遺。(中編) ◆T4jDXqBeas
庭師の鋏を、ニケの喉笛に、振り下ろした。
そのはずだった。
「…………え……?」
それなのに、彼が死んでいないのはどうしてだろう。
振り下ろしたはずの腕が下りていないのはどうしてだろう。
鋏を掴み、振り下ろそうとしたその体勢のままで。
振り下ろしたはずの腕が下りていないのはどうしてだろう。
鋏を掴み、振り下ろそうとしたその体勢のままで。
固まったように動きを止めているのは、どうしてだろう。
殺すはずなのに。
殺すしか無いのに。
殺す覚悟をしたのに。
殺そうとしているのに。
殺すしか無いのに。
殺す覚悟をしたのに。
殺そうとしているのに。
どうしてまだ、この腕は止まってしまうのだろう。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
「お姉さんは、できなかったのね」
背後から聞こえるグレーテルの声は嘲りと蔑みと哀れみを孕んでいた。
「時々居るのよ、そういう子が。
それが世界のルールだって突きつけられて、頭では理解しているのね。
それなのにどうしてか、最後の一歩を踏み出せない。
勇気を出せない。
意気地無しなんだわ。
寒い夜に真っ赤で温かいシャワーを浴びることが。
恐怖に潤んだ綺麗な瞳を抉り出すことが。
自分より低い頭を叩き割ることが。
命乞いをする喉笛を縊ることが。
どうしてもできない、そんな子達よ。
上手くできない子は多いけど、やることさえできない子がたまにいるの。
そんな子がどうなるか、お姉さんはわかるかしら?」
それが世界のルールだって突きつけられて、頭では理解しているのね。
それなのにどうしてか、最後の一歩を踏み出せない。
勇気を出せない。
意気地無しなんだわ。
寒い夜に真っ赤で温かいシャワーを浴びることが。
恐怖に潤んだ綺麗な瞳を抉り出すことが。
自分より低い頭を叩き割ることが。
命乞いをする喉笛を縊ることが。
どうしてもできない、そんな子達よ。
上手くできない子は多いけど、やることさえできない子がたまにいるの。
そんな子がどうなるか、お姉さんはわかるかしら?」
「大人たちは言いました。
『その子をみんなで殺せ。殺すのを躊躇った子も殺せ』」
『その子をみんなで殺せ。殺すのを躊躇った子も殺せ』」
蒼星石に向けて、ショットガンを構えたグレーテルの姿があった。
目の前の光景とニケの叫びが視聴覚から認識されるよりも早く。
目の前の光景とニケの叫びが視聴覚から認識されるよりも早く。
「命を食べられない偏食の子はお腹を減らして死んでしまいました」
引き金が、引かれた。
蒼星石の残った右腕が吹き飛んだ。
残った左足にも拳銃から一発。
ヒビが入った左足も動かなくなる。
ヒビが入った左足も動かなくなる。
宙に浮かぼうともこれではバランスを崩すだけ。
壊された人形は打ちのめされて床に這う。
壊された人形は打ちのめされて床に這う。
「お姉さんももうおしまいね。残念だわ。
右足も壊して発破を掛けてあげたのに。
お姉さんがお兄さんを殺せたら、私がもう一人のお兄さんを殺してもらうご褒美で、
あなたを治してあげようかと思っていたのにね」
「う……な、なに…………?」
右足を破壊したのがグレーテルだという言葉にも動揺を覚えたが、更にその続き。
蒼星石が囚われの三人、ニケ、メロ、ブルーを殺して、自分のご褒美で自分を治す。
そういう話ではなかったのか。
グレーテルはくすりと笑い、布を掛けられた黒髪の少女に歩み寄る。
光の具合で深い藍色にも見える長い髪が除いた、三人目の人影に。
グレーテルは足を振り上げて。
その人影を、蹴っ飛ばした。
被せられていた布がはだけた。
右足も壊して発破を掛けてあげたのに。
お姉さんがお兄さんを殺せたら、私がもう一人のお兄さんを殺してもらうご褒美で、
あなたを治してあげようかと思っていたのにね」
「う……な、なに…………?」
右足を破壊したのがグレーテルだという言葉にも動揺を覚えたが、更にその続き。
蒼星石が囚われの三人、ニケ、メロ、ブルーを殺して、自分のご褒美で自分を治す。
そういう話ではなかったのか。
グレーテルはくすりと笑い、布を掛けられた黒髪の少女に歩み寄る。
光の具合で深い藍色にも見える長い髪が除いた、三人目の人影に。
グレーテルは足を振り上げて。
その人影を、蹴っ飛ばした。
被せられていた布がはだけた。
「……その……子は…………!?」
蒼星石は息を呑む。
一瞬だが先ほどの戦いで垣間見た少女とは姿が違う。
一回りは小さく、泥に汚れた、血の気を失った土気色の肢体。
息絶え絶えのニケも、横に転がるその遺体に息を呑んだ。
蒼星石は息を呑む。
一瞬だが先ほどの戦いで垣間見た少女とは姿が違う。
一回りは小さく、泥に汚れた、血の気を失った土気色の肢体。
息絶え絶えのニケも、横に転がるその遺体に息を呑んだ。
蒼星石はその死体が何処から来たのかを知っている。
塔から神社へと南下した際、神社を一通り調べて回った。
その時に見かけた土を盛られただけの簡素な墓。
蒼星石が止める間も無く、グレーテルは突撃槍のエネルギーで土を吹き飛ばした。
そこから姿を現した、黒い髪の少女の死体。
古手梨花の死体だった。
塔から神社へと南下した際、神社を一通り調べて回った。
その時に見かけた土を盛られただけの簡素な墓。
蒼星石が止める間も無く、グレーテルは突撃槍のエネルギーで土を吹き飛ばした。
そこから姿を現した、黒い髪の少女の死体。
古手梨花の死体だった。
「どうして? その死体は墓穴の中に置いてきたはずじゃ……」
「だってもう一人は逃がしてしまったんだもの。私も残念だわ」
だからグレーテルは、戯れに神社へ向かいその死体を持ってきた。
布を被せられた大き目の人影が、小さく震えた気がした。
その中に居る誰かが笑ったように思えた。
「だってもう一人は逃がしてしまったんだもの。私も残念だわ」
だからグレーテルは、戯れに神社へ向かいその死体を持ってきた。
布を被せられた大き目の人影が、小さく震えた気がした。
その中に居る誰かが笑ったように思えた。
「お姉さんは永遠に生きられなかった。
お兄さんを殺せなかった。だからここでおしまいなのよ」
お兄さんを殺せなかった。だからここでおしまいなのよ」
グレーテルは手に握る突撃槍を、まるでナイフのように軽々と振りかざして。
振り下ろそうと、して。
振り下ろそうと、して。
ガラスの割れる音が響いた。
「あら、お客さんだわ」
グレーテルは楽しげに笑った。
それは体育館玄関口のガラス戸が割れる音だ。
鍵を掛けられたガラス戸はそれ自体が風景に紛れ込んだ鳴子だった。
隠れ家に警報装置を仕掛ければ、その警報装置自体がそこが隠れ家である事を報せてしまう。
だからこの体育館の場合は、ただガラス戸に鍵を掛ければ良い。
それだけで無理に入ろうとすれば騒音の響く警報装置が出来上がる。
グレーテルが倉庫をぶちやぶった為に無意味と化していた正門を通り、それは侵入してきた。
グレーテルは楽しげに笑った。
それは体育館玄関口のガラス戸が割れる音だ。
鍵を掛けられたガラス戸はそれ自体が風景に紛れ込んだ鳴子だった。
隠れ家に警報装置を仕掛ければ、その警報装置自体がそこが隠れ家である事を報せてしまう。
だからこの体育館の場合は、ただガラス戸に鍵を掛ければ良い。
それだけで無理に入ろうとすれば騒音の響く警報装置が出来上がる。
グレーテルが倉庫をぶちやぶった為に無意味と化していた正門を通り、それは侵入してきた。
ゆっくりと着実に。
何者も怖れないしっかりとした足取りで。
舞台から遠く離れた玄関口に、彼女は姿を現した。
舞台の床に這い蹲る蒼星石やニケには見えないだろう。
グレーテルが知る由も無い、ニケ達の仲間だったはずの少女。
何者も怖れないしっかりとした足取りで。
舞台から遠く離れた玄関口に、彼女は姿を現した。
舞台の床に這い蹲る蒼星石やニケには見えないだろう。
グレーテルが知る由も無い、ニケ達の仲間だったはずの少女。
「もう協定を破るのね、お姉さん。確かエヴァンジェリンっていったかしら」
七人の魔女の一人、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがそこに居た。
「そういうおまえは同盟の相棒殺しか。つくづく見下げ果てた奴だ」
「お姉さんもそうなんでしょう?」
「一緒にするな。私には最初から仲間など居なかった」
「あら、スケボーで逃げた女の子に呼ばれたんじゃないの?」
「さあな」
「お姉さんもそうなんでしょう?」
「一緒にするな。私には最初から仲間など居なかった」
「あら、スケボーで逃げた女の子に呼ばれたんじゃないの?」
「さあな」
それはあの数秒にメロが成した事。
スケボーを引っ張り出し、ブルーと共に、力いっぱい放り投げた。
ニケと自分に手間取るグレーテルの頭上を越えて、破られた壁の向こう側へ。
動機は感情的だけれど、精密な判断で下された、ブルーを逃がす為の一手。
かくしてブルーは逃げ延びた。
スケボーを引っ張り出し、ブルーと共に、力いっぱい放り投げた。
ニケと自分に手間取るグレーテルの頭上を越えて、破られた壁の向こう側へ。
動機は感情的だけれど、精密な判断で下された、ブルーを逃がす為の一手。
かくしてブルーは逃げ延びた。
「どちらにせよおまえには関係の無い事だ、小悪党。
今、おまえの目の前にいるのは不死の吸血鬼にして最強の悪の魔法使い様だ。
おまえはここでゴミ屑のように、死ね!」
今、おまえの目の前にいるのは不死の吸血鬼にして最強の悪の魔法使い様だ。
おまえはここでゴミ屑のように、死ね!」
無詠唱で放たれた闇の一矢が開幕を告げる。
厄種と吸血鬼の殺意が交錯した。
厄種と吸血鬼の殺意が交錯した。
* * *
メロは暗闇の中で、密やかにほくそえんだ。
可能性は低かった。
半分は感情による選択だった事も否定できない。
だがあの場で取れる数少ない有効な選択肢だった事はこの結果が証明してくれた。
(完全に運試しだったな)
笑みには自嘲まで混じっている。
ブルーがあの場から逃げ延びられる可能性は低くなかった。
厄種の性格からして、戦力で圧倒的に劣る獲物はすぐに殺さず嬲り者にする可能性も高いと踏んでいた。
可能性は低かった。
半分は感情による選択だった事も否定できない。
だがあの場で取れる数少ない有効な選択肢だった事はこの結果が証明してくれた。
(完全に運試しだったな)
笑みには自嘲まで混じっている。
ブルーがあの場から逃げ延びられる可能性は低くなかった。
厄種の性格からして、戦力で圧倒的に劣る獲物はすぐに殺さず嬲り者にする可能性も高いと踏んでいた。
だがブルーが裏切らずに救援を呼んでくれる可能性は期待できなかったし、
迅速に救援が見つかり、それが少なくとも事態を掻き回す力を持つ可能性も低かった。
獲物として、神社で言葉を交わしたニケの方を優先してくれる可能性も五分五分だ。
執着する獲物を先に楽しむか、後に回して楽しむかは完全に気分次第だからだ。
むしろニケより先に惨殺され、舞台演出に使われる可能性も高かった。
殆ど奇跡の様な偶然が重なって、メロは僅かな生の可能性を得た。
迅速に救援が見つかり、それが少なくとも事態を掻き回す力を持つ可能性も低かった。
獲物として、神社で言葉を交わしたニケの方を優先してくれる可能性も五分五分だ。
執着する獲物を先に楽しむか、後に回して楽しむかは完全に気分次第だからだ。
むしろニケより先に惨殺され、舞台演出に使われる可能性も高かった。
殆ど奇跡の様な偶然が重なって、メロは僅かな生の可能性を得た。
(なのに……なんだ、この胸騒ぎは?)
この救援──タイミングから見てブルーが関係した可能性は高いと思える見覚えのある人物。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
夕方、ニケ達一行が神社に担いできたチャチャゼロの主人。
間違いなくニケの味方だろう。
そしてメロの相棒を務めていたチャチャゼロの主人でもある。
どうやら近くに転がってはいない──恐らく無言を貫いて体育倉庫に放置されたのだろう、
チャチャゼロに仲介を頼む事も出来るはずだ。
(チャチャゼロが厄種に寝返ってない事は感謝しておくか。勝ち組に付くのはおかしくないからな)
エヴァは味方。
あるいは取り入れる相手。そう考えて良い筈だ。
事は良い方向に転がっている。
生憎ニケはもうすぐ死ぬが、彼を一度助けた功績だってある──。
(不味い、自由を確保しないとヤバイ)
メロはその可能性に気がついた。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
夕方、ニケ達一行が神社に担いできたチャチャゼロの主人。
間違いなくニケの味方だろう。
そしてメロの相棒を務めていたチャチャゼロの主人でもある。
どうやら近くに転がってはいない──恐らく無言を貫いて体育倉庫に放置されたのだろう、
チャチャゼロに仲介を頼む事も出来るはずだ。
(チャチャゼロが厄種に寝返ってない事は感謝しておくか。勝ち組に付くのはおかしくないからな)
エヴァは味方。
あるいは取り入れる相手。そう考えて良い筈だ。
事は良い方向に転がっている。
生憎ニケはもうすぐ死ぬが、彼を一度助けた功績だってある──。
(不味い、自由を確保しないとヤバイ)
メロはその可能性に気がついた。
蓄えていた体力を開放していく。
拘束は鉄の楔で手首を舞台の床に挟み込んだだけ、手首自体を破壊されてはいない。
爪剥ぎ器で拷問するためには、指の感覚が生きていなければならないからだ。
おかげで監視さえ無ければ抜け出る隙がある。
ほんの少し。
ほんの少しだけ楔を浮かせる事が出来れば、腕を抜く事ができる。
拘束は鉄の楔で手首を舞台の床に挟み込んだだけ、手首自体を破壊されてはいない。
爪剥ぎ器で拷問するためには、指の感覚が生きていなければならないからだ。
おかげで監視さえ無ければ抜け出る隙がある。
ほんの少し。
ほんの少しだけ楔を浮かせる事が出来れば、腕を抜く事ができる。
しかし、びくともしない。
楔は強固に床板を噛み締めていて、片腕の、それも力の入りにくい体勢からではぴくりとも動かない。
(チッ。仕方がないか)
メロは覚悟を決めると、声を漏らさないように強く歯を噛み締めて。
「…………っ」
右手の親指の間接を、亜脱臼させた。
楔は強固に床板を噛み締めていて、片腕の、それも力の入りにくい体勢からではぴくりとも動かない。
(チッ。仕方がないか)
メロは覚悟を決めると、声を漏らさないように強く歯を噛み締めて。
「…………っ」
右手の親指の間接を、亜脱臼させた。
要するにポピュラーな縄抜けだ。
しかし一度外した間接は戻してもずっと痛み続けるし、外す時の痛みも強烈なものとなる。
数日の範囲で言えば親指の握力を捨てたようなものだ。
(左腕は感覚も鈍く指を二本失い、右腕も親指無しか。
まあ良い、握力は落ちるが物を握れないわけじゃない)
メロは痛みと不便をその一言で片付けた。
そして顔に掛かった布を首の振りでずらして、戦いへ目を向けた。
しかし一度外した間接は戻してもずっと痛み続けるし、外す時の痛みも強烈なものとなる。
数日の範囲で言えば親指の握力を捨てたようなものだ。
(左腕は感覚も鈍く指を二本失い、右腕も親指無しか。
まあ良い、握力は落ちるが物を握れないわけじゃない)
メロは痛みと不便をその一言で片付けた。
そして顔に掛かった布を首の振りでずらして、戦いへ目を向けた。
エヴァとグレーテルの戦いは、傍目からでも趨勢が見えていた
それは瞬時に決着するという物では無かったが、一方的な物には違いない。
優勢なのは……エヴァ。
それは瞬時に決着するという物では無かったが、一方的な物には違いない。
優勢なのは……エヴァ。
広い体育館内で戦っている事が最大の要因だったのだろう。
グレーテルは遮蔽物を利用した撹乱しながらの戦いにおいてはプロフェッショナルでも、
開けた空間での正面対決を得意としているわけではない。
そもそも戦闘経験では数百年を生きたエヴァンジェリンに敵うはずもない。
天性の才覚と闘争本能でこの戦場に向いた武器である突撃槍を使いこなしつつはあったが、
それでもまだ、自在に飛び回り的確な魔法で戦機を支配するエヴァンジェリンには及ばない。
何より全身の負傷が体を引き摺り、その強みさえも殺している。
核鉄状態で行動した数時間はかなりの傷を癒してくれたが、それでも依然ハンデが残る。
グレーテルの攻撃がエヴァに届く様子は一切無い。
しかしそれでもメロは、エヴァンジェリンが歯噛みしているのを見た。
(なるほど、そういう事か)
グレーテルは遮蔽物を利用した撹乱しながらの戦いにおいてはプロフェッショナルでも、
開けた空間での正面対決を得意としているわけではない。
そもそも戦闘経験では数百年を生きたエヴァンジェリンに敵うはずもない。
天性の才覚と闘争本能でこの戦場に向いた武器である突撃槍を使いこなしつつはあったが、
それでもまだ、自在に飛び回り的確な魔法で戦機を支配するエヴァンジェリンには及ばない。
何より全身の負傷が体を引き摺り、その強みさえも殺している。
核鉄状態で行動した数時間はかなりの傷を癒してくれたが、それでも依然ハンデが残る。
グレーテルの攻撃がエヴァに届く様子は一切無い。
しかしそれでもメロは、エヴァンジェリンが歯噛みしているのを見た。
(なるほど、そういう事か)
徐々に追い詰めているが、当たってはいない。
当たれば氷結する魔法の矢は受け止めた突撃槍の武装錬金を一瞬だけ凍らせて、
次の瞬間にはエネルギーの飾り布で溶かされる。
戦場はエヴァにとって有利だったが、武器の相性はむしろ不利だ。
グレーテルが全力で戦えば、勝敗は覆らずともここまで一方的な趨勢を見せてはいない。
グレーテルは本気で戦っていなかった。
(あの厄種、既に退き際を捜していやがる)
勝てると見ればどこまでも高圧的に。
しかし勝てないと見れば即座に退く。
劣勢の側にとって模範解答だろう。
優勢の側にとっても退こうとするその瞬間を狙うのが一番効率的だ。
その判断自体は素早く、的確である。
(所詮は感覚だけに頼る相手だ、誘い込めば……いや、今は良い)
それ以前に距離を取らなければならない。
この戦いから離れなければならない。
あの二人の戦いが決着するその前──。
当たれば氷結する魔法の矢は受け止めた突撃槍の武装錬金を一瞬だけ凍らせて、
次の瞬間にはエネルギーの飾り布で溶かされる。
戦場はエヴァにとって有利だったが、武器の相性はむしろ不利だ。
グレーテルが全力で戦えば、勝敗は覆らずともここまで一方的な趨勢を見せてはいない。
グレーテルは本気で戦っていなかった。
(あの厄種、既に退き際を捜していやがる)
勝てると見ればどこまでも高圧的に。
しかし勝てないと見れば即座に退く。
劣勢の側にとって模範解答だろう。
優勢の側にとっても退こうとするその瞬間を狙うのが一番効率的だ。
その判断自体は素早く、的確である。
(所詮は感覚だけに頼る相手だ、誘い込めば……いや、今は良い)
それ以前に距離を取らなければならない。
この戦いから離れなければならない。
あの二人の戦いが決着するその前──。
予想外に早くその瞬間が来た。
ウンデキム・スピリトゥス・グラキアーレス・コエウンテース・イニミクム・コンキダント・サギタ・マギカ・セリエス・グラキアーリス
「氷の精霊11頭、集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手・連弾・氷の11矢!」
エヴァが唄うような詠唱と共に十一の氷の矢を解き放つ。
囲い込むように放たれた氷の矢は、しかしただの布石。
これによりグレーテルの左右と後方は封じられ、残るは前方のみ。
だがエヴァは無策な突撃など容易く返り討ちにするだろう。
よってグレーテルは、突撃槍の武装錬金サンライトハートの推進力を使い。
上空へと飛んだ。
それだけなら戦いはエヴァの勝利で決着していただろう。
空中でもエネルギーの飾り布で推進力を得る事は出来るが、逆に言えばそれだけだ。
二本の足で地面を駆け回れる地上に比べればどうしても小回りが利かない。
だが、それだけではなかった。
メロの目と鼻の先に引き裂かれたボトルが落ちてきた。
(不味い!!)
メロは咄嗟に鼻を押さえ息を止める。
大きな動きは目覚めている事を発覚させるが、最早そんな事を言ってはいられない。
視界の端でそれを見たエヴァも理解する。
「氷の精霊11頭、集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手・連弾・氷の11矢!」
エヴァが唄うような詠唱と共に十一の氷の矢を解き放つ。
囲い込むように放たれた氷の矢は、しかしただの布石。
これによりグレーテルの左右と後方は封じられ、残るは前方のみ。
だがエヴァは無策な突撃など容易く返り討ちにするだろう。
よってグレーテルは、突撃槍の武装錬金サンライトハートの推進力を使い。
上空へと飛んだ。
それだけなら戦いはエヴァの勝利で決着していただろう。
空中でもエネルギーの飾り布で推進力を得る事は出来るが、逆に言えばそれだけだ。
二本の足で地面を駆け回れる地上に比べればどうしても小回りが利かない。
だが、それだけではなかった。
メロの目と鼻の先に引き裂かれたボトルが落ちてきた。
(不味い!!)
メロは咄嗟に鼻を押さえ息を止める。
大きな動きは目覚めている事を発覚させるが、最早そんな事を言ってはいられない。
視界の端でそれを見たエヴァも理解する。
グレーテルが舞台に投げたボトルからは毒ガスが溢れ出していた。
塩素系洗剤と酸性洗剤を混ぜた為に生まれる塩素ガスだ。
メロは刺激臭を感じた瞬間に目を細め自由になっている右手で鼻を覆ったが、
完全に動きを封じられているニケはそうもいかない。
溢れ出した毒ガスは身動きの取れないニケを包み込もうとし。
メロは刺激臭を感じた瞬間に目を細め自由になっている右手で鼻を覆ったが、
完全に動きを封じられているニケはそうもいかない。
溢れ出した毒ガスは身動きの取れないニケを包み込もうとし。
ニウィス・カースス
「氷爆!」
「氷爆!」
エヴァの放った氷の爆発が天井近くで滞空するグレーテルに襲い掛かった。
同時に爆風が巻き起こり、毒ガスを吹き消す。
攻撃と救助を両立した最適の戦術。
では、ない。
防御を鑑みた攻撃はどうしても甘くなる。
爆風を舞台に届かせるため、氷の爆裂は僅かに低い位置へとズレていた。
同時に爆風が巻き起こり、毒ガスを吹き消す。
攻撃と救助を両立した最適の戦術。
では、ない。
防御を鑑みた攻撃はどうしても甘くなる。
爆風を舞台に届かせるため、氷の爆裂は僅かに低い位置へとズレていた。
恐らくエヴァはこの隙にグレーテルが逃げる事を、仕方なしとしたのだろう。
仲間だと気付かれれば人質に使われてしまう。
だからエヴァはこの戦いの間そんな様子をまるで見せなかったが、
ニケを見捨てたわけでも気付いていなかったわけでもなかったのだ。
仲間だと気付かれれば人質に使われてしまう。
だからエヴァはこの戦いの間そんな様子をまるで見せなかったが、
ニケを見捨てたわけでも気付いていなかったわけでもなかったのだ。
しかしメロはガスを吹き散らす冷たい大気の中で叫んだ。
「馬鹿が!!」
「馬鹿が!!」
エヴァが歯噛みする。
上空で起きた氷の爆発は高熱のエネルギーで吹き消されていた。
同時に閃光が降り注ぐ。
目が眩む。エヴァの視界が山吹色に塗り潰される。
上空で起きた氷の爆発は高熱のエネルギーで吹き消されていた。
同時に閃光が降り注ぐ。
目が眩む。エヴァの視界が山吹色に塗り潰される。
グレーテルの狙いは逃亡などではなかった。
逃亡すると思わせた隙を突き、必殺の一撃を放つ事。逆境ですら殺害を選ぶ狂犬の選択だ。
空中に浮かぶ突撃槍の武装錬金に片手で掴まり、もう一方の手に拳銃を握り締めていた。
エヴァとの戦闘中には奇妙に思えるほど使っていなかったソードカトラス。
予想だにしない銃弾の引き金が、引かれた。
続けざまに、三回。
逃亡すると思わせた隙を突き、必殺の一撃を放つ事。逆境ですら殺害を選ぶ狂犬の選択だ。
空中に浮かぶ突撃槍の武装錬金に片手で掴まり、もう一方の手に拳銃を握り締めていた。
エヴァとの戦闘中には奇妙に思えるほど使っていなかったソードカトラス。
予想だにしない銃弾の引き金が、引かれた。
続けざまに、三回。
「ぐぁっ」
浅い。
ギリギリでメロの叫びが間に合ったのか、それとも狙い自体が逸れたのか。
三発の銃弾は一発が左肩を貫き、そこまでだった。
三発の銃弾は一発が左肩を貫き、そこまでだった。
しかしグレーテルもそうなるかもしれない事を見越していたのだろう。
突撃槍サンライトハートを盾にしながら、飾り布のエネルギー出力を開放する。
そのまま天井を突き破り、この場から逃亡しようとする。
突撃槍サンライトハートを盾にしながら、飾り布のエネルギー出力を開放する。
そのまま天井を突き破り、この場から逃亡しようとする。
「逃、すかァッ」
絶叫と共にエヴァが手を伸ばす。
空へと逃げようとするグレーテルに向けて。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
その手の先に渾身の魔力が集中し。
空気の凍てつくキンキンという耳障りな音を立てて。
伸ばした手から、白いビーム状の剣が発生していた。
空へと逃げようとするグレーテルに向けて。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
その手の先に渾身の魔力が集中し。
空気の凍てつくキンキンという耳障りな音を立てて。
伸ばした手から、白いビーム状の剣が発生していた。
いや、それはビームなどではない。
触れたものを強制的に気体へと相転移させ、全てを断ち切る必殺の魔法。
触れたものを強制的に気体へと相転移させ、全てを断ち切る必殺の魔法。
エンシス・エクセクエンス
「エクスキューショナーソード」
「エクスキューショナーソード」
白き剣がサンライトハートを貫いた。
それでもエヴァの表情は歪む。
サンライトハートを貫いた切っ先はしかしグレーテルを僅かに外れ、その服を掠めていた。
直撃してはいなかったのだ。
だが何故か、グレーテルの表情も苦痛に歪む。
サンライトハートを貫いた切っ先はしかしグレーテルを僅かに外れ、その服を掠めていた。
直撃してはいなかったのだ。
だが何故か、グレーテルの表情も苦痛に歪む。
「ああああああああああああぁっ」
絶叫と共にサンライトハートのエネルギー放出が全開に達する。
槍の切っ先が体育館の天井に突き当たる。瞬時に槍が突き破る。
少女の姿は天井を突き破って遥か上空で方向を転換し、何処かへと飛び去った。
騒音を立てて天井の破片と共に、豪雨が体育館の床を叩き始めた。
槍の切っ先が体育館の天井に突き当たる。瞬時に槍が突き破る。
少女の姿は天井を突き破って遥か上空で方向を転換し、何処かへと飛び去った。
騒音を立てて天井の破片と共に、豪雨が体育館の床を叩き始めた。
厄種は、去った。
遠くへ。
遠くへ。
「な、に……?」
エヴァは戸惑いを露にした。
エクスキューショナー・ソード。
極めて高度な魔法ではあるが、古典ギリシア語ではなくラテン語で構成されたこの魔法は、
今のエヴァが使える魔法の中で最強クラスの殺傷力を誇る。
直撃部分を蒸発させるビーム状の剣部分は一撃必殺の破壊力を持っているし、
直撃までしなくとも強制的に相転移された物質は急激に温度を奪われる。
グレーテルにも相応の冷気を至近距離から浴びせる事が出来たはずだ。
しかし強烈な苦痛を感じる程の冷気であれば、悲鳴の前にまず体が凍えるはずだ。
強烈なエネルギー噴射で冷気を緩和されたのだとすれば、それこそ悲鳴を上げる理由が無い。
エヴァの中に一抹の困惑が残り、それ以上に。
「うぐ……くそ、やってくれたな、小娘……っ」
湧き出す苦痛に表情を歪ませた。
エヴァは戸惑いを露にした。
エクスキューショナー・ソード。
極めて高度な魔法ではあるが、古典ギリシア語ではなくラテン語で構成されたこの魔法は、
今のエヴァが使える魔法の中で最強クラスの殺傷力を誇る。
直撃部分を蒸発させるビーム状の剣部分は一撃必殺の破壊力を持っているし、
直撃までしなくとも強制的に相転移された物質は急激に温度を奪われる。
グレーテルにも相応の冷気を至近距離から浴びせる事が出来たはずだ。
しかし強烈な苦痛を感じる程の冷気であれば、悲鳴の前にまず体が凍えるはずだ。
強烈なエネルギー噴射で冷気を緩和されたのだとすれば、それこそ悲鳴を上げる理由が無い。
エヴァの中に一抹の困惑が残り、それ以上に。
「うぐ……くそ、やってくれたな、小娘……っ」
湧き出す苦痛に表情を歪ませた。
グレーテルの持つソードカトラスから放たれたのは本来の9mmパラベラム弾ではなかった。
それより僅かに小さい.380ACP弾、所謂9mmショート弾だ。
9mmパラベラムとそれより僅かに大きい9mm×21弾を使えるソードカトラスとはいえ、
9mmショート弾は本来対応していない種類の弾丸だ。
同じ自動拳銃用同口径弾とはいえ、下手をすればジャム(弾詰まり)を起こしてもおかしくない。
本来の9mmパラベラム弾の弾数に余裕が有ったにも関わらず、9mmショート弾を使った理由は何か。
それより僅かに小さい.380ACP弾、所謂9mmショート弾だ。
9mmパラベラムとそれより僅かに大きい9mm×21弾を使えるソードカトラスとはいえ、
9mmショート弾は本来対応していない種類の弾丸だ。
同じ自動拳銃用同口径弾とはいえ、下手をすればジャム(弾詰まり)を起こしてもおかしくない。
本来の9mmパラベラム弾の弾数に余裕が有ったにも関わらず、9mmショート弾を使った理由は何か。
「う……ぐ…………ああああああっ!!」
鉤爪が伸びたエヴァの指先が肩の銃創を突き刺し、抉り、掴み取る。
引き抜いた。
引き抜いた。
その銃弾は、エヴァの指先で銀色に輝いていた。
メロが所持していた十四発の銀の銃弾。
魔に属する者を打ち破る必滅の弾丸である。
幾ら日光を克服したエヴァンジェリンといえども、この弾丸は通常の弾丸以上に痛手であった。
予想以上のダメージさえなければ処刑人の剣はグレーテルの体を貫いていたはずだ。
弱々しく左腕を握り締めようとする。
指が少し動いただけだった。
(左腕は、ダメか)
雨が降っているとはいえ、満月の夜だ。
この日のエヴァは吸血鬼の力を大幅に取り戻す。
その再生力により出血を心配する必要は無かったが、機能は殆ど死んでいた。
何日もすればともかく、一朝一夕で回復する事は無いだろう。
(近づけなければ良い話だ)
そう切って捨てる。
エヴァの主武器である魔法への影響は殆ど無い。
近寄られた時の危険は増大したが、どうにもできない程ではない。
エヴァは一切の問題なく、戦える。
魔に属する者を打ち破る必滅の弾丸である。
幾ら日光を克服したエヴァンジェリンといえども、この弾丸は通常の弾丸以上に痛手であった。
予想以上のダメージさえなければ処刑人の剣はグレーテルの体を貫いていたはずだ。
弱々しく左腕を握り締めようとする。
指が少し動いただけだった。
(左腕は、ダメか)
雨が降っているとはいえ、満月の夜だ。
この日のエヴァは吸血鬼の力を大幅に取り戻す。
その再生力により出血を心配する必要は無かったが、機能は殆ど死んでいた。
何日もすればともかく、一朝一夕で回復する事は無いだろう。
(近づけなければ良い話だ)
そう切って捨てる。
エヴァの主武器である魔法への影響は殆ど無い。
近寄られた時の危険は増大したが、どうにもできない程ではない。
エヴァは一切の問題なく、戦える。
それを確認した彼女は舞台を見た。
そこに在る、惨状を視た。
そこに在る、惨状を視た。
まず目に入ったのは、なんとか自力で楔から開放されて起き上がっているメロ。
両腕を負傷しているようだが、それでも彼は軽傷な方だ。
両腕を負傷しているようだが、それでも彼は軽傷な方だ。
次に四肢を引き裂かれた人形、蒼星石が目に入る。
無惨だった。恐らくはもう、何も出来ないだろう。
無惨だった。恐らくはもう、何も出来ないだろう。
それから掘り起こされた古手梨花の姿。
エヴァが殺してしまった。殺した少女の、遺体。
心を凍らして意識的に無視する。今は、立ち止まれない。
エヴァが殺してしまった。殺した少女の、遺体。
心を凍らして意識的に無視する。今は、立ち止まれない。
最後に、ニケの姿が目に入った。
即死していないのは嬲り殺しを好むグレーテルが傷つけたからだ。
だから、まだ、死んでいない。
まだ。
意識が有るのかも判らない、惨状。
それが今のニケの概況だった。
だから、まだ、死んでいない。
まだ。
意識が有るのかも判らない、惨状。
それが今のニケの概況だった。
エヴァの目が、舞台袖から立ち去ろうとするメロを捉えた。
二人の目が合う。
思考までも。
闇の世界に生きた二人は、それぞれの素振りを見ただけで、その意図を理解していた。
「チャチャゼロは多分倉庫の方に転がっているはずだ」
「……なに?」
しかしメロの言葉はエヴァにとって予想外のものだ。
メロは続ける。
「あいつはこの島に来てから俺の相棒だった。お互いに世話になった」
「そうか」
メロが思ったとおりの、乾いた答え。
メロは続ける。
「それからそこに転がっている人形のガキはさっきの厄種の仲間だった」
「知っている」
メロにとって少し予想外の、予想できなくもなかった答え。
メロは続ける。
「そこのニケも何度か俺が助けた。神社でおまえを背負ってきた奴らと会ってな。縁が有った」
「そうか」
予想通りの会話を経て。
二人の目が合う。
思考までも。
闇の世界に生きた二人は、それぞれの素振りを見ただけで、その意図を理解していた。
「チャチャゼロは多分倉庫の方に転がっているはずだ」
「……なに?」
しかしメロの言葉はエヴァにとって予想外のものだ。
メロは続ける。
「あいつはこの島に来てから俺の相棒だった。お互いに世話になった」
「そうか」
メロが思ったとおりの、乾いた答え。
メロは続ける。
「それからそこに転がっている人形のガキはさっきの厄種の仲間だった」
「知っている」
メロにとって少し予想外の、予想できなくもなかった答え。
メロは続ける。
「そこのニケも何度か俺が助けた。神社でおまえを背負ってきた奴らと会ってな。縁が有った」
「そうか」
予想通りの会話を経て。
「あんたはこれまでに何人殺した?」
「生憎、そこに転がっている娘だけだよ」
「生憎、そこに転がっている娘だけだよ」
メロは脱兎の如く舞台袖から逃げ出した。
エヴァが、それを追った。
エヴァが、それを追った。
* * *
「どうやら無事だったみたいね、メロ」
「ブルーか」
飛び出したメロは学校裏の森まで逃げ込もうという所で、彼女に出会った。
ブルー。
雨の中、木々の陰に隠れて学校の様子を見ていた少女。
メロが逃がした、恐らくはエヴァを呼び込んだ、メロの仲間だと言えなくもない女。
「その分じゃあのエヴァって女はあなたを助けてくれたみたいだけど」
「ああ、だが逃げろ!」
「えっ」
魔法の矢が飛来した。
「ブルーか」
飛び出したメロは学校裏の森まで逃げ込もうという所で、彼女に出会った。
ブルー。
雨の中、木々の陰に隠れて学校の様子を見ていた少女。
メロが逃がした、恐らくはエヴァを呼び込んだ、メロの仲間だと言えなくもない女。
「その分じゃあのエヴァって女はあなたを助けてくれたみたいだけど」
「ああ、だが逃げろ!」
「えっ」
魔法の矢が飛来した。
「な、なんで襲ってくるのよ! あいつは神社に来たお人よし共の仲間でしょう!?」
「その仲間が瀕死で、動けない瀕死の敵が一人居て、それから既に殺したのが一人!」
走りながらのメロの叫びで理解した。
「その仲間が瀕死で、動けない瀕死の敵が一人居て、それから既に殺したのが一人!」
走りながらのメロの叫びで理解した。
追える速さで逃げたメロを殺し、戻って動けないもう一人を殺せば、ご褒美が貰える。
しかしまだ疑問が続く。
叫び問い、喚く答えが返ってくる。
「どうして! 正義の味方の味方なら、こんな事っ」
「そして奴は、自分を悪の魔法使いだと自称した!」
「っ!!」
叫び問い、喚く答えが返ってくる。
「どうして! 正義の味方の味方なら、こんな事っ」
「そして奴は、自分を悪の魔法使いだと自称した!」
「っ!!」
エヴァは確かにニケの仲間だった。
だからエヴァは、攻撃を半ば防御に回してでもニケを毒ガスから助けた。
だからエヴァは、攻撃を半ば防御に回してでもニケを毒ガスから助けた。
しかしエヴァは悪だった。
だから道徳や倫理に縛られる事は無い。
だから道徳や倫理に縛られる事は無い。
自らの悪の誇りにさえ折り合いを付けて、エヴァはメロに襲い来る。
そして戦いのプロフェッショナルではないメロが。
戦いの指揮のプロフェッショナルでしかないブルーが。
ダークエヴァンジェル
闇の福音 から逃れうるはずがない!
そして戦いのプロフェッショナルではないメロが。
戦いの指揮のプロフェッショナルでしかないブルーが。
ダークエヴァンジェル
闇の福音 から逃れうるはずがない!
ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・エクステンダントゥル・アーエーリ・トゥンドラーム・エト・グラキエーム・ロキー・ノクティス・アルバエ……
「来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を……」
「来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を……」
メロは響く詠唱にハッと振り返り、ブルーを横へと突き飛ばした。
泥と水飛沫が弾ける地面を踏みしめて、メロは闇に閉ざされた空を見上げた。
(来る)
逃れえぬ攻撃が。
泥と水飛沫が弾ける地面を踏みしめて、メロは闇に閉ざされた空を見上げた。
(来る)
逃れえぬ攻撃が。
クリュスタリザティオー・テルストリス
「こおる大地」
「こおる大地」
血飛沫が舞った。
叫びと苦悶が交錯した。
叫びと苦悶が交錯した。
エヴァンジェリンは上空からメロの姿を目視する。
視界は二人の持つ明かりからも外れて闇に覆われていたが、吸血鬼の視界に問題は無い。
降りしきる豪雨と凍てつく氷霧さえも、視界を隠し切る程ではない。
メロの胸の中央は真紅に染まっていた。
真っ赤な血の華が咲いていた。
視界は二人の持つ明かりからも外れて闇に覆われていたが、吸血鬼の視界に問題は無い。
降りしきる豪雨と凍てつく氷霧さえも、視界を隠し切る程ではない。
メロの胸の中央は真紅に染まっていた。
真っ赤な血の華が咲いていた。
凍る大地の生み出す鋭い氷柱は強力な殺傷力を持つ。
まだ苦悶に蠢いてはいるが、とどめを刺すまでも無い。
メロの側に居るもう一人の仲間を殺す理由も。
別れの言葉を交わすなら交わせば良い。
その程度の情けと、理由がある。
まだ苦悶に蠢いてはいるが、とどめを刺すまでも無い。
メロの側に居るもう一人の仲間を殺す理由も。
別れの言葉を交わすなら交わせば良い。
その程度の情けと、理由がある。
「聞くがいい、地を這う無力な子供」
彼女の名を。
ダーク・エヴァンジェル マガ・ノスフェラトゥ
「私の名は『闇の福音』、『不死の魔法使い』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!
最強の悪の魔法使いだ!
語り継ぐがいい、怖れるがいい、徒党を組み抗うが良い!
私は……悪だ!!」
「私の名は『闇の福音』、『不死の魔法使い』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!
最強の悪の魔法使いだ!
語り継ぐがいい、怖れるがいい、徒党を組み抗うが良い!
私は……悪だ!!」
悪として固められればそれで良い。
エヴァは踵を返し、学校の体育館に向けて飛び去った。
悪らしく、身勝手に、ただ自分の都合と理屈のためだけに。
あと一人を殺すために。
悪らしく、身勝手に、ただ自分の都合と理屈のためだけに。
あと一人を殺すために。
* * *
かくして舞台は再び、体育館の舞台へと舞い戻る。
そこはメロとエヴァが出て行った時のままだった。
そこはメロとエヴァが出て行った時のままだった。
グレーテルは天井を突き破って突撃槍で飛び去って、そのままだ。
あの絶叫がダメージによる物だとすれば、すぐには戻って来ないだろう。
あの絶叫がダメージによる物だとすれば、すぐには戻って来ないだろう。
古手梨花は死体として転がっているだけだった。
死体とは全てが終わった存在だ。
死体とは全てが終わった存在だ。
蒼星石は呆然と転がっているままだった。
もがれた四肢は彼女の選択肢を削ぎ落としていた。
もがれた四肢は彼女の選択肢を削ぎ落としていた。
ニケも楔に両手を括られたままだった。
まだ死んではいなかった。
違いが有るとすればただ。
目を見開き、粗い息を吐いて、意識を取り戻していた。
ただそれだけ。
だからエヴァは頓着する事も無く足を進める。
まだ死んではいなかった。
違いが有るとすればただ。
目を見開き、粗い息を吐いて、意識を取り戻していた。
ただそれだけ。
だからエヴァは頓着する事も無く足を進める。
「待て、よ」
そこに居る少年を助けようとしている。だけどそれはエヴァの勝手だ。
少年の意思を尊重する理由なんてこれっぽっちも有りはしない。
少年の意思を尊重する理由なんてこれっぽっちも有りはしない。
「待てよ……エヴァ!!」
だけどニケはそれを理解していないようだから。
エヴァは立ち止まり、ニケの姿を見下ろした。
エヴァは立ち止まり、ニケの姿を見下ろした。
ニケは見るも無惨な有様だった。
体は紅く染まり、血に濡れていない所を捜す方が難しい。
さっきのメロの何倍も、多く深く傷つけられた。
なのにニケは生きていた。
まだ、生きていた。
悲鳴を楽しめるように、すぐには死なないように。傷は場所を選んで穿たれた。
生き残る事のないように、ゆっくりと死ぬように、部位を選んで壊された。
エヴァはこの状態のニケを治す魔法なんて知らない。
元来不死であるエヴァは回復魔法に疎いのだ。
人を強化し操る力も制限されたし、元よりそれは傷を治す便利な術になりえない。
自分を治したらしいインデックスと会おうにも、移動させればそのまま死に果てる。
工場から彼女を攫って往復しても間に合わない。
エヴァにニケを救う手段は、一つしか無かった。
体は紅く染まり、血に濡れていない所を捜す方が難しい。
さっきのメロの何倍も、多く深く傷つけられた。
なのにニケは生きていた。
まだ、生きていた。
悲鳴を楽しめるように、すぐには死なないように。傷は場所を選んで穿たれた。
生き残る事のないように、ゆっくりと死ぬように、部位を選んで壊された。
エヴァはこの状態のニケを治す魔法なんて知らない。
元来不死であるエヴァは回復魔法に疎いのだ。
人を強化し操る力も制限されたし、元よりそれは傷を治す便利な術になりえない。
自分を治したらしいインデックスと会おうにも、移動させればそのまま死に果てる。
工場から彼女を攫って往復しても間に合わない。
エヴァにニケを救う手段は、一つしか無かった。
「思ったより元気そうだな。
しかし生憎だが、今のおまえに喋る権利は無い。恨み言なら後で聞いてやるぞ?
今、言葉を遺す権利が有るのはそっちの人形の娘だけだ」
蒼星石はビクッと震えた。それだけだ。
ニケは痛みを堪えて、囁くような声で精一杯、叫んだ。
「ご褒美でオレを回復するってのか!?」
エヴァは笑いもせず、ただ見下ろして。
頷いた。
しかし生憎だが、今のおまえに喋る権利は無い。恨み言なら後で聞いてやるぞ?
今、言葉を遺す権利が有るのはそっちの人形の娘だけだ」
蒼星石はビクッと震えた。それだけだ。
ニケは痛みを堪えて、囁くような声で精一杯、叫んだ。
「ご褒美でオレを回復するってのか!?」
エヴァは笑いもせず、ただ見下ろして。
頷いた。
「ああ、そうだ。だが高町なのはと一緒にするなよ。
私は正義の味方だなんて言うつもりは無い。
正しさに流されるつもりは無いし、勿論これが正しいなどとほざくつもりも無い。
私は私に都合が良いから、そこの人形を壊して、殺して、おまえを治す。
それだけだ」
高町なのはがそんな事をした、という事をニケは知らない。
だがそれはこの場に関係すらしていない。
「意味がわかんねー、よ」
「判らなくていいさ。これは私の勝手な願望にすぎん。
私はジェダを倒したい。だがその手段は私が選ぶ。
おまえの素っ頓狂な光魔法とやらはそれなりに有効そうだからな。
だからおまえを生かす、それだけの都合に過ぎないんだよ」
「こ、これはあれか。
『ア、アンタのためじゃないんだからね!』とか言うやつのヤバイバージョンその名もヤンデ」
「何事も茶化せば済むと思うなよ」
「うぐ……」
どうでもいい事だがツンとヤンは全く違う。
「私が気に食わないというなら正義の味方として私を倒しにくるがいい。
その時こそ私はおまえを迎え撃ってやろう」
ニケはじっと黙り。
エヴァもニケを見つめて。
ニケが、言った。
「……なんで、だよ」
エヴァが、応えた。
「おまえは勇者様で、私は悪の大魔法使いだ。
おまえは光の道、私は闇の道。ならば何時か道を違えるのは判りきっていた事だ」
また少しだけ、沈黙して。
血まみれのニケは、氷のような冷笑を浮かべているエヴァを見上げて。
「違うだろ」
「ほう? 何がだ」
ニケが、言った。
「おまえはオレ達の仲間だろ」
「………………」
沈黙を打ち落とした。
私は正義の味方だなんて言うつもりは無い。
正しさに流されるつもりは無いし、勿論これが正しいなどとほざくつもりも無い。
私は私に都合が良いから、そこの人形を壊して、殺して、おまえを治す。
それだけだ」
高町なのはがそんな事をした、という事をニケは知らない。
だがそれはこの場に関係すらしていない。
「意味がわかんねー、よ」
「判らなくていいさ。これは私の勝手な願望にすぎん。
私はジェダを倒したい。だがその手段は私が選ぶ。
おまえの素っ頓狂な光魔法とやらはそれなりに有効そうだからな。
だからおまえを生かす、それだけの都合に過ぎないんだよ」
「こ、これはあれか。
『ア、アンタのためじゃないんだからね!』とか言うやつのヤバイバージョンその名もヤンデ」
「何事も茶化せば済むと思うなよ」
「うぐ……」
どうでもいい事だがツンとヤンは全く違う。
「私が気に食わないというなら正義の味方として私を倒しにくるがいい。
その時こそ私はおまえを迎え撃ってやろう」
ニケはじっと黙り。
エヴァもニケを見つめて。
ニケが、言った。
「……なんで、だよ」
エヴァが、応えた。
「おまえは勇者様で、私は悪の大魔法使いだ。
おまえは光の道、私は闇の道。ならば何時か道を違えるのは判りきっていた事だ」
また少しだけ、沈黙して。
血まみれのニケは、氷のような冷笑を浮かべているエヴァを見上げて。
「違うだろ」
「ほう? 何がだ」
ニケが、言った。
「おまえはオレ達の仲間だろ」
「………………」
沈黙を打ち落とした。
「確かにエヴァは黒マント着て高笑いするのとか見下して誰かをゲシゲシ踏むのとか
すっげー似合ってるし正義の味方っていうよりラスボスみたいカッコただしツルペタで
ちんちくりんな事以外カッコ閉じるだけど」
「ッ………………」
一筋の青筋。ただそれだけで無視。
「でもさ!」
ニケが、言った。
「エヴァはオレ達の──オレとオレの仲間の、仲間じゃねーかっ」
「……勝手に決めるな」
あと今ので好感度落ちたぞと付け加えそうになった言葉を呑み込む。
エヴァはどこまでも冷たく、突き放す。
「大体、蒼星石はおまえの仲間ではないだろう?
仲間割れをしたようだが、そいつもおまえを襲った一人のはずだ。
私がそいつを殺そうとおまえには関係の無い事だろうよ」
「だけど」
「誰彼構わず助けるのが勇者様か? 立派だ。本当にご立派な事だな。
だがそんな事では結局のところ誰も助けられない。
そんな事では最初の頃の高町なのはの方がマシだったぞ!」
「だけどこいつは」
ニケが、言った。
「こいつは、オレを殺さなかった」
すっげー似合ってるし正義の味方っていうよりラスボスみたいカッコただしツルペタで
ちんちくりんな事以外カッコ閉じるだけど」
「ッ………………」
一筋の青筋。ただそれだけで無視。
「でもさ!」
ニケが、言った。
「エヴァはオレ達の──オレとオレの仲間の、仲間じゃねーかっ」
「……勝手に決めるな」
あと今ので好感度落ちたぞと付け加えそうになった言葉を呑み込む。
エヴァはどこまでも冷たく、突き放す。
「大体、蒼星石はおまえの仲間ではないだろう?
仲間割れをしたようだが、そいつもおまえを襲った一人のはずだ。
私がそいつを殺そうとおまえには関係の無い事だろうよ」
「だけど」
「誰彼構わず助けるのが勇者様か? 立派だ。本当にご立派な事だな。
だがそんな事では結局のところ誰も助けられない。
そんな事では最初の頃の高町なのはの方がマシだったぞ!」
「だけどこいつは」
ニケが、言った。
「こいつは、オレを殺さなかった」
沈黙。
静寂にも喧騒にもなれない、中途半端なただの沈黙。
穴から響く雨音が、屋根を叩く雨音が響き続ける。
その中で。
「だが、おまえには何もできない」
正しさの確信にも至らぬまま、ただ決断が成される。
エヴァはニケの前を通り過ぎ、蒼星石の許へ向かおうとして。
ニケから視線を外そうとして。
ほんの僅かだけ、それよりも早く。
そんな事は無いと笑い。
勇者ニケが、叫んだ。
「光魔法『カッコいいポーズ』!!」
「なにぃ!?」
静寂にも喧騒にもなれない、中途半端なただの沈黙。
穴から響く雨音が、屋根を叩く雨音が響き続ける。
その中で。
「だが、おまえには何もできない」
正しさの確信にも至らぬまま、ただ決断が成される。
エヴァはニケの前を通り過ぎ、蒼星石の許へ向かおうとして。
ニケから視線を外そうとして。
ほんの僅かだけ、それよりも早く。
そんな事は無いと笑い。
勇者ニケが、叫んだ。
「光魔法『カッコいいポーズ』!!」
「なにぃ!?」
魔物など闇に属する存在を縛る聖光がニケの全身から放射されていた。
見ればニケを括る両手の楔拘束は横に伸ばした大の字型だ。
足を封じられてはいない。
それならば出来る。定められたあのポーズを作る事が。
両手と指を左右に伸ばし、片足の膝を曲げ、もう片方の足は伸ばす。
それだけで作れる、カッコいいポーズ。
そこから放たれる聖なる光に照らされれば、
真祖とはいえ闇に属する吸血鬼であるエヴァが動けるはずもない。
見ればニケを括る両手の楔拘束は横に伸ばした大の字型だ。
足を封じられてはいない。
それならば出来る。定められたあのポーズを作る事が。
両手と指を左右に伸ばし、片足の膝を曲げ、もう片方の足は伸ばす。
それだけで作れる、カッコいいポーズ。
そこから放たれる聖なる光に照らされれば、
真祖とはいえ闇に属する吸血鬼であるエヴァが動けるはずもない。
しかし同時に、そこまでだ。
鼻で笑うエヴァ。
「フン。それで? そこからどうするつもりだ」
ニケはこの魔法を使用している間、何もできない。
ただでさえ拘束され深手を負っているニケには、尚更何も出来ない。
エヴァに殺害させまいとした蒼星石にも。
「そこの人形はどうせここまでだ。
手足をもがれて、戦う事は愚か逃げる事もできはしない」
「………………」
「考えも無しか? おまえもどうせその傷では……いや、おまえまさか!?」
エヴァは、その結末に気がついた。
ニケが、不敵な笑みでそれに答えた。
「この、愚か者がぁっ!!」
鼻で笑うエヴァ。
「フン。それで? そこからどうするつもりだ」
ニケはこの魔法を使用している間、何もできない。
ただでさえ拘束され深手を負っているニケには、尚更何も出来ない。
エヴァに殺害させまいとした蒼星石にも。
「そこの人形はどうせここまでだ。
手足をもがれて、戦う事は愚か逃げる事もできはしない」
「………………」
「考えも無しか? おまえもどうせその傷では……いや、おまえまさか!?」
エヴァは、その結末に気がついた。
ニケが、不敵な笑みでそれに答えた。
「この、愚か者がぁっ!!」
絶叫と共にエヴァは足掻く。光魔法から逃れようとする。
だが、できない。
カッコいいポーズはエヴァの自由を完全に奪っていた。
エヴァは怒りの言葉を叩きつけた。
「そのまま死ぬ気か、貴様!」
ゆっくりと死にゆくニケに。
だが、できない。
カッコいいポーズはエヴァの自由を完全に奪っていた。
エヴァは怒りの言葉を叩きつけた。
「そのまま死ぬ気か、貴様!」
ゆっくりと死にゆくニケに。
ニケの傷は即死するものでこそないが、完全に致命傷だった。
例えばそれは、エヴァが空を飛んで工場とを往復しインデックスを連れてきて
それから回復の儀式を行っていてはまず間に合わない位に。
そこへ来て寝そべりながらとはいえ無理な体勢を作ってのカッコいいポーズを使えば、
ニケが死ぬまでにかかる時間は更に短くなる。
もし死の瞬間までカッコいいポーズを維持されれば。
いや、そうでなくとも死の直前まで維持されればご褒美を呼んでも間に合わない。
例えばそれは、エヴァが空を飛んで工場とを往復しインデックスを連れてきて
それから回復の儀式を行っていてはまず間に合わない位に。
そこへ来て寝そべりながらとはいえ無理な体勢を作ってのカッコいいポーズを使えば、
ニケが死ぬまでにかかる時間は更に短くなる。
もし死の瞬間までカッコいいポーズを維持されれば。
いや、そうでなくとも死の直前まで維持されればご褒美を呼んでも間に合わない。
「そんな選択に何の意味がある!」
エヴァは言葉を尽くしてニケを説得しようとする。
ニケを思い止まらせなければならない。
この自滅を止めなければならない。
だけど。
「そこでおまえが死んだところで、その人形娘はもうどうにもならないのだぞ!
そんな死に損ないを助けてどうする!」
「エヴァが、連れてってくれよ。ランドセルにでも入るだろ」
「どうしてそこまでして助ける!?」
ニケは、小さく息を吐く。
少し呆けたように、目を瞬かせた。
それから、言った。
「だって、エヴァが誰か殺すのもイヤだしさ」
答えに。
「もう遅いっ。おまえの横に転がる古手梨花は……私が、殺したんだ」
嘆き。
「……苦しそーじゃないか、エヴァ」
読みに。
「それに、さっきの奴も殺してきた。おまえの動機は全てが手遅れだ! 何もかもな」
怒り。
「一人殺したら、もうダメなのか。二人殺したら、戻れないのかよ」
訴えた。
エヴァは言葉を尽くしてニケを説得しようとする。
ニケを思い止まらせなければならない。
この自滅を止めなければならない。
だけど。
「そこでおまえが死んだところで、その人形娘はもうどうにもならないのだぞ!
そんな死に損ないを助けてどうする!」
「エヴァが、連れてってくれよ。ランドセルにでも入るだろ」
「どうしてそこまでして助ける!?」
ニケは、小さく息を吐く。
少し呆けたように、目を瞬かせた。
それから、言った。
「だって、エヴァが誰か殺すのもイヤだしさ」
答えに。
「もう遅いっ。おまえの横に転がる古手梨花は……私が、殺したんだ」
嘆き。
「……苦しそーじゃないか、エヴァ」
読みに。
「それに、さっきの奴も殺してきた。おまえの動機は全てが手遅れだ! 何もかもな」
怒り。
「一人殺したら、もうダメなのか。二人殺したら、戻れないのかよ」
訴えた。
「オレは、エヴァのことを嫌いになるなんてまっぴらだからな」
エヴァが息を呑んだ。
ニケは語る。
「オレは仲間を嫌いになんてなりたくないんだ。
仲間が仲間を殺すなんてイヤだね」
エヴァが食いつく。
「おまえを殺せなかった人形が仲間扱いなのは良いだろう。
だがおまえは見えているのか? おまえがしようとしている事が」
しかしその論理は。
「おまえがこのまま死ねばそれは厄種のガキの殺害数になるだけだ。
後には四肢をもがれた無力な人形が転がるだけ。それだけだ」
エヴァが本来信じている論理ですらない。
「なんの意味がある。全ては死に向かうだけだ」
ニケを封じようとしただけの声でしかなかった。
だからニケは振り払う。
「さっき正しいからは理由にならないって言ったのは、エヴァだろ」
吐き出す想いで、粘りつく泥沼を。
ニケは語る。
「オレは仲間を嫌いになんてなりたくないんだ。
仲間が仲間を殺すなんてイヤだね」
エヴァが食いつく。
「おまえを殺せなかった人形が仲間扱いなのは良いだろう。
だがおまえは見えているのか? おまえがしようとしている事が」
しかしその論理は。
「おまえがこのまま死ねばそれは厄種のガキの殺害数になるだけだ。
後には四肢をもがれた無力な人形が転がるだけ。それだけだ」
エヴァが本来信じている論理ですらない。
「なんの意味がある。全ては死に向かうだけだ」
ニケを封じようとしただけの声でしかなかった。
だからニケは振り払う。
「さっき正しいからは理由にならないって言ったのは、エヴァだろ」
吐き出す想いで、粘りつく泥沼を。
「誰かを助けるために誰かを殺すって、どう考えたって泥沼じゃねーか。
もう助からないから殺すって、もっと違うだろ。
殺した奴は嫌われて、殺された奴の仲間は悲しむんだ。
戦わなきゃいけないのかもしれないけど。
殺さなきゃ生きられないのかもしれないけど。
仲間が仲間を殺すなんて、仲間が敵に殺される以上に最悪じゃないか。
誰かを嫌いになるなら、敵だけ嫌いになった方が、マシだっ」
もう助からないから殺すって、もっと違うだろ。
殺した奴は嫌われて、殺された奴の仲間は悲しむんだ。
戦わなきゃいけないのかもしれないけど。
殺さなきゃ生きられないのかもしれないけど。
仲間が仲間を殺すなんて、仲間が敵に殺される以上に最悪じゃないか。
誰かを嫌いになるなら、敵だけ嫌いになった方が、マシだっ」
ご褒美システムを、振り払う。
エヴァは気付いた。
ニケの視線が最早焦点を失っている事に。
恐らくはこの多弁ささえも、意識を保つ最後の綱。
呼吸器は傷つけられていないから言葉を紡ぐことはできるけど、それもあと少し。
叫びを最後にニケの体から力が抜けていく。
もう、死ぬ。
今更ご褒美を呼んだところで間に合いもせず。
それでもギリギリまで、カッコいいポーズを放ち続けて。
「だから……この方が、マシだっ」
訪れる死を前に。
遂にエヴァは、目の前の勇者の生存を諦めた。
ニケの視線が最早焦点を失っている事に。
恐らくはこの多弁ささえも、意識を保つ最後の綱。
呼吸器は傷つけられていないから言葉を紡ぐことはできるけど、それもあと少し。
叫びを最後にニケの体から力が抜けていく。
もう、死ぬ。
今更ご褒美を呼んだところで間に合いもせず。
それでもギリギリまで、カッコいいポーズを放ち続けて。
「だから……この方が、マシだっ」
訪れる死を前に。
遂にエヴァは、目の前の勇者の生存を諦めた。
「くそう、結構心残りが多いぜ。
なのはに酷い事言ったのを謝れなかったのと……
八神はやてが死んでヴィータがどうしてるのかと……
エヴァがこれからどうするのか結局わかんねーのと……
グレーテルって子がクソみてーな世界に居続けてるのと……
インデックスのシースルーな格好をもう一度拝めなかったのが心残りだ」
「…………フン。女の子ばかりだな、というか最後のを他と同列に語るなっ」
「あ、途中のグレーテルって子は女の子じゃなかったってゆーか男の娘だったってゆーか」
「なに!? 確かに戦闘中おかしかったが、しかし同じようなものだ!」
エヴァも、今度は律儀にツッコミを入れた。
なのはが過酷で無惨な様になっていた事も、ヴィータが魔女の連合に居た事も胸に仕舞って。
グレーテルについてどうしようもないと考えている事も、エヴァがこれからどうするかも話さずに。
そのツッコミはきっと、半分くらい優しさで出来ていたのだろう。
ニケはニッと笑って。
息を吐いて、吸って。
「……それ、から…………」
なのはに酷い事言ったのを謝れなかったのと……
八神はやてが死んでヴィータがどうしてるのかと……
エヴァがこれからどうするのか結局わかんねーのと……
グレーテルって子がクソみてーな世界に居続けてるのと……
インデックスのシースルーな格好をもう一度拝めなかったのが心残りだ」
「…………フン。女の子ばかりだな、というか最後のを他と同列に語るなっ」
「あ、途中のグレーテルって子は女の子じゃなかったってゆーか男の娘だったってゆーか」
「なに!? 確かに戦闘中おかしかったが、しかし同じようなものだ!」
エヴァも、今度は律儀にツッコミを入れた。
なのはが過酷で無惨な様になっていた事も、ヴィータが魔女の連合に居た事も胸に仕舞って。
グレーテルについてどうしようもないと考えている事も、エヴァがこれからどうするかも話さずに。
そのツッコミはきっと、半分くらい優しさで出来ていたのだろう。
ニケはニッと笑って。
息を吐いて、吸って。
「……それ、から…………」
最後の心残りを吐いた。
一番たいせつなひとの名前を。
一番たいせつなひとの名前を。
「ククリに会えなかったのが、心残りだ」
「ククリ?」
転がっていた、四肢をもがれた人形が。
呆然と話を聞いていただけの少女が。
蒼星石が、顔を上げて呟いた。
「まさか君は、ニケ君なのか?」
呆然と話を聞いていただけの少女が。
蒼星石が、顔を上げて呟いた。
「まさか君は、ニケ君なのか?」
エヴァとの会話の中でも、たまたま、彼の名前は出ていなかった。
ニケは精一杯に頷く。
「あ、ああ……まさかおまえ、ククリに会ってたのか」
蒼星石は知っている。
トリエラ達との情報交換で、ククリという少女がニケという少年を捜していた事。
それからどんな経緯を辿りどんな“結末”を迎えたかも、知っている。
だから答えた。
「ククリさんは、何人もの仲間に守られて、北東の街の旅館に居たよ。
温泉なんかも有ったよ、あそこは」
「マジかよ、ずりぃ…………ちくしょう、覗きたかったぜ。
でも、ほんとうにぶじでよかった」
ニケは精一杯に頷く。
「あ、ああ……まさかおまえ、ククリに会ってたのか」
蒼星石は知っている。
トリエラ達との情報交換で、ククリという少女がニケという少年を捜していた事。
それからどんな経緯を辿りどんな“結末”を迎えたかも、知っている。
だから答えた。
「ククリさんは、何人もの仲間に守られて、北東の街の旅館に居たよ。
温泉なんかも有ったよ、あそこは」
「マジかよ、ずりぃ…………ちくしょう、覗きたかったぜ。
でも、ほんとうにぶじでよかった」
ホッと、息を吐いて。
気が抜けて。
力が抜けて
気が抜けて。
力が抜けて
「ニケ!」
響き渡ったエヴァの叫びに。
最期に一言だけ、ニケは言葉を吐き出した。
最期に一言だけ、ニケは言葉を吐き出した。
「やっぱ勇者ってサイコーだぜ」
命と一緒に吐き出した。
そうやって。
勇者ニケは、死んだ。
【ニケ@魔法陣グルグル 死亡】
【D-4周辺/不明/2日目/黎明】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身凍傷(軽)、左腕負傷(大)
喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。
核鉄に大ダメージを受けたため消耗大
[装備]:サンライトハート(相当な損傷を受けた)@武装錬金
ソードカトラス×2(1+15/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー
[道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘
ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、
蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの
(カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター
スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、
コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。雨に濡れて湿っている。
[思考]:不明
第一行動方針:不明(「南の方」に向かう、再襲撃する、隠れて休むなど)
第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。
第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。
「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。
銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身凍傷(軽)、左腕負傷(大)
喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。
核鉄に大ダメージを受けたため消耗大
[装備]:サンライトハート(相当な損傷を受けた)@武装錬金
ソードカトラス×2(1+15/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー
[道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘
ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、
蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの
(カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター
スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、
コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。雨に濡れて湿っている。
[思考]:不明
第一行動方針:不明(「南の方」に向かう、再襲撃する、隠れて休むなど)
第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。
第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。
「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。
銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。