闇と幻の狭間で ◆r39666tJr2
弥彦達と戦った場所から離れようと、グレーテルが頼りに進んでいるものはか細い灯りだった。
マンホールを破壊し、地下下水道へと降り立ったグレーテルは戦闘の余韻に浸りつつ歩く。
マンホールを破壊し、地下下水道へと降り立ったグレーテルは戦闘の余韻に浸りつつ歩く。
薄暗い下水道には緑色をした汚水が流れ、ヘドロのようなものが浮かんでいた。足元には様々なゴミが散らばり、ネズミのような足音が響く。蜘蛛の巣が張り巡らされたそこは、異界のような雰囲気を醸し出していた。
しかし、グレーテルは気がつかない。周りの様子に見合うほどの腐臭がしないことに。
それを感じる前に、一つの人影と出会ってしまったからだ。
グレーテルの目に鮮やかな色が映った。見覚えのある姿が、ある。
しかし、グレーテルは気がつかない。周りの様子に見合うほどの腐臭がしないことに。
それを感じる前に、一つの人影と出会ってしまったからだ。
グレーテルの目に鮮やかな色が映った。見覚えのある姿が、ある。
「――兄様?」
グレーテルは首を傾げながら呟いた。どこからか現れたのか。返事は返ってくることはない。
その代わりに柔らかく微笑んだ美しい銀髪を持つ少年は、無言のまま踵を返す。暗闇の中なのに、少年の銀色は闇に沈むことはない。グレーテルの視界から外れることなく、少年は前を歩く。
二人の距離は何故か縮まることはない。一定の間隔を保ちながら、二人は進んでいた。
その代わりに柔らかく微笑んだ美しい銀髪を持つ少年は、無言のまま踵を返す。暗闇の中なのに、少年の銀色は闇に沈むことはない。グレーテルの視界から外れることなく、少年は前を歩く。
二人の距離は何故か縮まることはない。一定の間隔を保ちながら、二人は進んでいた。
グレーテルは既に理解していた。目の前に居る兄が『幻想』だということを。少し前にも似たようなことがあった。死にかけた時に、グレーテルは兄と確かに会った。
(僕達は死なない、Never die)
少年は、既にグレーテルの中にいるはずである。二人は一心同体となり、永遠に続く円環を紡いでいく。再び現れた兄の姿にグレーテルは言う。
「今度はなぁに、兄様」
(僕達は死なない、Never die)
少年は、既にグレーテルの中にいるはずである。二人は一心同体となり、永遠に続く円環を紡いでいく。再び現れた兄の姿にグレーテルは言う。
「今度はなぁに、兄様」
妖艶な笑みを浮かべながら、グレーテルは兄の姿を追っていた。
走る。走る。走る。
どのくらい、どうやって進んでいるのかはグレーテルには分からない。疲れはさほど感じない。
人間であることをやめてから大分時間が経っている。体の方も新しい心臓に慣れてきたようだ。先を進む少年も幻想であるのだから疲れなど知るはずがない。
しばらく走り続け、少年が止まったのはあるマンホールの近くだった。
「ここね?」
どのくらい、どうやって進んでいるのかはグレーテルには分からない。疲れはさほど感じない。
人間であることをやめてから大分時間が経っている。体の方も新しい心臓に慣れてきたようだ。先を進む少年も幻想であるのだから疲れなど知るはずがない。
しばらく走り続け、少年が止まったのはあるマンホールの近くだった。
「ここね?」
少年はただ笑顔を浮かべるだけだった。その様子を特に気にすることなく、グレーテルは地上への帰還を果たす。
別れを惜しむ必要はない。少年はグレーテルで、グレーテルは少年なのだから。二人は一緒。別れなどあり得ない。
別れを惜しむ必要はない。少年はグレーテルで、グレーテルは少年なのだから。二人は一緒。別れなどあり得ない。
グレーテルの後ろで、ぐにゃりと景色が歪んだ。外に興味を移したグレーテルは知らない。
その景色は、グレーテルが先ほどまでみていたものとはまったく違う。蜘蛛の巣などないし、ゴミが大量に散らばっている訳でもない。
下水道で腐臭がしなかったのは――その匂いの発生源が元から存在しなかったからだ。
グレーテルの去った後の地下では、シンメトリーのような不可思議な模様が浮かび上がる。
――『幻(イリュージョン)』クロウカードのひとつで、心に思っていることを幻として見せるカード。
グレーテルが見ていたのは「グレーテルの描く下水道のイメージ」だった。地下には下水道があるという彼女の認識が、そのまま視覚へと反映された。
彼女の兄の幻も、彼女の心には常に兄が住んでいるから現れたのだろう。
ジェダがどうしてこんなものを地下に仕掛けていたのかは分からない。
しかし、グレーテルが見たのは自分のイメージ。本来の地下に何があるのかは、――未だ誰も知らない。
その景色は、グレーテルが先ほどまでみていたものとはまったく違う。蜘蛛の巣などないし、ゴミが大量に散らばっている訳でもない。
下水道で腐臭がしなかったのは――その匂いの発生源が元から存在しなかったからだ。
グレーテルの去った後の地下では、シンメトリーのような不可思議な模様が浮かび上がる。
――『幻(イリュージョン)』クロウカードのひとつで、心に思っていることを幻として見せるカード。
グレーテルが見ていたのは「グレーテルの描く下水道のイメージ」だった。地下には下水道があるという彼女の認識が、そのまま視覚へと反映された。
彼女の兄の幻も、彼女の心には常に兄が住んでいるから現れたのだろう。
ジェダがどうしてこんなものを地下に仕掛けていたのかは分からない。
しかし、グレーテルが見たのは自分のイメージ。本来の地下に何があるのかは、――未だ誰も知らない。
+ + + + + + + + + +
グレーテルは、見たことのない建物に目を瞬かせた。ルーマニアから出たことのないグレーテルが日本の神社などを見るのは初めてだ。
鳥居や灯籠、幣殿に大きな鈴。参道の奥には、本殿や祭具殿などが見える。もちろんグレーテルにはこれらがどういう建物なのか見当もつかなかった。
「兄様、ここに何があるの?」
(きっと面白いものがあるよ)
鳥居や灯籠、幣殿に大きな鈴。参道の奥には、本殿や祭具殿などが見える。もちろんグレーテルにはこれらがどういう建物なのか見当もつかなかった。
「兄様、ここに何があるの?」
(きっと面白いものがあるよ)
愛する兄へと問いかけると、ふと血の匂いを感じた。グレーテルはそれを追う。
惹かれる様に辿り着いた場所は、他の小屋とどこか様子が違った。荘厳な雰囲気にも気圧されることなく、グレーテルは開いたままの扉をくぐる。
そこには、床に赤い血が飛び散っていた。戦いの傷跡も少し残っている。どうやらここで何かがあったらしい。誰かが殺して、殺されて、……参加できなかったことを残念に思いつつも探索を続行する。
ここにも死の匂いが充満しているが、もっと濃度の高いそれがグレーテルを呼んでいた。
黒い手がグレーテルを手招きしている。人々の恐怖、恨みなどの負の感情。グレーテルは誘われる。その闇の現場へと――
惹かれる様に辿り着いた場所は、他の小屋とどこか様子が違った。荘厳な雰囲気にも気圧されることなく、グレーテルは開いたままの扉をくぐる。
そこには、床に赤い血が飛び散っていた。戦いの傷跡も少し残っている。どうやらここで何かがあったらしい。誰かが殺して、殺されて、……参加できなかったことを残念に思いつつも探索を続行する。
ここにも死の匂いが充満しているが、もっと濃度の高いそれがグレーテルを呼んでいた。
黒い手がグレーテルを手招きしている。人々の恐怖、恨みなどの負の感情。グレーテルは誘われる。その闇の現場へと――
「うふふっ、見つけたわ」
ある扉の前に立ち、グレーテルは確信した。野生の勘で真っ直ぐとその場所へと辿り着く。グレーテルを求め、呼んでいたものはここにいると。
そこは、祭具殿。リンクが掛け直した南京錠は、グレーテルの前では障害にすらなりえない。
一度触れ、開かないことを確認するとグレーテルは即座に行動に移す。鍵を探すなどという手段は元より頭にない。
そこは、祭具殿。リンクが掛け直した南京錠は、グレーテルの前では障害にすらなりえない。
一度触れ、開かないことを確認するとグレーテルは即座に行動に移す。鍵を探すなどという手段は元より頭にない。
「――武装錬金」
流れるような言葉と共に、巨大な突撃槍がグレーテルの手に握られた。このまま突き破るのでは足りないかもしれない。
グレーテルはサンライトハートの穂先に飾り布を巻きつける。この飾り布は様々な面でサンライトハートを手助けする。ブースト、クラッシュ、フラッシュ。
今回グレーテルが用いるのは、先ほど弥彦との戦いで使ったクラッシュ――攻撃力の上昇。
サンライト・クラッシャー。グレーテルは自らもダメージを負ってしまう程の強大な力で、祭具殿の扉をぶち破る。
どおぉん!という派手な破壊音と共に、祭具殿の扉はただの破片となった。
流れるような言葉と共に、巨大な突撃槍がグレーテルの手に握られた。このまま突き破るのでは足りないかもしれない。
グレーテルはサンライトハートの穂先に飾り布を巻きつける。この飾り布は様々な面でサンライトハートを手助けする。ブースト、クラッシュ、フラッシュ。
今回グレーテルが用いるのは、先ほど弥彦との戦いで使ったクラッシュ――攻撃力の上昇。
サンライト・クラッシャー。グレーテルは自らもダメージを負ってしまう程の強大な力で、祭具殿の扉をぶち破る。
どおぉん!という派手な破壊音と共に、祭具殿の扉はただの破片となった。
「ふふふっ」
グレーテルは笑いがとまらなかった。
まだ何も見えない。月明かりは入り口を照らすのみで、奥にあるはずの何物の上に輝くことはない。
それでも、グレーテルは目が暗闇に慣れるまでの僅かな時間、ずっと笑い続けていた。
見なくても感じる、分かる。グレーテルはこれらを――よく知っている。
殴られ潰され蹴られ切られ刺され磨られ嬲られ縛られ抓られ裂かれて踏まれて蹂躙されて、きっとこの島にいる誰よりも知っている。
これでもっと楽しく遊べる。血が、臓物が、悲鳴が、狂気が、涙が、断末魔が、きっとグレーテルに降り注ぐ。
グレーテルは笑いがとまらなかった。
まだ何も見えない。月明かりは入り口を照らすのみで、奥にあるはずの何物の上に輝くことはない。
それでも、グレーテルは目が暗闇に慣れるまでの僅かな時間、ずっと笑い続けていた。
見なくても感じる、分かる。グレーテルはこれらを――よく知っている。
殴られ潰され蹴られ切られ刺され磨られ嬲られ縛られ抓られ裂かれて踏まれて蹂躙されて、きっとこの島にいる誰よりも知っている。
これでもっと楽しく遊べる。血が、臓物が、悲鳴が、狂気が、涙が、断末魔が、きっとグレーテルに降り注ぐ。
「うふふふふふ!ふふふふふふっ!
あはははははははははははははは!あはははははははははは!
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
あはははははははははははははは!あはははははははははは!
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
【C-4/神社・祭具殿/1日目/夜中】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身に中度のダメージ及び軽い切り傷。右腕にダメージ。
喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている
[装備]:ウィンチェスターM1897(1/5)@Gunslinger Girl)、サンライトハート(展開中)@武装錬金
[道具]:支給品一式、塩酸の瓶×1本、神楽とミミの眼球 、毒ガスボトル×2個
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。
[思考]:あははははははははははははははははは!
第一行動方針:誰か新しい相手を見つけて遊ぶ。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」 (兄様はもう探さない)
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身に中度のダメージ及び軽い切り傷。右腕にダメージ。
喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている
[装備]:ウィンチェスターM1897(1/5)@Gunslinger Girl)、サンライトハート(展開中)@武装錬金
[道具]:支給品一式、塩酸の瓶×1本、神楽とミミの眼球 、毒ガスボトル×2個
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。
[思考]:あははははははははははははははははは!
第一行動方針:誰か新しい相手を見つけて遊ぶ。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」 (兄様はもう探さない)
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
地下について。
ジェダによって「幻」の魔法が仕掛けられています。
他にも仕掛けられている可能性はありますがグレーテルは気が付けませんでした。
「幻」はその人の心に思っていることを、幻として見せるカード。
本来の地下がどうなっているのかは不明。下水道があるのかさえ不明。
ジェダによって「幻」の魔法が仕掛けられています。
他にも仕掛けられている可能性はありますがグレーテルは気が付けませんでした。
「幻」はその人の心に思っていることを、幻として見せるカード。
本来の地下がどうなっているのかは不明。下水道があるのかさえ不明。
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