コンゴトモヨロシ ◆Sieg8o97oE
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濁流に飲まれていた意識が、砂浜に打ち上げられる。
塵のように放り出されて、甲斐刹那は覚醒した。
「……………………ぁ」
時間の経過が思い出せない。
方向の感覚が定まらない。
今何処にいて、どれぐらいの時間が過ぎたのか。そもそも自分の身に何が起きたのか。
何もかも置き去りにされていた刹那には、過去の記憶の反芻にすら幾ばくかの空白を要した。
それでも暫くすれば、弱まっていた脳の動きも再開を始める。
魔界の騒乱を潜り抜けた百戦錬磨の戦士、デビルチルドレンとしての性が目覚めていく。
急速に解凍される記憶。
流れる回想は全てを刹那に思い出させる。
孤島に開かれたバトルロワイヤル、戦端を開いた仮面の少年、戦う自分とパートナーのデビル。
そして―――ずっと会いたいと願っていた、少女が、。
「―――!未ら……ッ!?ゴホッ!ガ、ぁ――――――ッ!!」
立ち上がり名を呼ぼうとした途端、口の中に広がる鉄の味に咳き込んだ。
凝固しかかった赤黒い塊が、唇から糸を引いて地面に落ちる。
血の味は初めてではない。何度も味わい、浴びてきた臭いだ。
けどこの気持ちの悪さには、相変わらず慣れない。吐きそうになる気持ちを抑えられない。
倒れていたすぐ傍に落ちていたランドセルから基本支給品にあったペットボトルを取り出して、中の水で口をゆすいだ。
「~~~~~ッッ!?!?!?」
瞬間、含んだ水を盛大に噴き出した。
口内に広がった、水とは思えない刺激的な味。
焼けるような、痺れるような、溶けるような、とにかく得体の知れない味だった。
ただの水だと思い込んでいた安堵からの落差もあって、混乱は更に深まっていく。
結局、発作が収まるまでに更に数分を要した。
「……くそ、最悪だ」
意識がハッキリしたのだけは不幸中の幸いか、と立ち上がる。
とにかく、動けるなら今すぐ動くべきだ。そして探すべきだ。未来を。
混乱から完全には冷めやらぬ刹那にとって、真っ先に頭に浮かんだのは、再会を果たした要未来のことだ。
大魔王を倒し、魔界を救う。デビルチルドレンの使命の重さは身に余るほど感じている。
だがその重さと比べ物にならないほど重く、大きな願いが自分にはあった。
もう一度、未来に会いたい。会って、話がしたい。
別れてからの旅の大半はそれが理由だった。
その願いを握り締めて戦い、死にもの狂いで生きてきた。
手がかりはないがなんてことはない。ついさっきここで会ったばかりだ。
何処にいるかも分からなかった今までに比べれば遥かに近い。
手に届く距離にまで迫った姿を、今度こそ掴む。そして離さない。
「―――よっし。行くか!」
顔を叩いて、前を見据える。
これから進む、希望を手にする新たな道程を。
「――――――――――――な?」
そして、今しがた口にした言葉は大きな間違いだったと、目の前に広がる景色を見て思い知った。
空の模様が、腐った色に染まっている。
様々な色彩を考えなしに混ぜ込んだ絵の具で、子供が描いた画用紙の落書きのように。
地面も建物も、同じように狂った色に変わっていた。
どこからともなく、子供達の声が聞こえてくる。
可笑しくて可笑しくて仕方なくて、絶え間なくあげられる笑い声だった。
笑い声は合唱になり、反響し、わけのわからない暴音が耳をかき回していく。
辺りを見回しても、誰もいない。何もない。
なのに声は聞こえる。不気味な笑いが途絶えない。
なのに誰かに見られている感じがある。不気味な目だけが自分を盗み見ている。
最悪な目に遭った、などでは終わらない。
これから始まるのが、真の最悪が始まる。
世界が、甲斐刹那を侵していく。
≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫≪⦿≫
「平気か、セリム?」
「ちょっと疲れましたけど、まだまだ大丈夫です。少し休めば平気ですよ」
居間に腰を下ろすセリムを気遣いつつも、意識は外に変化がないかを注視し、気配がないかを敏感に探査する。
偶発的に接触し、共に行動をすると決めた
ジークとセリム・ブラッドレイ。
視界が悪い暗闇の森という暗殺者にとって絶好の狩場を、セリムに負担をかけない範囲で出来るだけ足早に抜け出してから、
二人は今、地図に載ってる施設で最も近場のみまつやという見せでひとまずの休息を得ていた。
駄菓子の類から生活用品まで、雑多な商品が所狭しと並ぶ店内はジークにとって見慣れぬものだった。
人間的な生活を行える自由を得てから未だ三日足らずなジークには当然といえた。
黒のアサシン探索に赴いたトゥリファスの街並みにもない光景だ。
店名からしても東洋風、それも聖杯戦争誕生の地である日本の様式らしい。
碌に備わってない多文化の知識を捻り出しながら、ジークは思う。
こんな風に、自分の考えにはない文化を知り、会ったことのない人を知り、世界の広さ、多様さを知る。
成る程。黒のライダー(アストルフォ)が言ったように、その生き方はきっと素晴らしい。
ささやかで穏やかで、たまらなく平和であろう未来。彼が自分にそんな道を促してくれたのにも頷ける。
仲間を救うという自分の選択に後悔はない。けど、そんな可能性があの時の自分には確かにあった。
たったそれだけの事実も、水槽の中の餌という意義(いのち)しかなかったこの身には望外の幸福だったのだ。
見れば、セリムも物珍しいのか目線をせわしなく左右に動かしつつ店内を物色している。
未知なるものに目を輝かせるのに、出生や種族の垣根はないのかもしれない。
「……気になるものがあれば、幾つか持っていけばどうだ?」
何となしに、そんな言葉をかけてみる。
ジーク自身は特に必要に感じないが、栄養補給という観点で食料の調達はこの環境では必需といえる。
……脳内に浮かぶ二人の健啖家を思い浮かべる。特に一方にとっては行動不能に陥る危険もあるほどの死活問題だ。
「駄目ですそんなの!僕お金持ってませんし……ジークさんは?」
「生憎だが、俺にも貨幣の持ち合わせはない」
というより、金銭を所持した経験がない。
縋るようなセリムの視線に申し訳なさを思いつつ、正直に財政状況を伝えた。
……申告して気づいたが、実社会において自分の状況というのは、かなり問題のあるものではないだろうか。
ホムンクルスである時点で、今更な話ではあるのだが。
「お店から勝手にものを取っちゃったら泥棒になっちゃうんですよ?」
「それは早計かもしれない、セリム。この店には商売を仕切る者、いわゆる店主やそれに準じる従業員がいない。
この会場の支配者はポーキーだ。彼の所業は許せるものではないが、それでもこの一帯の所有者(オーナー)には違いない。
その彼が配置した店に何の支払いのシステムも搭載されていない。
であれば『この島にあるものは好きに使っていい』という意思表示である可能性も―――」
「それはないです」
「しかし」
「ないですって」
なるべく望みに沿うよう妥協案を示したつもりだったのだが、セリムは取り付く島もない。
法外の下で生まれたジークと違い、健全な教養を受けてきた人間には当然の価値観なのだろう。
「……む」
良い解決法が見つからず思案に耽るが、ここでふと思い出す記憶があった。
手に提げていたランドセルに手を入れ、中身に重量を感じさせる袋を取り出す。
「セリム。これは貨幣の代替にはならないだろうか?」
袋の中から摘み出したのは、星の型が彫られた一枚の金貨だった。
中にはまだ相当量の同じ種類の金貨が収められている。
材質も確かに金だ。売買は成立してると見なされてもいい筈だ。
「え―――その…………それなら、大丈夫、じゃないですか?」
「俺は平気だと思う。少なくとも買い手としての義務は果たしていると判断しているが」
「う、うん。そうですね、念の為二枚置いておきましょう!それなら万全です!」
「わかった。そうしよう」
後押しもあって、ようやく納得し得るだけの材料が揃ったらしい。
衝動を縛る枷が外れて、セリムは目を輝かせて店を駆け回る。
本当はもっと前からそうしたかったが、様々なしがらみがその自由を縛っていたようだ。
それが後々彼の人生に影響があるなど想像は出来ない。
ひょっとすれば、情操面に悪い成長を促してしまい、将来父母が嘆くかもしれない。
ただ、独り怯え、死の恐怖に固まるかもしれない末路を思えば、見た目相応の少年らしさでいられる今の方が尊いものであると、そう信じたかった。
ジークもレジスターに金貨を二枚置き、目についた適当な食糧をランドセルに放り込んでいく。
自分には必要ないかもしれないが、他の者もそうであるとは限らない。
傍らにいた、可憐な見た目と裏腹に良く食べる少女を見て憶えた事だ。
僅かとはいえ思考をセリムとの対話に向けていた、そんな時だった。
店の外から、甲高い金属のようなもの同士の激突の残響を聞き取ったのは。
「―――――――――?」
胸に収められた心臓が、その時、一巡だけ刻む鼓動を強めた。
何者かが、それも音から察すれば、二人の人物が近くで戦っているという可能性に緊張した―――わけではない。
殺し合いという環境上、戦闘が発生し、それに遭遇するのは承知している。
まして自分も仮にも英霊の闘争を直に味わった身。委縮するには値しない。
竜殺しの英雄の心臓が送り出した一瞬の血潮は、昂揚とも衝動とも呼べる、曰く言い難い熱があった。
まるで先の発生源へ向かうのを急き立てるような、心臓自体がそこへ馳せようとし、それに体が引き寄せられるような。
英雄より与えられし新たな心臓が並々ならぬ現象を起こすのはこれまで何度もあった。
だがこんな反応は初めての事だ。予測できず、予想もつかない展開に戸惑いが生まれる。
「……セリム」
音はセリムにも聞こえていたのだろう。こちらは些かの不安を混じらせた顔でジークを見ている。
「向かうんですか?」
「様子を見に行く必要はある。
一方的に襲われているのなら救助する必要があるし、場合によってはそのまま戦闘にもつれこむ場合もある。
君はここで待っていてくれ。先の守るという言葉を反故にするつもりはないが、わざわざ危険地についてくる事もない」
「……はい」
詳細な状況も掴めない場所に一緒に連れていくよりは、ここで隠れてもらった方が危険はまだ少ない。
その理論自体は承服してるのだろう、セリムは素直に首肯する。
しかし、やはり取り残されるという事実に心細さを覚えているのか声は細切れになっている。
「―――大丈夫だ、すぐに戻ってくる」
そんな意気を少しでも慰めてやりたいと、そう宣言した。
戦いに絶対はない。それは分かっている
敵も味方も判明しない戦場で自分にどれだけの事が出来るのか、断言できるものではない。
冷静に判断するならば、ここでの確約を果たせる確率など見積もる段階にも届いてないのは明白だ。
それでも、口にする。
ただセリムを元気付けたいだけではない。己にとっても、これは現実にしなければならない言葉だ。
「……分かりました。約束ですからね!」
そんな思いは届いたのか、少しだけ明るい語調でセリムは返事をくれる。
彼への信頼に報いるためにも、なおさら約束は守らなければならない。
扉を出て、セリムに背を向けて走り出そうと足に力を込めて。
「ジークさん」
呼び止められた声に、無防備だた背を庇うように反射的に身構える。
振り向いた先にいるのはセリムただ一人だ。自衛の力にも乏しい脆弱な、されど懸命に生きている命。
店の照明の下に立つ少年の濃い影が、地面に映っている。
「あなたは、何の為に戦うのですか?」
その問いは、今まで接してきたセリム・ブラッドレイとは微妙に乖離を感じさせる言葉だった。
埋もれた疑念が再び膨れるが、この質問そのものにそれほど意味はないのだと理解する。
問われた以上は、返すのが礼儀だろう。逡巡の後、ジークの基盤となった思いを口にした。
「―――恩人達に、恥じない生き方をするため。
何もない俺に救いの手を差し伸べてくれたように、俺もまた、誰かに手を差し伸ばせる一個の命でありたいからだ」
その答えを聞いて刹那の間、セリムはまた新たな表情を見せた。
羨むような、好むような、怒るような、驕るような、けれど悪意は感じられない顔。
「……必ず帰る。少しだけの辛抱だ」
体を反転させ、今度こそジークは朝靄のかかる街を駆けだした。
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あてのない疾走は、停止のタガが外れてしまったように止まらなかった。
目指す先など定めておらず、見えもしないものから追い立てられている恐慌が背中を押していた。
「ハ―――ハッ――――ハア―――――――!」
休みなく動かしてきた両足が痺れ痛切に訴えてる。
空気を入れては出してを繰り返した肺は呼吸の度に苦しげに締め付ける。
苦しくて、苦しくて、苦しくてたまらない。
早く止まりたい。体を休めたい。
けれど、止まれない。
止まってしまえば、苦しいだけでは済まされない。
呼吸が足りず、酸素が足りず、意識が朦朧とする。
そうしていた方が、この景色を再認するよりまだましだ。
「……ッ!!」
そんな不注意が祟り、段差に気づく事なく足を踏み外す。
バランスを失った体は受け身を取る余裕もないまま地面に投げ出される。
打ち所は悪くならなかったものの、痛みが全身を駆け巡り、次いで溜まり切った疲労の反動が押し寄せる。
「グ、ァ―――!アアハ―――アァ―――――!」
仰向けに倒れた姿で何度も胸を上下させる。
後先考えない全力疾走は、鍛えた甲斐もあってかなりの距離を稼いだ筈だった。
けれど目を開けた先に待っていた空は、先と全く変わりのない壊れた空のみ。
おかしくなる笑い声も、依然として消えてない。
いったい、どうなってるのか。
胸中を埋め尽くす疑念が心身を苛ませる。
この光景は果たして現実なのか。虚構なのか。
形を変えて問うならば。狂っているのは世界か、自分か。
それは自分では測れるものではなかった。狂人は異常者だという自覚がないからこそ狂人なのだ。
確証が欲しい。
自分以外の誰か。その者にはこの場所はどう見えてるのか。
そこまでして、自分の手にいた仲魔を遅まきながら思い出した。
だがパートナーであるクールは既に呼び出してしまったか、という予想とは裏腹に、愛銃にはケルベロスの刻印が刻まれた魔弾が備わっていた。
戻した記憶はないが、ここにある以上疑う余地はない。
「コール」
銃弾を装填し、引き金を押し放つ。
閃光と衝撃。姿を見せたデビルに事の状態を見てもらう。
「クール。早速で悪いけどさ。
今お前には、この景色がどう見え――――――――――」
「景色?そんなん真っ暗闇に決まってんじゃねえか。
お前と俺の先には、血が凝り固まって出来たみてえな黒い孔しか待ってないだろ?」
二の口が利けない。
表れたデビルは、クールではなかった。
だが、知らないデビルでもない。
白い体毛。大きな体躯。
甲斐刹那の前で、初めて散らした仲魔。
「……ダス、ト」
掠れきった声。
知らない声が、死者の名を答える。
「どうしたの刹那?そんな呆けちゃって。
私達を呼び出したってことは、もう一度戦ってくれるんでしょう?
いいわよ、戦いましょう!一緒に精一杯、戦って死にましょう!
だって私達、もう死んでるんだから!」
「ネコ、マタ?」
答えた時には、名前とは違う姿が立っていた。
猫の耳。白い肌。明るい配色の女性。
「それで刹那」
二人(ダレカ)は笑う。
「次は誰を殺すのに」
顔を盛大に歪ませた、不気味な笑顔で。
「私達を消費し(つかっ)てくれるの?」
いつの間にか握り締めていた破邪の剣を、目の前の悪魔(ナカマ)に横一線に振り払う。
悪魔は攻撃されることを想定してなかったのか、無防備にもその一撃を受け、艶めかしい血を噴き出した。
「アアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
肉を切り裂いた感触。
舞い散る血飛沫。
響き渡る絶叫。
どれも幻にしては臨場感のありすぎる、リアルの情景。
「やっぱりそうか!お前は人殺しが好きなんだ!!この人殺し!!俺達を殺したいんだ!!!
一度死んだ私達をもう一度殺そうだなんて!!そんなに私達に死んで欲しいの!?」
二人の声の混じりあった罵倒が胸を焦がし、刺し穿つ。
彼らは本当に、幻ではないのだろうか?
そうに違いないと思ったからこそ剣で斬り付けた。死んだ命は決して蘇らない。
彼らの命は、自分が奪った。少なくとも一方は確実にそうだ。
ここにいるのは自分に邪魔な存在、要てはならないものだと決めつけて、躊躇なく殺しにかかったのではないのか?
震える腕を必死に押さえつける。
そうでなければ、この腕は自動的に二人へと下ろされてしまう気がして。
「刹那」
懐かしい、聞いたばかりの少女の声が、耳朶を侵す。
その正体も薄々確信しつつ、呼びかけられた方へ目線を贈る。
「――――――未来」
唐突に出てきた、待ち望んでいた筈の少女も、同じ薄ら笑いを張り付けていた。
「そう、未来よ。あなたが会いたがってた未来。あなたが見捨てた未来。
あなたが思いッッッ切り殺してくれた未来が、もう一度。あなたに会いに来たのよ」
右手に持つのは、赤いマフラーを巻き付けて形成されたサーベル。
未来の顔をしたナニモノか(ドッペルゲンガー)は、愉悦を煮えたぎらせた破顔でこちらを見つめている。
「ホンモノはもうあなたと会いたくないの。未来は永遠に私達のものだから。
だから代わりに、私が一緒にいてあげるワ。嬉しいでしョ?嬉しいワヨネ?」
「テメエ……」
明確な殺意に火が灯る。
剣の柄を握る指に、満身の力を込める。
これが幻であったとしても。
彼女の姿を取ったモノがこんな真似を取る事自体、断じて許せない―――!
「これ以上、未来を穢してんじゃねえぞォォォォッッ!!」
白銀を迎え撃つ鮮血。
交差した刃を押し合って、主導権の競りになる。
力では向こうが勝るのか、こちらの剣は赤剣に阻まれたまま前に動かない。
「ギラッ!!」
閃熱の呪法を詠唱する。
零距離からの熱波は敵の上半身を呑み込み、後方へと弾き飛ばす。
発動が近過ぎた故の自己の損傷など、気にするものではない。
「何い言ってるのの?穢したたのははアアアナタデショショショショ?」
所々に火傷を作っているが、敵は健在のまま気の障る台詞を吐き続ける。
邪魔な口を黙らせるべく猛然と斬りかかる。
敵は反撃の余力もないのか、連撃を辛うじて逸らすのみだ。
優勢を取りこぼす愚は犯さない。このまま攻め切り、殺る。
剣から片手を離し、デビライザーを振りかざす。刻印銃は入れていない。フェイクだ。
ブラフの召喚を警戒し退避の態勢に入る敵。
その隙を突き、魔法を放つ。慮外の攻撃に虚を打たれ、咄嗟に構えた剣で防御する。
問題ない。不意打ちのギラに対応し耐え切るまでが想定内。
態勢の崩れたところを、直接の斬撃で決壊させる。
衝撃を逃がしきれず、武器を取りこぼした。―――――止めだ。
今も嗤う敵の顔を叩き潰そうと、最後の一撃の為の溜めを作る。
染みついた経験通りの動作。蓄積から爆発まで、二秒もない。
その後にこの顔は真っ二つに裂かれ、ひとつの骸を晒す。
予測通りの結末が訪れる、直前。
「ッッッ!?」
横合いからの、何か巨大な質量の衝突に全身が飛ばされる。
ちょうど人間大の大きさと重さが全力で走った後肩口から思い切りぶつけられれば、こんな風になるだろうという傷み。
足が地を離れ重心を失い、それでも肉のバネを引き回して剣を唸らせ、襲撃者に反撃を加える。
当たりはした。だが直撃には遠い、肉を僅かに抉る程度の手応え。
地面を転がるようにして受け身を取り、すぐさま起き上がる。
そこにいたのは、誰だったか。
銀色の髪に、赤い瞳。
右手にぽっかりと空いた傷穴から、誰かの忍び笑いが聞こえてくる。
そうだ。あれは、
刹那(オレ)だ。
甲斐刹那が、要未来を守るようにして、知らない誰かの前に立ち塞がっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
姿を見てから、とにかく無我夢中だった。
心臓が猛り、躰のブレーキが一気に外れ、大地を踏む足の力が倍加した。
己の命の保身という考えも、この時ばかりは完全に失念していた。
去来するのは、一言では説明しきれない複雑な言語の羅列。
『護れ』。『戦え』。『奪い取れ』。『倒せ』。『叶えろ』。
統一性のない、砂嵐のような言葉の暴力。
これは己から湧き出た感情ではない。もっと奥底、魂の一片に刻まれた命令(コマンド)。
劣化型の消耗品である自分ではもう思い出せない、冬の聖女の血の共鳴。
震える心臓も、己の意思によるものではない。そもそも自分を生かす心臓に意思などが介在する余地はない。
この心臓は元はサーヴァントのもの。サーヴァントとは聖杯戦争の為に英霊の座より招かれた戦闘代行者。
その共通目的はサーヴァントの撃破。そして、聖杯の獲得。
戦いを円滑に回す為に聖杯から与えられる、「サーヴァントを倒せ」という高揚感(システム)。
襲撃者は、一撃を入れてすぐさま立ち直るが、こちらを見た途端、不利を悟ったのか逃げ出した。
無差別に人を襲う手合いなら追撃をかけたかったが、負傷者を二名放置していくというのには気が引けたし、セリムへの約束もある。
座り込む少女には見たところ大きな傷はないが、疲労のせいなのか活力が失せているように見える。
銀の髪、浅黒の肌、紅玉の瞳。
肌の色さえ除けば、自分達(ホムンクルス)と大差のない容姿。
……吸い込まれそうになる自分を律し、立ち上がらせようと手を伸ばす。
「―――大丈夫か」
「……何とかね。お礼は言っておくわ。
ああくそ、カッコ悪い言い訳だけど油断してたわ。
こっちは必死に待てっていうのに、あっちは聞く耳持たずで剣向けてくるんだもの。
それで仮にも恩人に対してちょっと失礼だと思うけど―――あなた、なに?」
怪訝な表情、警戒はしてないが疑念を抱いた目で少女は睨む。
「名前を問うているのなら、ジークだ。
この殺し合いについての立場についてならば、反抗するつもりでいる」
「いや、それもそうだけどもっと大事な……はあ、私の周りにはこんなのばっかか」
頭に手を当て、何やら一人で納得した風になる。
どうやら一件落着らしい。ならここからは後処理だ。
倒れているもう一名、犬に近い姿をした、使い魔らしき獣の傷は深いが、まだ救命の見込みはある。
最後の支給品は、確か治癒に効く道具であったはずだ。
賢者の石、などという知る者にとっては物々しい名称だが、ただの複製品であると受け止めた。
なによりも、複数人を一挙に治療できるという効果はこの場では都合がいい。
人であるかないか、消耗される命かどうかで救いの手を止める事はしない。
そうやって基準の選別をしていれば、自分もまた救われるに値しない命だったのだから。
「済まないが、君の名前はまだ聞いていなかった。
差支えがないようなら、教えて欲しいのだが」
「私?いいわよ。困るようなものじゃないし」
済ませるべき事を考え終えて、始めに聞いておくべき事を忘れていた。
一拍子遅れて、目の前の少女の素性を知る。
自分にとって忘れられない、大きな意味を持つであろう銘を。
【C-3 市街地/一日目 早朝】
【ジーク@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康、右手甲に傷
[装備]:アストルフォの剣@Fate/Apocrypha
[道具]:基本支給品一式、小さなメダル×n@ドラゴンクエストⅤ、
けんじゃのいし@ドラゴンクエストⅤ、雑貨多数(食料多め)
[思考・行動]
基本方針:参加者を保護し、殺し合いを打破する。
1:クロエと使い魔(クール)を治療後、セリムの元へ戻る。
2:セリムと同行するが、警戒は解かない。
3:黒のアサシンは早急に排除する。
4:魔術の秘匿についてどこまで徹底するかは、もう少し情報を集めてから考える。
※原作第三巻終了時点からの参戦です。
※『竜告令呪――デッドカウント・シェイプシフター――』残り三画。
※暗示の魔術は制限されています。
【ちいさなメダル@ドラゴンクエストⅤ】
名の通りのちいさいメダル。相当量支給。
たくさん集めるといいものと交換してもらえるがそんな場所がここにあるかは不明
【けんじゃのいし@ドラゴンクエスト】
パーティー内の仲間全員を回復できる石。
回数制限があり、最大3回使うまでにランダムの確率で壊れる。
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消耗(中)
[装備]:少年探偵団バッジ@名探偵コナン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
少年探偵団バッジ@名探偵コナン×2、お菓子(たくさん)、飲料水(たくさん)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:イリヤ、美遊との合流の為、柳洞寺に向かう。
2:慧心学園付近まで移動したいが、その前に魔力をどうにかしないとやばい。
3:その後しんのすけ、ゆまと合流する
4:ゆまちゃんから魔力を供給して貰うのは、大変な状況の時だけよね、うん。
5:本当にアメリカ大統領の息子が居るのかしら?
※参戦時期は少なくともイリヤとの和解以降。
【C-3 みまつや/一日目 早朝】
【プライド@鋼の錬金術師】
[状態]:健康、苛立ち(極小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3 、雑貨多数
[思考・行動]
基本方針:未定。少なくとも今はまだ動かない。
0:ジークの帰りを待つ。
1:ジークを利用する。
2:無害な参加者に紛れ情報を集める。
3:光源の確保。
4:しんのすけと再会してしまった時は状況を見極め、冷静に対処する。
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「ガ、は―――あ――――」
息が続かず、倒れ込む。
尽きかけた体力で無理やり走れば、ガス欠になるのも当然だ。
それ以外のものも、尽きかけてしまっている。
逃げてしまった。戦いから。
余りに非常識で、戦意はその時に折られていた。
魔界に訪れて救世主として戦乱に身を投じる、なんて最上級の非常識に遭っていながら、
それを吹き飛ばすほどに目にしたものは受け入れ難い光景だった。
未来がいて。
刹那がいて。
それならいったい、俺は誰だ?
世界の居所が分からない。
自分の名前、自分の姿、自分の声。
己が誰であるかの自信がない。
偽物だと疑わないのに。今でもそうと思っているのに。
それでも、自分の意識と自分の存在が、合致しない。
今までそうであったと信じたものが、あっけなく引き裂かれる絶望感。
自己の喪失の危機に、正気はガリガリと削られていく。
耐えなければ、人として死ぬ。
だが耐えていても、いずれ壊れる。
「そんなところで蹲って、どこか痛むのかしら、お兄さん?」
聞こえたのは、至って普通の、どこでも聞けるような、そんな声。
「あら、あなた――――――」
膝を屈めて自分を見ているのは、金色の髪の少女。
興味深そうに凝視する瞳には、何の邪気も悪意もない。
「ふぅん。これが狂ってるってことなのかな。
お姉様も咲夜もみんな、私をこんな風に見ていたのかな?」
平和を謳い支配を強制する傲岸な天使とは違う。
世界に蔓延る穢れを癒すような、本物の天使がいた。
「ホントは誰か見つけたら頂こうと思ってたんだけど、やめた。
あなたとは一緒に遊んだ方が楽しそうだもの。
折角おなじひとと出会えたんだもの、すぐ壊しちゃ勿体ないわ。
あなたも、そう思うでしょう?」
その問いにどう答えたのかは、よく憶えていない。
ただこの意味の悪い世界においてただひとつ輝いていた彼女の近くに居たくて。
そうしていれば悪夢は覚めると、乞わずにはいられなかった。
「そう。嬉しいわ。じゃあ海岸の方へ行きましょう。さっき空から何かが落ちていくのを見つけたの。
きっとたくさん遊び相手がいると思うわ!
あ、いけない。名前がまだだったわね。
私はフランドール。
フランドール・スカーレット。フランでいいわ。
今後とも宜しくね、壊れたお兄ちゃん?」
◆アクマのフランドールが 仲魔になった!
たぶん。
【D-2 市街地/一日目 早朝】
【フランドール・スカーレット@東方Project】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、脇腹に切り傷、全身に細かな傷
[装備]:レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはシリーズ(カードリッジ残り3)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合って帰る
1:壊れたお兄ちゃん(刹那)と一緒に遊ぶ。
2:海岸の方に行ってみる。
3:次に誰かに会ったら血を味わいたい。お兄ちゃんは今は我慢。
【甲斐刹那@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
[状態]: ダメージ小、おげんき
[装備]: 無し
[道具]: 基本支給品一式、刹那のデビライザー、破邪の剣
[思考・行動]
基本方針:――
0?????
※元々狂っているフランドールは、おげんき状態でも意思疎通ができるようです。たぶん。
見た目も綺麗に見えるフィルターがかかってるようです。たぶん。
最終更新:2014年05月27日 23:12