645 作戦 sage 2008/05/28(水) 10:38:19 ID:7GAV5yEC
ランカがアルトへの想いを自覚した……という前提で。
ランカがアルトへの想いを自覚した……という前提で。
放課後の屋上。
「シェリルさん、教えてください」
「なぁに? ランカちゃん」
ランカはありったけの勇気を振り絞って言った。
「アルト君のこと、どう思っているんですか?」
シェリルは一瞬だけ目を見開いた。その目が微笑みに変わる。
「そうね……無意味に偉そうで、ムカつく男。でも、期待している答えは、これじゃないわね?」
「友達なんですか? それとも……」
「好きよ」
シェリルはきっぱりと言い切った。
その勢いの良さに、にランカは姿勢を正した。
「ムカつくのに?」
「そう。いつもケンカばっかりしているけど……私って変かしら?」
「変じゃないです。ケンカするほど仲がいいって言いますから」
「そうね」
頷いたシェリルの目もとに、寂しげな色が漂った。
シェリルは自分の言葉で、シェリル自身がどれだけ孤独な場所にいるのかを気づかされた。
現在の場所に上り詰めてから、アルトの他にはケンカする相手さえ居ない。
そして、孤独の影を振り切るように、シェリルはランカの瞳をまっすぐに見た。
「あなたは私のライバル?」
言葉は質問の形だったが、意味は断定だった。
ランカは黙っていた。
「苦労するわよ、ものすごく鈍感だから」
「鈍感なんかじゃないです」
ランカは言い返した。
「知ってるわ」
シェリルは頷いた。
二人とも、アルトの心に隠された傷を知っている。
「勝てるものなんて何一つ持ってないけど、これだけは負けません」
ランカの言葉は宣戦布告。
「相手がランカで良かった」
シェリルはランカの横を通り過ぎながら言った。
「どんな結果になったとしても私たちには歌があるわ。
歌がある限り、あなたと私の絆は切れない……自分でも上手く説明できないけど、それが嬉しい」
ランカはシェリルの背中を見送った。
「手加減なしで行くわ」
「負けません」
「シェリルさん、教えてください」
「なぁに? ランカちゃん」
ランカはありったけの勇気を振り絞って言った。
「アルト君のこと、どう思っているんですか?」
シェリルは一瞬だけ目を見開いた。その目が微笑みに変わる。
「そうね……無意味に偉そうで、ムカつく男。でも、期待している答えは、これじゃないわね?」
「友達なんですか? それとも……」
「好きよ」
シェリルはきっぱりと言い切った。
その勢いの良さに、にランカは姿勢を正した。
「ムカつくのに?」
「そう。いつもケンカばっかりしているけど……私って変かしら?」
「変じゃないです。ケンカするほど仲がいいって言いますから」
「そうね」
頷いたシェリルの目もとに、寂しげな色が漂った。
シェリルは自分の言葉で、シェリル自身がどれだけ孤独な場所にいるのかを気づかされた。
現在の場所に上り詰めてから、アルトの他にはケンカする相手さえ居ない。
そして、孤独の影を振り切るように、シェリルはランカの瞳をまっすぐに見た。
「あなたは私のライバル?」
言葉は質問の形だったが、意味は断定だった。
ランカは黙っていた。
「苦労するわよ、ものすごく鈍感だから」
「鈍感なんかじゃないです」
ランカは言い返した。
「知ってるわ」
シェリルは頷いた。
二人とも、アルトの心に隠された傷を知っている。
「勝てるものなんて何一つ持ってないけど、これだけは負けません」
ランカの言葉は宣戦布告。
「相手がランカで良かった」
シェリルはランカの横を通り過ぎながら言った。
「どんな結果になったとしても私たちには歌があるわ。
歌がある限り、あなたと私の絆は切れない……自分でも上手く説明できないけど、それが嬉しい」
ランカはシェリルの背中を見送った。
「手加減なしで行くわ」
「負けません」
その夜、ランカは作戦を立てた。
(敵を知り、己を知れば百戦危うからず……だっけ?)
携帯君を手にとりアルトの番号を呼び出す。
どうやって話を切り出そうか、頭の中でシミュレーションする。
深呼吸一つするとコールボタンを押した。
「はい…」
アルトはすぐに電話に出た。
「こんばんは、アルト君。芸能科にいた時、演劇概論とってた?」
事前に想定したシナリオどおりの言葉を一気にしゃべった。
「ああ、あれは芸能科だと必修だろ?」
アルトは担当講師の名前と顔を思い出した。歌舞伎ファンで、何かというとアルトに話をふってきたので、うっとうしい授業だった。
「今日の授業で、ええとなんだっけ? ……チ、チカマトゥ?」
ここまで筋書きどおり話を進めてきたのに、度忘れした。ランカは焦った。
「近松門左衛門だろ? 曾根崎心中でも出たか」
「そ、そう。それそれ」
ランカはほっとした。アルトのおかげで、事前のシナリオに戻れた。
「あの話、いまいちピンとこないんだ。なんで二人は死ぬことを選んだの?」
「正直、俺にも判らない。逃げちまえばいいんだ」
「アルト君もそう思う?」
「ああ、心中モノって好きにはなれない。心中は自殺が二つじゃなくて、殺人が二つだ」
「あ、同じこと考えてた」
「芝居だと美しく演出しているけどな」
アルトの脳裏に曾根崎心中・天神森の段の一節が浮かんだ。
(この世の名残、夜も名残。死にに往く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。ひと足づつに消えてゆく。夢の夢こそ哀れなれ
……やっぱり歌舞伎は嫌いになれないな)
「ずーっと一緒に居たい気持ちはよく判るよ」
「まあな。でも、その気持ちをこえて、離れていても思いが通じる方が好きだな」
ランカは心の中でガッツポーズを作った。
(やったー! アルト君に恋バナさせるのに成功!)
名付けて『授業の話にかこつけて恋バナに引きずり込もう作戦』は佳境に入りつつあった。
(敵を知り、己を知れば百戦危うからず……だっけ?)
携帯君を手にとりアルトの番号を呼び出す。
どうやって話を切り出そうか、頭の中でシミュレーションする。
深呼吸一つするとコールボタンを押した。
「はい…」
アルトはすぐに電話に出た。
「こんばんは、アルト君。芸能科にいた時、演劇概論とってた?」
事前に想定したシナリオどおりの言葉を一気にしゃべった。
「ああ、あれは芸能科だと必修だろ?」
アルトは担当講師の名前と顔を思い出した。歌舞伎ファンで、何かというとアルトに話をふってきたので、うっとうしい授業だった。
「今日の授業で、ええとなんだっけ? ……チ、チカマトゥ?」
ここまで筋書きどおり話を進めてきたのに、度忘れした。ランカは焦った。
「近松門左衛門だろ? 曾根崎心中でも出たか」
「そ、そう。それそれ」
ランカはほっとした。アルトのおかげで、事前のシナリオに戻れた。
「あの話、いまいちピンとこないんだ。なんで二人は死ぬことを選んだの?」
「正直、俺にも判らない。逃げちまえばいいんだ」
「アルト君もそう思う?」
「ああ、心中モノって好きにはなれない。心中は自殺が二つじゃなくて、殺人が二つだ」
「あ、同じこと考えてた」
「芝居だと美しく演出しているけどな」
アルトの脳裏に曾根崎心中・天神森の段の一節が浮かんだ。
(この世の名残、夜も名残。死にに往く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。ひと足づつに消えてゆく。夢の夢こそ哀れなれ
……やっぱり歌舞伎は嫌いになれないな)
「ずーっと一緒に居たい気持ちはよく判るよ」
「まあな。でも、その気持ちをこえて、離れていても思いが通じる方が好きだな」
ランカは心の中でガッツポーズを作った。
(やったー! アルト君に恋バナさせるのに成功!)
名付けて『授業の話にかこつけて恋バナに引きずり込もう作戦』は佳境に入りつつあった。
シェリルは作戦を立てた。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからずって言うものね」
シェリルの部屋には、どこから運び込まれたのかホワイトボードが設置されていた。
「この私、シェリル・ノームに関しては知り尽くしているから、敵を調べないと」
ボードの上には、アルトに関連する報道やゴシップ、果てはネット内の匿名掲示板の書き込みまでが、ハードコピーの形で張り付けられている。
また、アルトに関係する人物の画像・情報も張り出され、本格的なソシオグラム(人物関係図)が完成していた。
もちろん、情報の大半はグレイスが検索能力を駆使して集めたものだった。
「ちょっと、おとな気無いんじゃありません?」
かたわらのグレイスが苦笑気味に言った。
ホワイトボードの周りは、昔の刑事ドラマに出てくる捜査本部のようだった。
「ライオンはウサギを狩るのにも全力を尽くすの」
グレイスの頭の中でウサギ姿のランカがネコ耳をつけたシェリルに追いまわされるマンガが思い浮かんだ。
「やっぱり、狙いはここね!」
シェリルの手入れが行き届いたネイルがびしっと指し示したのは十八世早乙女嵐蔵の写真だった。
「名付けて、アルトとお父さんを和解させてポイントを挙げよう作戦!」
そんな回りくどいことをしなくても……グレイスは軽いため息をついた。
<終>
「敵を知り、己を知れば百戦危うからずって言うものね」
シェリルの部屋には、どこから運び込まれたのかホワイトボードが設置されていた。
「この私、シェリル・ノームに関しては知り尽くしているから、敵を調べないと」
ボードの上には、アルトに関連する報道やゴシップ、果てはネット内の匿名掲示板の書き込みまでが、ハードコピーの形で張り付けられている。
また、アルトに関係する人物の画像・情報も張り出され、本格的なソシオグラム(人物関係図)が完成していた。
もちろん、情報の大半はグレイスが検索能力を駆使して集めたものだった。
「ちょっと、おとな気無いんじゃありません?」
かたわらのグレイスが苦笑気味に言った。
ホワイトボードの周りは、昔の刑事ドラマに出てくる捜査本部のようだった。
「ライオンはウサギを狩るのにも全力を尽くすの」
グレイスの頭の中でウサギ姿のランカがネコ耳をつけたシェリルに追いまわされるマンガが思い浮かんだ。
「やっぱり、狙いはここね!」
シェリルの手入れが行き届いたネイルがびしっと指し示したのは十八世早乙女嵐蔵の写真だった。
「名付けて、アルトとお父さんを和解させてポイントを挙げよう作戦!」
そんな回りくどいことをしなくても……グレイスは軽いため息をついた。
<終>