ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

小憩――(waiting game)

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小憩――(waiting game) ◆EchanS1zhg



 【0】


――There is no little enemy.


 【1】


刻一刻と物語の終着が近づく、どことも知れない窮屈な世界。
真四角に切り取られたその舞台の南の端。
浜辺よりほど近い場所に、周りの建物よりかは少し大きく、しかし一見してみすぼらしい西東診療所という建物があった。

診療所とは名がついてあっても無論のこと医者はおらず、またろくに設備もない、どこに価値があるのかわからぬ建物。
その正門から玄関。そこを入って板張りの廊下をまっすぐ進み、一番最初のふすまを開くと畳みの敷かれた和室がある。
壁際。それなりに年季を感じさせる柱に背を預け、膝を立てて静かに休んでいる男がいた。

その男の名は甲賀弦之介――と見えるが然に非ず。その名を持つ男はすでに死んでいるが故にそれはありえない。
では何者なのかと言うと、最早語る必要もないが、変顔なる脅威の忍術でその姿を写し取った如月左衛門であった。

男は閉じていた目を静かに開いた。しかしどこを見るようでもなく、どうやら耳と肌とで辺りの気配を探ってる様子。
数秒の後、どこにも異変はないと確かめるとひとつ息を吐き、そして卓袱台の上に置かれたレーダーをちらりと見やった。
そこにも異変は映っておらず。目に入るのは男自身と、同行している紫木一姫の名だけである。
時計は――見ない。もとよりそのような習慣、いやそれどころか時計などとは縁のない世界の住人である。
そしてまた時計など不要な人間でもあった。今時分がどれくらいなのかなど、身体の感覚で充分に計ることができる。

さて先に進む前に解説すれば、レーダーのことにしても確認程度にしか見なかったのは本人に充分な能力があったからだ。
忍の者としてそこは研ぎ澄まされている。故に、気配の届く内のことであればレーダーなどに頼る必要もない。
事実、先の温泉でのできことの中において、彼は一切迷うことなく糸使いの少女を見つけてみせた。
加えて、確かに便利に使用できそうなレーダーという道具であるが、その性能を過信することはできない。
それがなんらかの仕組みである以上、その盲点を突破してくる輩や事柄がないとは限らない。と、そう考えねばならない。
例えば、このレーダーなるものには死者の名前は浮かび上がらない。
とすれば、単純に考えてこのレーダーには死者と生者を区分する何らかが存在するということが推察できる。
ならばその何らかを知ってから知らずか誤魔化している者が存在しないとも断言はできぬのだ。
“生きているのに存在としては死んでいる”――もしそのような者がいれば、レーダーは用をなさないということになる。
そのような出鱈目な者がおるものかと言うても、しかし忍者がいるくらいならもう何がいてもおかしくはないのである。
なればレーダーなる道具はあくまで道具。最も信用すべきは磨き上げた己が感覚と、そう結論付けられる以外にはないのだ。


 【2】


周囲に怪しい気配がないと確認すると、如月左衛門は脇に置いてあったデイバックからペットボトルを取り出し水を口に含んだ。
口内の乾きを癒し、続けてグビと喉を鳴らして水をもう一口、二口と飲み込む。
ほどなくして水は飲み干され、彼の持つペットボトルの中身は空となった。

例えば、ここが草木一本生えぬ荒野の只中であれば、
またはどこぞの城などに忍び込み、補給の当てなく屋根裏を這って諜報活動に勤しんでいるなどという場面であったなら、
持ち運べる器に入った水は至極貴重で、今のように安易に飲み干すことなど愚の骨頂。言語道断であったろう。
が、しかしここはそういった場所ではない。男からすれば些か以上に勝手の分からぬ土地ではあるが、街中なのだ。

空になった器に水を継ぎ足すなぞ造作もない。というわけで、男は立ち上がると奥のふすまを開くと台所へと踏み入った。
これが最新の、例えばIHクッキングヒーターなど電磁調理器具ばかりが並んでいるところであれば、
彼はこの部屋が何かすら理解できなかったやもしれないが、幸いかなこの西東診療所の作りは現代の最新と比べるとかなり古く、
そうであっても男の時代からすれば遥か未来なのではあるが、理解の範疇にぎりぎり留まる有様であった。

男はペットボトル――これも男からすれば実際、奇妙な物だが――を片手に、もう片方の手を流し台の蛇口のつまみに置く。
そしてまじまじとそれを見つめる。
別に使い方については案ずるところはない。先に糸使いの少女が使うのを見ていたのだ。
おそらくどこかで水桶なり井戸なりと繋がっているのだろうと、男はこの水の出る蛇口を理解している。

そう、蛇口。この蛇口。これもまた時の経過により水垢などで汚れてはいるものの、錆びることはなくまだクロムの輝きを保っている。
作りも確かで歪んでいるなどということもない。
このような細い金属の管というと男は鉄砲などを思い浮かべるのであるが、はてしかしこれほどに出来のいい物はあっただろうか。
見聞が浅いだけかも知れぬと思いつつも、男はその疑問に否と答えを出した。

ただの台所。しかも貴族が住まうような屋敷ではなく、町人の、それも取り立てて裕福というわけでもなさそうな家にこれはある。
つまり、これはここでは安価なものであるのだ。なのに、自身の世界の基準と比べると極めて高等な技術が用いられている。
はて、ならばこの事実に男はいかなる感情を持つのか。まずは感心。次に――恐怖である。

もしも、いやそれはもしもなどではなく確実であると言えるが、この技術が武器や戦争に用いられているのだとしたら、
そんな軍隊があるのだとしたら、認めたくはないことだが甲賀卍谷の忍者全員でかかっても敵わないかもしれない。
そのようなものが自分らの知らぬ所に平然として存在したことを知り、自尊心は揺らぎ、かつてない恐怖を感じるのである。
ここまでに幾人かの人間と出会い、言葉も交わした。
彼らはどれも随分と奇異な存在に見えた。考えるまでもなく、あちらからすればこちらも同じく奇異に見えていたことだろう。
はて彼らはどこの国の人間なのだろうか。言葉は通じる。だが話は通じていない部分もあった。
彼らは自分のようにこの街の文化や技術に違和感を覚えていた様子はない。とすれば、恐怖すべき技術を持つ国の者となる。
ならば一度聞いてみようか。貴様らはどこにある国から来たのだ?と。

あの狐面の男が言うに、別々の世界――つまり、彼らが異国に住まう者であることは確実なようだ。
無論。これこのことは今行われている殺し合いとはなんら関係がない。
だが、如月左衛門には殺し合いを生き残った後の目的がある。
本来参加していた殺し合いを甲賀の側の勝利で終わらせ、更には甲賀一族の繁栄に身を捧げそれを成すという目的があるのだ。
となれば、甲賀の里の外に、また日ノ本の外にこのような潜在的脅威が存在するというのは看過できまい。
場合によれば、徳川幕府にこの事実を進言することも考慮せねばなるまい。国破らることあらば、最早忍の生きる道もないのである。

これが、殺し合いの開始より一日の三分の四ほどを過ぎ、
大きな憂いであったガウルンを始末してようやく気の休まった如月左衛門の心中に浮かび上がったひとつの考えであった。
しかしこれはまだ余談にすぎない。

男は蛇口からペットボトルに水を汲み終えると、栓をしてまた元いた部屋へと戻った。


 【3】


まず第一に重要なのはこの殺し合いを生き延びることである。
名簿に名の記されておらぬ者のうち、未だ不明の者がどこの誰とは知れぬゆえ断言はできぬが、
甲賀卍谷に帰れる身は如月左衛門その者ひとり限り。頼れる者、使命を託すことのできる別の者はいないのだ。
となれば、“その後”の話などは今どうこうと考えることではなかろう。それは自分が最後に一人となった後でも遅くはないはずである。

如月左衛門は気持ちを切り替えて現状を分析しなおす。
憎きガウルンめの始末を終えたことで、当座、焦らなくてはならぬようなことはもうなくなった。ゆえに、今はこうして休息もとっている。
心強い味方もできた。紫木一姫という名の“曲絃師”なる糸使いの少女。まだ幼く知恵も足りぬようであったが実力は申し分なし。
むしろ頭の悪さは好都合。己が甲賀弦之介に忠を尽くすように、少女は彼女が師匠と呼ぶ男に忠を尽くしている。
ならば、ことの次第によってはその師匠とやらを手中に収め、ガウルンにされたと同じように少女を意のままに操ることもできるやもしれぬ。
そのような策にどれもどの効果があるのか。それはこの身をもって証明済みであった。
無論。これは大きな恨みを買う方策。ならばするにしてもガウルンのようなあからさまなやり方は真似しないほうがよいだろう。

男は水の入ったペットボトルを仕舞うと、代わりに缶をひとつ取り出した。どうやらこれが乾パンという名の食料らしい。
蓋を開け、中に詰まっているものをひとつ詰まんで目の前に持ち上げる。
挽いた粉を焼き固めたものだとはすぐにわかった。同じものではないが、似たようなものなら方々で見たり食べたりしたことがある。
匂いを嗅いだ後、端っこを少し削り舌の上にのせて毒見をする。
……どうやら毒は入っていない。
そもそも狐面の男が用意したものだと考えれば疑う理由もなかったが、確認すると男はそれを口の中に放り込み咀嚼した。

さて、糸使いの少女の実力については申し分ないが、では逆に己はというとどうなのだろうか。
これはこれまでの手ごたえからするとあまり楽観的には考えていられないというのが正直なところだ。
最後の一人になってみせると決意はしているものの、それが確実だとはとても言えやしない。
ガウルンにしてやられたこともある。糸使いの少女相手にだって、まともにぶつかっていれば勝てたかどうかかなり怪しい。
そして、甲賀弦之介やすでに全滅した伊賀の者共。これらを倒してみせたという者らもここにはいるのだ。

如月左衛門が持つのは忍者としての基本となる体術に変顔の忍術のみ。後は知恵を絞って足りない分を補ってゆくしかない。
さてそうなると困るのが、四半日に一度死者の名を読み上げられてしまうことだ。
これがあるばかりに、死人の顔を奪って己のものとする変顔の忍術が使いにくくてかなわない。
理屈の上では変顔の忍術は相手を殺さなくても使えぬこともないが、しかし難しい。
とはいえ、いくら難しがろうがこれからは殺さずに顔だけ奪うということもいくらか検討せねばならぬだろう。

糸使いの少女は出会う者を片っ端から切り殺しているらしく、またこれからもそうするらしいが、それは多少都合が悪い。
敵が死ぬのは結構なことだが、自らに利するところがなくしては現状は動いていないのと変わらない。
最終的に糸使いの少女を出し抜くためには、所詮アドバンテージというものが必要で、殺しは変顔の忍術とは相性が悪いのだ。
変顔の忍術とはすなわち騙しの術に他ならず、騙す余地がなければその旨みは半減以下である。
先に述べたように死者の名はすぐに知れる。ゆえに、この場において利する顔は生者の顔。“生きた顔”にこそあり。

あの“かなめちゃん”とやらをあえて逃がしたように、うまく言いくるめて“保険”となる“生きた顔”をどこかで得ておくべきだろう。
糸使いの少女と二人、無事に最後まで生き残れたとて、しかし少女に殺されましたでは、ただの阿呆なのだから。


 【4】


さて、もうそろそろ狐面の男が死者の名を読み上げる頃合かと如月左衛門は腰を上げた。
今度は逆の方のふすまを開いて廊下へと出て、その奥から階段を上って二階へと向かう。
あの糸使いの少女は二階の寝室で寝ているはずだ。
なんでも布団の上でないと休めないのだとかなんとか。いやはや戦場では考えられぬ贅沢と浅はかさである。やはり所詮は童か。

階段を上りきり、細い廊下を奥へと進む。少女が寝ている部屋の戸は開け放されたままであった。無用心極まりなく。
実力とは不釣合いな迂闊さに嘆息しつつ、男は少女に声をかけようと廊下より部屋の中を見る。
部屋の手前、鉄の棒で組まれた寝台の上にちょうど少女と同じくらいの大きさの布団の塊があった。
このような有様で、もし奇襲を受けたらどうするのかと、呆れつつも部屋の入り口を潜ろうとして――男はぴたりと動きを止めた。

糸――である。

目を凝らさなくては気づかぬような細い糸が目の前に張られてあったのだ。
総毛立ち、肌が粟立つ。気づかなければどうなっていたのだろうか。鼻の頭を切っただけで済んだであろうか……?
もしかすれば全身を切り刻まれていたかもしれぬ。
どうやら無用心だというのは誤りだったようだ。子供だと舐めていたのは己の方だと如月左衛門は猛省する。

そして、少女は“寝台の下”より姿を現した。なんというか、古典的な方法ではあるが寝台の上の布団の塊は囮だったのである。
子供だまし程度だ。しかしその子供だましに引っかかってしまったのである。
何が恐ろしいのかと言うと、少女は“布団でなくては眠れない”とそう言ってこの部屋に篭ったのだ。
この嘘で“誰”が騙せる? そう、一応は仲間であるはずの己だけなのである。なのに、この少女は臆面もなく嘘をつき欺いてみせた。
一切の油断なく。隙を窺うならばいつでも殺してやるぞと、非情に。

どうやら、頭の回りは子供のそれとは違うらしい。一端のプロとして認めておかねばならない強かさを持ち合わせているようだ。
ひょっとすれば、その見てくれや舌足らずな話し方からすら、こちらを騙すための手段なのやもしれぬ。

ともかく、もう油断はするまいぞと誓い、如月左衛門は床をはって出てきた紫木一姫に声をかけた。

「そろそろあの狐面の男の始まる頃だが、どうじゃ? 板間の上に伏せておったのではあまり休めなかったのではないか?」
「いえいえ、ここに来るまでも肩車してもらいましたし、元々そんなに疲れてなかったので平気ですよ。
 姫ちゃんこう見えて見ての通りに貧弱ですけど、走ったりしなくていいなら三日ぐらいは平気でバトれるので、
 如月左衛門さんが肩車してくれるってならこの後はもう休みなしでもいいってくらいです」
「そうか、ならば――」
「――そうですね。あの変なおじさんの放送を聞いたら、たくさん殺しにいきましょう」

凄惨な、とても童のものとは思えぬ笑みを浮かべる少女を前に、男の背中に冷たい汗が流れた。
果たして自分はこの糸使いの少女を使いきることができるのだろうか。それとも、――逆に使いきられてしまうのか。



舞台の端で休んでいれば、他が潰しあって楽ができるかもなどという考えは、正しくあり正しくない。
楽ができるのは少女の方だけだ。己はこのままでは切って捨てられかねない。
やはり、動かねばならないだろう。少なくともなんらかの保険を、少女に対する切り札を用意しておかないことには、

殺されるのは自分だ。と、そうはっきりと、この時如月左衛門は認識したのである。






【F-3/診療所前/一日目・夕方(放送直前)】


【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:甲賀弦之介の容姿、胸部に打撲
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、
      フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、自分の着物
[道具]:デイパックx4、支給品一式x6、甲賀弦之介の生首、レーダー@オリジナル
      IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)、
      SIG SAUER MOSQUITO(9/10)、予備弾倉(SIG SAUER MOSQUITO)×5、
      金属バット、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!、櫛枝実乃梨変装セット(とらドラの制服@とらドラ!、カツラ)
      不明支給品x1(確認済み。武器ではない?)、
[思考・状況]
 基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
 0:放送を聞く。
 1:紫木一姫と同盟を組み、殺し合いを進め、生き残る。
   └後の決着を踏まえ、“生きた顔”や紫木一姫の弱みとなる情報を掴んでおきたい。
 2:残る伊賀鍔隠れ衆との争乱を踏まえ、朧か薬師寺天膳の顔を手に入れたい。
 3:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。

[備考]
 ※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
 ※千鳥かなめ、櫛枝実乃梨、紫木一姫の声は確実に真似ることが可能です。
 ※「二十万ボルトスタンガン」の一応の使い方と効果を理解しました。
   しかしバッテリー切れの問題など細かい問題は理解していない可能性があります。


【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋、
[道具]:デイパック、支給品一式、
      シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発)、裁縫用の糸(大量)@現地調達
[思考・状況]
 基本:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
 0:放送を聞く。
 1:如月左衛門と同盟を組、殺し合いを進める。
   └如月左衛門に裸を見られたことを忘れたわけではない。最後はきっちりその償いを受けさせる。
 2:いーちゃんを見つけたら存在がばれない範囲で付きまとい、危険分子を排除する。
 3:SOS団のメンバーに対しては?

[備考]
 ※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。
 ※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。
 ※如月左衛門の忍法、甲賀と伊賀の争いについて話を聞きました。どこまで把握できているかはわかりません。




投下順に読む
前:囁かれる者と喰らう者 次:第三回放送――(1日目午後6時)
時系列順に読む
前:囁かれる者と喰らう者 次:intermezzo――(間奏)

前:糸語(意図騙) 如月左衛門 次:なんでもなかった話――(SHATTERED MEMORIES)
前:糸語(意図騙) 紫木一姫 次:なんでもなかった話――(SHATTERED MEMORIES)



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