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ジョン・A・レント
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ジョン・レントと国際レベルのコミックス研究
ジョン・A・レント、Ph.D.
インターナショナル・コミュニケーションと第三世界のマスメディア研究のパイオニアのひとりであり、55冊以上の論文及び編著を持ち、記事の執筆は数百を下らない。その業績のいくつかはコミックアートに対してのものであり、特にアジア、アメリカ合衆国、カリブ諸国のそれに詳しい。彼はまた、『Animation in Asia and the Pacific』、『Illustrating Asia』、『Pulp Demons』、『Themes and Issues in Asian Cartooning』という4冊のコミックアートに関する書誌的な研究書の著者でもある。他にも『Witty World』では創刊以来編集長を務めており、1984年には国際マスコミュニケーション研究協会(International Association for Mass Communication Research)にコミックスアートに関するワーキンググループを設立している。大学の教授としては42年を超すキャリアがあり、レント博士はフルブライト奨学金を得てフィリピンの大学で教鞭をとり、マレーシアでは初のマスコミュニケーション論の講座を開講、ウェスタン・オンタリオ大学で初のロジャーズ記念名誉教授に選出されるなど、合衆国内を含め、一貫して大学で教え続けてきた。彼は1976年にマレーシア/シンガポール/ブルネイ研究グループを創立し、1975年からニューズレター『Berita』を発刊している。彼は編集者、または編集委員として1ダース以上の雑誌に関わっており、その中には『the Comics Journal』、『Human Rights Quarterly』、『Americana』そして『Crossroads』といった雑誌が含まれている。彼はまたポピュラーカルチャー協会(the Popular Culture Association)のアジアンポップカルチャーグループの創立者兼議長であり、『International Journal of Comic Art』の創立者兼編集者である。1994年からはアジア映画研究協会(Asian Cinema Studies Society)の議長とその機関誌『Asian Cinema』の編集をおこなっている。
(「John A. Lent's biography」、http://www.wittyworld.com/bios/biolent.html)
ジョン・A・レントのオフィシャルサイト(http://astro.temple.edu/~jlent/)を発見したため、改めてそのキャリアをちゃんと調べてみた。結果、予想以上に立派なひとで驚愕する。フルブライトをとっているのもすごいが、上に引用したプロフィールに「パイオニア」とあるようにオフィシャルページのパーソナルデータを見ると60年代からマスメディア研究をやっている文字どおりのその道の先駆者だ。特に60年代からアジアを中心に調査のため世界中に足を運んでいるのは立派だとしか言いようがない。60年代にアメリカでアジアのマスメディア、ポップカルチャーの研究などやっていて異端視されなかったのだろうか? その中では日本に来た回数は比較的少ないほうだが、それでも1965年と1993年の二度来日している。
私が彼の名前を認識したのは『Pulp Demons』の編著者としてだが(それ以前からTCJで執筆した記事は見ていたはずだが、あの雑誌はライターのまともなプロフィールを載せてくれないので、特に意識はしていなかった)、もう少しはっきりした興味を持ったのは『International Journal of Comic Art(略称:IJCA)』の存在を知ってからのことである。これは「『International Journal of Comic Art』(ISSN 1531-6793)は世界中のコミックアートについての研究を専門とする学術研究誌である」という趣旨の研究誌で、いまのところ金がないのとめんどくさいのとで購読していないが、その存在自体に軽いカルチャーショックを受けた。
私は大学や学会に席を置いている訳でもなんでもないので、こうしたコミックスに対する学問的な研究に関しての興味は本来アメリカンコミックスの紹介に際して生じた副次的なものでしかなく、じつは専門的につきつめようとしてやってきた訳ではない(結果的にそこを強調する格好になっているのは他に似たようなことをやっている人間が全然いないからだ)。そのため現実にそこまでオーソライズされた形で国際的な研究をやっているひとたちがいようとは正直思っていなかった。第一、メインストリームのコミックブックを読んでいるだけなら、アメリカのコミックファンであってもこの種の研究に対してはほとんど接点を持っていない。私も基本的にはそれと同じなので、いつも驚いてばかりいる。
これは余談だが、先日誰かに「アメリカのコミックス研究にも学閥的な対立はあるのか?」という趣旨の質問をされた。で、たしかその返答としては「いまのところそういう対立関係は感じたことがない」と答えたのだが、たぶん対立があるとしたら、学閥的なものよりこうした一般ファンとサブカル的に「カルチャラルクリティーク」としてのコミック研究を強調する若い研究者のあいだのほうではないかという気がする。ま、これに関してはそのうち詳しく書くかもしれないし、書かないかもしれないが。
話を戻すと、そういう訳でいい加減きわまりないスタンスでテキトーに資料を読んでいたら、小野(耕世)さんが70~80年代に書いていたような「国際的なマンガ研究ネットワーク」がすでに存在しているのを知って胆をツブした訳だ。しかもレントの経歴を見てもわかるようにこの動きはメディア論、ポップカルチャー研究の一領域として完全にアカデミックな認知を受けている。
これは研究の方法、評価についてある程度の基準やシステムができあがっているということでもあり、IJCAの一号に掲載された「Comic Art in Scholarly Writing A Citation Guide」(Allen Ellis、http://www.comicsresearch.org/CAC/cite.html)というコミックス研究論文の書式、引用の仕方について細かく定めたガイドは日本のマンガ研究者にも是非一読を薦めたいものだ。また、コミックス研究に対するはっきりした評価軸としてはわかりやすいものとしてアワードが存在している。これは「the Popular Culture Association」(http://www.h-net.org/~pcaaca/)傘下の「Comic Art and Comics Area」(http://home.earthlink.net/~comicsresearch//CAC/index.html)が96年から運営している「M. Thomas Inge Award for Comics Scholarship」で、これの第一回受賞者が『SEAL OF APPROVAL』のエイミー・ナイバーグだったりする。
もちろん私はトーシロであって、これらのワークグループ、学会、研究機関などがどの程度の権威を持ち、他の研究機関、大学とどのような関係にあるかはよくわからないが(知ったことかという気もする)、今後折りを見て大学図書館のコレクションやミュージアム系を含め、コミックスに関連した研究機関の情報もまとめていくかもしれないし、まとめていかないかもしれない。
しかし、レントのことを調べていてもっとも驚いたのはじつはそうしたアメリカの研究環境の充実ぶりではなく、『Witty World: International Cartoon Center』(http://www.wittyworld.com/)というサイトの存在だった。
これはキャッチコピー通りインターナショナルなコミックス情報、レビュー、批評などを掲載することを目的としたウェブマガジンで、現在はそれほど活動的ではないようなのだが、それでもトップページに「ケニア議会、カートゥーニストを起訴」などと書かれていてギョっとさせられる。このウェブマガジンは1986年に創刊された同名の雑誌をもとにしたもので、紙の雑誌としては95年まで発行され、以後ウェブに移行しているようだ。レントはこの雑誌の編集長をつとめ毎号テキストも書いているのだが、この雑誌、たとえば10号の特集が「世界のカートゥーニストが共産主義崩壊をどう捉えたか」でカバーアートがユーゴスラビアのアーティスト。どうも主催者がエディトリアルカートゥーンの研究者であるらしく、内容的にもその方面に若干偏っているきらいはあるが、イラストからコミックブック、グラフィックノベル、アニメーションに至るまで「コミックアート」でありさえすれば世界中のどんなものでも取り上げる、というエラい代物。バックイシューの一括購入もできるようなので、ちょっと考えてしまっているのだが、要はレントのIJCAはこの雑誌の経験をアカデミックな方向に活かしたもののようなのだ。つまり、IJCAの存在に驚いていること自体無知のなせる業であって、私が知らなかっただけで80年代から世界レベルでのコミックス研究ネットワークは存在していたのだ。まったく世の中知らないことばかりである。
オンラインでの活動として特筆すべきだと思ったのは『Witty World: International Features』(http://buy.wittyworld.com/)という別名サイトでの活動。これはウェブベースでのコミックアーティストエージェントサイト。サイトに掲載されたサンプルアートを見て気に入った登録アーティストに対し、このサイトを経由して、イラストレーション、カートゥーン、コミックスの発注ができる仕組みだ。登録されているアーティストの「Who's Who」を見るとまさに「インターナショナル」でロシア、東欧、中東などまったくどう読めばいいのかわからない名前がズラズラ並んでいてくらくらする。
ウェブジンのほうも世界各国のコミックス関連ニュースを集めたページはそれなりに記事が蓄積されており、日本のパートでは横浜でやった「アジアマンガサミット」の記事などが読める。なので当然スタッフリストには「Foreign Desks」の欄があるのだが、「Japan」の欄を見てみるとそこには「Kosei Ono」の名前が(笑)。うわ、小野さん、前にレントの話したときに「ああ、いるなあ、そういうひと」みたいなこと言ってたけど、めちゃくちゃ直接つながってるじゃないですか。しかし、小野さんがこういうことをやっているという情報はやはりもうちょっと一般に知られたほうがいいのではないかと思う。いつまで経っても「小野耕世だけが世界の窓口」というのもどうかと思うし。
私が彼の名前を認識したのは『Pulp Demons』の編著者としてだが(それ以前からTCJで執筆した記事は見ていたはずだが、あの雑誌はライターのまともなプロフィールを載せてくれないので、特に意識はしていなかった)、もう少しはっきりした興味を持ったのは『International Journal of Comic Art(略称:IJCA)』の存在を知ってからのことである。これは「『International Journal of Comic Art』(ISSN 1531-6793)は世界中のコミックアートについての研究を専門とする学術研究誌である」という趣旨の研究誌で、いまのところ金がないのとめんどくさいのとで購読していないが、その存在自体に軽いカルチャーショックを受けた。
私は大学や学会に席を置いている訳でもなんでもないので、こうしたコミックスに対する学問的な研究に関しての興味は本来アメリカンコミックスの紹介に際して生じた副次的なものでしかなく、じつは専門的につきつめようとしてやってきた訳ではない(結果的にそこを強調する格好になっているのは他に似たようなことをやっている人間が全然いないからだ)。そのため現実にそこまでオーソライズされた形で国際的な研究をやっているひとたちがいようとは正直思っていなかった。第一、メインストリームのコミックブックを読んでいるだけなら、アメリカのコミックファンであってもこの種の研究に対してはほとんど接点を持っていない。私も基本的にはそれと同じなので、いつも驚いてばかりいる。
これは余談だが、先日誰かに「アメリカのコミックス研究にも学閥的な対立はあるのか?」という趣旨の質問をされた。で、たしかその返答としては「いまのところそういう対立関係は感じたことがない」と答えたのだが、たぶん対立があるとしたら、学閥的なものよりこうした一般ファンとサブカル的に「カルチャラルクリティーク」としてのコミック研究を強調する若い研究者のあいだのほうではないかという気がする。ま、これに関してはそのうち詳しく書くかもしれないし、書かないかもしれないが。
話を戻すと、そういう訳でいい加減きわまりないスタンスでテキトーに資料を読んでいたら、小野(耕世)さんが70~80年代に書いていたような「国際的なマンガ研究ネットワーク」がすでに存在しているのを知って胆をツブした訳だ。しかもレントの経歴を見てもわかるようにこの動きはメディア論、ポップカルチャー研究の一領域として完全にアカデミックな認知を受けている。
これは研究の方法、評価についてある程度の基準やシステムができあがっているということでもあり、IJCAの一号に掲載された「Comic Art in Scholarly Writing A Citation Guide」(Allen Ellis、http://www.comicsresearch.org/CAC/cite.html)というコミックス研究論文の書式、引用の仕方について細かく定めたガイドは日本のマンガ研究者にも是非一読を薦めたいものだ。また、コミックス研究に対するはっきりした評価軸としてはわかりやすいものとしてアワードが存在している。これは「the Popular Culture Association」(http://www.h-net.org/~pcaaca/)傘下の「Comic Art and Comics Area」(http://home.earthlink.net/~comicsresearch//CAC/index.html)が96年から運営している「M. Thomas Inge Award for Comics Scholarship」で、これの第一回受賞者が『SEAL OF APPROVAL』のエイミー・ナイバーグだったりする。
もちろん私はトーシロであって、これらのワークグループ、学会、研究機関などがどの程度の権威を持ち、他の研究機関、大学とどのような関係にあるかはよくわからないが(知ったことかという気もする)、今後折りを見て大学図書館のコレクションやミュージアム系を含め、コミックスに関連した研究機関の情報もまとめていくかもしれないし、まとめていかないかもしれない。
しかし、レントのことを調べていてもっとも驚いたのはじつはそうしたアメリカの研究環境の充実ぶりではなく、『Witty World: International Cartoon Center』(http://www.wittyworld.com/)というサイトの存在だった。
これはキャッチコピー通りインターナショナルなコミックス情報、レビュー、批評などを掲載することを目的としたウェブマガジンで、現在はそれほど活動的ではないようなのだが、それでもトップページに「ケニア議会、カートゥーニストを起訴」などと書かれていてギョっとさせられる。このウェブマガジンは1986年に創刊された同名の雑誌をもとにしたもので、紙の雑誌としては95年まで発行され、以後ウェブに移行しているようだ。レントはこの雑誌の編集長をつとめ毎号テキストも書いているのだが、この雑誌、たとえば10号の特集が「世界のカートゥーニストが共産主義崩壊をどう捉えたか」でカバーアートがユーゴスラビアのアーティスト。どうも主催者がエディトリアルカートゥーンの研究者であるらしく、内容的にもその方面に若干偏っているきらいはあるが、イラストからコミックブック、グラフィックノベル、アニメーションに至るまで「コミックアート」でありさえすれば世界中のどんなものでも取り上げる、というエラい代物。バックイシューの一括購入もできるようなので、ちょっと考えてしまっているのだが、要はレントのIJCAはこの雑誌の経験をアカデミックな方向に活かしたもののようなのだ。つまり、IJCAの存在に驚いていること自体無知のなせる業であって、私が知らなかっただけで80年代から世界レベルでのコミックス研究ネットワークは存在していたのだ。まったく世の中知らないことばかりである。
オンラインでの活動として特筆すべきだと思ったのは『Witty World: International Features』(http://buy.wittyworld.com/)という別名サイトでの活動。これはウェブベースでのコミックアーティストエージェントサイト。サイトに掲載されたサンプルアートを見て気に入った登録アーティストに対し、このサイトを経由して、イラストレーション、カートゥーン、コミックスの発注ができる仕組みだ。登録されているアーティストの「Who's Who」を見るとまさに「インターナショナル」でロシア、東欧、中東などまったくどう読めばいいのかわからない名前がズラズラ並んでいてくらくらする。
ウェブジンのほうも世界各国のコミックス関連ニュースを集めたページはそれなりに記事が蓄積されており、日本のパートでは横浜でやった「アジアマンガサミット」の記事などが読める。なので当然スタッフリストには「Foreign Desks」の欄があるのだが、「Japan」の欄を見てみるとそこには「Kosei Ono」の名前が(笑)。うわ、小野さん、前にレントの話したときに「ああ、いるなあ、そういうひと」みたいなこと言ってたけど、めちゃくちゃ直接つながってるじゃないですか。しかし、小野さんがこういうことをやっているという情報はやはりもうちょっと一般に知られたほうがいいのではないかと思う。いつまで経っても「小野耕世だけが世界の窓口」というのもどうかと思うし。