好き好き大好き愛してる。 ◆sUD0pkyYlo
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してる。
だから。
来て見て触って、キスして抱いて。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、感じさせて。
おねがい。
あたしを、見て。あたしを、求めて――!
◆ ◆ ◆
「事情は分かりました。
いろいろ言いたいことはありますが、グリーンの遺体を持ってきたのは正解です」
いろいろ言いたいことはありますが、グリーンの遺体を持ってきたのは正解です」
話を聞く限りでは、グリーンの指示にリリスが素直に従っていれば回避できた可能性のあるトラブルでした。あるいは、リリスがもう少し強ければ相手を圧倒してもう少しマシな結果になっていたはずでした。
まさにこのような時のために2人を組ませたのですが……本当に、使えない。
リリスもかなりの負傷をしているようですし、その戦闘力すら想定よりも下だった、ということでしょうか。だとすれば由々しきことです。
まさにこのような時のために2人を組ませたのですが……本当に、使えない。
リリスもかなりの負傷をしているようですし、その戦闘力すら想定よりも下だった、ということでしょうか。だとすれば由々しきことです。
しかしグリーンが殺されリリスが帰ってくるような展開自体は、十分に想定の範囲内。
こうなるかもしれないことも覚悟の上で、彼らを送り出したのです。
決して良い結果とも望ましい結果とも言えないが、しかし絶望するような状況でもない。それが私の判断でした。
こうなるかもしれないことも覚悟の上で、彼らを送り出したのです。
決して良い結果とも望ましい結果とも言えないが、しかし絶望するような状況でもない。それが私の判断でした。
混乱し要領を得ない様子のリリスから、それでも必要なことを聞き出した私は改めてグリーンを観察します。
既に死んだグリーン。胸に大穴を開け大動脈から心臓から肺から取り返しのつかない傷を負った遺体。
逆に言えば、それ以外はほとんど無傷なままの遺体。
もはや手当ても間に合わぬ姿です。いまさら彼の遺体に向けて恨み言を言ったところで、何の益にもなりません。また、そんな無駄なことに時間を費やすつもりもありません。
既に死んだグリーン。胸に大穴を開け大動脈から心臓から肺から取り返しのつかない傷を負った遺体。
逆に言えば、それ以外はほとんど無傷なままの遺体。
もはや手当ても間に合わぬ姿です。いまさら彼の遺体に向けて恨み言を言ったところで、何の益にもなりません。また、そんな無駄なことに時間を費やすつもりもありません。
ともあれ、こうして「帰ってきてくれた」以上、やるべきことはもう1つしかないでしょう。
私はこれ以上時間を無駄にすることなく、命じました。
私はこれ以上時間を無駄にすることなく、命じました。
「リリス。グリーンの遺体から、首輪を取って下さい。
彼の首を斬っても捻じ切っても構いません。ですが、首輪そのものには傷をつけないように」
彼の首を斬っても捻じ切っても構いません。ですが、首輪そのものには傷をつけないように」
そう。初期の想定以上に無能ではありましたが、グリーンは最後の最後に、私の期待した「最低限の仕事」は果たしてくれたのです。
つまり――実物の「首輪」の確保。「首輪」がついた死体の確保。
既にグリーンの持っていたハリボテの首輪を調べ解体しある程度の情報は確保していましたが、それでも実物が有ると無いとでは大違い。
リリスがこうしてグリーンの遺体を持ち帰ってくれたのは、本当に僥倖でした。おそらくそこまでの理解あっての行動ではなかったでしょうから。
あとは首を斬り落とすだけ……ま、この手の「力仕事」は、リリスの仕事でしょう。せめてこの程度のことには役立って貰わなくては。
つまり――実物の「首輪」の確保。「首輪」がついた死体の確保。
既にグリーンの持っていたハリボテの首輪を調べ解体しある程度の情報は確保していましたが、それでも実物が有ると無いとでは大違い。
リリスがこうしてグリーンの遺体を持ち帰ってくれたのは、本当に僥倖でした。おそらくそこまでの理解あっての行動ではなかったでしょうから。
あとは首を斬り落とすだけ……ま、この手の「力仕事」は、リリスの仕事でしょう。せめてこの程度のことには役立って貰わなくては。
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してた。
だから。
来て見て触って、キスして抱いた。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、身体全体で感じ取った。
今思い返せば、あの頃は……幸せ、だったのかな。
でも。
もう。
恋の魔法は既に解け。
貴方の命は既にない。
貴方はもう、ただの生首。
あたしが斬り落とした、物言わぬ生首。
そっと抱き上げてみたけれど、もう感じることができなくて。
貴方の息遣いが、貴方の体温が。貴方の命が、感じられない。
おねがい。
もう一度、あたしを見て。
もう一度、貴方の声を聞かせて。
もう好きでもないし、もう愛してもいないと思っていたけれど。
もう好かれてないし、もう愛されてもいないと思っていたけれど。
それでも。
それでも、もう一度だけ、貴方と触れ合いたい――!
◆ ◆ ◆
建物を探索し施設内のコンピューターを掌握し、私が理解した限りでは、このB.A.B.E.L.というのは超能力を研究する日本で最大最高の公的組織、ということでした。
超能力。普段であれば一笑に付すような冗談でしかない単語です。
ですが私は既に「普段の常識」を捨ててこの場に臨んでいます。メタちゃんのような非・常識的存在や、リリスのような異能の持ち主と遭遇しています。だから、超能力の存在も頭から否定するようなものではありませんでした。
むしろ、この建物の研究設備、そしてそこに残されていた研究資料は、私のような者には理解しやすい性質のもの。現代科学の「さらに先」。冗談のような超心理学――。
それでも、科学は科学。医学・心理学・物理学・生化学など、私の知る現代科学の延長線上に存在する、理詰めで分析可能なモノでした。
もちろんいかに私といえども、この短時間でその原理をきっちり押さえて把握して、超能力の全貌を理解することは不可能です。
資料の量は膨大で、その主要な部分に目を通すだけでも相当な手間でしょう。十分な時間さえあれば、きっと何の問題もなく私の手中に納まっていたのでしょうけれども。
ただそれでも、表層をなぞるだけなら。
現代科学の延長にある、各種の解析機器を理解し、動かすだけなら。
私にとってはさほどの時間も要しない、実に簡単なことでした。
陣取っていたモニターの部屋を出て、予め目星をつけておいたいくつかの部屋を回り、検査用の機器を動かし。万事順調、何事も問題なしです。
ついでに医療関係の設備の近くにいることも利用して、リリスの傷にも簡単な応急手当を。
最初は彼女に命じて勝手に手当てをしておくように、と言ったのですが、結局私も手伝わざるを得ませんでした。全く手間のかかることです。
超能力。普段であれば一笑に付すような冗談でしかない単語です。
ですが私は既に「普段の常識」を捨ててこの場に臨んでいます。メタちゃんのような非・常識的存在や、リリスのような異能の持ち主と遭遇しています。だから、超能力の存在も頭から否定するようなものではありませんでした。
むしろ、この建物の研究設備、そしてそこに残されていた研究資料は、私のような者には理解しやすい性質のもの。現代科学の「さらに先」。冗談のような超心理学――。
それでも、科学は科学。医学・心理学・物理学・生化学など、私の知る現代科学の延長線上に存在する、理詰めで分析可能なモノでした。
もちろんいかに私といえども、この短時間でその原理をきっちり押さえて把握して、超能力の全貌を理解することは不可能です。
資料の量は膨大で、その主要な部分に目を通すだけでも相当な手間でしょう。十分な時間さえあれば、きっと何の問題もなく私の手中に納まっていたのでしょうけれども。
ただそれでも、表層をなぞるだけなら。
現代科学の延長にある、各種の解析機器を理解し、動かすだけなら。
私にとってはさほどの時間も要しない、実に簡単なことでした。
陣取っていたモニターの部屋を出て、予め目星をつけておいたいくつかの部屋を回り、検査用の機器を動かし。万事順調、何事も問題なしです。
ついでに医療関係の設備の近くにいることも利用して、リリスの傷にも簡単な応急手当を。
最初は彼女に命じて勝手に手当てをしておくように、と言ったのですが、結局私も手伝わざるを得ませんでした。全く手間のかかることです。
「……ねえ、ニア」
「何ですかリリス」
「何ですかリリス」
そうして未知の機材を前に解析作業を進める私に、リリスが唐突に声をかけてきました。
2人には、誰かと遭遇した際のトラブル回避のため、迂闊に私の名前は口にしないよう命じておいたのですが……まあ今更それはいいでしょう。
この大事なときに声をかけるのです、無意味な話ではないはずです。例えばそう、先の報告で何か言い忘れたことがあったのなら、早めに言っておいて欲しい。
そう思い振り返りもせず作業の手も止めずに彼女の言葉を待ったのですが。
2人には、誰かと遭遇した際のトラブル回避のため、迂闊に私の名前は口にしないよう命じておいたのですが……まあ今更それはいいでしょう。
この大事なときに声をかけるのです、無意味な話ではないはずです。例えばそう、先の報告で何か言い忘れたことがあったのなら、早めに言っておいて欲しい。
そう思い振り返りもせず作業の手も止めずに彼女の言葉を待ったのですが。
「お願いが、あるの……。私のこと……抱いて、くれる?」
「嫌です」
「嫌です」
即答。
全く何を考えているのでしょう。
グリーンを失いつまり判断力持つ別働隊指揮官を失い、今手元にいるのはリリスだけ。戦闘力だけはあるものの、独自の任務を与えるには不安過ぎる彼女だけ。
この状況下では、リリスに出来ることは大してありません……そう、有事に備えての私の護衛。及び、いざ私自身が移動する必要が出来た時の、足代わり。
言ってみれば、ちょっとした武装ヘリコプターのような存在ですね。今の彼女に期待できるのは、せいぜいがその程度。
ですから、今は私の邪魔をしないよう、そして勝手に歩き回らないよう命じて、放っておいたのですが……。
グリーンからの首輪確保の後、素直に静かにしてるかと思ったら、コレですか。全く本当に、使えない。
全く何を考えているのでしょう。
グリーンを失いつまり判断力持つ別働隊指揮官を失い、今手元にいるのはリリスだけ。戦闘力だけはあるものの、独自の任務を与えるには不安過ぎる彼女だけ。
この状況下では、リリスに出来ることは大してありません……そう、有事に備えての私の護衛。及び、いざ私自身が移動する必要が出来た時の、足代わり。
言ってみれば、ちょっとした武装ヘリコプターのような存在ですね。今の彼女に期待できるのは、せいぜいがその程度。
ですから、今は私の邪魔をしないよう、そして勝手に歩き回らないよう命じて、放っておいたのですが……。
グリーンからの首輪確保の後、素直に静かにしてるかと思ったら、コレですか。全く本当に、使えない。
「じゃあ……キスだけでもいいから」
「嫌です」
「……なんで? グリーンは、してくれたよ?」
「私はグリーンではありませんから」
「嫌です」
「……なんで? グリーンは、してくれたよ?」
「私はグリーンではありませんから」
なるほど2人はそこまで深い関係を持っていたわけですか。しかし今となってはどうでもいいことです。
リリスに端的な答えを返しながらも、私の解析作業は止まりません。この程度の並行作業は私にとっては何の造作もないことです……が、鬱陶しいことには変わりない。
リリスに端的な答えを返しながらも、私の解析作業は止まりません。この程度の並行作業は私にとっては何の造作もないことです……が、鬱陶しいことには変わりない。
「じゃあ……何かニアの役に立てたら、ご褒美にキスしてくれる?」
「嫌です。大体、今は貴方に何か仕事をして欲しいとは思っていません。むしろ下手に動かれると迷惑です。
私の役に立ちたいというのなら、黙ってそこで待機していて下さい」
「……何で? 何でそんなにイヤなの? 男の子って、『そういうの』好きなんじゃないの?
ひょっとしてニアは、おっぱい大きくないとダメ? だったら私、大きくするよ?
どうせこの身体、ホンモノじゃないもの。きっと頑張れば、色々変えられると思う。
それとももしかして、男のひとしかダメなヒト? だったら私も、頑張って男の子に……」
「そういう意味じゃありません」
「嫌です。大体、今は貴方に何か仕事をして欲しいとは思っていません。むしろ下手に動かれると迷惑です。
私の役に立ちたいというのなら、黙ってそこで待機していて下さい」
「……何で? 何でそんなにイヤなの? 男の子って、『そういうの』好きなんじゃないの?
ひょっとしてニアは、おっぱい大きくないとダメ? だったら私、大きくするよ?
どうせこの身体、ホンモノじゃないもの。きっと頑張れば、色々変えられると思う。
それとももしかして、男のひとしかダメなヒト? だったら私も、頑張って男の子に……」
「そういう意味じゃありません」
せっかく首輪から精神感応の反応がキャッチできて面白いことになってきてるのに、勝手に巨乳マニアやホモセクシャルにされてはかないません。この調子では、散々変態の疑いをかけられた上に、最後には性的不能者扱いされかねない。
ここははっきり言い切っておかないといけませんかね。
全く、小人と女子供は御しがたいものです。
ここははっきり言い切っておかないといけませんかね。
全く、小人と女子供は御しがたいものです。
「はっきり言いましょう。私は、あなたが嫌いです。少なくとも、好きにはなれません」
「…………」
「それでも『貴方が私のことを好きだと言うから』近くにいることを許しているのです。
私のために働くことを、許しているのです。
あまり調子に乗らないで下さい。
それとも……私の嫌がることを、無理やりに実行してしまいますか? それが貴方の望みですか?」
「…………」
「…………」
「それでも『貴方が私のことを好きだと言うから』近くにいることを許しているのです。
私のために働くことを、許しているのです。
あまり調子に乗らないで下さい。
それとも……私の嫌がることを、無理やりに実行してしまいますか? それが貴方の望みですか?」
「…………」
私の問い掛けに、リリスは沈黙します。それはそうでしょう。
今の彼女は『魔女の媚薬』によって私に惚れている状態です。そして普通の恋愛と違い、6時間経過するまではその偽りの恋が醒めることはないという。この状況を、徹底利用しない手はありません。
彼女は決して、私を裏切ることはない。
彼女は決して、私から逃れることはできない。
強いて言えばさっきのような世迷い事を言い出すのが難点なのでしょうが、まあ、逆に言えば彼女が私にかける迷惑は精々がこの程度。仕方のないコストとして受け入れるしかないのかもしれませんね。
今の彼女は『魔女の媚薬』によって私に惚れている状態です。そして普通の恋愛と違い、6時間経過するまではその偽りの恋が醒めることはないという。この状況を、徹底利用しない手はありません。
彼女は決して、私を裏切ることはない。
彼女は決して、私から逃れることはできない。
強いて言えばさっきのような世迷い事を言い出すのが難点なのでしょうが、まあ、逆に言えば彼女が私にかける迷惑は精々がこの程度。仕方のないコストとして受け入れるしかないのかもしれませんね。
ああ、それよりも今は解析です。
首輪の中からの精神感応……これはつまり首輪の中の空洞に超能力を使用できる「生き物」がいると推測され……非常識極まりないですが何らかの超能力なり超技術なりを使えばおそらくは……
とりあえずは超能力者の身体検査に使われていたらしい近未来的な医療機器を応用して解析を……。
首輪の中からの精神感応……これはつまり首輪の中の空洞に超能力を使用できる「生き物」がいると推測され……非常識極まりないですが何らかの超能力なり超技術なりを使えばおそらくは……
とりあえずは超能力者の身体検査に使われていたらしい近未来的な医療機器を応用して解析を……。
◇ ◇ ◇
好きなヒトなんていなかった。愛するヒトなんていなかった。
あたしが知っていたのは、無限にも等しい空虚な時間。
「自分自身」からも切り離された絶望、指輪の中に封じられた孤独。
ジェダ様にかりそめの身体を貰っても、真の肉体を持たぬ欠落は埋め切れなくて。
その空虚を埋めたくて、じっとしていられなくて、サキュバスの本能に任せて好きに動きまわった。
欲望のままに、「遊び」を求めたの。
遊んでる時だけは――笑っている間だけは、少しだけ欠落と空虚と虚無を忘れることが出来たから。
好き好き大好き。愛してる。……今思えば、きっとそう誰かに囁きたくて。
でも、その「誰か」が、どうしても見つからなくて。
ネギ君は、情熱的なキスを返してくれた。でも、約束を守らず、勝手にどこかで死んじゃった。
コナン君は、楽しい遊びを提案してくれた。でもやっぱり約束を守らず、勝手にどこかで死んじゃった。
ニケは、楽しく遊びに付き合ってくれた。でも、最後は結局「どっかいけ!」と私を追い払った。
エヴァは、つまらなかった。散々遊びを嫌がって邪魔して、おまけに呼んでもないのにまた邪魔しに来た。
ディなんとか……って子は、やっぱりつまらなかった。ニケと一緒に、邪魔するだけだった。
グリーンと一緒にいた子は、これもつまらなかった。鬼ごっこでも、ちょっと遠くに逃げすぎ。
そして、グリーンは……。
グリーンだけが、応えてくれた。リリスを見てくれた。
来て見て触って、抱いてキスしてくれた。
グリーンの息遣いを、グリーンの体温を。グリーンの命を、感じることができた。
たとえ最初は裏があっても、グリーンは、グリーンだけは、応えてくれた。
だから、言ったの。
抱き合いながら心から素直に、あたしは言ったの。
好き好き大好き、愛してる、って――。
◆ ◆ ◆
首輪の大体の構造はB.A.B.E.L.本部の医療機器を用いてすぐに判明しました。
解析作業を進めながら、ジェダたちの内情やQ-Beeと呼ばれていた少女について、背後に控えるリリスへ2、3の質問。十分な回答ではなかったものの推理を裏付けるには役立つ情報を獲得。そこからさらに踏み込んだ考察。可能性を絞り込み、さらに解析。
必要なだけのデータを収集し終え、私はリリスを従え元のモニターの部屋に戻ります。
建物のどこに移動しても最低限の周辺監視は可能なようにしていましたが、やはり、腰を据えて考えるのならばあの場が最適。生データの収集さえ終えてしまえば、コンピューター上の画像処理などはどこででも出来ます。
ならばこの「城」の中核、最も守りと監視が鋭い部屋が最適。そう考えての帰還です。
戸が開くと鼻を突くのは濃密な血の臭い。放置されたままだった首のないグリーンの遺体――そういえばこの遺体もちゃんと「処分」して掃除せねばなりませんね、後でリリスに命じておきましょう――をまたいで部屋の中央、私の定位置と定めた椅子の上へ。
既に転送しておいたデータをさっそく表示、分析を始めます。
解析作業を進めながら、ジェダたちの内情やQ-Beeと呼ばれていた少女について、背後に控えるリリスへ2、3の質問。十分な回答ではなかったものの推理を裏付けるには役立つ情報を獲得。そこからさらに踏み込んだ考察。可能性を絞り込み、さらに解析。
必要なだけのデータを収集し終え、私はリリスを従え元のモニターの部屋に戻ります。
建物のどこに移動しても最低限の周辺監視は可能なようにしていましたが、やはり、腰を据えて考えるのならばあの場が最適。生データの収集さえ終えてしまえば、コンピューター上の画像処理などはどこででも出来ます。
ならばこの「城」の中核、最も守りと監視が鋭い部屋が最適。そう考えての帰還です。
戸が開くと鼻を突くのは濃密な血の臭い。放置されたままだった首のないグリーンの遺体――そういえばこの遺体もちゃんと「処分」して掃除せねばなりませんね、後でリリスに命じておきましょう――をまたいで部屋の中央、私の定位置と定めた椅子の上へ。
既に転送しておいたデータをさっそく表示、分析を始めます。
「ねえ……」
「…………」
「…………」
必要なだけの情報を獲得し、必要なだけの材料が手元に揃い、一気に思考が疾走します。
医療機器でデータを取りコンピューター上で3D画像化した透視像を元に構造を把握。容易にその機能が把握できるいくつかのシステムと、全く機能の把握できないブラックボックス――正確には、ブラックボックスの中央に陣取る小さな人影。
他の部分の機能……正確に言えば、他の部分に備えられた機能の「欠如」からその人影の担当する仕事を推測。つまりCPU兼盗聴器兼監視カメラ兼GPS兼通信機兼自爆装置……
まあ、こういう書き方をするよりももっとシンプルに「見張り番が1人1人の首輪に入っている」と言った方がいいでしょうか。それが首輪の機能のほとんどを支配している……。
リリスからの情報から合わせて考えるに、中に入っているのはQ-Beeの部下であり眷属であるP-Bee。その身体を小さくする技術(?)は理解すら出来ない恐るべきものですが、しかしどうやらそれも「借り物」の技術だと見ました。
首輪自体に使われているモノから推察するに、ジェダ自身の持つ技術力・ジェダが自在に使いこなせる技術はそう大したことはないでしょう。
魔法なりなんなりには注意が必要ですが、十分に、つけいる隙はある。
医療機器でデータを取りコンピューター上で3D画像化した透視像を元に構造を把握。容易にその機能が把握できるいくつかのシステムと、全く機能の把握できないブラックボックス――正確には、ブラックボックスの中央に陣取る小さな人影。
他の部分の機能……正確に言えば、他の部分に備えられた機能の「欠如」からその人影の担当する仕事を推測。つまりCPU兼盗聴器兼監視カメラ兼GPS兼通信機兼自爆装置……
まあ、こういう書き方をするよりももっとシンプルに「見張り番が1人1人の首輪に入っている」と言った方がいいでしょうか。それが首輪の機能のほとんどを支配している……。
リリスからの情報から合わせて考えるに、中に入っているのはQ-Beeの部下であり眷属であるP-Bee。その身体を小さくする技術(?)は理解すら出来ない恐るべきものですが、しかしどうやらそれも「借り物」の技術だと見ました。
首輪自体に使われているモノから推察するに、ジェダ自身の持つ技術力・ジェダが自在に使いこなせる技術はそう大したことはないでしょう。
魔法なりなんなりには注意が必要ですが、十分に、つけいる隙はある。
「ちょっと、ニア……」
「…………」
「…………」
私は分析と考察を進めながら、同時にコンピューター内の文書作成ソフトを起動させ、これまでの考察を簡潔にメモしていきました。
首輪の構造、特にP-Beeが担っている仕事の内容を推察するに、現時点ではこの首輪を外すにはいくつか要素が足りない。それこそ魔法使いなり超能力者なりの協力が必要不可欠。
とことん使えないリリスにはどうやらその手の器用な真似は出来ないようですし、ならばいずれ新たな部下を得た時のために、今のうちに説明のための準備――簡潔にして要点を押さえた考察メモを作っておくことには意味があるでしょう。
盗聴を考慮すれば口頭で説明するわけにはいかず、その場の筆談で書き上げるにも時間がかかる。ゆえに時間的余裕のある今のうちに、メモという形で予め要点を押さえたものを作っておくのです。これさえ見せれば全ての条件がクリアされるように。
ああもちろん、首輪に開いた監視窓からの覗き見を防ぐために、既に私やリリスの首輪は簡単に上から覆って中から見えないようにしています。リリスから聞いたP-Beeの知性レベルではあまり複雑なことは分からないと思われますが、ま、念のための用心として。
首輪の構造、特にP-Beeが担っている仕事の内容を推察するに、現時点ではこの首輪を外すにはいくつか要素が足りない。それこそ魔法使いなり超能力者なりの協力が必要不可欠。
とことん使えないリリスにはどうやらその手の器用な真似は出来ないようですし、ならばいずれ新たな部下を得た時のために、今のうちに説明のための準備――簡潔にして要点を押さえた考察メモを作っておくことには意味があるでしょう。
盗聴を考慮すれば口頭で説明するわけにはいかず、その場の筆談で書き上げるにも時間がかかる。ゆえに時間的余裕のある今のうちに、メモという形で予め要点を押さえたものを作っておくのです。これさえ見せれば全ての条件がクリアされるように。
ああもちろん、首輪に開いた監視窓からの覗き見を防ぐために、既に私やリリスの首輪は簡単に上から覆って中から見えないようにしています。リリスから聞いたP-Beeの知性レベルではあまり複雑なことは分からないと思われますが、ま、念のための用心として。
「ねえ、ニアってば」
「…………」
「…………」
メモを書き進めます。書きながら並行して頭脳はフル回転を続けます。
首輪の構造。その機能。P-Beeというパーツの存在。必要となってくる人材。リリスから聞き出したジェダの部下の規模(というより、部下の欠落)。そこから導き出されるジェダ攻略の道筋。考えられるアプローチ。まだ未解決の問題の数々。
例えばグリーン程度の頭の持ち主であればすぐにこれまでの私の考察と手持ち情報が理解できるような、そんなレベルのメモです。相手にメロほどの、あるいは夜神月ほどの頭があればもっと省略しもっと簡潔に出来るのですが、そこは仕方がない。
私が今欲っしているのは智者ではなく超能力などの異能の持ち主。しかし特殊技能の持ち主である彼らに飛びぬけた知性が要求できない以上、こちらが彼らに合わせるしかない。
首輪の構造。その機能。P-Beeというパーツの存在。必要となってくる人材。リリスから聞き出したジェダの部下の規模(というより、部下の欠落)。そこから導き出されるジェダ攻略の道筋。考えられるアプローチ。まだ未解決の問題の数々。
例えばグリーン程度の頭の持ち主であればすぐにこれまでの私の考察と手持ち情報が理解できるような、そんなレベルのメモです。相手にメロほどの、あるいは夜神月ほどの頭があればもっと省略しもっと簡潔に出来るのですが、そこは仕方がない。
私が今欲っしているのは智者ではなく超能力などの異能の持ち主。しかし特殊技能の持ち主である彼らに飛びぬけた知性が要求できない以上、こちらが彼らに合わせるしかない。
「……ニア!」
「……五月蝿いですよリリス。邪魔しないようにと言ったはずですが。
ああそうです、ヒマを持て余しているのなら、そこのグリーンの死体の片付けと血の海の掃除を」
「……五月蝿いですよリリス。邪魔しないようにと言ったはずですが。
ああそうです、ヒマを持て余しているのなら、そこのグリーンの死体の片付けと血の海の掃除を」
静かにしていろ、と言ったはずなのですけどね。まあ彼女の貧弱な自制心ではこの辺が限界ですか。
メモの作成が一段落したところで私は当面の作業を打ち切り、いい加減リリスにも何か仕事を与えてやろうかと思いつつ振り返って――
メモの作成が一段落したところで私は当面の作業を打ち切り、いい加減リリスにも何か仕事を与えてやろうかと思いつつ振り返って――
どすっ。
「かっ……はっ……?」
「リリスはね……ニアのことが好きなの。
好きで好きで大好きで、本当に、愛してたんだよ?」
「リリスはね……ニアのことが好きなの。
好きで好きで大好きで、本当に、愛してたんだよ?」
そこにあったのは、何故か過去形で愛を語るリリスの姿。
情欲と哀しみを湛えた瞳で、泣き笑いのような儚い表情を浮かべた、リリスの姿。
場違いにも私らしくもなく、美しいと思ってしまった、そんな彼女の身体から伸びた翼は――
いつの間にか鋭い刃と化して、私の腹部を貫いていました。
……え? 何故、です……?
情欲と哀しみを湛えた瞳で、泣き笑いのような儚い表情を浮かべた、リリスの姿。
場違いにも私らしくもなく、美しいと思ってしまった、そんな彼女の身体から伸びた翼は――
いつの間にか鋭い刃と化して、私の腹部を貫いていました。
……え? 何故、です……?
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してる。
だから。
来て見て触って、キスして抱いて、欲しかった。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、感じたかった。
でも。
お願いしても、届かない。
貴方はあたしを、振り向かない。
どうしても欲しくて、どうしても手に入れたくて、でも永遠に手に入らないと分かってしまって――
あたしは、我慢、できなくなってしまった。
触れて貰えないから、私から手を伸ばした。
貫いて貰えないから、私が貫いた。
感じるよ。
貴方の息遣いを、貴方の体温を。貴方の命を、感じるよ。
貴方を刺した翼の先から、しっかりと、感じるよ。
あたしが刺した側なのに、胸が張り裂けそうに痛い。呼吸が、苦しい。
本当に、取り返しのつかないことをしてしまった。あまりに甘美な絶望に、頭が痺れる。
ああでも、溢れて零れる、貴方の血、貴方の命。
キラキラ光って、とっても綺麗で――
――ようやく、あなたを感じることができた。
◆ ◆ ◆
リリスが私に牙を剥く――その最悪の事態を全く想定していなかったわけではありませんでした。
明らかに普通の人間とは異なる身体を持つリリス。『魔女の媚薬』が本来の規定通りの効力を発揮せず、予定よりも早い時間で効果が解けてしまう可能性も、頭の片隅にはありました。
その時のためにいつでも『眠り火』を取り出せるようにしておき、また『眠り火』が使えずともスプリンクラー等の設備を利用した撹乱の準備も行い、万が一の時の逃走ルートや隔壁閉鎖のチェックも万全だったはずでした。
ただ、私の計算違いは……『魔女の媚薬』の効果が切れてもいないのに、リリスが私を攻撃したこと。
考察に夢中になっていたのは確かですが、視界の片隅でリリスの様子は観察しその変化に注意はしていたのです。だから断言できる。まだ『魔女の媚薬』は、効いている。
醒めることなき偽りの恋に支配されているというのに――彼女は、私を、刺した――何故?!
血を吐き、床に崩れ落ちながら、私はリリスを見上げます。
まだ、ここで意識を手放すわけにはいきません。
私にはまだ成すべきことが残っているのですから。
明らかに普通の人間とは異なる身体を持つリリス。『魔女の媚薬』が本来の規定通りの効力を発揮せず、予定よりも早い時間で効果が解けてしまう可能性も、頭の片隅にはありました。
その時のためにいつでも『眠り火』を取り出せるようにしておき、また『眠り火』が使えずともスプリンクラー等の設備を利用した撹乱の準備も行い、万が一の時の逃走ルートや隔壁閉鎖のチェックも万全だったはずでした。
ただ、私の計算違いは……『魔女の媚薬』の効果が切れてもいないのに、リリスが私を攻撃したこと。
考察に夢中になっていたのは確かですが、視界の片隅でリリスの様子は観察しその変化に注意はしていたのです。だから断言できる。まだ『魔女の媚薬』は、効いている。
醒めることなき偽りの恋に支配されているというのに――彼女は、私を、刺した――何故?!
血を吐き、床に崩れ落ちながら、私はリリスを見上げます。
まだ、ここで意識を手放すわけにはいきません。
私にはまだ成すべきことが残っているのですから。
「来て、見て、触って……キスして、抱いて欲しかった。
ニアの息遣いを、ニアの体温を。ニアの命を、感じたかった」
「ぐっ……うっ……。り……リリス……。
ま、まだ遅くはありません。私を、医務室に……早く……」
「でもね」
ニアの息遣いを、ニアの体温を。ニアの命を、感じたかった」
「ぐっ……うっ……。り……リリス……。
ま、まだ遅くはありません。私を、医務室に……早く……」
「でもね」
傷は決して浅くはありませんが、まだこのB.A.B.E.L.の技術力をもって治療すれば助かる可能性はある。
そう訴える私に、それでもリリスは聞く耳を持ちませんでした。
思わず見蕩れてしまうような哀しい笑顔のまま、彼女は小さく呟きます。
そう訴える私に、それでもリリスは聞く耳を持ちませんでした。
思わず見蕩れてしまうような哀しい笑顔のまま、彼女は小さく呟きます。
「ニアは、どうやってもあたしを振り向いてくれないから。
だったら、永遠に、あたしのものにするの。
この、『作られた気持ち』が醒めちゃう前に」
「!!」
「よく覚えてないけど……
『ニアが好き』っていうリリスのこの『気持ち』、グリーンが使ったのと同じ、あの『お薬』のせいなんだよね?
ぜんぶ、一緒だもの。胸のドキドキも、頭がクラクラするのも、欲しくて欲しくて堪らなくなる気分も」
だったら、永遠に、あたしのものにするの。
この、『作られた気持ち』が醒めちゃう前に」
「!!」
「よく覚えてないけど……
『ニアが好き』っていうリリスのこの『気持ち』、グリーンが使ったのと同じ、あの『お薬』のせいなんだよね?
ぜんぶ、一緒だもの。胸のドキドキも、頭がクラクラするのも、欲しくて欲しくて堪らなくなる気分も」
……!
リリスに、『魔女の媚薬』を使われていた、という自覚が、あった?!
以前にグリーンが使ったらしいことは分かっていましたが、『その時と同じ』というだけで……!?
失策です。『魔女の媚薬』を飲ませる瞬間のことこそ、『眠り火』の暗示で『忘れろ』と命じはしましたが……こんな形でその存在に気付いてしまうとは。
考えてみればリリスは自らの『種族』について『サキュバス』と名乗っていました。
その時には適当に聞き流してしまいましたが、仮にそれが伝承通りの存在であるのならばそれこそ魅了と誘惑のエキスパートのはず。どうやら彼女は経験こそ浅いようですが……魅了・誘惑という一点においては、その種族的本能を発揮し真相を看破してもおかしくはない!
……しかし、それでも解せません。
その恋が偽りだと知ったなら、普通は感情を否定する形に向かうはず。それが自然な心理なのに……!
リリスに、『魔女の媚薬』を使われていた、という自覚が、あった?!
以前にグリーンが使ったらしいことは分かっていましたが、『その時と同じ』というだけで……!?
失策です。『魔女の媚薬』を飲ませる瞬間のことこそ、『眠り火』の暗示で『忘れろ』と命じはしましたが……こんな形でその存在に気付いてしまうとは。
考えてみればリリスは自らの『種族』について『サキュバス』と名乗っていました。
その時には適当に聞き流してしまいましたが、仮にそれが伝承通りの存在であるのならばそれこそ魅了と誘惑のエキスパートのはず。どうやら彼女は経験こそ浅いようですが……魅了・誘惑という一点においては、その種族的本能を発揮し真相を看破してもおかしくはない!
……しかし、それでも解せません。
その恋が偽りだと知ったなら、普通は感情を否定する形に向かうはず。それが自然な心理なのに……!
「でもね、ニセモノでも良かったの。
リリスがこんな気持ちになったのは、初めてだったから。
とっても、嬉しかったから」
「…………!?」
「この気持ち、教えてくれたのはグリーンだった。グリーンは、自分からキスをしてくれたんだ。
そのことは、グリーンへの『気持ち』が……『お薬』が切れちゃっても、忘れない。
だけど、ニアは……ニアは、キスもしてくれなかったから」
リリスがこんな気持ちになったのは、初めてだったから。
とっても、嬉しかったから」
「…………!?」
「この気持ち、教えてくれたのはグリーンだった。グリーンは、自分からキスをしてくれたんだ。
そのことは、グリーンへの『気持ち』が……『お薬』が切れちゃっても、忘れない。
だけど、ニアは……ニアは、キスもしてくれなかったから」
全く理屈の通ってないリリスの妄言。筋道も時系列もムチャクチャです。
けれども……私は、理解しました。いいえ、「理解できない」ということを理解してしまいました。
けれども……私は、理解しました。いいえ、「理解できない」ということを理解してしまいました。
私には、彼女の『気持ち』とやらが、全く理解できません。
きっと、どれだけの言葉を重ねて愛を語られようと、私には納得できない種類のモノなのでしょう。
彼女が普通の人間心理から掛け離れた存在なのか、私が鈍感に過ぎるのか。あるいはその双方なのか。
口の中に血の味が広がります。きっともう私は助からない。
キラやジェダとの知恵比べに破れて命を落とすならともかく、こんなところで、こんなことでつまづくとは……無念でなりません。
彼女が普通の人間心理から掛け離れた存在なのか、私が鈍感に過ぎるのか。あるいはその双方なのか。
口の中に血の味が広がります。きっともう私は助からない。
キラやジェダとの知恵比べに破れて命を落とすならともかく、こんなところで、こんなことでつまづくとは……無念でなりません。
「痛い思いさせてごめんね。すぐに、ラクにしてあげる。
ニアのこと、大好きだから。リリスだけのものに、したいから」
ニアのこと、大好きだから。リリスだけのものに、したいから」
一方的に勝手なことを言い放つと、リリスは刃と化したままの翼を振り上げ、動けぬ私を見下ろして。
私の首を、すっぱりと斬り落としました。
不思議と痛みは感じませんでした。
かつてギロチンで首を落とされそれでも意識が数秒続くことの証明のためにまばたきを続けた男がいたと聞きますが、しかしそれを思い出すのが精一杯で転がる私の頭は急速にその意識を闇に絡め取られ闇の奥底へと引きずりこまれ??
私の首を、すっぱりと斬り落としました。
不思議と痛みは感じませんでした。
かつてギロチンで首を落とされそれでも意識が数秒続くことの証明のためにまばたきを続けた男がいたと聞きますが、しかしそれを思い出すのが精一杯で転がる私の頭は急速にその意識を闇に絡め取られ闇の奥底へと引きずりこまれ??
◇ ◇ ◇
好き好き大好き。愛してた。
胸に抱いた生首に そっと囁きかけてみても、そこにはもう感じられない。
貴方の息遣いも、貴方の体温も。貴方の命も、感じられない。
グリーンも。ニアも。
2人とも、本当に好きだった。
グリーンは、あたしに応えてくれた。ニアは、あたしに応えてくれなかった。
きっと、ただそれだけの違い。
それだけの違いで、あとはあたしが心のままに振舞って??こんなことに、なっちゃった。
哀しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうで……でも、他にどうしたらいいか分からなくて。
でもね。好きだったヒトの首を斬りおとす。好きなヒトの首を斬りおとす……。
「そんなやり方」を教えてくれたのは、ニア、貴方なんだよ?
首を傾げて問うてみたけど、もちろん答えは返ってこない。
あたしは、あたしが愛した2人の死体を前に、呆然と、これからのことを考える。
ニアは、あたしのことが嫌いだ、って言っていた。
じゃあ――グリーンは? 「素のグリーン」は、どうだったんだろう?
きっとグリーンは、あたしの……サキュバスの体液で、普通じゃなくなってたんだと思う。
その影響が消えるのとほぼ同時に、今度はニアが使ったあの『お薬』。きっとグリーンも使われてた。
だからあたしは、「ほんとうのグリーン」をほとんど知らない。
「ほんとうのグリーン」だったのは、最初のちょっとだけ。
ちょっと遊び半分に戦っただけ。ちょっと適当にからかってみただけ。
それも、あの時はグリーンは他の人たちを守ろうと動いていた。あたしだけを見ていたわけじゃなかった。
だから……分からない。
こんなあたしに、「ほんとうのグリーン」がどう声をかけてくれるのか、見当もつかない。
声が聞きたい。そう思った。
もう一度だけ、グリーンの声が聞きたい。
たとえそれで、「嫌い」ってはっきり言われても構わない。
むしろそう言って貰えたら、やっとスッキリできる。
むしろそう言って貰えたら、きっとあたしは、ようやくにしてあの「失恋」を受け止められる。
ともかく、もう一度。今度は、サキュバスの体液や媚薬や惚れ薬で「酔っ払って」いないグリーンと。
会って、話がしたい。そう思った。
そのためには――あたしはゆっくりと立ち上がる。
グリーンの魂は、ジェダ様が用意した「神体」の中だ。ジェダ様がその気にならないと、そこから解放されない。
逆に言えば。
ジェダ様がその気になれば、いつでも話くらいなら出来るってことでもある。
ジェダ様さえその気にすれば、簡単にあたしの望みが、叶う。そのためにも。
「……優勝、かな……」
あのままジェダ様の下で働いてれば、仕事のお駄賃代わりにお願いできたのかもしれないけれど……。
今のあたしは、他の参加者のみんなと一緒。
ジェダ様にお願いするには、もう、優勝してそのご褒美を頼みにするしかない。
ここから先は――「遊び」は抜き。しばらくは、我慢しなきゃ。
エヴァにメチャクチャにやられちゃったように、あたしは決して、強くない。
だから、真面目に、真剣に、必死に、頑張ろう。
もしもグリーンだったらどういう指示を出すか、私なりに考えて、私が自分で動いて戦うんだ。
身体で覚えた新しいコンボ、敵に使われた戦術、不意打ちに騙し討ち、必要ならば撤退も。
あたしにはもう、「遊んで」いる余裕は、ない。
だから、必要だったら、ぜんぶやる。
◇ ◇ ◇
……目の前には、あたしが愛した2人の屍。
申し訳ないけれど、ここから先は「遊ぶ」余裕はない。だから、使えそうな荷物は貰っていくことにした。
地図。名簿。コンパスや時計などの、支給品一式。一応、あんまりおいしくなさそうなご飯と水も。
『眠り火』とかいう、煙幕が8つ。使い道は……ちょっとよく考えよう。
『メタちゃん』って名前の、ぷにぷにと形を変えるモンスター。この子にはボールの中に戻ってもらった。
なんだかよく分からない、たぶんグリーンやニアを「好き」になった『お薬』のビン。
ぜんぶ黒いランドセルに詰めなおして、背中に背負った。
最初にジェダ様からランドセルを貰った時と同じ、新しい始まり――でも今度は「遊び」じゃないから。
ここから先は、生まれてはじめての、「本気」だから。
そのままその部屋を出て行こうとして、あたしはふと、視界の隅にキラリと光るモノに気付いた。
首輪。
あたしが翼でニアの首を斬りおとして、その弾みで外れて転がっていった首輪。
ふと思いついて拾い上げて、血を拭き取って綺麗にして、腕輪のように腕に嵌めてみる。
うん。オシャレだね。そして、とっても綺麗。
もう片方の腕にも、ニアが分析してたグリーンの首輪を嵌めてみる。
これはそう、言ってみれば……グリーンとニアの、生きた証。
優勝を目指す心が揺らがないよう、あたしを支える誓いの腕輪(リング)。
「じゃ……いってくるね。きっとまた、すぐに会えるから」
小さく別れを告げて、あたしは部屋の外に出る。
そのまま屋上に出て、翼を広げる。
頭上を見上げれば、そこには大きなお月様。
あたしはようやく、「ほんとうの戦い」を始めるために――
「あたしのバトルロワイヤル」を始めるために、月光差す夜空に飛び上がった。
【A-7/南部の研究所(B.A.B.E.L本部)屋上/1日目/真夜中】
【リリス@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]:右足と左腕にレーザー痕。顔に酷い腫れ。全身打撲。(以上全て応急手当済み)
疲労(大)。微かな哀しみとすっきりと澄み渡った決意。
[装備]:首輪×2(グリーンとニアのもの。腕輪のように両腕に通している)
[道具]:基本支給品(ランドセルは男物)、眠り火×8@落第忍者乱太郎、魔女の媚薬@H×H、
メタちゃん(メタモン)@ポケットモンスターSPECIAL、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、
[思考]:ここからが……あたしの、本気だよ
第一行動方針:とりあえずB.A.B.E.L.本部を離れる。(その後は戦闘? それとも一時休息?)
基本行動方針:優勝して、グリーンの魂ともう一度語り合う。もう「遊び」に夢中になったりはしない。
[備考]:
荷物の中の『魔女の媚薬@H×H』には説明書がついていません。
[状態]:右足と左腕にレーザー痕。顔に酷い腫れ。全身打撲。(以上全て応急手当済み)
疲労(大)。微かな哀しみとすっきりと澄み渡った決意。
[装備]:首輪×2(グリーンとニアのもの。腕輪のように両腕に通している)
[道具]:基本支給品(ランドセルは男物)、眠り火×8@落第忍者乱太郎、魔女の媚薬@H×H、
メタちゃん(メタモン)@ポケットモンスターSPECIAL、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、
[思考]:ここからが……あたしの、本気だよ
第一行動方針:とりあえずB.A.B.E.L.本部を離れる。(その後は戦闘? それとも一時休息?)
基本行動方針:優勝して、グリーンの魂ともう一度語り合う。もう「遊び」に夢中になったりはしない。
[備考]:
荷物の中の『魔女の媚薬@H×H』には説明書がついていません。
【ニア@DEATH NOTE 死亡】
[備考]
ニアとグリーンの遺体が、B.A.B.E.L.の中心であるモニターの部屋に並んで寝かされています。
どちらも首を斬りおとされ、胸や腹部に傷を追っています。首輪は残されていません。
ニアとグリーンの遺体が、B.A.B.E.L.の中心であるモニターの部屋に並んで寝かされています。
どちらも首を斬りおとされ、胸や腹部に傷を追っています。首輪は残されていません。
同じ部屋の起動しっぱなしの端末の中には、ニアの『考察メモ』が残されています。
『考察メモ』には首輪の解析結果、ニアによる考察、リリスからの情報などが簡潔に纏められています。
具体的な詳しい内容は後続の書き手にお任せします。
『考察メモ』には首輪の解析結果、ニアによる考察、リリスからの情報などが簡潔に纏められています。
具体的な詳しい内容は後続の書き手にお任せします。
ニアが持っていた『はりぼて首輪』は、解析の過程で分解され、原型を留めず消滅しています。
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