その赤き血は誰のため◆c92qFeyVpE



湊智花は利口な子だ。
故に、最初の部屋でいったい何が起きたのか、彼女は正確に理解できてしまった。

「人が、死んで……沢山……」

これが一般的な大人であれば、あまりにも現実離れした出来事に対し「これは夢だ」と逃避することが出来たかもしれない。
だが智花はどれだけしっかりしていようとも小学生である、目の前で起きた出来事を、素直に事実として受け入れてしまう。

「殺し合いって、他の人も死ぬ……私、も……?」

震えだす体を抱きしめ、その場にへたり込む。
頭の中に浮かぶのは何人もの人間が死んでいったあの光景、
必死に頭から追い出そうとするも、何度も何度も同じ光景がリピートされる。
老人の言葉、反抗する子、殺される人々、それを見て怯える何人もの――

「……みんな?」

あの場にいたのは自分だけではない、よく見知ったバスケ部の仲間達もいたはずである。
慌てて側に置いてあったランドセルを開ける。
この殺し合いにみんなまで巻き込まれているのかを確認したかった、

「きゃあ!?」

だが智花の手は名簿とスマートフォン、そのどちらも掴むことが出来ず、ランドセルの中から飛び出して来た何かに押し倒されてしまう。
その何か―――豹柄の子猫のような生物は暫く智花の顔を見て、何かを探すように辺りをうろつき出した。
何が起きたのか分からず硬直していた智花だったが、ひらひらと紙が顔に落ちてきたことで漸く我に返る。

「な、何が……何でランドセルの中に、猫が……?」

混乱から抜けきれぬままに、自らへと落ちてきた紙へと目を落とす。

『名前:プックル
 キラーパンサーの子供であるベビーパンサー。』

書かれていたのはたったのそれだけで、キラーパンサーだのベビーパンサーがどういう物なのかについては触れられていない。
それでも状況から考えるに、これはあの猫の説明なのだろうと推測できた。

「ぷ、プックル?」
「……!」

試しに名前を呼んでみると、こちらへと駆け寄ってきて首をかしげてみせる。
「僕の事を知ってるの?」とでも言わんばかりの仕草に、智花は目を奪われていた。

「ふぇぇ……か、可愛い……!」
「?」

思わず抱き上げようと手を伸ばす。
プックルはそれを黙って見―――突然、智花へと体当たりをかける。

「きゃっ……! プックル、何を」
「残念、外しちゃった」
「え?」

直前まで智花がいた空間を、一本の剣が貫いていた。
その剣、レヴァンティンを引き抜きながら、フランドール・スカーレットは獲物へと狙いをつける。



天空の勇者。
それが彼、レックスに与えられた称号だ。
その手にしている天空の剣と盾、それに兜こそがその証明であり、強き意思の込められた瞳がその事実を裏付ける。
だが彼は、その瞳を伏せてしまった。

「……ごめんなさい」

拳を強く握る。
頭に浮かぶのは最初の部屋で起きた出来事。
ザオリク、あの時彼が使おうとしていたのは、死者を蘇らせる奇跡を起こす呪文。
その呪文にも限界はある、例えこの島にかけられた制限が無かったとしても、あれほどに損傷の激しい死体を蘇らせることは無理だったろう。
それでも動かざるを得なかった、目の前で誰かが死ぬことを、黙って見ていることなどできはしなかった。

その結果が――無関係な命を一つ、余計に失わせた。

妹であるタバサの静止を聞いていれば、少なくとも彼は助かったはずなのだ。
自己満足にすぎない、迂闊過ぎる行動の代償はあまりにも大きかった。

(これから、どうしよう)

殺し合いをする気など無い。
だからといって反抗的な態度を取ったりすれば、ポーキーは罰則として再び無関係な人の命を奪うかもしれない。

(僕は―――)
「ダメ! プックル!」
「えっ!?」

身動きが取れなくなったレックスの耳へ、少女の悲鳴が届いた。
プックル、父であるアベルが最初に仲間にしたというキラーパンサー。
石像にされ行方不明となった両親を探す旅の間、ずっと自分とタバサの側にいてくれた大切な友達だ。
悩み固まっていた体はすぐにその戒めを破り、悲鳴のした方向へと駆け出していく。
その動きに先程までの迷いは無い。
それも当然のこと、誰かを守ることに躊躇はしない、それこそが勇者と呼ばれる者なのだから。




「ガウッ!!」
「しつこい……なっ」

プックルはフランへと飛びかかろうとするが、レヴァンティンで弾き飛ばされてしまう。
最初の襲撃から然程時間は経っていないが、既にプックルの全身はボロボロだ。
戦うことはおろか、立つことすら困難であろうがそれでも尚、フランの前に立ち塞がる。

「プックル、止めて! これ以上は死んじゃう……!」
「獣の血はあまり美味しくないの、逃げるんなら貴方は助けてあげるのに」

二人の少女の言葉にも、プックルは戦う姿勢を崩さない。
智花を守ろうと、傷だらけの体を無理矢理動かしフランへと向かっていく。

「分からず屋ね、壊れちゃえ」
「プックル!」

レヴァンティンが振り下ろされる。
プックルは避けようとするが、傷ついた足には力が入らずその場に倒れこんでしまった。
智花は目を背け、フランは獲物の最後を確信して笑みを浮かべる。

「ライ―――デイン!」
「きゃぁぁぁぁ!?」

その瞬間、一条の雷撃がフランの体を貫いた。
ライデイン、勇気ある者――勇者の使う、雷を操る呪文である。

「ベホマ!」
「……!」

続けてプックルへと唱えられたのは回復呪文。
通常ならばどのような傷も一瞬にして回復させるはずだが、その治りはイマイチだ。
それでも動くことに支障はなくなったようで、プックルは一端フランから距離を取りつつ新たな乱入者へと目を向ける。

「そこの君! そのベビーパンサーを連れて逃げて!」
「え、で、でも」
「早く! 庇いながらじゃ戦えない!」
「っ……プックル、行こう!」

少しの間躊躇するも、自分が残っていたところで何の役にも立たないことは明白だ。
レックスを不思議そうな顔で見ていたプックルも、智花の呼びかけに応えて共に駆け出していく。

(あのベビーパンサーがプックル……?)

偶然同じ名前なのだとしても、種族まで同じとは出来過ぎている。
だがそれ以上考えている時間はなかった、ライデインによるダメージから回復したフランが有無を言わさず斬りかかる。
振り下ろされるレヴァンティンを天空の剣で受けながら、レックスはフランへと語りかけた。

「君は、どうしてこんな事をするんだ!」
「どうして? だって殺し合えと言われたじゃない」
「そんな、あんな奴に言われたからって……」
「そうしないと帰れないのだから仕方ない、それに妖怪は元々人を殺す物でしょう?」

剣の打ち合いに集中していたところに天空の盾を叩きつけ、一端間合いを取る。
力は互角、だが剣技に関してはレックスに分があるようだ。
加えて呪文もある、ならば油断さえしなければ負けることはないはず。

「……確かに魔物は人を襲うし、僕はそんな魔物達を何匹も倒してきた。
 けど! 人と生きることを選んだ魔物だって沢山知っている!」
「私だって人間のメイドと暮らしているわ。それとこれとは話が別じゃないかしら」

人を殺す事を止めようとしないフランへと、悔しげな目を向ける。
彼女が魔物に近い存在であることは一目で判った、
それでもこうして説得しようとしているのは、今まで戦ってきた魔物とは明らかに違う点があるからだ。
それは邪気。レックスが見てきた魔物たちは皆、人間への憎悪や殺意、負の感情に囚われている。
魔物使いである父アベルは、そういった邪気を消滅させることができたのだ。
フランにはそういった邪気が無い、人間と暮らしているとも言うし、話し合う余地はあるはず。

「それに私は少しお腹が空いてしまったわ。
 吸血鬼である私に、この飢えを人の血以外でどう満たせと言うの?」
「う……だ、だからって殺す必要は無いよ!」
「話にならない。外の人間というのは我侭なのね」

遂に会話を打ち切られてしまう。
説得できなかったのは残念だが、それならばこの場で倒すのみ。
人に害をなす魔物を討つ事に躊躇はしない。

「どうしても人を殺すっていうんなら、ここで倒す!」
「あはっ、やっと遊んでくれる気になったのね」

言うが早いか、低空を飛翔しながら斬りかかる。
だがその動きは直線的だ、レックスは慌てる事無く受け流し、すれ違い様に反撃を喰らわせた。
近接戦闘は不利と判断したか、フランは下がりながらレックスへと目掛け弾幕を形成する。
新たに切られた手札に僅かに面食らうが、この程度で怯みはしない。

「天空の盾よ!」
「っ!?」

掲げられた天空の盾を基点に光の壁が現れた。
放たれた弾幕はその壁を破壊しようと迫るが、着弾と同時に反射されフランへと襲いかかる。

「なにそれ、ズルい!」
「もらった!」

体勢の崩れたフランへと駆け、天空の剣を振りかざす。
フランにそれを防ぐ事はできず、ただその切っ先を見ながら口を開く。

「ええ、もらったわ―――貴方の命」
「っ!?」

その一撃を防ぐことができたのは、ただの偶然だった。
斬撃に合わせて動かした盾に当たってくれた、そんな偶然。

真横からの一撃を受け、レックスは遠く吹き飛ばされてしまう。
すぐに起き上がり、何が起きたのかと視線を巡らせ、硬直する。

「残念、また外してしまったわ」
「でも見て、あの顔」
「あは、驚いてる驚いてる!」
「さあ、もっと遊びましょう?」

同じ姿の少女が、四人いた。
――禁忌「フォーオブアカインド」
弾幕ごっこでフランが使うスペルの一つ、その効果は至極単純で、自身の分身を作り出すというもの。
先程レックスを吹き飛ばしたのはその分身の内の一人である。

「くっ……!」
「ああ、それと」
「その盾、少し邪魔ね」
「壊しちゃおっか」
「それがいいわ。ギュッとして―――」

一人のフランがレックスへと向けて手をかざす。
何をする気かは分からないが、止めなくてはマズイことになるのは明白だ。
だが四人もの敵を相手に無闇に突っ込むこともできない、レックスの頬を冷たい汗が流れ落ちる。

「どっかーん!」




智花の後を追いながら、プックルは考える。

自分が何故ここにいるのか、自分を助けてくれた、あの優しいご主人は何処にいってしまったのか。
ここに来る前の最後の記憶は、ゲマという魔導師によってご主人を含め全員がやられてしまった場面だ。
あの時、自分はご主人を守ることができなかった。
だから今度こそは守りたいと、自分を暗い箱から出してくれた少女を守りたいと思ったのに。

「プックル、大丈夫? 怪我は痛くない?」
「にゃあ……」

ダメだった、自分だけでは守ることができなかった。
あのご主人によく似た匂いのする少年が来なければ、きっと自分もこの少女も殺されていただろう。
弱い自分が嫌だった、恩人に恩を返すことすらできないことが悔しかった。
それでも、今は少女と共にいることしか自分に出来る事はない。
あの少年が無事であればいいなと思いながら、プックルは智花に付き従う。

【C-4/深夜】

【湊智花@ロウきゅーぶ!】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、プックル@DQV、ランダム支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する
1:あの場から離れる

【プックル@DQV】
悪ガキに虐められていたベビーパンサー。
主人公とビアンカによって救われ、それ以降は主人公と共に旅をする。
ビアンカのリボンを装備しているためかしこさ上昇中。




「……あら?」
「天空の盾が……!?」

フランドール・スカーレットの持つ力、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。
それを天空の盾へと行使したが、その結果はフランの予測したものとは違っていた。
天空の盾にはヒビや亀裂が入り、レックスの慌てようから見てもそれが通常ではありえないことだというのは判る。
だが彼女の力はこんな物ではないはずだ、本来ならば原型すら留めず粉微塵となっているはず。

(確かに『目』を潰したはずなのに……変なの)
「でもあの光の壁は消えたみたい」
「ならみんなでやっちゃいましょう」
「どれだけ持つかしら?」
「わっかんない!」

未だ狼狽するレックスへと四人のフランが襲いかかる。
盾を半壊させられてしまったレックスは、それでもまだ瞳に力を残していた。

「天空の剣よ!」
「嘘、剣も!?」

かざされた天空の剣から発せられる波動が辺りに広がる。
何かの攻撃だと判断したフランは身を固くするが、何の衝撃も無くきょとんとした表情になった。

「不発……じゃないっ!?」

回りにいたはずの自分の分身が消えている。
天空の剣から発せられた「いてつくはどう」には、全ての呪文や魔力等の効果を無効とする力が秘められているのだ。
先程とは逆に狼狽え隙だらけとなったフランへ斬りかかるが、その前に上空へと避難されてしまう。

「もう! さっきからズルいわ貴方!」
「増えたり飛んだりしてる君に言われたくない!」
「いいわ、私の剣だって凄いんだから!」

レックスからの反論は無視し、レヴァンティンを鞘へと納める。

「ねぇレヴァンティン、私、あれをやりたいわ」
『……Jawohl(了解)』

フランに応え、レヴァンティンに装填されているカートリッジがロードされる。
レヴァンティンに込められている魔力が爆発的に上昇し、再び鞘から抜き出して現れたその姿にフランは笑みを浮かべた。

「あはっ、その姿も素敵よ、レヴァンティン」
「武器が変わった!?」

連結刃、シュランゲフォーム。
レヴァンティンの持つ形態の一つである。
カートリッジから引き出された余剰魔力によってその刃には炎が纏わされていた。

(まるで鞭みたいだけど、元が同じならそれほど攻撃力は変わらないはず)

ならば十分に防げるはず。
そんな考えを嘲笑うかのように、フランは一つのスペルを口にする。

「―――禁忌「レーヴァテイン」」
「っ……!」

それは彼女の手にしている剣と同じ、世界を焼き払うとも言われている炎の魔剣の名。
その魔剣をフランは自身の左手に生み出し、右手のレヴァンティンと一つにする。

「う、あ……」
「ふふ、思っていた以上ね……受けてみて! レーヴァテインの二重奏!」

シュランゲの名の通り、蛇のような機動を描いてレヴァンティンの刃はレックスへと迫る。
それを半壊している天空の盾で受け止めるが、レーヴァテインの炎は盾越しにもレックスの体を焼き尽くさんと暴れ狂う。

「こんな、ところで……!」
「凄い凄い! これを受け止めるなんて、貴方とっても面白い!」

必死で受け止めるレックスに対し、フランにはまだまだ余裕がある。
これ程に危険な相手を野放しにするわけにはいかない、邪気はないかもしれないが、だからこそ放っておけない。
自分が倒れたら妹は、タバサは誰が守るというのだ。
世界を救う勇者の使命、それもまだ自分は果たさなくてはいけない。
様々な想いがレックスの脳裏に浮かび、その度に手足へと込められる力が増していく。
勇者としての意思が、強い想いがレックスを支え、力となる。

「う、あああああああああああああああ!!!」




「……あはっ」

激しい爆発の中、レックスは立っていた。

「あははっ」

フランドールも、また。

「凄いわ、貴方。ここまでして壊れない玩具なんて、初めてよ」

レックスは天空の剣を構えたまま動かない。

「次は何で遊びましょうか?
 剣に弾幕、ああ、そういえば最初の雷を私はまだ攻略してないわ。
 ねえ、あれを使ってみてよ」

満面の笑顔で、上機嫌に話すフランの声にも反応しない。

「ちょっと、聞いてるの?」

無視されたことに少々眉を寄せながらレックスの顔を覗き込み。

「あ、なあんだ」

興奮状態だった心を一瞬で冷ましてしまう。

「もう、壊れちゃってた」



【レックス@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】死亡


【C-4/深夜】
【フランドール・スカーレット@東方Project】
[状態]:健康、ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはシリーズ(カードリッジ残り3)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合って帰る
1:色々見て回る

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最終更新:2014年03月28日 21:14