦之介さまならここで勝ちを確信したりはするまいよ。
 朧と薬師寺天膳が討たれたとはいえ、数の面で見ればまだまだ互角。それどころか、おれが帰らねば劣勢のままなのだからな」

 くっくっくっくっく――と笑い声を漏らす外面甲賀弦之介、内面如月左衛門。
 一姫は左衛門に問うた。その甲賀やら伊賀やらという単語はなんなのか。
 余人が知らずとも無理はない。甲賀と伊賀の宿縁は闇の世界のことゆえ。
 左衛門は一姫に、甲賀の十人と伊賀の十人が起こす争乱の顛末を話す。
 一姫は考え込む様相を見せ、しかし信じまいとはせず、淫乱すると言った。
 いやはやどうにも性欲盛んな娘よのう。召し物も破廉恥極まりない――と。
 傍から見た二人の姿は、まさしく親子そのもの。肩車をすればなおさらだ。
 誰が片方を変顔の忍者、片方を糸繰りの狂戦士と思うだろうか。思うまい。
 レーダーなる敵の気配を探る箱も合わされば、これはもはや無敵也。――


 ◇ ◇ ◇


 【4】


「それで、これから先はどうしますか?」

 顔を変えるための南下だったわけだが、それも既に完了した。
 さらに南を目指したところで海があるだけ。そちらに用はない。
 そうさのう、と呟いて、左衛門は顎に手をあてながら思案する。

「まず、欲しいものがある。伊賀者の首じゃ」
「首? それは誰か殺したい相手がいるってことですか?」
「さにあらず。おれが欲するは、文字通りの《首》よ。首から上、とも言えようか」
「……あっ、ひょっとして《顔》ってことですか? 伊賀の人たちの」
「さよう。筑摩小四郎は顔が潰れているはずゆえ、役にたたんが……先刻死におった二人は違う」
「朧さんと、薬師寺天膳さんですね」
「片や伊賀の姫君、片や古くから伊賀を支える重鎮じゃ。誰が疑おうものかよ」
「つまり弦之介さんはその二人に化けて、他の伊賀忍者たちを騙し討ちしたいと」
「さすがのおれも朧姫の《瞳》は真似られんでな、できれば薬師寺天膳のほうを見つけたいが」
「弦之介さん――いえ、左衛門さんはやっぱり《策師(サク)》ですねー」

 歩きながら北上する二名、片方の一姫の手には、敵の気配を察知するレーダーなる箱が。
 レーダーに反応が表れないところを見るに、近隣に競争相手は、《まだ》いないようだった。

「ともあれ、おれも少々つかれた。ここいらで、ちと一休みしたいのう」
「えっ、なに言ってるんですか?」

 左衛門が口にしたのは、一姫にとっては思わぬ一言。

「いや、なに。というのも先の放送の結果が、ちと予想外のものであったのでな。
 一回目で十人、二回目で十一人だったか……そう、脱落した者の、死んだ者の数よの。
 これはつまり、半日で二十一人もの人間が脱落したことにほかならん。
 少々どころか、多分に流れが早いと、おれは見る。これでは案外、終わりも早いやもしれん」

 左衛門は歩く。北への歩みを止めず、喋りながら歩く。レーダーに反応は、《まだ》ない。

「おれにはもはや、誰か殺されて困るという者もおらぬのでな。
 他が迅速に潰し合ってくれるというのであれば、まことに重畳。
 いっそこのまま、三日が過ぎるまで隠遁していたとしても構わぬ。
 急いては事を仕損じる……いやはや、楽な戦になるかもしれんなぁ」

 レーダーに反応は、《まだ》ないが――まったくのゼロというわけではなかった。
 レーダーには、反応と言えるものが二つ――二つだけ、示されてはいるのだ。
 それは誰と誰か。答えは明瞭。ここにいる如月左衛門と、紫木一姫のものだ。

「もちろん、それはおれ自身の都合のみを考えた策よ。一箇所に留まっても、伊賀者の首は手に入らんでな。
 まあ、そろそろ身を休めたいという気持ちは嘘ではない。ほれ、あの建物などおあつらえ向きではないか」

 左衛門が足を止め、指を差した先には――《西東診療所》なる一軒の建物が建っていた。
 もっとも、左衛門は《西東診療所》の看板を読めたわけではない。
 なんと、看板は随分と年季が入っていて、擦れて文字が読めなくなってしまっていたのだ。
 もっとも、建物の名称など、二人にとってはどうでもよくはあるが。

「しかしそなたには、休んでいる間に死なれては困る相手が――師匠がおるのだろう?
 足が休んでいては、師匠を守るという命も果たせなかろう。そこはそれ、無理強いはせん。
 おれは紫木一姫の足となることを誓った。この関係をここで崩すは、自ら利を手放すも同義。
 ゆえにおれはそなたの判断に従おうかい。急ぐも休むも、紫木一姫しだいというわけじゃ」

 選択権は、紫木一姫へと託された。

「……寝込みを襲ったりは、してこないですよね? 姫ちゃん、裸を見られたことを忘れたわけではありません」
「そなたが陽炎ほどにいい女であったなら、考えんでもなかったがなあ。幼女では、手篭めにできるとも思えん」

 左衛門と一姫の距離が、わずかばかり離れた。

「…………」
「…………」

 左衛門は言う。

「まあ、その箱があれば焦る必要もないと見るがの。誰ぞが近寄ってくれば抹殺、でもよかろうよ」
「…………」
「重ねて言うが、今ここでそなたを裏切ったとしても、おれに利はない。そこは信用してもらおうかい」
「…………」
「加えて言うなら、おれはいい女が好みでな。そなたはいい女かどうか以前に、容姿が幼すぎる」
「…………」

 汚物を見るような視線が、ひどく痛々しかった。一姫に貞操の危機が迫る。
 いや、しかし。しかしだ。左衛門の提案にも一理あるのではないか。
 なんといっても疲れた。草臥た。この疲労感は誤魔化せない。
 さきの温泉においても、疲労感あっての失敗があった。
 すべからく抹殺すべしと心得ど、眠気はどうにも。
 が、師匠たる戯言遣いのことが気がかりだ。
 忍んでばかりではいられない、一姫の事情。
 者共を皆殺しに、などと謳っている内に殺される。
 きっと後悔するのだろう。後悔に打ちひしがれて、泣く。
 たった一つのかけがえのない命――かけがえのない、存在。
 なくしたくはないし、失いたくもないし、手放したくもない、だから、と。
 いま一度、一姫は思案する。休むか進むか、二つに一つ。狂戦士の選択。



【F-3/診療所前/一日目・日中】


【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲。甲賀弦之介の容姿。
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、
     フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、自分の着物
[道具]:デイパック ×4、支給品一式 ×6、甲賀弦之介の生首、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)、
     SIG SAUER MOSQUITO(9/10)、予備弾倉(SIG SAUER MOSQUITO)×5、
     金属バット 、不明支給品1(確認済み。武器ではない?)、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!、
     櫛枝実乃梨変装セット(とらドラの制服@とらドラ!、カツラ)
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:紫木一姫と同盟。
2:目の前の建物(西東診療所)でしばらく身を休めたい。
3:残る伊賀鍔隠れ衆との争乱を踏まえ、朧か薬師寺天膳の顔を手に入れたい。
4:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
千鳥かなめ、櫛枝実乃梨、紫木一姫の声は確実に真似ることが可能です。
※「二十万ボルトスタンガン」の一応の使い方と効果を理解しました。
 しかしバッテリー切れの問題など細かい問題は理解していない可能性があります。


【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康。疲労感?
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋、レーダー@オリジナル?
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) 、
     裁縫用の糸(大量)@現地調達
[思考・状況]
1:如月左衛門と同盟。
2:しばらくお休みするか、休まず殺しにいくか。
3:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
4:SOS団のメンバーに対しては?
5:如月左衛門に裸を見られたことを忘れたわけではない。最後はきっちりその償いを受けさせる。
[備考]
※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。
※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。
※如月左衛門の忍法、甲賀と伊賀の争いについて話を聞きました。どこまで把握できているかはわかりません。


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前:モザイクカケラ 紫木一姫 次:小憩――(waiting game)

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